×

プログラマティックディスプレイ広告はGoogleサーチの代替となるのか?

(翻訳:Asia Plus 黒川賢吾)

数週間前、Googleは検索結果ページの右側の広告を廃止したが、このことが検索の未来と広告主の検索戦略にとって意味することについての混乱と噂が広がっている。
ExchangeWireはこの時の業界の反応を探ると、これはGoogleにとっての無限に長い旅路の始まりとなるという話とともに、この変更の背景にあるGoogleの動機について疑問が存在した。しかし、何よりも先に、ExchangeWireが知りたかったことは 、このことが広告主の短期または中期で広告予算の見直しとプログラマティックなディスプレイ広告への移行を招くかどうかということである。

この考えに行き着く前に、いくつか考慮すべき点がある。検索は極めて測定が容易なチャネルで、消費者の購買ファネルの各段階の価値とパフォーマンスを理解でき、キーワード戦略を検討する多くのダイレクトレスポンス型の広告主に好まれている。広告主のポートフォリオにおける最も効果的なキーワードはブランドベースのキーワードである。ブランドがそのキーワードテリトリーを所有するため、これらは安価なCPCとなり、一般的にそこに競争はほぼ存在しない。そして消費者は直接的にブランドを検索しているので、購買性向は高く推移する。これにより、一般的に広告主は高いROIと低いCPAを得ることができる。

購買ファネルを上に移動すると、一般的なキーワードの領域に入る。一般的なキーワードは、消費者が潜在的な購買のリサーチ段階にてブランドの認知を高めるために存在する。一般的なキーワードは長さ、ボリューム、効果が様々であるが、ファネルの上部にあるキーワードは競争が激しく、検索クエリーボリュームは非常に高く、極めて高いCPC(同等のブランドのCPCの1000%以上高い)と低いコンバージョンレートに苦しんでいる。これにより、これらのキーワードを個別に確認すると、広告主には低いROIと高いCPAがもたらされていることがわかるが、ほとんどの広告主はそのような確認を行わない。彼らは、異なるキーワードが入ったバケツを一つに混合することで、検索を一つのチャネルとしてそのパフォーマンスを正当化し、CMOが週次売上パフォーマンスレポートを目にしたときに心臓発作を起こさないようにしている。

Search-Funnel-4

※図に記載されている英語の翻訳は、記事最下部に記載

サーチを別々の戦略を持った個々のチャネルではなく補完的なものとして見れば、一般的なキーワードの入札は検索におけるディスプレイ・プロスペクティング広告に相当するもので、ブランドキーワード入札はリターゲティングに相当するものだと考えることができる 。これは多くの人が拡大解釈だと考えるだろう。というのは、たとえ競争の激しい一般的なキーワードにおいても、検索はキャプティブオーディエンス(とらわれのオーディエンス)をターゲットにするためである。 一方で、ディスプレイ・プロスペクティング広告はオーディエンスが製品に興味を持つだろうと推測できるデータを活用し、オーディエンスのターゲティングを行っている。

もちろん、検索とディスプレイ広告のパフォーマンスと測定はきちんと並べて比較することはできない。しかし、データの増大によりディスプレイ・プロスペクティング広告はターゲティングの正確性という観点で極めて先を行くものとなっている。そのため、ある人がフランスでの休暇について調べていることを示唆するデータと、その人が検索クエリーを通して全く同一の内容をGoogleに知らせていることは、実は同じくらい活用可能な内容である可能性が高い。

基本的に両者は、広告主のラストインプレッションやラストクリックのアトリビューションに基づいた戦略構築ではなく、アジャイルで、統合されたクロスチャンネルにおけるマーケティングアプローチを実行するかどうかという選択による。これにより、両方のチャネルにおけるファネルの最上部のパフォーマンスに応じて検索とディスプレイ広告に渡る予算を微調整することが可能になる。

この戦術のシンプルさを主張することは愚かなことだろうし、すべての広告主が実践しているべきである。ある広告主は他よりもはるかに洗練された戦略を構築する能力を持っている。しかし、既存の競争の激しい検索環境において、広告主が高コストに直面し広告量シェアを削減しているとしたらもちろんのこと、ディスプレイ広告が広告主にとって既存の投資チャネルの一つだとしたら特に、それは今後発展し得る代替手段なのだろうか? ExchangeWireは業界の専門家の見方に高い関心を抱いた。

クロスチャネルのアトリビューションを持つ広告主は選択肢を求めるだろう

「検索の魅力の一つは、ファネルの下側であり、 そのため影響を測定しやすく、加えて広いマーケットへ進出するための障壁が低いことです。そのうえで、検索は市場において利用可能な多くのチャネルや戦術の一つにすぎません。しかし、個別に検討される 戦術のどれもが、PPCの他の選択肢を求めている人の救いの手とはなりません。」

「はい、リターゲティングはファネルの下側にとっては利益をもたらします。しかし、その他のプログラマティックな戦術、たとえばプロスペクティングなどでは、他のチャネルの代替ではなく組み合わせとして機能します。」

「戦術間で実施された支援および相互関係性の測定は極めて重要です。メディア費用の影響と後続の最適化戦略の統合された全体的な視点がなければ、マーケターは全体図を見ることができず、賢くメディア投資を打つことができません。」

「Googleの制限が引き起こす可能性の高いボトルネックやそれに伴うショートテールの入札価格の上昇によって、クロスチャンネルのアトリビューションの考え方を持っていたり、チャネルと戦略がどのようにして一緒に働くかを分析する能力を持つ広告主は、代替チャネルを求め、支出と入札戦略を適切に調整する可能性が高いでしょう。そういった考え方や能力を持たない広告主は、自分たちの代替戦術が効果を発揮せず失望に至る可能性を秘めています。」

– Michael James氏, Accordant Media社 EMEA地域 常務取締役

広告主は測定の戦略を再考する必要がある

「プログラマティック広告をペイドサーチのレベルでうまくいくようにすることは簡単なことではなく、2つのことを必要とします。1stPartyデータと、結果を大規模に推進させるのに十分豊富なクリエイティブ資産です。この両者は常に簡単に手に入るというわけではありません。このことを念頭に、広告主は可能性の鍵を解く手がかりとなるものとして自分たちのデータに注目する必要があります。それと同時に、誰にでもフィットするソリューションが多くの場合において役立たないという事実も理解することも必要です。」

「広告主が測定の戦略を再考する時が来ました。ラストクリックの世界では、ファネルの底でのアクティビティはアトリビューションを膨張させます。実際には、ファネルのより高い部分でのアクティビティは、多くの場合で現在の伝統的な考え方の仮定よりもはるかに大きな貢献をします。ラストクリックから、高度なアトリビューションへ、LTV(生涯価値)へと進化するより洗練されたツールで測定を始めたら、デジタルなエコシステムをより広く見渡す視点の恩恵を得ることができるでしょう。」

「この特定の変化はいくつかの広告主が他の領域に出費するよう促す可能性があります。たとえば、ビデオやモバイルへのより大きな投資が起きても不思議ではありません。というのは、これはより全体論的なデジタルメディアの購買という全般的なトレンドに一致しており、この結果としてGoogleの利益が苦しくなる可能性が低いからです。これはデジタル業界に広がる支配的な力であるため、検索やその他場所において広告主が彼らへの支出を避けるのは不可能なのです。またGoogleが検索ページの右側に広告主向けの何か新たなものを立ち上げ、利益を拡大させる可能性も高いです。一方で、 ナレッジグラフは特定の用語について非常に重要な情報を表示しており、今ちょうど買いどきの空き地のようになっています」。

– Niel Bornman氏, iProspect社 Global Chief Product Officer

Facebookの市場シェアの増加

「右側の広告を廃止することはモバイルファーストのオーディエンスアプローチの兆しです。Googleはすべての画面で一貫性があり統合されたユーザー体験を提供するために、雑然としていたページを整理してきました。しかし、これはSME向けの検索市場へ影響を与えるでしょう」。

「最終的には、残りのスポンサー枠をめぐる大規模な入札争いに火をつけるでしょう。これは、大きな予算を持つ主要なブランドのみがこの枠を買う余裕を持つ可能性が高いことを意味します。より小規模なビジネスは、代わりにFacebookへ移行することが促される可能性があります。Facebookではセルフサービスツールとターゲティングが容易に実装できます。」

「疑問となるのは、このようにして、これらのSMEやその他の広告主を、プログラマティックを通したディスプレイ、ビデオ、モバイルの広告へと推進することがGoogleの目標であるのか、ということです。 もしくは、これは市場の再調整で、検索を使用してブランドをエンゲージする革新的なアプローチへの第一歩なのでしょうか」。

「もしGoogleの目標がより多くのプログラマティックのバイヤーを迎え入れることであれば、彼らの取り組みはSMEから切り離されています。クリエイティブは検索に関しては問題でないかもしれませんが、ディスプレイ、ビデオ、ネイティブの広告の世界では重要な部分です。Googleは何かを隠し持っているのかもしれません。しかしいまのところ、これはFacebookが市場シェアを獲得するのに素晴らしい機会を生み出しています」。

– Tej Rekhi氏, Sizmek社 モバイル部門のAVP

将来はネイティブとビデオにある

「Google検索の全体的なボリュームはすでに停滞し始めており、いくつかの軸ではすでに減少し始めています。クリック単価のインフレが起こり、広告リターンは減少をはじめ、ボリュームも低下へ向かっています。これらすべてがSERP(検索エンジン結果ページ)におけるイノベーションを推進しています。しかし、従来型のディスプレイバナーフォーマットへ焦点を移すことは、正しいビジネスの動きではありません。そこにはアドブロッカー、モバイルとバナー両方における透明性の欠如という、市場の3つの課題があるからです。この市場への投資の将来は、ソーシャルとコンテンツサイトに渡るネイティブとビデオのフォーマットにあります」。

– Ben Foster氏, MC&C社 デジタルオペレーション部長

検索のROIはより素早く明らかになる

「Googleから右側の広告が廃止されることは、検索キャンペーンでのクリック単価の上昇を引き起こす可能性が高いでしょう。しかし、抜け目のないクロスチャネルマーケティング戦略を有していれば、このことは重大な懸念とはなりません。今日の消費者はより多くのチャネルを使用し、カスタマージャーニーは驚くほど複雑です。マーケターは孤立したアプローチをマーケティング戦略へ使用することで自らを危険なコーナーへ追い込んでしまっています。しかし、顧客をターゲティングするには、各チャネルが異なる長所と短所を持っているということを覚えておくことが重要です」。

「ペイドサーチの投資収益率(ROI)はより素早く明らかになり、多くの場合で最も重要な最終コンバージョンクリックへとつながります。我々の最新のベンチマークレポートでは、最も高いクリックスルーレートで検索がそのチャネルにとどまることが判明しました。よって、マーケターは各チャネルの強みを活かし、キャンペーンの効率を最大化し最終的にはセールスを最大化できるように、アプローチを調整する必要があります。チャネルをまたいでターゲティングが可能な単一のプラットフォームを使用することで、マーケターは縦割り型の業務を変革し、より収益性の高いキャンペーンを実行できます。

– Stephanie Carr氏, Marin Software社 EMEA地域VP

検索とディスプレイは補完的なチャネルである

「私はこの変化が、広告主が予算をペイドサーチから他の領域、たとえばプログラマティックによるディスプレイ・プロスペクティング広告に移行させることをもたらすとは思っていません。この2つのメディアはお互いを置き換えるものでなく、お互いを補完するものです。根本的に、プログラマティックなディスプレイ・プロスペクティング広告が検討のファネルよりも上の消費者へリーチするのに素晴らしい働きをする一方で、検索はファネルの最後に向かうユーザーへリーチし、最終的にはコンバートさせるのに最善のチャネルであり続けます」。

「私は両方の予算が時間をかけて成長を続けると期待しています。Googleの最近の変更がインプレッションシェアの減少に影響を与えましたが、パフォーマンスには必ずしも影響していません。結果として、これは広告主へROIを維持しながらさらに投資を行う機会を与えます。さらに、この数年でのプログラマティックの素晴らしい発展により、今ではディスプレイ広告が非常に魅力的なROIを提供することができるようになりました。この技術的な発展が止む兆候がないことから、広告主が素晴らしいリターンを目にし続ける限り予算は成長し続けると仮定して間違いありません」。

– Paulo Ribeiro氏, Total Media社 ビッディング統括

※記事中の図に掲載されている英語翻訳
一番左
消費者の考え方
休みにフランスに行きたい / カンヌが良さそう。ここに泊まりたいわ / 予算は十分そうなので一番良いホテルを選ぼうかしら / このホテルは素晴らしいわ。ここに泊まることにしよう

図表
Cost = コスト / Volume =検索量
Awareness=認知
Consideration=検討
Preference=好み
Purchase Intent =購入意思

右から二番目
検索情報
用語:トップ用語、フランス休日、フランス旅行
用語:未決定用語、カンヌホテル、カンヌ宿泊
用語:具体的用語、カンヌラグジュアリホテル、カンヌ5つ星ホテル
用語:ブランド用語、カンヌマリオット、カンヌハイアット

一番右
潜在的な消費者が発する信号
• フランス訪問経験あり。フランス訪問者に似たプロフィール。フランスをオンラインですでに検索。
• 高収入者。カンヌをオンラインですでに検索。カンヌ訪問者に似たプロフィール。ヨーロッパの富裕層が訪れる地域への訪問経験あり
• 高収入者。カンヌを以前に検索。マリオットやハイアットの顧客
• カンヌのホテルサイトを訪れたことはあるが予約完了に至っていない

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。