動画広告DSP国内トップが語るYouTubeインベントリー「クローズド」の影響を超えた今後の成長戦略 [インタビュー]

TubeMogul

2015年8月、Googleが「YouTube動画広告インベントリーの開放を2015年 年内で終了する」と発表したことは、業界に大きな衝撃を与えた。グローバルで動画広告DSPを展開するTubeMogulは日本でも数年前からサービスを開始しているが、YouTubeは日本では実に6割以上のシェアを持つ動画広告メディア。この広告を取り扱えなくなる2016年以降、同社はどのような成長戦略を描いているのか。同社日本法人の、株式会社チューブモーグル 代表取締役社長 近藤弘忠氏に聞いた。

(聞き手:ExchangeWire Japan 野下 智之)


YouTubeの「クローズド」はマーケットの求めているものか?

―まず、直近の動画広告市場の動向について教えて下さい。

動画広告市場は、期待されているように順調に成長していると思います。特に12月は、クライアントの予算消化もあり、伸びるタイミングではありますが、私たちのビジネスとして考えても非常に順調です。(インタビュー2015年12月当時)

―去年と比べて、何か環境に変化があったのでしょうか。

いわゆるマルチスクリーン対応が一般化しつつあります。直近ではモバイル広告もそうですし、マルチスクリーンを最も体現しているのがデジタルサイネージへの配信です。2015年10月終わりに実際に実施でき、一つ新しいステップを踏めたと認識しています。

―2015年8月にYouTubeがインベントリーをクローズドにすると発表しました。この発表でDSP各社の株価が下がったり、マーケットシェアがネガティブに反応しましたが、貴社にはどのような影響があったのでしょうか。売り上げとそれ以外の部分についても教えて下さい。

株式会社チューブモーグル 代表取締役社長 近藤弘忠氏

売上については、正直なところあまり影響がありませんでした。みなさん「え?」と言われますが、YouTubeの在庫はGoogleから直接買うことのほうが圧倒的に多いのです。ニュースはインパクトがありましたが、売上実績については、グローバルでは5%の減少率。日本はもう少し高めの割合ではあるものの、他の分野の伸びに吸収されるレベルの数値で私たちもほっとしています。これは想定どおりの結果です。

一方で、確かにプログラマティックなところで言うと、全てを一つのプラットフォームからコントロールできるのは間違いなく大きなメリットです。そこからYouTubeが抜けるのは大変残念です。
今後のYouTube以外の動画コンテンツの成長を考えれば、私たちはもともとプログラマティックに求められる機能をきっちり提供していきたいと思っています。また多くの人がYouTubeの動画コンテンツだけで満足していないことも事実です。
広告会社側のニーズが弱まったかというと、それはありません。YouTubeは直接やらなければいけないので直接やる、それ以外のところを私たちDSPに任せる、といった流れです。

―広告主が実施するキャンペーンで何か変化は起きそうでしょうか。

広告主側でいうと、トピックス的なところではマルチスクリーン化、特にTubeMogulだからかもしれませんが、日本から発注する海外配信も商談レベルで出始めてきています。
TubeMogulという一つのプラットフォームから、海外配信が可能なため、この領域は今後大きく成長してくると期待しています。

2016年から中国本土への配信も実施可能になります。現地のSSPやパブリッシャーとも直接提携することで在庫の確保ができるようになりました。アリババが買収したことで話題のYouku、TudouやSSPのMiaozhen Systemsなど豊富に取り揃えています。訪日観光客向けの広告需要などにも応えられると思っています。

私たちもこれまで動画広告中心でしたが、広告主の要望に沿って様々なフォーマットの対応を始めています。ディスプレイ広告や、プレロール以外の発注のご要望に応えるためです。
USなどはその方向感が顕著です。またDSPがこれまで扱っていた、オープンマーケットで買うインベントリー以外、つまり直接ディールしていたプレミアム在庫をTubeMogulプラットフォームから送稿・配信することも始まっています。

ご存知のように私たちは、ブランディングのための動画配信プラットフォームとしての役割をマーケットから求められています。その広告主・広告会社から求められる機能を、着実に開発し続けています。

―これまでは、プレロール以外はやっていらっしゃらなかったのでしょうか。

今までもプレロールやスキッパブル、ディスプレイ、モバイルなど様々な種類がありました。しかし今回のディスプレイ広告のイメージは静止画です。今年の夏に機能追加しました。

―もともと動画広告はインストリームもアウトストリームも提供していたが、アウトストリームに比重が強まったということでしょうか。

TubeMogul_2アウトストリームの比重が強まったということではなく「動画でコミュニケーションをとったユーザーに、次に静止画でコミュニケーションをとりたい」というニーズに応えた形です。ディスプレイ広告に対応するまでは、違う会社のタグを動画に張り付けて配信し、また違うベンダーから配信してターゲティングする、という手間が必要でした。それを一つのプラットフォームから配信できるようにしました。もっとも、これはYouTubeは関係なく、あくまでお客さまの要望から生まれたものです。

新たなプレイヤーとの提携機会に

―とはいえ、あのニュースのインパクトは大きかったと思います。今後の戦略で変わったこともあるのではないでしょうか。

日本はYouTubeという非常に強いサイトがあり、在庫が偏在しているのがこれまでの状況でした。しかし最近、YouTube以外のパブリッシャーやコンテンツホルダーと話す機会が非常に増えてきています。彼らも動画マーケットが成長することを、ビジネスチャンスとして捉えており、意気込みは非常に感じます。うまく連携してマーケター、広告会社、広告主にとってよりよいブランディングの環境を提供していきたいと考えています。

確かにYouTubeの在庫が第三者に扱えなくなるのは残念なことです。しかし新しいプレイヤーが動き始めているのも事実なので、彼らとうまくマーケットのニーズをくみ取って動きたいと思っています。プライベートマーケットプレイス(PMP)のリリースも、その象徴的な基軸の一つです。

基本的なことで、非常にシンプルなことですが、これまでも常にあったのが「YouTubeの動画広告はもうやっているからそれ以外で何かやりたい」というニーズです。今回のインベントリークローズドで、よりその流れが加速したと感じています。具体的にはYouTube以外の在庫をどう活用するのが適切かを探る、次のキャンペーンの戦略戦術を練る、といった観点から弊社の提供するサーベイを活用するといった事例が出てきています。

―欧米に比べて、日本は動画のインベントリーが少ないのが弱みでしょうか。

そうですね。でも例えばUSではフェイスブックのインテグレーションが始まっていて、日本でももうすぐ開始されると思います。ご存知のようにフェイスブックは、ビデオインベントリの大きなプレイヤーです。弊社側でももちろん連携できるので、彼らの参入は今後大きな意味が出て来ると思っています。

―動画広告のマーケットが伸びている中で、DSPの本格的な活躍はまだまだこれからだと感じています。これからDSPが普及して、プログラマティックの領域が広がっていくためにはどういうことが整備されたり、もしくは環境が変わったり必要があるのでしょうか。

すごくベーシックですが、プログラマティックとは、一つは在庫がいろいろなところに存在してそこに横串を通す。そのために必要なデータ連携が自由にできるということだと考えます。USはそういう環境でスタートしましたが、日本は残念ながらそこまで至っていません。在庫が相対的に偏在しておりデータを横串で見るニーズが弱かったと思います。しかしこれからは、そのニーズがより顕在化してくるのではないかと思っています。

いろいろなコンテンツホルダーが動画広告の伸びに期待し、投資もし始めています。本格的には彼らの作る在庫が市場に出て来るのが一つの条件です。私は確実に出て来るのではないかと思います。

―動画広告のプログラマティック取引の本格的な普及はどのくらい先にそういう状況になりそうでしょうか。感覚的には、2~3年はかかりそうな気がしますが。

そうですね、それくらいはかかるかもしれません。早ければ早いほどマーケットに貢献できますが、こればかりはいろいろな不確定要素があります。

―動画広告へは、今後テレビの市場からデジタルの予算が流れてくるのでしょうか?例えば地上波が強いドイツは、そこが崩れてデジタルに流れてきていると聞いています。そういう観点でいくと、日本でも同様の流れが来るのでしょうか?

TubeMogul_3テレビの予算というよりは、海外のテレビのコンテンツホルダーが電波にこだわらなくなってきている、ということだと思います。テレビビジネスの人がデジタル上でビジネスを始めているのではないでしょうか。日本でもTverなどがそれに該当します。その流れが進んでいくと、結果的にデジタルにお金が増えますが、ただしテレビ局のデジタル部門の売上です。むしろテレビに限らず、デジタル上のコンテンツが増えるか、インベントリーが増えるかがあって初めて「予算がどこからどこに流れる」という話になると思います。

「消費者のいるところに出す」のが広告主の願い

―広告主は、現状の動画広告をどのように見ているのでしょうか?

広告主は消費者のいる、ユーザーのいるところに出したいのです。今ギャップがあるのは、デジタルを使う人が増えたけれども、そこでのマーケットの予算消化とのギャップが出ています。なぜギャップが出ているかというと、インベントリーがまだないからです。しかしユーザーサイドからのニーズは、ティーンというか若年層を中心に増えています。このギャップが実態と一致した時に「広告主は消費者のいるところで活動したい。結果的にデジタルが増えた」ということになるのではないでしょうか。

私たちの立場で言うと、広告会社、広告主の要望に沿って効果的・効率的にデジタル広告を配信できる、ブランディング広告を出せるプラットフォームを提供しているので、そのニーズをいち早く嗅ぎ取って開発しておくことが重要だと考えています。USや海外が少し進んでいるのでそこの状況も見ますが、USと日本はメディア環境が違うので、期待されるものも少し違います。日本で一番期待に沿える機能を提供したいと考えています。

―今後の貴社の日本における事業の方向性をお聞かせください。

DSPとして広告主や広告会社が簡単・効率的に運用できる機能をどんどん追加していきます。2015年9月にニールセンDARと日本でも連携しましたし、USではProgrammaticTVという、弊社プラットフォームを通してテレビ広告の配信をするといった機能がスタートいたしました。
その一方で、機能が載りすぎてどのように使いこなすかが複雑になりすぎている側面もあります。「複雑化しているのでシンプリファイする」というのはどこのアドテクの会社もキーワードにあがっていますが、シンプリファイとブラックボックスは違います。必要であれば事細かにチューニングしなければなりません。

一方、各マーケターのレイヤーによって見たいところは違います。現場は細かく見たい、しかしマネージャーや役員は見るポイントが違います。使う人にとって使いたい情報が簡単に手に入るように、ダッシュボードを要望に沿って作るというような取り組みも、重要になりつつあります。デバイスやスクリーンが増え続けるなか、“これを実現するためには、こんな情報を横串で、横断で評価できるように指標を揃えないといけない”など、裏側ではたくさんの要件があります。でも、それを確実に提供するのが他サービスとの差別化です。そしてマーケター、広告主、広告会社の求めることでもあります。本社側はそのようなロードマップで動いておりますので、日本でも同様のサービス提供を進めてまいります。

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ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長
慶應義塾大学経済学部卒業。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2014年10月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価機関デジタルインファクトを設立し、プロジェクトディレクターに就任。