日本市場におけるCMOの役割と実情—デジタルが貢献できることを考える|WireColumn

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デジタルの急激な発展にともない、マーケティングは複雑になるばかりです。スマートフォンやタブレットの普及で、マルチデバイスによる情報アクセスが当たり前になり、顧客とのタッチポイントが多様化され続けています。オフラインとオンラインを綿密に組み合わせたO2Oやアドテクノロジーもめまぐるしい進化を見せています。こうした中、企業はオンライン広告を含むマーケティング投資配分の継続的な最適化が求められています。

本連載では、IMJのMarketing & Technology Labs (MLT)のシニアコンサルタント石井俊宏より、マーケティングROIを見据えた上流レベルの戦略や事例を紹介します。


 

 

日本市場におけるCMOの不在

日本企業にも、Chief Marketing Officer (以下CMO)のような、企業全体のマーケティングを統括的に管理する意思決定者が必要だという声を多く聞きます。CMOとは、企業のマーケティング活動を包括的に管掌し、企業全体のマーケティングを横断的に計画、管理することで、マーケティング全体の効果・効率を向上させる役割を持つ意思決定者です。商品ブランドよりもコーポレートブランドを重視する生活者が多く、ブランドマネージャーに多大な権限を与えるようなブランド・マネジメント体制が確立されていない企業が多い日本市場の方が、CMOの導入に向いているかもしれません。

しかし、CMOが十分機能することはとても難しいことです。デビッド・A・アーカー著の『シナジー・マーケティング(2008年)』によると、CMOの在任期間は23ヶ月で、CEOの54ヶ月に比べて圧倒的に短いです。これは、CMOへの期待と現実に大きなギャップがあり、任期中だけではそのギャップを埋めることが難しく、就任後わずか2年未満での解雇という結果になってしまったのでしょう。『Advertising Age(2013年5月6日号)』がCMOの任期を扱った特集号にて、CMOの就任期間は2012年時点で平均45ヶ月と約2倍長くなりましたが、それでも短いことに変わりありません。

 

CMOが信頼と賛同を得るための5項目

アメリカ企業におけるCMOの状況から、CMOの役割をそのまま日本企業に移植するだけでは失敗するでしょう。では、どうすべきでしょうか。上述の『シナジー・マーケティング』に、CMOが企業内で信頼と賛同を勝ち取る方法として、以下の5項目が必須だとあります。

【CMOが信頼と賛同を勝ち取る5つの方法】

○ CEOの後ろ盾を得る

○ 顧客に関する知識を深める

○ 誰の目にも明らかな成功を収める

○ サイロ(*1)を尊重し、他部署を巻き込む

○ マーケティングスタッフの質を高める

この5つを同時に実現するのは難しいですが、これらをプロセス化させ、順を追って実現させていくことが、CMOの足場を固めるほぼ唯一の手段となるでしょう。

 

*1 サイロ:業務プロセスやシステムなどが外部や他部署と連携を持たず独立している状態。縦割り。

 

1回目_フロー

上図は、この5項目をスムーズに実現させるプロセスです。マーケティングを統括するポジションの方に、どのように進めるかの一助になると思います。

 

シングルヒットの連打を科学的方法論に落とし込む

まず「誰の目にも明らかな成功を収めること」が、「CEOの後ろ盾を強化」させます。アーカーは、成功にはホームランとシングルヒットの2種類があり、どちらも信頼性を得るために役立つとしています。ホームランとは、大きなプログラムであり、部署(サイロ)横断的な協力・実施が前提となります。シングルヒットとは、短期間の小規模な取り組みによって素早く勝利を収めることで、更に重要なのはそのシングルヒットを続けることです。このシングルヒットの固め打ちこそが、数値を基に改善を続けるデジタルマーケティングが得意な領域です。

 

「CEOの後ろ盾を強化」するために、シングルヒットが出たことだけを説得材料にするよりも、この成功を要素分解し、科学的な方法論に落とし込むことが重要です。つまり、なぜシングルヒットが打てたかをCEOに解説するということです。それは、決して難しいことではありません。データを取得して見える化し、改善点の把握から改善策を計画・実施・評価し、次回の施策に繋げる。この流れ、すなわちPDCAのサイクル化自体が、シングルヒットの打ち方の解説となって、さらに連打を産み出します。

上記のとおり、シングルヒットの連打とその方法論への落とし込みは、CEOにデジタルマーケティング以外への展開を促します。それは、他部署がシングルヒットを連打するための近道となるでしょう。すなわち「サイロ尊重し、他部署を巻き込む」ことに他なりません。

 

マーケティングスタッフの質を高める

CMOの5つの必須項目のうち、「顧客に関する知識を深める」と「マーケティングスタッフの質を高める」も網羅しなければいけません。デジタルマーケティングにおいては、顧客を理解するということが旧来のイメージとは異なるかもしれません。デジタル領域においては、顧客が自社や自社ブランドに持つイメージをアンケートから把握するのではなく、オンライン広告や自社コンテンツでの顧客行動を把握することからスタートさせます。なぜならば顧客の態度を把握するよりも、行動を把握することの方が容易であり、成功に導きやすいからです。

顧客行動を把握する手法や、分析を通じて導き出される次のアクションの策定・実現・振り返りを実施することが、マーケティングスタッフの質を高めることになります。

 

今後の連載予定

「誰の目にも明らかな成功(シングルヒットの連打)」と「顧客(行動)の把握」は、相互に強く関係しています。今後の連載では、アーカーのこの2つの項目を中心に検討したいと思います。この2つこそが、アーカーが提唱するCMOが成功するための5つの項目の中で最も重要と思われるからです。

次回は、きちんとした計測を実施・継続することで、デジタルマーケティングで着実にシングルヒットを打ち続ける方法を提示します。3回目は、デジタル領域から少し広げて、デジタルに留まらないマーケティング投資最適化の最先端の事例を紹介します。4回目は、「顧客(の行動)に関する知識を深める」方法を、DMP(*2) などから検討します。

最後は、成功の方法論であるPDCAサイクルをスピードアップさせることで、シングルヒットの間隔を短縮させる考えを紹介します。

*2 DMP:データマネジメントプラットフォーム

 

 

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ABOUT 石井 俊宏

石井 俊宏

株式会社 アイ・エム・ジェイ Marketing & Technology Labs® シニアコンサルタント 1972年生まれ。大学を卒業後、米国大学院にて都市計画を修了。外資系マーケティング・コンサルティング会社、外資系広告代理店などを経て、2012年アイ・エム・ジェイに入社。Marketing & Technology Labs (MTL)にて、マーケティング投資最適化、CRMコンサルティング、データマイニングに従事。