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OpenX Panel: アプリ広告が抱える興味深い問題について

(翻訳:Asia Plus 黒川賢吾)

Open Xによる先月のプログラマティックスクール(知識ギャップを埋め、プログラマティックを最大活用するためのノウハウ提供のワークショップ)のローンチに続き、2月16日には、2回目のワークショップ「Programmatic on the Go」が開催された。今回は、モバイルプログラマティックの世界について、主にクロスデバイスキャンペーンの計画、メディアミックスのためのアプリ開発、モバイル計測などのトピックがカバーされた。

ExchangeWireはモバイル業界のエクスパートを集めたこのイベントを取材した。出席者にはIntegral Ad Science社のモバイル部門GMのJason Cooper氏、Inneractive社のマーケティング・ビジネス戦略部門のVPのYoni Argaman氏、Somo社のジェネラルマネージャーStephanie Emmanouel氏、Shazam社のEMEA&APACメディア管理部門のShane Keane氏等が含まれ、モデレーターをOpenX社のモバイル部門ディレクターであるJustin Re氏が務めた。

アプリ戦略、アドフラウド、ビューアビリティなどについての非常に深い議論にあわせて、ExchangeWireはパネリストによって議論されたモバイルプログラマティックの現状についてのレポートを纏めた。

モバイルウェブとアプリ

OpenX社のモバイル部門ディレクターであるJustin Re氏は、モバイルにおける成長はウェブ、アプリのどちらにおいて見られるか尋ねた。パネリストからの一貫した回答はモバイルアプリ広告の成長がウェブを大きく上回るというものだった。Inneractive社のYoni Argaman氏は同社のモバイルインベントリーの92%はアプリであると述べた。Argaman氏は「アプリ広告には多くの利点があり、より多くのデータがあります。ユーザーのエンゲージメントもアプリの方が高く、収益化に向いています。CTR、eCPMも高く、私はアプリ広告については非常に強気の立場です」と述べた。

Shazam社のShane Keane氏は、多くのインプレッションを扱う事業者としての立場から発言した。彼らはアプリにより集中し、モバイルウェブはShazamのビジネスのほんの僅かの貢献度しかないと説明した。「我々はアプリこそが全てだと考えています。ユーザー体験の優れたコントロールも可能ですし、パブリッシャーの観点から述べると、eCPMが高く、収益性にも優れています」。しかしながらKeane氏は、他のパネリストの経験と異なる点ではあるものの、モバイルウェブのビジネスにおける割合も増えてきている点について付け加えた。「アプリがキーではある点は変わりませんが、クロスデバイスを考えるとモバイルウェブも興味深い分野です。我々はユーザーのデータポイントを紐付ける要素が必要です」。

Somo社のStephanie Emmanouel氏は買手の立場から意見を述べてくれた。同社は、モバイルアプリ戦略において、モバイルファーストの広告主とより伝統的な広告主を分別している。「我々はゲーム業界など多くのモバイルファーストの企業がアプリに投資するのを目の当たりにしてきました。それ以外にもユーティリティやギャンブル等の業界でもアプリは主流になってきています。一方で、伝統的な広告主にとっては、アプリは難しい戦略オプションになっています」。

Integral Ad Science社のJaso Cooper氏は、アプリ広告におけるブランドの安全性への配慮について言及した。「モバイルアプリは位置情報やデバイスIDなど、豊富なデータが活用でき、ブランド広告主には非常に有益な情報をもたらしてくれます。ですが一方でアプリは安全ではありません。ディスプレイやモバイルウェブではURLをブロックすることは可能です。しかし同様の機能や詳細情報がアプリでは覆い隠されているため困難です」。

アプリのビューアビリティに関する問題

次に議論は広告フォーマットとビューアビリティに移った。Integral Ad Science社のJason Cooper氏はプレキャッシュの問題をとりあげた。「広告収益化や広告提供をアプリで行うためのSDK技術の殆どが、広告フォーマットのプレキャッシュを用いています。ユーザーはゲーム中にダウンロードのために、時間を費やしたくないため、この機能はユーザーの視点から非常に道理にかなっています。一方で、エージェンシーはキャンペーンの効果測定に伝統的な手法を用いており、広告の状態を測定することができません。アプリでは100種類もの広告がプレキャッシュされており、そのうちの一つか二つしか表示されません。しかしながらエージェンシーの広告サーバーはその全てをカウントしてしまい、閲覧されない理由を求めています」。

この発言以降、トピックはアドブロックと業界への影響について移っていった。これは大きな問題でありながら、まだアプリ広告においては初期段階にあり、大きくなり続けている。Integral Ad Science社のJason Cooper氏は次のように指摘した。「AppleはiAdをシャットダウンしたので、現在Appleにとって、セキュリティ標準をクリアしている限りはアドブロックを防御することのインセンティブは無くなりました。我々はより多くのアドブロックを目にするようになり、これらは(ユーザーにとって)効果的な仕事をしています。」

Shane Keane氏は、アドブロックは彼らのビジネスに僅かなインパクトしかもたらしていないが、今後大きな脅威になる点について同意している。もしアプリでのアドブロックが一般化すると、彼らのビジネスにとっては膨大な損失に繋がりかねない。「我々が、スクロールした際のホームスクリーンからのインプレッションしか得られなくなれば、当社にとっては最悪の状態です」。

OpenX社のJustin Re氏はアドブロックに関する問題について次のようにまとめた。「業界はデスクトップの対策をモバイルに用いるだけで十分だと考えてしまっていました。しかしそうではなく、我々はより優れた対策を講じる必要があります」。業界は初期段階で対応仕切れなかった状況を解決すべきための問題に取り組んでいる最中である。Re氏は全てをブロックすることは、イノベーションの喪失につながるため、回答になり得ないとも述べた。

Re氏は、アドブロックの実情を理解するために、パブリッシャーにより多くのサポートとビジビリティが必要とされる点について語った。モバイルウェブにおいては、ブラウザーが問題を認識すれば、少なくとも広告がいつブロックされたのかについてはトラックすることが可能であると語った。しかしながら、これだけではアドブロックについて、業界が明確な判断材料を持つに至らない点についてRe氏は言及した。「仮にどの広告がブロックされたのかについて、より標準的な計測方法があれば、我々は問題の程度をより理解し、より効果的な対策を講じることができるでしょう。現在は、その点において暗闇の中にいる状態と言えるかもしれません」。

アドフラウドの細分化

OpenX社のJustin Re氏はアドフラウドについてトピックを変更し、パネリストにビジネス上遭遇したアドフラウドについて質問した。

Integral Ad Science社のJason Cooper氏は、オンライン上に存在するフラウドモデルとその検知方法に言及し、人々が認知しているアドフラウドのイメージと実情の差異について熱心に述べた。Cooper氏は、殆どの詐欺行為は今日、データやパターンに照らし合わせてみると特定できるものだと言う。「少しずつ改善はされているものの、非常に細分化された環境です。流動性が大きいということは解決すべき容易なソリューションが現存しないことを意味します」。

Somo社のStephanie Emmanouel氏は、多くが監視の目をくぐり抜けてしまう現状における測定を行うことの重要性について言及した。「我々が目にした継続的なIDFAのデータをみたら、きっと驚くことでしょう。我々はクリックとインストールの時間差に注目していますが、例えば時間差が1秒だと計測された場合、非現実的な数値と言えます。ギャンブル等の分野では多くの支払いが発生します。我々は多くのマニュアルでの介在作業を目にしており、何百もの東南アジアの人々が携帯電話のゲームでやり取りを通じて、アプリでの購入を行っています。我々ができるのは正しく測定し、管理し、フラグ化し、IABなどの団体に標準化を持ちかけることだと考えています」。

パネリスト全員が同意した点が一つある。それは、どの業界にいようとも、モバイル広告の未来が安全で、透明性に優れ、最適なユーザーエクスペリエンスをもたらすために、それぞれが相互的な責任を有しているという点である。

次のプログラマティックスクールのセッションは「サプライサイドの成功戦略」に関して、3月11日の8:30〜11:00にCovent GardenのHospital Clubで開催される。セッションでは、収益、価格、最適化戦略、インベントリ価格の把握、管理、データバリューの理解などについてカバーされる。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。