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広告代理店生き残りの道は、自社技術の構築にあるか否か-そのメリット・デメリット

Maciej-Zawadinski

(翻訳:Asia Plus 黒川賢吾)

プログラマティック・バイイングの台頭により、インターネットのディスプレイ広告のビジネス環境は大きく変わり、その地位も揺らいでいる。この件に関して、Clearcode社CEO、Maciej Zawadziñski氏は、メディア・ エージェンシーが今後どういった方向に舵をきるべきか、 について調査を進めている。

これまで、メディアの買い付けに関しては、広告代理店が優位な立場にあった。しかし、今では、アドテク企業が非常に効果的な技術を開発したことで、広告主は広告代理店を利用する必要がなくなったと言っても過言ではない。広告代理店を利用しなくても、広告費を抑えながら、より直接的なターゲティングが出来るのだ。

とはいえ、これで従来のネット広告代理店が一巻の終わりだというわけではない。広告代理店が培ってきた経験や専門性、創造性は、アドテク企業のものとは比べものにならないからだ。

しかし、競争力を保つためには、ブログラマティック・バイイングの台頭で失われた利益を取り戻し、アドテク企業に対する強力な競争相手に返り咲かなくてはならない。そのために広告代理店は、人材と技術とを結びつける必要がある。

多くの広告代理店が既に、顧客に対してプログラマティック・メディア・バイイングを取り入れたサービスを提供している。だが、疑問は拭い去れないままである。従来の技術戦略 (例えば、デマンドサイド・プラットフォーム(DSP)の外部利用) を取り続けるべきか、それとも自社技術に投資してインハウスで進めるのか。

独自DSPを構築または買収するか、それを外部利用してDSP提供企業経由で活動を行うかを決定するには検討すべき要素がたくさんある。多くの場合、この議論は「経済的に実現性の高いのはどちらか」という点に行き着く。

そして、この疑問を解決するのに分析すべきには以下の点がある。

広告費用の分析

DSPを作るか、借りるかの大きな決め手となるのは、それぞれの場合において、広告代理店が広告にかける金額または節約できる金額である。

DSPを構築(または買収) すれば、広告代理店は外部利用した場合にDSP提供企業に支払うことになる費用を節約できる。加えて、それぞれのメディアの購入にかかる費用を正確に算出できるようにもなる。

現在のディスプレイ広告のビジネス環境では広告費用がはっきりせず、予期せぬ利益が突然生じることがよくある。

一般的に、DSP提供企業を利用する場合の手数料は10〜30%ほどだが、メディア予算が大きい広告代理店の場合、DSP手数料に関してより好ましい取引ができる可能性がある。例えば、手数料が安くなったり、キックバックが生じたりといったものである。

表1.

 

また留意すべき点として、DSPを代理店のテクノロジー・スタックに追加すれば、企業価値は全体的に増すということがある。最小規模の代理店であっても、それによって得られる利益は大きいだろう。

DSP運用費用

DSPは極めて複雑な技術プラットフォームであり、DSPを作成し運用するには、ある程度の費用が伴う。DSP構築に必要な技術投資についてはいったん置いておいたとしても、インフラ整備・開発チーム・運用などといったメンテナンスコストが想定される。年間にして、だいたい150〜250万ドルが計上されると見てよいだろう。どれだけのメディアを購入したかに依存しない、ほぼ固定のコストを考えてよい。

広告代理店の中には、この運用費用のため、DSPの作成を経済的に断念せざるをえないところもある。

しかしながら、広告費用が相当に大きく、そのためDSPに支払う手数料が自社のDSPの維持費をはるかに上回る広告代理店の場合、自社でDSPを構築するという選択肢も現実味を帯びてくるだろう。

DSPを外部利用することの主な利点の1つは、プラットフォームの固定維持費がかからないことだ。つまり、リスクが無いということである。広告代理店は、広告費用に応じた手数料を支払うだけでよく、運用費用はDSP提供企業が受け持ってくれる。

 

要約

.表2.

 

テクノロジー – 構築費用とメンテナンス費用

運用費に加え、広告代理店は専門の技術チームを導入するタイミングや、それにかかる経済的な投資について検討する必要があるだろう。

自社のDSP構築にあたって、広告技術を専門とするソフトウェア開発会社に依頼したり、もしくは単純に既存のDSPを買収する事自体はそれほど難しくない。より問題となってくるのは、DSPのメンテナンスや拡大における技術的なサポートを継続することである。

 

いかに新しいインベントリ・ソースを追加し続けるか、最新のスタンダードやイノベーションを受け入れる体制を整えるか、広告トラフィックチームが求める機能 (例えば、特定のファーストパーティーデータを「オンボーディング」するなど) を発展させていくのかといった点が重要な検討事項になってくる。

DSPの提供には、専門知識と実務経験が求められる。そのため、経験不足な技術チームでは費用が増大することになる。技術学習に時間がかかり過ぎる上、ソフトウェアのバグが生じたりするため、結果として予期せぬ追加費用などにつながる恐れがあるのだ。

一方、DSPを構築すれば、ファーストパーティーデータの「オンボーディング」やモデリングが非常に柔軟にできるようになる。広告代理店は、一般に提供されているDSPサービスとは異なる独自の機能を追加し、独自のトレーディング戦略やアルゴリズムの簡略化等を行うことが出来る。

DSPを外部利用することにすれば、独自DSPの運用に伴う多くの潜在的な課題や頭痛の種を取り除くことができる。DSP提供企業は技術を主要業務としているため、大きなチームを抱えており、常に新しい機能を追加し、既存機能を改善し、新しいインベントリ・ソースをもたらしてくれる。

DSP提供企業の技術者は、プラットフォームの構築、メンテナンス、拡張に関して豊富な知識と経験を持っているだろう。それに加え、DSP提供企業には、RTBの分野に関する包括的な理解があるため、広告代理店が自社の計画や戦略を改善するためのコンサルタント業務に当たることも可能だ。

インターネットのディスプレイ広告のビジネス環境の変化や、広告技術提供企業の増加に伴い、独自DSP技術を導入する広告代理店の数は確実に増えている。しかし、利益や結果は今のところ定かではない。明らかなのは、プログラマティック・バイイング支出が大きな代理店でさえ、この先、独自技術なしにサービスレイヤーを長く維持していくことは困難だということである。

(編集:三橋 ゆか里)

 

 

 

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。