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タイの広告市場の現状: IREP、DACとの提携でプログラマティック化を進めるオンライン最大手Sanookの展望 [インタビュー]

タイは、人々が常に「つながっている」状態を好み、デジタルサービスの活用という意味で東南アジアでは最も進んだ国の一つだと言える。ExchangeWireはタイのオンラインメディアプロバイダー最大手SanookのManaging DirectorであるKrittee Manoleehagul氏に独占的なインタビューを実施し、Sanookの取り組みやタイのデジタル広告マーケットについての意見を聞いた。

(聞き手:Asia Plus 黒川 賢吾)
(取材協力:株式会社 アイレップ)

―Sanookのビジネスについて教えてもらえますか?

われわれは基本的にはオンラインコンテンツプロバイダーとして、タイの人々に高品質のコンテンツを届けることをビジネスとしています。タイ消費者に長い間サービスを提供していきた経験から、われわれはタイの消費者がどのようなコンテンツを好むのかを正確に理解している一方で、シームレスにコンテンツを届ける技術的な体制を備えています。

Sanookは2年前から「モバイルファースト」の概念を取り入れ、現在すべてのサービスやコンテンツに関して、如何にモバイルのスクリーン上で質の良いコンテンツを届けるか、2G/3G/4Gといった各種ネットワーク上で機能させるかといって点を重視して提供しています。現在Sanookのトラフィックの70%はモバイル機器からのものです。

―最近発表されたIREP及びDACとの提携についての背景を教えてもらえますか?

IREPはタイでサーチとソーシャルメディアを中心とする運用型広告のサービスを提供する為のパートナーを探していました。一方で、Sanookはグループ会社を通じてSEO、SEM、ウェブデザイン、オンラインプロモーション等のサービスを提供しています。今回の提携を通じて、Sanookが持つノウハウやマーケットでのプレゼンスにIREPのテクノロジーを加えることが可能になり、より洗練されたサービスやパフォーマンスベースでのマーケティングソリューションを提供することが可能になります。

一方で、デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム(DAC)との提携により、われわれはメディアインベントリの収益化をより容易に行うことが出来ます。DACの提供する広告サーバー「FlexOne®STINGRAY」により、われわれは広告をターゲットユーザーにより効率的に届けることが出来るようになります。またDACとの提携を通じて、プログラマティックサービスを2016年に開始します。タイではFacebook及びGoogleの巨大な2つのプレイヤーのみがプログラマティックを提供していますが、サヌークはタイのパブリッシャーとしては初めて、この2社を追随することになります。

―タイのデジタル広告市場をどのように見えていますか? タイ消費者の間ではデジタルの利用が非常に浸透していますが、その一方でデジタル広告市場は伸び悩んでいるように見えるのですが如何でしょうか?

Krittee Manoleehagul氏, Sanook社市場は2012年の28億バーツから今年は81億バーツへとほぼ3倍に伸びています。ただ全体のタイの広告市場においてデジタル広告は10%ほどに留まっており、そういった意味ではまだ大きくないかもしれません。アメリカ・中国・日本などのデジタル広告市場の割合を考えると、これからも急速にとはいかないかもしれませんが、市場は伸びていきます。また以前はテレビ、プリント、ラジオなどのメディアばかりを見ていた広告主が、最近は特により効果的なターゲティングが可能だという理由でデジタルへの関心を高めています。更に、Sanookのエディターの多くが新聞・雑誌などからの転向組で、この事は多くのビジネスがオンラインに移ってきていることを示唆しています。

私のパートナーであるメディア業界の知人はタイは2017年には100%プログラマティック及びオーディエンスベースの広告に変わっていくと予想しています。実際にそのような急速な変化が生まれるかどうかは見守る必要がありますが、Sanookはそのような変化に対応出来る体制が出来上がっており、他社はまだ準備が出来ていません。Sanookは現在、他のパブリッシャーに同じプラットフォームを使うように呼びかけています。これによって広告主のオフラインのマーケティング予算がオンラインに移行が加速化されるからです。

―オンラインの投資が進まないのは広告主のテクノロジーに関する理解の遅れが原因とは考えられますか?

多くの広告主がオンラインに非常に多くの関心を寄せています。ただ問題なのは決裁権を持つ人々が未だにテレビを最重要と考えている点です。彼らも徐々にオンラインに注目するようになっていますが、未だにテレビは即効性があるという考えから重視の姿勢を変えていません。

テレビを全ての人々が視聴しているのに対して、タイのインターネット普及率は50%です。ティッピングポイントに至るにはもう少し時間が必要かもしれません。ティッピングポイントに達する為に必要なのはオンライン広告がオフラインに出来ない事を示すことです。このためにわれわれが現在着目しているのがオーディエンスターゲティングで、大広告主を説得するだけの効果を備えていると考えています。特にタイのテレビ広告は非常に高額な為、オンライン広告はより明確で優れたROIを提供することが出来ます。

―タイでのプログラマティックの現状について教えて下さい。

われわれの推測ではFacebookとGoogleが市場の60%のシェアを持っていると考えており、そのうちの60%がプログラマティックであると考えています。残りの40%を他のパブリッシャーで争っているわけですが、これらはプログラマティックではありません。この残りの40%のプライヤーが生き残る為には、プログラマティックに移行するのが重要です。

SanookはGoogle、Facebookと比較しても高品質のターゲティングが出来ると考えています。われわれは自社でコンテンツを有している為、例えばコンテンツに関連した広告を隣に配信する等して高いクリック率を実現するような事が可能です。広告フォーマットは昨今柔軟に変わってきており、通常のコンテンツと同じような形でネイティブ広告を配信することも可能です。コンテンツの内容が良ければ、それが広告であっても消費者はクリックしてくれます。消費者は広告をより受け入れるようになってきていると感じています。

―この国でデジタル広告を更に発展させる為には何が必要でしょうか?

Krittee Manoleehagul氏, Sanook社テクノロジーへのアクセスが必要です。例えば、われわれが行うように広告配信方法を刷新したり、DMPへのアクセスを行ったりといった技術的な進化を通じて、企業は顧客データやそれらへのリーチにおいてより優れたサービスを提供できるようになります。

また、営業部隊も非常に重要な要素です。これらのテクノロジーについて顧客の前でしっかりと話を行い、顧客を教育し、より分析的なソリューションを提供できるようなリソースが必要です。営業部隊がデータや顧客の問題を理解し、正しいソリューションを提案できる必要があります。Sanookで最近採用した営業のトップはアドネットワークのバックグラウンドがあります。彼女は広告がどのように取引されるかを理解しており、チームに同じような知識を共有し、当社のクライアントに優れたプレミアムサービスを提供できるよう率いてくれるようになるでしょう。

同時に、IREPやDACのような、このビジネスを正しく理解しているパートナーとの提携が当社を大きくサポートしてくれます。タイと日本では市場は必ずしも同じではありませんが、彼らの日本での経験と高いテクノロジーの理解はタイ市場において今後何が起こり得るのかを考える上で非常に有益です。

チームを率いる正しい人がおり、正しい経験を持つ正しいパートナーを持つことが、Sanookをあるべき方向に導いてくれます。

ABOUT 黒川 賢吾

黒川 賢吾

株式会社Asia Plus CEO/Founder

主にNTT、ソニー、ユニクロにて海外プロジェクトやマーケティングを担当した後、2014年にAsia Plusを創業。ベトナムにてスマートフォンを活用したマーケットリサーチ事業を手掛ける。