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パブリッシャーアライアンスでクリティカルマスにリーチする

(翻訳:Asia Plus 黒川賢吾)

パブリッシャーは近年、数には力があることに気づき始め、ヨーロッパではアライアンス提携などの先駆的な取り組みが始まっている。RubiconProjectのJay Stevens国際統括マネージャーが、どうすればパブリッシャー連合がGoogleらの優勢に立ち向えるかを話してくれた。

 

過去数年間、この世界におけるデジタルの巨人によって市場の支配が一方的に進んでいくと考えられてきた。2014年には5大デジタル事業者が世界のデジタル広告収入の50%を占めており、これに対抗しようと奮闘してきたパブリッシャーには厳しい現実が突きつけられている。

しかし昨今は、パブリッシャー同士のアライアンスにより、従来のメディアブランドに希望が差し込んできたように思える。パブリッシャーがインベントリーやオーディエンスデータを単一プラットフォームで販売できるように協力しあうことで、広告代理店が検索やソーシャルの巨大なプレイヤーから購入するのと同等規模のプログラマティックプラットフォームを提供している。

協力やアライアンスとも呼ばれるこれらの関係により、彼らのインベントリーとファーストパーティ・データをプールし、パッケージ化することが出来るため、非常に深いレベルのアクセスと、細分化したターゲティングによるキャンペーンを実施するためのインサイトを広告主に提供することが出来る。この新しい協力関係により、パブリッシャーが100年以上にも渡り築いてきた伝統や信頼を一つにすることが可能となる。

Guardianは、この効果を得るためにFinancial TimesやCNN International、Reuters、The Economistと手を組んだ。このグローバルで組まれたPangaea Allianceは、拡張性が高く(全体で1億1千万のグローバルリーダーたち) 、技術的にシンプルなプログラマティックなメディア販売ソリューションを広告主に提供している。

Pangaeaの業務を支える技術プラットフォームには、Rubiconプロジェクトが選ばれている。これは、我々が国際的な協働契約を結んだ6番目のメディア共同体である (それ以後に新たに3つが続いている)。したがって我々は、この変化が複雑なものであったとしても、それがいかに価値があるものかを間近に見ることができた。

このパブリッシャーによるアライアンスのトレンドは3年前のフランスで始まった。フランスで最大規模のメディアオーナーたちが、共同でLa Place Mediaを作った。それ以降、アルゼンチン (RPA Media Place) やニュージーランド (KPEX) にも新しいメディア共同体が生まれるなど、ヨーロッパを超える広がりを見せている。

この3年の運用で、パートナーたち (TF1 PublicitéやFigaro Medias、France Television Publicité、Amaury Médias、Lagardere Publicité) に何が起こったかを確認するためにも、La Place Mediaには注目の価値がある。強力な独立経営と、スキル豊富で献身的な作業によって大きな利益がもたらされたのである。CPMは最初の2年で70%増加し、2015年には2千万ユーロの収入が見込まれている。

フランスのデジタル人口の70%、あるいは3千万人のユニークユーザーにリーチしたLa Place Mediaのモデルは、他のアライアンスにとって、拡張における効率性・プレミアムブランド・そしてファーストパーティ・データとクロスメディア等の面での青写真となった。

アライアンスは、平均注文額が小さく比較的オーバーヘッドも大きな、より小規模な国々でもうまく機能している。これは、買い手と売り手の両方にとって、自動化によって得られるものが多いことを意味している。だから、Czech Publisher Exchange (CPEX) のメンバーが、その設立後2年で民間市場の売上高において年間500%の増加を示したことは驚くべきことではないだろう。これらの国での直接の注文は現在、アライアンスの総売上高の30%を占めている。

発足後2年のデンマークのアライアンスDansk Udgivernetvaerk (DUN) もまた、その国のウェブユーザーのほぼ4分の3へのアクセスを提供している。DUNは、受注を介してローカルの広告主に観客ベースのプレミアムインベントリーを提供するだけでなく、「顧客拡張」の初期の先駆者でもあった。DUNは、クラシファイド広告を最新にするための方法として、パブリッシャー・トレーディングデスクとも呼ばれることのある、質の高い顧客と拡張性を活用している。

DUNメンバーのJobzonenは、アライアンスのポートフォリオサイトやアプリを横断して、広告主が特定タイプの求職者というターゲット顧客にリーチすることを可能にしている。DUNディレクターのTroels Nielsenは、アライアンスにより「我々のクラシファイドに関する広告提供が効果的に再活性化されました。この分野は我々がデジタルオンリーの巨大な競争相手に敗れたと考えられていた市場でした」と述べる。顧客拡張の取り組み結果は印象的で、過去18ヶ月で、150以上の顧客から500の広告キャンペーンを実施したのである。

この新しいモデルは、従来のメディアブランドが、より大きなデジタルのライバルと競争する方法の転換点になりうるだろうか? アライアンスを形成する際に、商業的な機密データをかつては直接の競争相手と見なされていた企業間で共有するというアイデアには、課題が無いわけではないのはわかっている。しかし、これまでのところわれわれは、こうした提携において、献身的で自立したスタッフと会社構造によって、問題が克服されてきた例を多く見てきた。我々は、このアライアンス現象が過去数カ月間で真にクリティカルマスに到達したことを見てきた。我々のプラットフォームがアルゼンチンやニュージーランドとヨーロッパ以外で初めて設立されたことからも、そのメッセージは明確である。先に引用したデータは、正しい構造とガバナンス、人、そしてテクノロジーによって、アライアンスが実際にパブリッシャーの運命を転換する役割を果たし得ることを示唆している。

 

 

 

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。