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Interview: 消費者に耳を傾ける、これがプログラマティック・ビジネスと自己キャリアの原点 – 米PubMatic社プレジデント、カーク・マクドナルド氏

PubMatic

7月中旬に、オンライン広告最適化サービスを手がけるMaxifier社主催のイベント「Programmatic Chaos」が開催された。今年で2回目の開催となる今年は、米国からMOAT社やEvidon社、日本からはリクルート社などプログラマティックの領域に実績のある国内外の企業からの講演者が一同に集まった。基調講演には、Time・CNET、Ziff Davisなど、一流メディア・ブランドでの経験が豊富で、米国の代表的なSSPであるPubMatic社のプレジデントを務めるカーク・マクドナルド氏が登壇した。今回初来日となるマクドナルド氏に、プログラマティック領域におけるプレミアムパブリッシャーの日米の状況についてお話を伺った。

(聞き手:ExchangeWire Japan編集長 大山忍)


 

 

 

広告主、媒体主どちらにも差別化された環境を提供

 

--- 最初に、PubMatic社の事業概要と、他社との差別化要因を教えてください。

 

マクドナルド:創立は2006年、現在は世界中で350人強の社員がいます。パブリッシャー向けのテクニカルサービスやテクノロジーサービスを、その価値を具現化できる形で提供しています。プログラマティックな環境で徹底したグローバルアドテックサービスを行うことに注力してまいりました。

 

現在の業界は、我々にとって差別化しやすい状況です。たとえばディマンド側でも、単純なプラットフォームを超えているという自負があります。ディマンド側のサービス対象であるバイヤーに対して、パフォーマンスを上げる、キャンペーンの精度を上げる、ビジネスのし易さを確保する、そういったことを主眼としています。また、パブリッシャー側でもインプレッションの細かなレベルに至るまで最大限にマージンを高める、本当の意味で差別化されたサービスを提供しています。

 

 

--- 現在のパブリッシャーの採用数、採用されているメディアの特徴を教えてください。

 

マクドナルド:日本での展開はこれからですが、グローバルベースの採用数は数百単位です。私たちは、まずCPMレベルでのリフトをとにかく促しています。また、RTB(リアルタイム入札)や PMP(プライベート・マーケット・プレイス)を改善することで、これまで捌けなかった広告資産でもイールドを段階的に上げていける仕組みをとっています。

 

 

プログラマティックにおける日米の現状、導入企業へのアドバイス

 

--- プログラマティックな広告業界で、日本と米国の違いは見えますか。

 

マクドナルド:トレンドの違いはないと思います。ただし、マーケットプレイスそのものの適用率、普及率は違います。日本でのプログラマティック導入はこれからです。IDCも、日本における向こう5年間の RTBの CAGR(年平均成長率)を 90%以上と予想しています。なぜ 90%以上伸びていくのかというと、コンシューマーの行動様式が変わっていくことと、バイヤー側のマージン圧縮という2つの要因が考えられます。

 

また、バイ側(買い手側=広告主)では自働化によって効率が上がり、コスト削減が進んでいます。結果的に、フローそのものもどんどん効率化されています。コンシューマー(消費者)のビヘイビアー(行動)変化について言及しましたが、これはバイ側と比べるとかなり細分化されていて、よりパーソナル化されたもの、よりサービス広告に近いものを求める傾向にあります。

 

 

--- 日本の大手媒体、特にプレミアムのパブリッシャーは、プログラマティック採用時の懸念事項としてブランド保護を挙げています。米国など海外でプレミアム媒体主に多数採用されている御社のブランド保護のポイントを教えてください。

 

マクドナルド:プレミアムのパブリッシャーは、コンシューマーとコンテンツプロバイダーの接点にある彼らの資産を是が非でも守りたい、と考えています。欧米各国では、彼らが守りたいところを尊重してディールを獲得してきました。プレミアム大手がこれまで担保してきた品質基準を我々も徹底的に守る、という姿勢を提案できたからこそ採用が増えてきたのではないかと思います。

 

具体的には、オーディエンスを知ることが成功要因として挙げられます。今の時代、感覚的にオーディエンスを知るだけでは不十分で、データに裏付けられた直感が必要になります。これは単純なトランザクションエンジンだけでは達成できないもので、そういう環境をどう管理するか、何を実際に見せるか、それにともなう価格帯はどうするのか、それを的確に測定できるかも重要です。

 

 

--- 今、日本ではアドテクノロジーの進化に対して、広告主も媒体主も追いつけていない状況です。米国で成功されているパブリッシャーについて、人材や組織の特徴を教えていただけますか。

 

マクドナルド:ここにきて、パブリッシャーがやっと正しい方向を向いてきたと思います。私たちが正しいと定義するのは、正しいテクノロジーを実装し、それに見合った組織編成をできるということです。パブリッシャーでもメディアでも、まずそこが前提にあります。次に、包括的なシェアを持ってプログラマティックをどんどん導入できるかがキーになります。売り上げに責任を持つ担当者を決めて、ダイレクトとインダイレクトを融合し包括的に扱う企業が成功しています。

 

 

--- 逆に、米国の失敗から学べることはありますか。

 

マクドナルド:導入初期の失敗があるとすれば、あくまでも残存分だけに使っていたことだと思います。米国では3年、いろいろ模索しながらミスしてしまった経緯があります。日本に関しては、そこは是非とも飛び越えてほしい。日本には、モバイルでいろいろなコンテンツをやり取りする文化があります。モバイルとビデオなどデジタルを分けず、全部一緒くたに、包括的なシェアを持って考えてもらえればと思います。

 

 

--- 日本は、広告主も媒体主も丸投げの文化だと言われています。広告主はマネジメントを代理店に任せていますし、媒体主も同じです。御社のような総合的なプラットフォームだと機能も多く、十分に活用しきれないリスク、システム投資に対して結果が出ないリスクもあるかも知れません。では、新しくプログラマティックを採用される媒体主は何から取り組むべきでしょうか。

 

MrKirkMcDonaldマクドナルド:まずは、的確なプラットフォームパートナーを選ぶことが最優先事項になるかと思います。良いパートナーさえ選べば、適切なコンサルティングサービスも伴ってきます。機能が多いという点ですが、私どものソリューションを試していただくと、非常に直感的に使える点や、自動化のレベル水準が高いことに皆さん驚くと思います。更にニーズに応じて自己学習できる仕組みがあり、レポーティングに関しても求めているものがちゃんと生成されます。それに伴って、プライシングなどもうまく意思決定できるようになると思います。

 

 

 

 

コンシューマーを意識してビジネスを展開する

 

--- ご自身のキャリアについて伺います。初期のデジタル広告からプログラマティックへの、キャリアアップの成功要因は何でしょうか。

 

マクドナルド:私が大変尊敬する人物は、「部屋に入る時や会議に入る前に、答えを頭の中で決めてその場に行くな」と常々言っていました。これは、パブリッシングの世界でも共通する教えだと思っています。デジタルプラットフォームではクラウドの力、つまり一般のコンシューマーの声が本当に重要です。自分は全ての答えを持っていないということを前提に、コンシューマーの声からいろいろ学びとれたのが大きかったと思います。

 

この15年間デジタルの進化を見てきましたが、成功しているパブリッシャー、あるいは一個人に共通しているのは毎日学習する姿勢でした。それさえ意識していれば、今コンシューマーはモバイルに移っているな、ソーシャル性というのはとても重要だ、といったことが理解できる。要は気付くということです。技術畑ではないビジネス中心型の人も同じで、気付く力を持っていることが成功のポイントだと思います。

 

 

--- 最後の質問です。日本では現場と経営者でテクノロジーに対する考えにギャップがあり、経営者レベルの世代交代がなければアドテクノロジーの活用は難しいのでは、という方もいらっしゃいます。いわゆるオールドエコノミーのエグゼクティブとどうコミュニケートすればよいか、アドバイスをいただけますか。

 

マクドナルド:能力あるエグゼクティブであれば、どんな製品やサービスを打ち立てたとしても、その先にコンシューマーがいなければ未来はないということは分かっています。そこに訴えかけるべきです。「コンシューマーがいなければダメだよね」という、彼らの分かる方程式を持っていけばいいと思います。

 

 

ABOUT 大山 忍

大山 忍

ExchangeWire Japan 編集長 米国大学卒業。外資系企業を経て2000年にネット広告効果測定ツールを提供するベンチャーに創業メンバーとして参画。その後、バリューコマース株式会社と合併。 2007年1月にオムニチュア株式会社(現Adobe)に参加、コンサルティングサービスを立ち上げる。ビジネスコンサルタントとして米国のベスト プラクティスを日本の課題やニーズに合わせて提供、ウェブ解析やガバナンス(データ主導の組織・仕組化)に関する執筆・講演を行う。