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「KAIZEN platform」の急成長を導く「アドテクを経営に翻訳する」ビジネスマインドとは? <インタビュー>

WEBサービスのUI改善プラットフォーム「planBCD」を運営するKAIZEN platform Inc.。同社は、Googleで旅行、リテール、クラシファイド領域のヘッドとして活躍した小川淳氏をカントリーマネージャーに、またGREEで数々のプロダクト責任者として活躍した瀧野諭吾氏をプロダクト責任者に迎える人事を発表した。そこで、小川・瀧野両氏と共同ファウンダーでCEOの須藤憲司氏に、製品・サービスの特徴、背景にある思想、KAIZENの人材や仕事環境についてお話を伺った。

(聞き手:ExchangeWire Japan編集長 大山忍)

 


 

 

PlanBCDは成長速度を上げるためのプラットフォーム

 

--御社のビジネス概要について教えてください。


KaizenPlatformInc_Mr.Sudo_須藤:「planBCD」というA/Bテストのプラットフォームを提供しています。クラウドソーシングが付属したプラットフォームで、14ヶ国でご利用いただいています。国内のクライアントは400ほど、また同数のクラウドソーシングのグロースハッカーにご登録いただいています。

 

 

--planBCDを拝見しましたが、エディティングツールが簡単に扱えますね。これまでのA/Bテストでは、テストのクリエイティブのパターンを作るのが難しいというイメージがあったのですが。

 

瀧野:デザイナーでなくても、Webブラウザー上で扱えるエディターを通して、直感的にテスト案を作ることが可能です。テスト案は自分たちで作るだけでなく、クラウドソーシングで集めることができ、テストを使うクリエイティブのパターンを手軽に揃えることができます。

 

 

--気軽にA/Bテストを実施してデータを見ることができる、ハードルを下げたところがポイントですね。


須藤:planBCDは、テスト案を人が考えて、自動生成するものより高い精度を出しています。今後は、WebページのA/Bテストだけでなく、アドやビデオ、eメール、ソーシャルといった分野のA/Bテストもやっていこうと思っています。

 

我々にはトラッキングのデータがあるので、どのページの離脱率が高いか、コンバージョンを増やすならどこを改善すればいいかなどの分析ができます。サイト解析のアプローチを自動化し、そのグロースハックをアウトソーシングに依頼する、ということをやっていきたいですね。

 

 

--グロースハッカーの方々は、改善マインドを持ったクリエイターというイメージですね。

 

瀧野:グロースハックは成長をハックする、近距離化するものです。人の力を借りて成長速度を上げるというのが基本的なコンセプトです。

 

 

アドテクで見過ごされがちなWebサイトを「カイゼン」

 

須藤:アドテクではユーザーやセグメントごとのカスタマイズはできますが、結局クリックしてもらった先のページが何も最適化されていません。ユーザーにフィットするもの、一番いいものという“おもてなし”の部分ができておらず、(広告の受け皿である)サイトが何も変わっていないのです。

 

 

--リーチする際の広告やクリエイティブがしっかりしても、受け皿のランディングページが最適化できていなければ意味がありませんね。

 

瀧野:アドテク業界でも、さまざまなレイヤーで、各キャンペーンのパフォーマンスをわかりやすい指標で可視化するツールを作る動きが出てきています。彼らが最終的に達成したいのは、クライアントのマーケティングROIの最適化ですから、アドテクの人達とはコラボレーションできるだろうと思っています。

 

Kaizen_図1

 

--マーケティングROIのお話が出ましたが、前職のリクルート退職直後の講演を聞いた時、須藤さんは全体的なコストをしっかり可視化している方だという印象を受けました。

 

須藤:例えば大手通販企業で、ランディングページを毎月30本試しているところがあります。30本のランディングページがHTMLで納品されてから、アップするまで3週間かかっています。システム部門を外注しているのでマーケティングのための人材がおらず、検証などができないのです。

 

ツールを入れるとさらに人件費がかかってオペレーションコストが上がってしまうため、我々のplanBCDは社内にオペレーションするための人がいない前提で作っていきました。

 

 

--これまではツールの使い方を理解する時間と人件費、導入するコスト、出てきたデータを理解するコスト、テストするためのクリエイティブを代理店が作るコスト、全てハードルが高かったわけですね。

 

瀧野:極力、お客様が自身でデータを検証することや、テスト実施のための作業を実施することを求めないサービスにしたいと思っています。サービス上で表示される選択肢やナビゲーションに対して判断を下していれば、自然にグロースハックされていく、というのが最終的に目指すところです。こういう思想に基づいて、プロダクトやサービスは設計されています。

 

 

--クライアントに、分析、仮説設計能力を求めないわけですね。

 

須藤:高価なツールの導入コストや習熟コストを求める、そんな前提でサービス設計するのは違うと思います。

 

 

--ここが新しいところですね。現在、業界の人間ですら、テクノロジーをひとつひとつ理解するのが難しくなっています。

 

KaizenPlatformInc_Mr.Ogawa1小川:アドやテクノロジーに精通することと、クライアントや自分の会社のビジネスが成長することが必ずしも一致する必要はない、この位置が重要だと思っています。

 

須藤:A/Bテストを好んでする事業会社はいないだろうと思います。そうではなく、ただコンバージョンを上げたい、売り上げを上げたい、それだけです。

 

 

--グロースハッカーはどのように選ぶのでしょうか。

 

須藤:デザイナーは質の高い制作会社を中心にお声掛けしながら提携を始めています。今後は、改善した実績を偏差値で3ランクに分けます。例えば最上位のマエストロのセグメントに依頼するなら1ページの改善で50万円、ミドルレンジなら20万円、全くセグメントしなければ10万円からできます、と。

 

 

--案が採用されず、フィーをもらえない方も出てくるわけですか。

 

須藤:そうですね。基本的には成果保証し、グロースハッカーへのお支払いもパフォーマンスベースです。クライアントも「作ってもらっていくら」ではないので、色々試せます。

 

Kaizen_図2

 

 

世界を見据えて培う、アドテクを経営に翻訳する能力

--最初から海外展開を見据えて、実際1年経たないうちに海外に進出されています。その視点はどこから来たのでしょうか。

 

須藤:世界中で使われたほうがデータを集めることができます。マーケティングツールはグローバルが普通でしたし。

 

逆にグローバルでやらないほうが負けるに決まっています。日本の市場だけで競争しようとするから市場が伸びない。日本のマーケティングのほうが細かいため、その日本でうまくやっているものをグローバルで展開すれば、日本の会社が勝てると思っています。

 

 

--人の知見や効果データを集約してサービス化するという点では、日本のマーケッターよりも英語圏の人のほうがノウハウを持っているので、グローバルで展開するのは重要ですね。

 

瀧野:海外ではウェブやオンラインのキャンペーンで使われている予算の額が一桁違いますからね。

アメリカのマーケッターは既にマーケティングROIのような考え方を持っていますが、それを吸収した日本の人は強くなれると思っています。細かいところまで突き詰めて、仕組みをさらにポリッシュできます。

 

 

--どんなテクノロジーがあろうが、それがビジネスにどうインパクトがあるのかを可視化し、いかに簡単にするかが御社のサービスでのテーマだと認識しました。小川さんも、テクノロジーの話ではなくビジネスの話ができるということで入社されたわけですね。

 

小川:そこは僕がKAIZENに提供できる価値だと思っています。Webが会社のビジネスにどう影響しているのか、経営者の方々はすごく気にしているのです。Webって、広報・システム・マーケティングと社内の色々な部門に絡んでいきますが、それを束ねるのは基本経営者なので。僕は、どんどん経営者に対して啓蒙していきます。

 

今のKAIZENの営業がいいなあと思うのは、ツールの話をあまりしてない点ですね。ツールの話は30秒ぐらいで終わってしまうこともあり、クライアントから「KPIや数字は合っていますか」、「この体制でいいのか」と相談を受けることが多い。業界には、この手の話ができる人がまだまだ少ないですね。アドテクを経営に翻訳できないといけない。

 

 

--テクノロジーの会社ですが、あくまでビジネスオリエンテッドなのですね。

 

須藤:技術の会社ですが、みんなビジネスを考えています。データサイエンティストも、顧客が考えていることを知りたいから自らクライアントのところに行きたいと言います。

 

 

--御社のようなコンパクトでグローバル、柔軟性もあるスタートアップが登場するというのは、日本もだいぶ変わってきたなと思いました。

 

小川:変わってきましたが、ある程度の年齢になっても飛び込めるスタートアップが日本にもっと出てほしい。海外に行けば、50代でスタートアップという事例はいくらでもあります。

 

 

--海外の面白いツールをやっている方々には、2回目、3回目の起業、40代50代によるスタートアップが多数あります。キャリアも経験値もある上で引っ張っていかれていますね。

 

小川:スタートアップといっても若い方のためだけのものではないはずです。日本はどうしても「若くてアイディア勝負」がスタートアップのメインになってしまっています。成功の裏付けがある人達がやることも健全なスタートアップの姿でしたし、シリコンバレーは特にそうですね。

 

 

--最後に、アドテク業界に伝えたいメッセージがあればお願いします。

KaizenPlatformInc_Mr.Takino

 

須藤:アドテクでやっていることをクライアントの奥まで届けるのが、アドテクから見た我々の価値だと思います。アドテクの先にある顧客Webサイトの問題を解決するプロバイダーなので、組めるところは組みたいですね。

 

瀧野:インターネットの世界でパフォーマンスを突き詰め続けてきたことが、アドテク業界の強みだと思います。スピードやセグメンテーションといったものは、もっとわかりやすく価値化できるはずです。

 

 

 

 

(編集:三橋ゆか里)

ABOUT 大山 忍

大山 忍

ExchangeWire Japan 編集長 米国大学卒業。外資系企業を経て2000年にネット広告効果測定ツールを提供するベンチャーに創業メンバーとして参画。その後、バリューコマース株式会社と合併。 2007年1月にオムニチュア株式会社(現Adobe)に参加、コンサルティングサービスを立ち上げる。ビジネスコンサルタントとして米国のベスト プラクティスを日本の課題やニーズに合わせて提供、ウェブ解析やガバナンス(データ主導の組織・仕組化)に関する執筆・講演を行う。