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最先端アドテクノロジーから読むマーケティングデータ分析[アドテック東京2013レポート]

(ライター:中村 研太)

【モデレーター】
横山隆治:株式会社デジタルインテリジェンス 代表取締役

【パネリスト】
塚本 陽一:KDDI株式会社 コミュニケーション本部宣伝部担当部長
村松 直樹:グーグル株式会社 Head of DoubleClick Platform
渡辺 健太郎:株式会社マイクロアド 代表取締役
山川 義介:株式会社ALBERT 代表取締役会長
菅原 健一:株式会社mediba CMO

 

先日行われたアドテック東京2013年において、「最先端アドテクノロジーから読むマーケティングデータ分析」に関するセッションが行われた。マーケター、ベンダー、テクノロジスト、エージェンシーなど、各界を代表する蒼々たるパネリストが議論を交わす場となった。今後、データドリブンなアドテクノロジーはどこに向かうのか。示唆に富んだセッション内容をお届けする。

今年のバズワード「ビッグデータ」を踏まえたマーケティングデータとは?

今年のバズワードといえば「ビッグデータ」だ。セッションの始めに、マーケティングデータがそもそも何を指し、ビッグデータの活用にあたってどのような展開が予想されるのかを、株式会社ALBERTの山川氏が語った。

 

山川氏によると、ビッグデータと一口に言っても、ウェブ上の行動履歴のようなオーディエンスデータの他に、ECサイトの購買データ、またカーナビのセンサーデータなどデータは多岐にわたる。どれも同じビッグデータだが、それぞれ質も量も大きく異なるため、個別のアプローチを必要とする。

 

量の変化は質の変化を伴う、というのもビッグデータの特徴の一つだ。数万単位のアンケートデータなら通常の方法で分析できるが、これが数億レベルのデータとなると同様の分析手法は通じなくなり、全く新しい分析手法を開発する必要がある。

 

また、ビッグデータの分野は、データソースの問題でなかなかテクノロジーが発展しづらい。例えば、オープンソースプログラムの場合、ソースコードをオープンにすることによって深さや広がりが出る。ところがデータの分野は、個人情報の懸念から公開してもらえないことが多く、開発が進みにくい。ビッグデータ解析の発展には、オープンソースからオープンデータの時代へのシフトが求められる。

 

マーケティングデータの分析事例

18日-0630_tukamoto_s次にマーケター側の視点から、実際にどのようにマーケティングデータの分析を行い、施策に活用したかをKDDI株式会社の塚本氏が語った。

 

塚本氏がまず紹介したのは、「ブランディング指標」をウェブ上でどう測定するかの事例だ。Eコマースなど「コンバージョンポイント=ビジネス上のゴール」の場合、シンプルにCPAをKPIに設定すれば良く、指標の設定が問題になることは少ない。マーケティング上のゴールと、ウェブ上のゴールとの間にギャップがある場合、CPA以外の指標を見える化することが重要となる。塚本氏は、2つの事例を紹介した。

 

一つ目は、「3PAS×オンラインリサーチパネル」でブランディング指標への効果を見える化した事例。ここでは、オンラインで出すディスプレイ広告を全て3PASへ接続して配信し、オンライン調査パネルを3PASの配信タグで紐付けた。このスキームにより、配信しているオーディエンスのデモグラフィックを把握できる。オーディエンスの興味や関心、来店や店頭利用意向への効果を、広告の閲覧の有無で差分を取って指標として活用したという。これにより、CPAベースではパフォーマンスの悪いメニューでも、あるサービスの利用意向の向上に貢献していることが判明し、ブランディング観点で適切な意思決定を下すことができた。

 

二つ目は、自社サイト訪問へのディスプレイ広告、マス広告の間接貢献を、多変量解析によって分析した事例だ。マーケティングデータに対して重回帰分析を行うことで、これまで見えなかったブランディング系キャンペーンのROIなどの定量化に成功した。例えば、ブランディング訴求のTVCFに比べても、ディスプレイ広告の貢献度が遜色なく、ROIが高いことが判明したという。

 

 

クロスデバイスのデータ収集について

マーケティングデータの中でも、クロスデバイスデータに注目が集まっている。今後のクロスデバイス分析の展開についての持論が共有された。

 

18日-0624_sugawara_smedibaの菅原氏は、外出先ではスマホ、リビングではタブレット、見積もりを取るなど細かい作業にはPCを使う、というようにユーザの動きの変化を指摘した上で、自社で展開するアドテクノロジーについて語った。medibaでは、PCとスマホでメディアを統合し、スマホのデータをcookieで名寄せしてターゲティングするような形を目指しているという。

 

また、多くのデータを保持するグーグルの村松氏に対して、同社のクロスデバイスにおける今後の展開に対して質問を投げかけた。村松氏は、「グーグルに何か特別な手段があるわけではなく、プライバシーポリシーに沿った形で、cookieをベースにIDを紐付けていくという基本的な手法で取り組むことになるだろう」との考えを述べた。

 

一方、KDDIの塚本氏からは反対の意見が出た。PCの領域だけでもまだまだ効果が可視化できていない中、現時点でクロスデバイスにリソースを割いて推進する必要性があるのだろうか。プラットフォームが曖昧な状態でデータ分析に四苦八苦するより、できるところから着手していき、プラットフォームが整った段階でデバイスに対するアプローチに移行すべきではないかという考えだ。

 

分析の軸:オーディエンスデータとクリエイティブの最適化

次にディスカッションの中心となったのは、オーディエンスデータという分析の軸に、新たにクリエイティブが加わるのではないかという点だ。

 

18日-0621_matsumura_sグーグルの村松氏は、「枠からオーディエンス」への流れがトレンドとして存在する一方、クリエイティブにも焦点が当たるのではないかと話す。アドバタイジングはデータ的なアプローチを歓迎するべきだが、本来の目的は需要を喚起することだ。そういった意味で、カスタマーをわくわくさせるようなダイナミズムが今後求められていくのではないかという。

 

 

 

 

 

 

 

マーケティング通貨としてのオーディエンスデータ

ディスカッッションを締めくくったのは、今後、オーディエンスデータがマーケティングの通貨としてやり取りをされるような時代が来るのか、というものだ。

 

他のパネリストが肯定的な意見を述べる中、マイクロアドの渡辺氏は、データの重要性が増すことは間違いないが、通貨になるかは定かではないと話す。例えば、不動産を買いそうな人は不動産業者にとって重要な情報だが、コスメ業者にとっては全く価値のないデータとなる。「通貨」という形で共通指標化を図ることは、結局は「20代女性」のようなより一般的なデモグラフィックデータに帰結していくのではないか。

 

また、ALBERTの山川氏が述べた「GRPが通貨だという考え方はあるが、その過程ではデータの信頼性が重要になるため、『リサーチデータ』が通貨となっていくのではないか」という考えにも共感の声が上がった。

(編集:三橋 ゆか里)

 

 

ABOUT 大山 忍

大山 忍

ExchangeWire Japan 編集長 米国大学卒業。外資系企業を経て2000年にネット広告効果測定ツールを提供するベンチャーに創業メンバーとして参画。その後、バリューコマース株式会社と合併。 2007年1月にオムニチュア株式会社(現Adobe)に参加、コンサルティングサービスを立ち上げる。ビジネスコンサルタントとして米国のベスト プラクティスを日本の課題やニーズに合わせて提供、ウェブ解析やガバナンス(データ主導の組織・仕組化)に関する執筆・講演を行う。