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なぜアドテクの存在に関わる危機は誇張されるのか?

(翻訳:Asia Plus 黒川賢吾)

Echo Chamberは ExchangeWire CEO Ciaran O’Kaneによる アドテク、マーケティングテクノロジー、プログラマティックに関するコラムです。

この記事で、私は予想を述べるのではない。また、バーで聞いたM&Aの噂や私自身の専門的なインサイトに基づいた、早とちりな予想をリスト化したものでもない。

私は誰が誰を買収するとかの話をするつもりはないし、他の人々と同様、私自身もどうなるかわからない。これらの予想記事は、色々な専門サイトに溢れているし、LinkedInのフィードに様々上がってくる。

私がここで述べたいのは、われわれのマーケットに関する希望や機会に関するポジティブな内容についてである。

私がソフトになってしまったのではないかと疑う人もいるかも知れない。だが、それは正しくない。マーケットインサイダーや、専門家記事、正確な調査を行っていない業界人らによって、われわれのマーケットは過去12ヶ月の間、打ちのめされてきた。データに基づいた広告やプログラマティック、アドテクなどの全てが深刻な批判を受けてきた。あまりにも批判が多くて窒息死してしまいそうな程であった。

したがって、この年末記事では、アドテクが非常に好調で、且つこれまでになくチャンスが広がっているという点について述べていきたい。

私の「買い」の立場を裏付けるため、今年アドテクで巻き起こった大きな実存的な危機について解説をするのが有益であると考えた。

2015年に自己陶酔的に持ち上がった(そして2016年も継続するであろう)4つのトピックは、(1)アドブロック、(2)アドフラウド、(3)EUデータ保護指令、(4)ビジネスモデルの永続性に関する疑問、である。

アドブロック – 解決されるであろう問題

今年書かれたアドブロックに関する記事の数を数えることは可能だろうか。どうしてこのトピックがここまで人気を呼んだのかを考えるのは難しいことではない。先月は「アドブロック」に関して65万もの検索が行われた。大変なトラフィック量である。そしてこのトピックはデジタル広告にとっての究極の「最後の日」に関するトピックであり続けるだろう。

多くの人がこのトピックに関して、内容が事実ではなく想定によってのもので気づき始め、耳を傾けるのを止めてしまった。Business InsiderやCMO Todayや「アドテク界のDonald Trump」ことRoi Cartheyの言うことを信じていたならば、2016年に職探しを始めていたとしても不思議ではない(転職先は配管業か教職だろうか)。

正直になってみよう。私たちは収益のためにユーザエクスピリエンスを犠牲にし、それが耐えられないレベルに達してしまったのである。

アドブロッカーを利用する人をどうして攻めることができようか。ゴミのような広告、マルウェアやいたずらなターゲティングは制御のしようがない。モバイルは最大の競争環境となっており、お金の足りないユーザーがデータ量のある広告を制限するとしても何の不思議もないだろう。

その収益モデルには問題があるが、アドブロッカーによってアドテク企業はエコシステムを苦しめていた悪習慣を取り除き、発展に導くことが出来た。広告とコンテンツのトレードオフの重要性に注力させたのである。

デジタル広告企業がアドブロックを問題としなくなる理由

われわれのマーケットで最も進んだ人々が、悪い慣習やアドブロックの脅威と戦うようなビジネスモデルに取り組んでいる。私はこの問題に取り組み、パブリッシャーにソリューションを提供しているBen BarokasとRob Leathernの2人のリーダーを応援している。
(マイクロペイメントやコンテンツ広告に関するソリューション等)ユーザーとコンテンツクリエイターがコンテンツ作成における経済性について、より成熟した会話を行えるような新たなモデルが生まれようとしている
ユーザー及びパブリッシャーの収益にとっての勝利につながる、より少なく効率的な広告
ページ上での広告の再構成。パブリッシャーが近視眼的な取引からオープンオークションに移行するきっかけとなった
よって、われわれはアドブロッカーによる不正な金儲けのサポートを必要としなくなる

アドフラウド – 大規模なクリーン活動

何十億ドルにもわたる費用が広告主から数年にも渡って騙し取られていたという事実はかなり恥ずべき問題であり、産業にとっての恥部である。ディスプレイ及びビデオ広告の取引において実質的な詐欺行為があったことは最悪の公になった秘密である。しかしながらこれらの行為は一掃され、ほとんどの責任あるベンダーはより賢明な行動をとるように変化してきている。時間はかかってしまったが、産業はよりクリーンな環境に変化したといえる。

アドフラウドについて讃えるべき理由の数々

サプライ側のクリーンアップ
詐欺行為の現象によるプログラマティック予算の増加
危険なイスラエルの広告企業がひとまとめに摘発を受けたりするのを見るとマーケットは正しいことをしているのを感じるのではないか。偽のビジネスの仕掛けなどはもうゲームに成り得ない。

EUデータ保護指令 – 議決の見込み

新たなEUデータ保護指令は既存のヨーロッパのデジタル広告エコシステムにとっての地雷的な存在となるだろう。既存のデジタル広告ターゲティングでユーザーをオプトインできるだけのビジネス規模の企業は殆どいない。今後ファーストパーティデータが支配的な力を持つ様な世界に変化をしていく。混乱も起こるだろうが、大いなるビジネス機会と言える。

(批准後に)EUデータ保護指令をあなたが好きになる理由

無意味な‘Bottom of the Funnel’ターゲティングを終了させる。
ベンダーはより(クライアントの)ファーストパーティデータのLook-a-Likeモデルに基づいたProspecting(新規顧客の獲得)に注力していく。ディスプレイ広告というのは、決してリターゲティングではなく、もともとは、‘Top of the Funnel)のことであったはずだ。だがこれが個人情報の「二次利用」に当たるかどうかは今後注意を払う必要がある。
GoogleとFacebook以外では、リターゲティングはほぼ不可能に近い。Prospectingとは、大きな成長エリアである。
ユーザー同意を管理する為の新たなビジネスが誕生する。これはEUでデータに基づいたマーケティングに利用されるだけでなく、ウェブコンテンツにアクセスする為の流通紙幣としての役割を担うこととなる。
法律の制定は2年後。よってそれまでは大きな変化は見込めない。
「明確に」オプトインされている場合を除いては広告のストーカー行為は無くなる。

アドテクとビジネスのアイデンティティ危機

アドテク企業の何社かは今年レイオフを実施した。ビジネスモデルの転換によるものと説明する企業もあれば、VCに援助を受けている企業にとっては、次の投資機会が訪れるまでのコスト抑制の手段でもある。合理性は何であれ、アドテクはマーケットでうまく回る持続可能なビジネスモデルを目指して格闘しているのは明確である。

リベートが盛んに行われているマーケットにおいて、SaaSモデルはメディアでは機能しなかった。エージェンシーは生き残りの為にキックバックを必要とするという事実がある。メディアのバイヤーとテクノロジー企業が定期的なライセンスフィーを払う準備がない中で、ベンダーは何をすべきだろうか?

生き残りの為に、アドテクはボリューム、パフォーマンスベースのどの形であれ、メディアにおいて存在感を保たなくてはいけないという事実がある。SaaSはマーケティングテクノロジーの世界でのみワークするもののように見られる。マーケターはライセンスにお金を支払い、エージェンシーは払わない。SaaSよ、さようなら。

ビジネスモデルにとっての良いニュース

広告はどこにも行かない。あなた自身がユニークな価値を持ち(FacebookやGoogleとの違いがある限り)、「メディアの税金」を支払う限り、広告はついてくるだろう。また、サービスエージェンシーへの資金調達をしすぎない様に気をつけることが重要だ。何故ならマネージドサービスへの買い手は非常に限定されるからである。
自動化、テクノロジー、データの時代においてサービスレイヤーの需要が生まれるだろう。パブリッシャー及びマーケッターがスペシャリストの手を借りながら、新たなテクノロジーのエコシステムへの理解を深める様になるだろう。われわれはこれ以上のビッダーやアドサーバーを必要としていない。必要なのは実行に移す人や企業なのである。
メディア以外では、マーケターの要求に応えるニッチなテクノロジーソリューションの機会がある。オープンなマーケティング技術のプラットフォームにおいて、ライセンスビジネスの提供が(デベロッパーと僅かな営業チームの構成によって)なされるだろう。
エージェンシーがサポートを必要とするデジタルメディアの未開発領域が現れるだろう。差別化を行うベンダーのための予算はいつでも存在する。
2016年には様々な混乱は生じるだろうが、これはインターネット上で広告が配信されて以来、いつもあることである。アドテク(検索、ディスプレイ、アフィリエイト、モバイル、ビデオ、ソーシャル)はウェブ上の収益化エンジンである。

現在の様々な惨事はアドテクにとっての存在を問うような危機ではなく、常に取り組まなくてはいけない日々のドラマのようなものである。現在、問題を騒ぎ立てるマーケットのインサイダー等は記事の書き方を少し修正したほうが良い。少々退屈なものになってきていると感じる。

産業への様々な脅威はあるものの、私は来年のアドテク産業に大きな期待を持っている。あなたも同じ様な期待をもって良いのではないか。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。