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アドテク企業の「終盤」は始まってすらいない

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(翻訳:Asia Plus 黒川賢吾)

Echo ChamberはCiaran O’Kaneによるアドテク、マーケティングテクノロジー、プログラマティックに関する定期コラムです。Ciaranは来る7月2日に開催予定のイベントに登壇予定です。

アドテクノロジーが既に終焉を迎えてしまった事をご存知だろうか?最近のTechCrunchの記事で、アドテクは既にその役目を終え、今はマーケティングテクノロジーに取って代わられてしまったとある。このことは、皮肉にも主にアドテクスタックの獲得を目的にTechCrunchの親会社であるAOLが44億ドルで買収されたことにも表れている。

VerizonによるAOLの買収により、専門外の企業がアドテクに大きな投資をしようとしていること事が改めて明らかになった。Tim Armstrongがデータと技術の「夢」をVerizonに売り払うことが出来たことには未だに驚くが、Verizonの宝の山である一次データをAOLのアドテクのパイプによって活用する事を考えると買収のロジックが見えてくる。

公平な立場から言えば、TechCrunchの一件は興味を引く内容ではあるが、我々が皆マーケティングテクノロジーの世界にいるという想定から考えると少しクリーン過ぎるように感じる。実際はもっと混沌としていて、現在 のアドテク業界から考えるに、アドテクの終わりはまだ始まってすらいないのではないだろうか。

今回私は、アドテクの戦略的な重要性を増大させ、同時にマネタイズを加速させる数多くの分野について触れていきたい。

 

Facebookという存在によるモバイルの混沌

もしあなたがeMarketerによるモバイル広告の成長に関するレポートを読んだならば、全ての人がモバイル広告収入増大の恩恵を受けていると考えることだろう。

想像通り、eMarketerの「合計」数字の内訳は示されていないが、モバイル広告の収入をただ1つの会社が食い荒らしているくらいのことは想像に難くないだろう。

そう、その会社はクロスデバイスにて決定的なデータを扱い、毎日10億を超えるユーザーに対して非常に高精度のターゲット配信が行えるのである。

私はモバイルのチャネルは完全な混乱に包まれているため、モバイルに関して業界のシニアレベルの人々と頻繁に話をするようにしている。ブランドなのか、ゲームなのか一体だれがモバイルでバイイングを行っているかについて議論を重ねている。

どんな人がモバイルでバイイングを行っているのか、お金の割当がどのように行われているのか。悲しい事にモバイル広告の成長は偶発的であり、Facebookのみがモバイルで大儲けしているのが現実である。

Evan SpiegelのFacebookのモバイルにおける収益は完全に不安定なCPIベースのバイイングによって成立っているという推測はあるものの、ブランドはFacebookのモバイル広告を多く、しかも代理店経由で買っているのが実情なのである。

ほとんどのブランドがその絶大で恐ろしいまでに精度の高いデータを活用するためにFacebookを購入している。偶然にもFacebookの活用の多くはモバイルに対するものである。

ソーシャル業界の巨人はモバイルの購入を容易にしている。ほとんどの人がFacebookを携帯で開いたままにしているので、広告主はクロスデバイスでのキャンペーンがやり易くなっている。この事によりFacebookの収入は見かけよりも更に肥大なものになっている。CPIベースの購入は全てモバイルに対して行われ、ブランドはクロススクリーンに対する購買を行い、Facebookは真にクロススクリーンのユーザーへのターゲティングを行っているのである。

彼らにどうやって太刀打ちできるかは難しい挑戦である。デスクトップディスプレイを価値あるものにしていたのはユニバーサルなクッキーで、DoubleClickのクッキーによってピギーパックをするといったことが可能であった。モバイルにおいてはこういった技術はまだ完成しておらず、Facebookのオーディエンスに対する機能と同じソリューションを提供するには至っていないのである。

しかしながら、デジタル広告における全ての大きな問題についてアドテクは常にソリューションを見つけてきた。確率に基づいたターゲティングは興味深く、将来の可能性の高いソリューションである。しかしながらFacebookやGoogleに頼らない独立したソリューションが必要で、それはアドテクによってもたらされる必要がある。

 

モバイルによるコンテンツ連動 – アドテクにとっての大きなチャンス

私は特にモバイル端末連動のオーディエンスバイイングには肯定的ではない。モバイルにとって最適なのはコンテンツ連動のネイティブ広告であり、この分野はまだ空き地状態である。

まだ誰も確固たる地位を掴めておらず、デスクトップウェブの支配者であるGoogleでさえもアプリの世界(AppleやMicrosoft)を自由に支配することが出来ていない。最近なってAndroidアプリに関してソリューションを提供し始めたところである。

ディープリンクはモバイルインデックスにとって面白い分野であり、モバイルウェブとアプリの世界をコンテンツ連動でターゲット出来るということは多くの機会をもたらす可能性を秘めている。

多くのメディア会社(Yahoo, Facebook, Google)がこの技術の所有を検討し始めた時、この分野の企業は大きな収益を稼げる事となるだろう。

 

インハウス – 最大級の収入を求めて

多くのインハウス業者が今後登場するというのは誤解である。クライアントレベルでのベンダーの協力関係は間違いなく登場するが、多くの広告主がグローバルでのメディア最適化のために内部チームを構築するというのは全く馬鹿げた考えである。

ただ、この点にも例外はある。特にビジネスの結果にデジタル広告の結果が非常に大きく関わると意識しているインターネットが全てと考えるようなブランドである。

Booking.comは、ほとんどのデジタルバイイングの機能をインハウスで行うインターネット事業ブランドの好例である。彼らは10億ドル単位で検索にお金を費やし、メディア最適化に専任のスタッフを18人も抱えている。プログラマティックに関してもBooking.comのインハウスでのスキルを考えれば同様である。

Netflixもメディアバイイングやメディア最適化に関してグローバル単位で全てを管理している事業者の良い例である。彼らは様々な地域において野心的な顧客獲得の目標に向けてチーム作りを行っている。

独自で展開したいと考えるブランドは他にもいるだろう。その場合アドテク企業は、その企業がインハウス戦略を進める際のパートナーとも言うべきベンダーとなるだろう。もちろんこれはインハウス企業がスタックの構築においてIPONWEBのようなスペシャリストがいない場合の話である。

 

アドテクとマーケティングテクノロジーのぼやけた境界線

少し矛盾した言い方になってしまうが、アドテク企業にとってマーケティングテクノロジーは多くの機会を見つけることが出来る分野である。これら二つには類似点が多く、特にデータと分析の分野においてテクノロジー企業が入り込む余地は多くある。

DMPに代表されるように、我々は多くのマーケティングテクノロジークラウドの会社がアドテクの様々な分野において買収を行ってきているのを見てきている。マーケッターがテクノロジーとデータを結びつけるようなソリューションに興味を示す様になり、アドテクとマーケティングテクノロジーの境目が無くなってきているのである。

データセットの管理とアクティベーションがメディア実行においては鍵となる機能になってきている。

エージェンジー業界以外からもアドテクの買い手が現れてきているようだが、メディアをベースとした会社というよりはSaaS業界が多い。マーケティングテクノロジーのオープンな性質によって、クローズなアドテクの世界で日の目を見る事がなかった独自仕様のソリューションが変化を見せる可能性もある。

マーケティングテクノロジーはエージェンシーによってはじき出されたアドテクの専門家達にとっては嬉しい草狩り場となるかもしれない。

 

メディア企業はアドテクを必要としている

シリコンバレーはアドテクをひどく欲している。私は以前Linkedinのアドテク戦略と、なぜ彼らがB2Bの業界において支配者となることが出来ないかについて議論をしたことがある。実のところLinkedinは巨大なB2Bのオーディエンスをマネタイズするステップを踏んでいるところである。

PinterestやSnapchatといった企業も広告テクノロジーの位置づけについて再検討を始めている。アドテク企業はこれらの企業のソリューションを支える機会に恵まれている。こうした企業の他にも、VCキャッシュを得てマネタイズの機会を狙う新たなメディア企業の波が訪れるだろう。

 

企業の問題をピンポイントで解決するソリューション

広告ブロックの支持者が、以前、迷惑な広告をブロックする基本的な権利としてソフトウェアの利用を主張した際、業界内でこの決定について疑問を挟む権利を持つ人は存在しなかった。

同様に、収入源を有料広告だけに頼っている広告のパブリッシャーが、広告ブロック機能を持つブラウザーをブロックした場合においても、ユーザーは広告を見る代わりに無料試聴コンテンツのトランザクションに関して不満を言う事は出来ない。

この新たな戦場に馬鹿らしい“たかり”のような業者が存在していることから、アドテク業者にとって大きなビジネスフィールドになるだろう。既に多くの広告ブロック機能の「ブロック」を行う業者が誕生している。Admeldの前CEOであったBen Barokasは、Ad Block PlusやShineの機能を無効化し、パブリッシャーが現在の経済モデルを保護出来るようなオプションを持てるようなソリューションの開発を行っていると噂されている。

これはここ数ヶ月の間に話題に上るようになった新たなピンポイントのソリューションであり、この事からもアドテクが広告のエコシステムにおける新たな問題に対して如何に迅速に対応しているかがわかるだろう。

これ以外にもアドテクにはビデオや新たなチャネルにおけるプログラマティックの適用など取り組むべき問題が多くある。これらの潜在的なチャンスが姿を見せ始めた今、アドテク分野の未来が明るいことに楽観的にならずにはいられないのである。

(編集:三橋 ゆか里)

 

 

 

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。