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ビッグデータ分析を元にした、マネタイズを支援する動画配信プラットフォーム「Ooyala」は、日本に“動画元年”をもたらすか

Ooyala_logo

(ライター:柏木 恵子)

グローバルに動画配信プラットフォームを提供する「Ooyala」は、5月27日に開催した記者説明会で、動画配信ビジネスの動向・視聴動向に関する最新市場調査結果や、日本市場の位置づけなどについて説明した。Ooyalaは、Google出身のエンジニア3名によって2006年に創業され、ビッグデータ分析が可能なビデオ配信のクラウド型プラットフォームを提供している。Ooyalaとはインド南部の言葉で「ゆりかご」を意味し、オンライン動画の中で新しいアイデアや技術を育む場所という意味を込めて名付けられた。

 

 

配信コストの効率化と、収益の最大化を目指した動画配信プラットフォーム

 

Ooyalaは130カ国以上でサービスを展開し、6,000以上のWebサイトに動画配信プラットフォームを提供している。日本国内ではYahoo! JAPAN、NTTスマートコネクト、IIJなどのパートナー経由で、日テレ、ひかりTVのPC向け配信サービスなどに利用されている。

 

特徴は、YouTubeなどのように動画を配信する単なる「土管」を提供するのではなく、収益に結びつけるための管理や分析機能を提供している点だ。オンライン動画を広告媒体として利用する場合、視聴者の傾向を把握するための管理・分析機能は必須となるからだ。そのため、ビジネスユース向けにサービスを展開しており、コンシューマー・ジェネレーテッドなものは対象外としている。

 

インターネットの接触時間の伸びに伴い、テレビの接触時間は減少傾向にある。また、テレビ番組を含む動画を視聴するためのスクリーンは、テレビ、デスクトップPC、タブレット、スマートフォンなど多様になっている。千差万別の視聴環境で、それぞれの視聴者に合った視聴体験を提供する必要がある。そのために動画コンテンツホルダーは、視聴者個人をよく理解しなければならない。幸い、インターネットの場合は、テレビよりも正確で詳細なユーザー行動を把握できる。

 

Ooyalaは、動画コンテンツの管理、配信、視聴者動向の分析、それに基づくパーソナライズやレコメンデーション機能を提供する。まず管理機能として、コンテンツやメタデータの仕分けや整理、管理を集約的に行うプラットフォームを提供する。さらに、ひとつの動画コンテンツをさまざまなスクリーンサイズ向けに最適化するためのエンコードやトランスコード、パッケージ化のためのWebベースのツールも提供している。配信機能では、各視聴者のネットワーク帯域やスクリーンサイズに合わせて最適化したコンテンツを配信。さらに視聴動向を機械学習し、視聴者にとって魅力的なコンテンツを判断し、配信をパーソナライズする。これにより、視聴者は好みのコンテンツを見つけやすくなり、エンゲージメント強化につながる。

 

動画配信の収益化については日本国内ではまだ黎明期だが、米国などでは一般的になっている。収益モデルとしては、コンテンツ単位に課金するペイパービュー(Transactional Video on Demand : TVOD)、定額制動画配信(Subscription Video on Demand : SVOD)といった手法に加えて、動画コンテンツに広告動画を挿入する広告モデル(Advertising Supported Video on Demand : AVOD)が登場している。視聴動向分析結果から、適した手法を判断し、さらに収益を上げるための取り組みが可能となる。つまり、Oooyalaは配信コストの効率化だけでなく、収益の最大化を目指した動画配信プラットフォームなのである。

 

 

グローバルおよび日本における動画配信トレンド

 

Ooyala アジアパシフィック地区 Vice President キース・バッジ氏

Ooyalaは、130カ国2億ユーザーの匿名化された固有データから、視聴習慣を測定している。毎日数十億に上る動画視聴イベントを分析し、動画視聴分析のレポートであるGlobal Video Indexを発行している。2013年第4四半期のGlobal Video Indexを元に、アジアパシフィック地区のVice Presidentであるキース・バッジ氏が、グローバルのトレンドについて解説した。ポイントは以下の通りとなっている。

 

 

 

 

 

▼この3年で、スマホ・タブレットによる視聴が7倍になり、インターネットの動画視聴全体の1/4を占めるまでに

▼10分以上の長尺でプレミアムなコンテンツを好む人が増えている

▼特にスマホ・タブレットでは30分や1時間という長さのコンテンツを好む傾向が強い

▼コンサートやイベント、スポーツのライブコンテンツの人気が高い

▼ライブの中でも、スポーツはVODよりもライブで見る傾向が強く、スマホ・タブレットはその傾向がより顕著である

 

図_8p Ooyala資料

図_9p Ooyala資料

図_12p Ooyala資料

 

アジアパシフィックでは、グローバルと同様にスマホ・タブレットが成長を見せ、ライブが強いというトレンドも変わらない。一方で、他の地域にはない特長があるという。6月に発行予定の最新のGlobal Video Indexで明らかになった日本固有の特長について、日本カントリーマネージャーの磯崎順信氏が解説した。

 

▼日本ではスマホでのビデオ視聴が全体の25%で、グローバルの2倍

▼タブレットはグローバルに比べると少ない

▼スマホによるライブの視聴時間は、グローバルの3倍

▼スマホの種類としてはiPhoneのシェアが圧倒的に高い(76%)

▼日本の動画配信環境は整っているが、インターネットサイトは「読みにいく」ものという習慣があり、動画視聴者の割合は低い

▼動画視聴は、フリーのサービスやユーザー投稿型が中心

▼グローバルに比べて動画視聴者の視聴時間が長い(少数のディープユーザー)

 

図_15p Ooyala資料

図_23p Ooyala資料

 

これらの動向から、Ooyalaは、国内のインターネットユーザーは良質なサービスを切望していると推論している。しかしながら、課題は、動画配信を広告モデルでマネタイズするための権利処理が日本で未整備であること。現在、さまざまな事業者がTVOD、SVODの権利処理のプロセスと同様に動いているので、これからコンテンツが揃うことが期待される。

 

 

ネット動画が優良広告媒体になるには

 

ネット動画の視聴時間を伸ばすためにどうすべきか。価値あるコンテンツを提供し、また探しやすさや操作性といった視聴環境そのものの改善が求められる。サイトのデザインがもたらすユーザー体験において、何がウケて、何がウケていないのかというエンゲージメントをリアルタイムで計測し、それを元にユーザーが求めているものを効率的に提供すれば、AVOD、SVOD、TVODといったマネタイズの手法にかかわらず、収益性の最適化を図ることが可能となる。

 

インターネットユーザー数では世界第4位と、日本は立派なインターネット大国である。しかし、ネット動画の利用者という意味では、まだ成熟過程にある。日本の動画広告市場規模は米国の3%、インターネット広告に占める動画広告の割合は1/4に過ぎない。この差を縮めるためには、動画コンテンツの量、および視聴者数のさらなる増加が必要だ。

 

日本では、テレビ番組をネット動画に再利用するケースが多いが、米国ではネット向けに制作されたドラマが人気を博してテレビドラマになるケースもある。また、従来、制作した番組をケーブルテレビ局などに販売していた英国BBCでは、直接インターネットで配信するようになっている。インターネットの動画コンテンツには、エンゲージメントの計測が可能なこと、さまざまなマネタイズ手法があることなど、独自の利便性がある。番組制作者やコンテンツホルダーがこれを理解し、海外で達成された「ネット動画元年」が日本にも近く到来することが期待される。

 

米国で動画元年を牽引したのはNetflixだが、バッジ氏は、日本でYahoo! JAPANが行っているYahoo!プレミアム会員向けの動画配信が、日本のNetflixになるかもしれないとの見解を示した。

(編集:三橋 ゆか里)

 

 

ABOUT 大山 忍

大山 忍

ExchangeWire Japan 編集長 米国大学卒業。外資系企業を経て2000年にネット広告効果測定ツールを提供するベンチャーに創業メンバーとして参画。その後、バリューコマース株式会社と合併。 2007年1月にオムニチュア株式会社(現Adobe)に参加、コンサルティングサービスを立ち上げる。ビジネスコンサルタントとして米国のベスト プラクティスを日本の課題やニーズに合わせて提供、ウェブ解析やガバナンス(データ主導の組織・仕組化)に関する執筆・講演を行う。