×

未来の課金モデル PPG(pay-per-gaze)とPPE(pay-per-emotion)|WireColumn

ThinkJam 荒井さん、前田さん

Google Glassの発売に伴って、新しい広告の課金モデルが登場すると言われています。
ユーザーの視線を追跡することで可能になる、「PPG」と「PPE」です。
本稿では、その仕組みの解説に加えて、今後の可能性や課題についても考えていきます。

 

 

 

 

 

視線で課金するPPG

オンライン広告のPPC(pay-per-click)といえば、広告のクリック数に応じて広告費が発生する課金モデルですが、近い将来、新たな広告課金モデルが登場すると言われています。Google Glass上での実現が噂されているPPG(pay-per-gaze)です。Gazeとは「凝視する」という意味であり、PPGとはすなわち、広告を見た(視線を集めた)ことに対して広告費が発生する課金モデルです。

 

Google Glassには、目の動きを追跡するセンサーが搭載されます。ユーザーが本当に広告に視線を移したのか?はもちろん、その回数や滞在時間も測定することができます。そのため、ちょっと広告を見ただけなのか?じっくり広告を眺めたのか?など、広告に対する注目度合いを判断でき、それに応じて広告費用も決まってきます。

 

2013年8月、Googleはこの仕組みの特許を取得しました。特許の中では「Google Glass」の記述はないものの、Google Glassを思わせる「頭部に装着する眼鏡型のデバイス」を用いることが明記されています。早ければ、Google Glassが一般発売されると言われている2014年には、PPG広告が登場するかもしれません。

 

GoogleGlass

Google Glassの外観

 

gogle-patents-pay-per-gaze-eye-tracking-ads

Google Glassの視線計測センサー

Normal
0

0
2

false
false
false

MicrosoftInternetExplorer4

/* Style Definitions */
table.MsoNormalTable
{mso-style-name:標準の表;
mso-tstyle-rowband-size:0;
mso-tstyle-colband-size:0;
mso-style-noshow:yes;
mso-style-parent:"";
mso-padding-alt:0mm 5.4pt 0mm 5.4pt;
mso-para-margin:0mm;
mso-para-margin-bottom:.0001pt;
mso-pagination:widow-orphan;
font-size:10.0pt;
font-family:Century;
mso-ansi-language:#0400;
mso-fareast-language:#0400;
mso-bidi-language:#0400;}

●感情で課金するPPE

Googleが取得した特許では、PPGに加えて、PPE(pay-per-emotion)についても触れています。Emotionは「感情」の意味ですので、PPEとは広告を見て心を動かされたら広告費が発生する課金モデルです。人は、驚いた時や興味を持った時に、瞳孔が拡張します。それをセンサーで読み取ることで、その人の心の動きを察知し、課金するという仕組みです。

ここで、一つ具体例を挙げてみましょう。あなたが街中を歩いていると、Google Glassのディスプレイ上に、近くのレストランの料理メニュー広告が表示されました。初めて目にするレストランだったので、どんなものか?と思わず広告に視線を移しました(ここで、まずPPGによる課金が発生します)。

さらにあなたは、とてもお腹が空いていたこともあり、表示された料理の写真を「今すぐ食べたい!」と、強い関心を持って眺めました(ここで、瞳孔の拡張が確認されると、料理に強い関心があるとみなされて、PPEによる課金が上乗せされることになるかもしれません)。

このように、PPGとPPEを用いることで、「クリック」などのユーザーアクションの手前にある、認知されたか?興味・関心が高まったか?といった心理的な動き対して課金することが可能になります。

 

 

既存メディアの効果測定への応用

 さて、ここからは広告課金モデルの話から離れ、広告の「効果検証」に焦点を当てていきたいと思います。

PPGやPPEで採用されている技術は、Google Glassのディスプレイ上に表示される広告が対象です。しかしながら、Google Glassが広告として認識できれば、ディスプレイを通して見る実物を対象にすることも可能のようです。そのため、PCやスマートフォン上のオンライン広告はもちろん、OOH(交通広告や屋外広告)やCMなどのオフライン広告も、Google Glassのディスプレイを通して見てもらえれば、その広告による認知効果や、興味・関心の高ぶりを検証することができるようになります。

 

 

●新たな効果測定手法の可能性

Google Glass以外にも、人の動きや身体変化を検知できる機能を備えたデバイスが、年々登場してきています。今後そういったデバイスの中から、新たな広告の効果検証手法が生み出されてくるのかもしれません。本稿では、2つのデバイスをご紹介します。

 

— Microsoft社「Kinect」

まず、Microsoft社の「Kinect」です。2013年11月に発売予定の Xbox Oneに搭載される Kinect 2.0 には、カメラ・赤外線センサー・マイクがついています。ユーザーの顔、表情、向き、体の動き、速さ、声を認識できるのに加え、重心の位置や心拍数まで推定することができます。顔認識技術によって複数のユーザーを個別に認識することも可能です。

例えば、Kinect 2.0を設置したテレビで映し出されたCMを、どんな人が(顔認識で年齢・性別を判別)、どれだけ見て(体の向きで閲覧状態を計測)、結果どうなったのか?(表情や心拍数で計測)というように、テレビを見ている複数の人を対象にして、同時に効果測定するといったことも期待できます。その先には、効果計測したデータを基にして、テレビのCMを出し分けるなんて未来が待っているかもしれません。

 

— BASIS Science社「Basis B1 Band」

2つ目は、アメリカで販売されている腕時計型デバイス「Basis B1 Band」です。このデバイスは、加速度、心拍数、体温、発汗量を測定でき、専用アプリをインストールしたスマートフォンとBluetoothで通信を行って、運動や睡眠に関するデータを蓄積していくことで、健康的な生活習慣づくりを支援するものです。これを活用することで、スマートフォンで見た広告と、目に見えない身体変化との相関性を分析して、視線に代わる新たな効果指標を導き出していくようこともできるかもしれません。

また逆に、「運動した後」や「風邪をひいている」などの身体状態をデータから判別して、スポーツドリンクや風邪薬の広告を表示するなど、広告配信に役立てることもできそうです。

Basis B1

●Google Glassでの計測データの信憑性

PPG・PPE広告では、従来は計測できなかった効果指標を広告主にフィードバックすることができるようになるでしょう。広告主は、それを基に次の打ち手を考えていくわけですが、そのためにはデータの信憑性が担保されていることが前提です。

しかしながら、そこにはいくつかの課題があります。

まず、いかに偏りのないデータを収集できるか?ということです。一部のガジェットマニアだけではなく、広く一般のユーザーにもGoogle Glassを普及させ、幅広い層からデータを収集できるようにしなければいけません。アナリストによればGoogle Glassの本体価格は、2014年の一般販売時には299ドル程度になると予測されているので、価格が普及のネックになることはなさそうです。しかしながら、購入した直後にいきなり装着して街中を歩くと、周囲からの注目を一身に浴びたり、勝手に動画を撮っているのでは?と警戒されたりするケースも想定されますので、Google Glassを身に付けて躊躇せず外に出かけられるようになるには、少し時間がかかるかもしれません。

プライバシーの問題もあります。PPG・PPE広告では、広告主には匿名性のあるデータのみ送信されることになっていますが、それすら嫌がるユーザーもいるでしょう。Google Glassには、オプトイン・アウト機能が実装されるため、送信を拒否するユーザーが多くなると、取得できるデータは少なくなり、正しい傾向を知ることが難しくなります。必要以上にユーザーに心理的負担を負わせないよう、気を遣っていく必要がありそうです。

さらに、わざと何度も広告を見る、明かりを使って瞳孔の動きを操作するなど、不正を働くユーザーがでてくる可能性もあります。怪しい動きがみられるときはデータの取得を行わないなど、不正利用への対策も望まれるところです。

 

●Google Glassの狙い

今のところ、Google Glassでの広告課金モデルの詳細はまだ明らかになっていませんが、2013年4月、サードパーティーアプリ開発者向けに公開された「Google Mirror API」によると、第三者が勝手にGoogle Glass上で広告を表示したり、有料アプリを販売したりすることは禁止されるようです。従って、Google Glass上では、PPG、PPE広告が表示を許される唯一の広告になる可能性があります。それは、Google Glassというデバイスが、全てそのままGoogleが全権を握る広告メディアになることを意味します。

よって、今後Google Glassが広く普及した場合には、PPG・PPE広告は強力な収益基盤になってくるでしょう。そう考えると、今後各社が参入してくるウェアラブルコンピューター市場は、単なるデバイスシェアの争いに留まらず、次世代の広告プラットフォームの覇権争いの様相を呈してくるかもしれません。

 (編集:三橋 ゆか里)

 

ABOUT 荒井勇人、 前田衣里奈

荒井勇人、 前田衣里奈

株式会社シンクジャム プランナー 【荒井】2009年にシンクジャムを共同設立。WebサイトのIAプランニングをコアスキルに、構築ディレクションや戦略プランニングなどの面でも、大手企業のマーケティング支援を行っています。 【前田】国立の理系大学院を卒業後、シンクジャムに入社。Webプランナー兼アナリストとして従事する傍ら、定期的に国内外のWebマーケティング動向などを調査し、Web上などで発信中。