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メディアに支持されるシーセンスが目指す、さらなる成長戦略(前編) [インタビュー]

パブリッシャー向けプライベートDMP(データマネジメントプラットフォーム)として、日本でも大手メディアを中心に導入が進んでいるシーセンス。データドリブンなビジネス環境や新しいマネタイズ手段の開発に貢献している。

来日したプロダクト責任者のJan Helge Sageflaat氏に、プロダクトの詳細、欧米のパブリッシャーのマネタイズ動向、プロダクト戦略や日本での展望について話を聞いた。前編では主に、同社の基本的な考え方やツールの強みについて解説していただいた。

(聞き手: ExchangeWire Japan 野下 智之)

―自己紹介をお願いします。

Jan Helge Sageflaat氏, Cxense社, photo1

現在、シーセンスでプロダクトマネジメントの責任者を担っています。主にノルウェーとロシアにR&Dのメンバーが70人おり、彼らをマネジメントしながら、顧客の要望やフォーカスエリアに対する機能拡張を実行しております。

―設立当時のことについてお聞かせください。本社と日本法人がほぼ同時期に立ち上がったとのことですが、その理由などもあればお聞かせください。

シーセンスは2010年にノルウェーのオスロで立ち上げました。当初は5人から10人の会社でしたが、現在は160人です。ヘッドクォーターはノルウェーのオスロにあります。R&Dはノルウェーとロシアにあり、ボストン、ニューヨーク、アルゼンチン、イギリス、東京、シンガポール、スリランカにも拠点があります。

日本は極めて重要な市場

―日本法人も2010年に立ち上げられたそうですが、同じタイミングだった理由はあるのでしょうか。

基本的に前身がファストサーチ・マイクロソフトですので、そこを通じてノルウェー立ち上げメンバーと日本メンバーが長く仕事をしてきたことが理由です。もともとファストサーチをやってきた時から、日本市場はUSと同じくらい重視していました。それを認識していた経緯と、非常によい顧客もいたため、これから展開するビジネスにマッチすると思いました。

また、ノルウェーだけでやるのは市場も小さいですし、USと日本が同じくらいの規模感であれば同時に始めたほうがよいだろうと思ったのです。

―プロダクトの構成、ユニークポイントについてお聞かせください。まずシーセンスの全体的なところからお話しください。

サイトを訪れるユーザーをトラッキングして一人一人のプロファイル情報を蓄積する、というのが基本的な流れです。一般的なDMPはあらかじめ定めた会員データをベースにそこに対して後から行動履歴を付与していきます。。

しかし弊社は非会員含めた全ユーザーにトラッキングを開始し、2つ目のレイヤーでWebやアプリからデータを集めます。そこへ、顧客の持っている会員データ(CRM)やEC系の購買データ、ソーシャルデータなどのデータをアノニマスのデータに付与して、より付加価値の高いユーザープロファイルをつくることができます。

データを蓄積するゴールは、一人一人のユーザーの興味について理解を深めることです。そのうえでそれらのユーザーとコミュニケーションをとっていく際に重要なのは、セグメントを作ることです。ユーザーの傾向や施策に合わせて、様々なセグメントを作っていきます。

ユースケースとしてはターゲット広告があります。最適な人に最適な広告、eコマースサイトではプロモーションの際に興味のある商品を興味のあるユーザーに、ニュースレターなら特定の興味がある人に、それに合わせたコンテンツを含むメールを送るようにできます。

メディア以外のクライアントも増加

―クライアントの層はパブリッシャーが多いイメージですが、やはり機能もパブリッシャー向けのラインナップになっているのでしょうか。

Jan Helge Sageflaat氏, Cxense社, Photo2設立当初のお客様はメディアさんが多く、ニュースサイトなどにご提供して参りました。しかし近年はeコマースサイトやブランドサイト、広告主系のサイトにも我々のソリューションを使っていただいたり、海外では金融系のサイトでプロモーションに活用していただいたり、といった事例も出てきています。例えば、クレジットカードの契約プロモーションなどです。ユーザーのプロフィールに合わせたプロモーションを展開できるのが強みです。といっても現在もレベニュー構成でいえば大半がメディア様であることには変わりませんが。

―サービス用途の拡張は、プロダクトの中ではどのように反映されていらっしゃいますか。

大きく2つの要素があります。1点目はパーソナライゼーションです。メディア企業だけでなく、ブランド企業も必要としている機能です。

広告主系のサイトはスタティックなものが多く、例えば金融系サービスなどでは保険や住宅ローンなど、いわゆるオーソドックスなサイトは、既に契約していたり買っていたりする顧客にも同じ広告が出ていることがあります。ブランド系でもきちんとクロスセル、アップセルを仕掛けていくことが大切です。

多くのサービスで、ログインさせて、自分の契約内容やステータスを確認するシーンがあると思うので、ユーザーをしっかり理解しておすすめのサービスや記事をすすめる、パーソナライゼーションという切り口でブランドサイトにも機能をご提供しています。

そのために、このパーソナライゼーションをプログラマティックに提供できる機能を強化しております。

2点目がカスタマージャーニーです。単なるファネルというか、プロセスのみで追いかけるのではありません。マーケティングオートメーション的なものだけでなく、プロモーションやレコメンデーションの結果が機能したのか、していないのか、リアルタイムにDMPからフィードバックを受け、一つのシナリオでうまくいかないなら次に切り替えて、プロダクトの全体的なケイパビリティを整えていくことに注力しています。

―ブランド側が、もとはメディアが求めていたような機能を求めるようになったという理解でよろしいのでしょうか。

おっしゃるとおりで、ブランド系の顧客もコンテンツを作るため人を採用したり、記事を書いたり、コンテンツマーケティングを始めていらっしゃいます。たくさん作ったコンテンツをより適切な人に届けたり、Eメールキャンペーンでユーザーが興味を持ってくれそうなニュースレターにまとめ上げて配信したり…そういったお客様がシーセンスに興味を持ってくださいます。

またメディア系のクライアントやeコマース系のクライアントがこれまで作られてきたコンテンツを活用するために興味を持ち始めていたりもします。ここが大きなポテンシャルエリアであると考えています。

メディアのチャレンジングなマネタイズに貢献

―欧米のメディアビジネスにおけるマネタイズ環境をお聞かせ下さい。

Jan Helge Sageflaat氏, Cxense社, Photo3

USもヨーロッパのメディアも非常にチャレンジングですね。紙のビジネスモデルからデジタルシフトをしていますが、うまくいっている例はWSJ(Wall Street Journal)です。有料会員制にして収益を得ており、早くからそのプロジェクトに取り組んでいました。

シーセンス導入前はどういったユーザーが会員になるのかわからなかったのが、導入後はセグメントを作ってポテンシャルユーザーがわかるようになり、セグメント作成のPDCAを早く回していい形で有料会員をつくっています。各種メディアでこういった傾向が進んでいます。

もう一つは広告ビジネスです。単価はそんなに上がっている状況ではないですが、ユーザープロファイルを軸に広告主がリーチしたいユーザー層を可能な限り明確化して、その中でLOOK-A-LIKE(類似)でユーザーの幅を広げたり、オプティマイゼ―ションでより反応のよいユーザーに仕掛けていったり、そういったことで収益を最大化していく方向です。

もちろん純広告の販売でもオーディエンス情報を使っていますし、プログラマティックに、アドエクスチェンジの中でもオーディエンスデータを活用してより高い広告を引っ張ってくる仕組みもあります。

シーセンスで蓄積するデータはあくまで我々の顧客自身のデータです。しかしグーグルなどを使っているとユーザー情報はグーグルに溜まり、だんだん単価が下がってしまいます。本来はきちんと自社でデータを持たないといけません。それを活用し販売して収益を上げていく、ということです。

媒体が広告で収益を上げる方法は2つあります。一つは媒体の純広告の厚みを増す。もう1つはプログラマティックな収益の向上です。そこの仕組みはシーセンスにたまったデータをエクスチェンジに投げることで実現します。

例えば広告主がエンジニア系のメディアに広告を出したい場合、DSP上ではIT系の具体的なサイトを選択していると思われます。シーセンスの場合は、サイトレベルからさらにブレークダウンしてデータベースのエンジン向け、例えば某社のDBセミナーに参加したユーザーに広告を打つとか、DB関連の記事をよく呼んでいるユーザーや、過去のホワイトペーパーを読んだユーザーに対してのみターゲティングできるといった、より具体的なオーディエンスのプロファイルに合わせて広告をうつことができるようになります。

これまで有料会員や、広告単価を上げていくお話をしましたが、パーソナライゼーション化して、そのユーザーが興味をもつコンテンツを表示し、回遊率や滞在時間を上げる方法もあります。クリックレートを上げることでポテンシャルとして広告もクリックしてもらう。ロイヤルカスタマーがちゃんといる、という意味でよりユーザーにとってよいサイト作りでシーセンスを使っていただいている、そう自負しております。

例えばカナダのメディア企業Winnipeg Free Pressは、トップページをパーソナライゼーション化してしまいました。これまでは編集がおすすめ記事を、手で張り付けていました。トップページも編集が記事を上げ下げしていましたが、シーセンス導入後は、一度読んだ記事は出さず、パーソナライズされたコンテンツが自動で並ぶだけでなく、運用のコスト削減にもなりました。編集は本来の役割に注力できるようになったのです。

USA TODAYもパーソナラゼーションに注力して、滞在時間やセッション中のPVをアップさせています。ブラックボックスな仕組みではないため、自ら設定を変更し、記事の内容もデータ収集してコンテンツマッチングなどを進んでご提供しています。

後編へ続く)

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。