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オンライン動画とテレビ広告の共存は可能か? [インタビュー]

(翻訳:Asia Plus 黒川賢吾)

オンライン動画とテレビ広告は、マーケティング担当者たちがアーリーアダプターとして先行者利益を得ようとしのぎを削っている注目のテーマだ。しかし、消費者行動が目まぐるしく変化する中で、テレビから学んだことをオンライン動画に応用し、逆にオンライン動画から学んだことをテレビに応用できる人びとが勝者となる短距離走だ。Mediaoceanの欧州部門で業務執行取締役を務めるSarah Lawson Johnstonが今回、ExchangeWireの独占インタビューで語った。
 

メディア消費が、統合的なクロススクリーン上の体験へと移行している点は皆さんも周知の通りです。実際、従来のテレビ視聴は2013年と比べて昨年は4.5%減少したのに対し、タブレットやノートパソコンでのオンライン動画視聴は17%増加しています。それでも、テレビは依然として広告主にとって最も効果的なチャネルであり、他の追随を許さない消費者からのゆるぎない信頼と共に、最高のエンゲージメント、リーチ、インパクトを誇っています。しかし、動画広告により広告想起、ブランド認知、購入検討が大幅に上昇していることから、オンライン動画広告は確かな足がかりを得ていると言えます。
 

広告に関して言えば、テレビとオンライン動画は非常に異なった市場です。テレビ広告は、限定された枠に対し高額料金を設定する希少市場です。例えば、ドラマ『Downton Abbey』に13分間あるコマーシャル時間に割り当てられた30秒のコマーシャルの枠数には限界があります。オンライン動画の場合、テレビよりもはるかに安い料金で利用できる非常に多くのインベントリが存在し、フラグメント化しています。しかしながら、テレビがオンライン動画から、そして逆にデジテルビデオがテレビから学ぶことができる貴重な教訓が残っているのです。
 

―テレビはオンライン動画から何を学べるのでしょうか?

オンライン動画は、私たちがコンテンツをどのように消費し、広告体験がどのように機能するかに変化をもたらしています。膨大なオンラインデータにアクセスすることで、オンライン動画はターゲットを詳細なレベルで絞り込むことができるので、広告主は求めているオーディエンスごとにインベントリを購入することができます。こうした高度なオーディエンスターゲティングの機能は、動画広告主がテレビのライト視聴者やミドル視聴者といった、到達しにくくはあるが貴重なオーディエンスとつながれることを意味します。実際、オンライン動画のユーザーの5人に1人は25歳〜34歳の年齢層であることから、動画広告がこの需要の非常に高いデモグラフィックに到達するのに最適なメディアとなっています。テレビがSky Ad Smartといったサービスを通じて、オンライン動画と張り合うようなターゲット絞りこみ機能の幅を広げ、革新を続けていることは良いニュースです。
 

さらに、広告主はオンラインで補完することでテレビキャンペーンを最適化することができますが、これは持続性のあるインパクトを生み出すための1つの戦略と言えます。テレビキャンペーンの前に動画広告を企画、実施することにより、テレビ広告のブランド想起を33%上昇させることが出来ます。テレビとオンライン動画を全く別々のチャネルと見なしている広告主にとっては、今こそがプラットフォームを越えたアプローチを再検討する良い機会です。
 

現在、ビデオ・オン・デマンド(VOD)が従来のテレビ放送番組(リニアTV)の延長であると考えられているのに対し、消費者にとってはビデオ・オン・デマンドとそう違いのないYouTubeといったビデオのプラットフォームは、そうとは見なされていません。こういった点には変化が必要です。私たちはすでに代理店内部で、テレビやオンライン動画といった単位のチームではなく、プラットフォームを越えた購入を可能にするサウンドやモーションのメディア担当チームの台頭を目の当たりにしています。それら2つのチャネルの結びつきは、マルチスクリーン行動が増加するにつれて強まっていく一方です。
 

―一方でオンライン動画はテレビから何を学べるのでしょうか?

オンライン動画広告は、現在のテレビの成熟度に達する必要があります。メディア購入者は、オンライン動画の市場がもっとテレビのようになってほしいと思っており、両方のチャネルにまたがってブランドを確保するような方法を使用することで、インベントリを購入したいと考えています。オーディエンスの絞り込みに関しては、オンライン動画広告がテレビ広告を上回っている一方、オンライン動画広告はコンテキストと見やすさに焦点を当てる必要があります。1億5,000人もの閲覧者が何らかの広告ブロッカーを使用しているような世界では、どの広告を見せるかを特定することは、広告予算を無駄にさせないために極めて重要です。
 

広告のインパクトを監視することは、テレビ広告が急速に精度を増している1つの分野です。リアルタイムトラッキングの技術を用いることで、あるテレビ広告が放映される正確な時間の監視、および探知が可能であることから、ブランドはこのデータを使用して、関連した上昇やROIを正確に測定できるだけでなく、同時にオンラインで広告を行うことでテレビ枠の広告を支援することが出来ます。
 

オンライン動画は、テレビが十分に検証された広告プラットフォームで有るのに比較すると、消費者の信頼を得るのに十分なほど生活に根付いてはいません。それでも、移動中に利用できるようなコンテンツの消費が増加していることは、テレビの到達できない閲覧者にリーチするのにビデオが最適のチャネルであることを示唆しています。
 

動画広告のインフラの基礎を構築する 新しい基準により、フォーマット問題は急速に成熟に近づいており、そのポテンシャルを活かした利用が可能になります。動画広告はすぐにテレビ広告に取って代われるわけではありませんが、オンラインとオフラインの両方で消費者の注目を集めたクロススクリーンのキャンペーンの一環として、オンライン動画は強力なパートナーとしてテレビに対峙しています。マルチチャネルの時代においては、テレビとビデオは併用される方が確実によいのです。
(編集:三橋 ゆか里)

 

 

 

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。