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プログラマティッククリエイティブの時代

(翻訳:Asia Plus 黒川賢吾)

プログラマティッククリエイティブ時代のユーザーとの関わりは、データと自動化技術が頼りだ。この記事では、wayve社(下記の写真)の創設者でCEOのJamie Evans-Parker氏が、マーケティング担当者によるデータと技術の完全な融合を生み出す方法を提言している。

プログラマティックがデジタル広告の世界に登場してからおよそ10年が経過し、広告取引の自動化によりターゲット化機能と効率性に大変革をもたらした。初期の理解に時間がかかったが、今ではマーケティング担当者はこの技術を簡単に活用するようになり、広告費ボリュームは英国のみで来年は20億ポンドを超える予定だ。

Jamie Evans-Parker氏プログラマティック自体は成熟期を迎えており、マーケティング担当者は次第にリアルタイムで個別のオーディエンスにリーチ出来るようになった。一方、パブリシャーは自社のデジタル資産を最大化し、インダイレクトセールス(間接的な営業)のみでブランドから案件の落札が可能になった。ただし、マーケティング担当者はキャンペーンのスケールを重視するあまり、クリエイティビティーを犠牲にしないようにすることが重要だ。

オークション価格で高度にターゲット化されたキャンペーンを展開することも重要だが、個人に即した効果的なクリエイティブが、狙い通りの影響を与えるために欠かせないことにブランドは気づき始めている。デジタル広告の新しい時代の幕が開けようとしており、プログラマティックとクリエイティブが結びついて魅惑的なキャンペーンが広く行き渡るようになる。

では、どうすればマーケティング担当者は正確なデータインサイトと自動化技術、創造性を組み合わせて顧客とのエンゲージメントを築けるのだろうか。

複数の技術を組み合わせてターゲティングの向上を図る

途切れることなく、カスタマイズされたデバイスを跨ぐオンライン体験の要求が増えるにつれ、全く異質な技術がその強みを結び付けた。マーケティング技術と広告技術が合わさって詳細なオーディエンスインサイトと高度なキャンペーンの実行が可能になり、マーケティング担当者はオーディエンスのセグメント化と正確なターゲティングに関して新たな段階に至ったといえる。クリエイティブメッセージをニッチな顧客に合わせてカスタマイズすることが可能になり、それまでのやりとりを基に集めたデータを利用して類似の顧客をターゲット化出来る。

クリエイティブコンテンツをカスタマイズする

プログラマティッククリエイティブはモダンアドバタイジングに関する究極の問題を解決する。つまり、どうやって適切なオーディエンスにリーチして広告コンテンツを個人それぞれのエンゲージメントに繋げるかという問題だ。ダイナミッククリエイティブのような技術(リアルタイムの状況に合わせてクリエイティブ資産を自動的に選択して組み合わせる機能)を使って、広告を継続的、地理的、人口統計的な要因だけでなく、CRMのデータにも適合させて最適化が出来る。結果的に高度に個人に即したクリエイティブとなり、個人ごとに即したやりとりが増え、キャンペーンの実績が向上する。展開中のダイナミッククリエイティブの良い例は、パンテーンの「Haircast」キャンペーンだ。オーストラリアのWeather Channelとブランドが協力してモバイル端末で天気予報をチェックしたユーザーを地理的にターゲット化し、即座に現在の天候に合わせたヘアケアソリューションの提案を実現した。

顧客ニーズをリアルタイムに把握する

また、マーケティングデータと自動化されたアドテクが結びついたことでユーザーをあらゆる視点から見ることが出来るようになった。ユーザー行動を詳細に把握することで、マーケティング担当者はセールスファネルの中のユーザーの位置を正確に特定することが出来る。つまりユーザーが商品を探しているのか、購入を検討しているのか、それとももう購入済みなのかどうかを判断出来る。この情報により、マーケティング担当者はクリエイティブメッセージ送信を購入プロセスのあらゆる段階でユーザーニーズに合わせるようにすることが可能になる。

広告フォーマットの範囲を拡大する

プログラマティッククリエイティブにより、マーケティング担当者は、即座に最適なオーディエンスに届く多様な広告を利用することが出来る。その結果、マーケティング担当者は、リッチメディア広告や動画広告、ネイティブ広告といった様々な形式のクリエイティブコンテンツを作成し、エンゲージメントと魅力を向上させることが可能になる。画面を占領するバナー広告の代わりに、プログラマティッククリエイティブはユーザー体験を向上させる魅力的な、邪魔にならない形式をもたらすことが出来る。

チャネル横断的な効率性の向上

広告クリエイティブのクオリティーがどれほど優れていても表示が貧弱であったり、遅延問題があればユーザーをうんざりさせてしまう。そのため広告は、あらゆるデバイスや画面サイズに渡って完璧に表示する必要がある。マーケティング担当者にとり、ネイティブアプリからAdobe DPS publications、ウェブアプリ、従来のウェブサイトまであらゆる環境で広告を表示出来るようにすることが非常に重要である。同時に広告をiOSやAndroid、Windowsといった全てのオペレーティングシステムに最適化することが必要だ。HTML5の登場でマーケティング担当者はレスポンシブなクリエイティブの作成が可能になり、ターゲットに合わせて最大の効果が得られるようになった。

直接取引への移行

ブランドがキャンペーン実行前に広告表示枠を予約することでパブリシャーの最も魅力的な広告在庫を確保することを選択するようになり、業界がプログラマティックな直接取引モデルに移行し始めている。来年のデジタル広告の状況は、プライベートマーケットプレースのやり取りが増え、パブリシャーとマーケティング担当者の緊密な関係が築かれるだろう。この結びつきはまた、デジタル広告の基準をより高くする。というのもパブリシャーがブランドに彼らのウェブサイトを補完し強化するような、複数の画面に渡ってうまく変換可能でユーザーを満足させるリッチメディア広告でウェブを埋めることを提案するからだ。

技術上の革新がデジタル広告の進歩を促す力であるのは疑いようがない。しかし、プログラマティックだけがマーケティング担当者にとって究極の目標ではない。テクノロジーはシームレスな、即時性のあるチャネル横断的な広告を容易にしたが、本当に効果的で魅力的なコンテンツが伴わなければならない。プログラマティッククリエイティブの新しい時代をもたらすには、マーケティング担当者は、顧客インサイトと自動化されたソリューション、魅力的な形式、チャネル横断的な柔軟性を完全に融合して結び付ける必要がある。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。