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MicrosoftのLinkedIn買収はデータの視点で良好だが、戦略の一致性に疑問

(翻訳:Asia Plus 黒川賢吾)

6月13日にMicrosoft(NASDAQ: MSFT)はLinkedIn(NYSE: LNKD)を
262億ドルで買収すると発表した。業界のリーダーの意見を聞きながら、ExchangeWireはこの巨大買収の評価を行っていきたい。

MicrosoftのLinkedIn買収は多くの人にとり驚きをもって受け止められた。これには多くの理由がある。第一にLinkedInは利益をあげていない点が挙げられる。2015年の業績発表において、共通株主に帰属するGAAPの純損失は1.66億ドルだった。修正後純利益は0.71億ドルと好調であったものの、アナリストの間ではLinkedInの買収額がどうしてこのような高値がつくのか疑問の声があがっていた。

第二に、Microsoftのこれまでの買収が収益向上に繋がっていないことが挙げられる。2014年の76億ドルでのノキアの携帯電話部門の買収は、1年後には減価償却を迫られ2012年のYammerの12億ドルでの買収は企業向けソーシャルプラットフォームでリーダー的な役割を果たすという当初の目的を果たせず、買収4年後の現在、見直しが行われている。2011年のSkypeの85億ドルでの買収は、現在も取り組まれている問題であるが、Microsoftが戦略見直しのアナウンスを行うのに5年を要した。aQuantiveの2007年の63億ドルでの買収は、5年をかけてほぼ同額の減損を行わなくてはならなかった。
Microsoftは様々な買収の歴史を持つのである。

第三に、MicrosoftがなぜLinkedInに興味を示したのかを見抜くのが難しいという点である。二つの会社は共鳴することのない別々の分野でのビジネスに感じられる。

公式リリースによると、Microsoftは「世界中の人々や組織にパワーを提供していく」とあり、彼らのクラウドとLinkedInのネットワークがその機会を担うと考えているようだ。LinkedInの4.33億人ものユーザーのほとんどは、Microsoftの一連の製品を利用していると推測され、新たな消費者にリーチするというよりも、ファーストデータの活用に機会を見出しているのであろう。データ及びMicrosoftのエンタープレイズサービスのソーシャルにおける提供については、過去において何度か試みて成功に至っていないとはいえ、絶好の機会である。

消費者の視点で言うと、ソーシャル上のプロフィールにおける細分化を避けられるという面において潜在的な利点があるように考えられる。LinkedInのプロフィール情報をOutlook、SkypeやYammerのプロフィールと合わせて利用できる点は利点であるものの、主に恩恵をうけるのはMicrosoftの企業顧客に限られる。パーソナルメールを利用し、Gumtreeを使って中古のゴルフクラブの購入をする消費者にとっては、売り手の雇用履歴などは大して重要な情報でないだろう。しかしながら、この点だけなら262億ドルの費用を投じなくても実現可能だったはずである。既に類似したようなサービスが、Gmailのブラウザー拡張サービスとして存在し、Gmailのクライアントとメール送信者のLinkedInのプロフィールを紐付けることが可能になっている。

全ての視線はMicrosoftとLinkedInがこれから数ヶ月又は数年の間に注がれ、Microsoftが如何にLinkedInのサービス内容を発展させ、企業向けソーシャルネットワークがMicrosoftの製品群に組み込まれることで、どのような効果が示されるのか示せるかに注目していくだろう。

ExchangeWireはMicrosoftのこの買収における背景について業界のリーダーに意見を求めた。

Salesforceにとっての真の脅威に

「Microsoftのコアビジネスは企業向けの生産性向上に関するソフトウェアです。Microsoftはこの分野におけるトップ企業としてあらゆるプレイヤーからの突き上げを受けています。

GoogleとFacebookという、世界最大のテクノロジー企業であり消費者に強いプレイヤーが、Facebook at WorkやGoogle for Workとして企業分野に大きく進出してきています。これらに対して何の対抗策も示さないというのはMicrosoftの選択肢として考えられず、今回の大きくかつ大胆な動きに繋がったのでしょう。LinkedInは B2Bにおいては最も有効なビジネス・営業ツールで、多くの点でSalesforceと競合します。MicrosoftがLinkedInを彼らのCRMサービスであるDynamicsと組み込むことにより、真に差別化された、Salesforceにとって非常に脅威とも言える強力なサービスとなる可能性があります。簡単に言うと、Microsoftの今回の賢明かつ大胆な動きによって脅威を感じているのはSalesforceと言えます。私たちは、彼らの今後の新たなアナウンスに注意を傾ける必要があります」。

Results International社、パートナー、Julie Langley氏

明確な戦略のフィット性が見られない

「最初に、この買収は両社にとってコア事業でない広告に関するものでない点を述べたいと思います。MicrosoftはLinkedInを彼らの中心となるソフトウェアビジネス(この場合は恐らくOffice365になるでしょうが)の販売を加速するための戦略的なアセットとして利用するつもりではないでしょうか。私にはこの両社の戦略的なフィットが掴めず、正直な所、現在も少しこのディールの意味するものについて頭を悩ませています。しかしながら、確実にMicrosoftはシナジーを感じ、彼らの戦略の実行のために大きなプレミアムを支払う準備が出来ていたということでしょう」。

Accordant Media社、共同創立者兼COO、Matthew Greitzer氏

全てはデータに関わること

「多くの人がデータは21世紀の石油だと比喩しています。MicrosoftのLinkedInの買収はこの言葉をサポートするものの様に思えます。LinkedInはTwitterほどのユーザーがいるわけではありませんが、所有している企業関連の会員のデータの深さは、今日のデジタル広告のエコシステムにおいて、非常に貴重なものです。彼らの元に多くのファーストパーティデータが集まることで、プロフェッショナルコミュニティに関する比類なきインサイトを集めることが可能になります。Microsoftはオフィス製品の利用データをLinkedInのソーシャル及びコンテンツデータと紐付けることが可能になり、適切に利用されれば、広告ターゲティングや収益化にとっての素晴らしい機会となり得るでしょう。これらのデータにアクセスできることによるパーソナライゼーションの機会は非常に大きなものです。私はMicrosoftとLinkedInによって、プロフェッショナルの世界がより繋がりを持つと思います」。

ADmantX社CEO Giovanni Strocchi氏

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。