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アドフラウドが蔓延する中国のプログラマティックの問題点

(翻訳:Asia Plus 黒川賢吾)

中国は全ての人が進出したいと考えるマーケットであるが、中国の独特の環境により、実際に広告が効果をもたらしたかという点よりも、どこに広告が配信されたかに焦点があたり、また広告ブロックも至る所で利用されている。

今週の業界コラムでは、Publicis Media社の中国のマネージングディレクターであり、データ、テクノロジー、イノベーション部門を統括するDavid Chen氏が、プログラマティックの中国での展開を阻害している主要な要因や、中国国内で透明性を確保し業界標準を確立の必要性について語ってくれた。

中国に関する議論はいつも極端で、一方が中国市場は経済危機に陥っていると述べれば、他方でそれを必死に打ち消すようなことが起こっています。どちらにしても数字は嘘をつきません。実際に中国の経済は多少の冷え込みを見せており、このことが国家全体に関しての懸念を増長しており、これはマーケターに対しても例外ではありません。

この様なスローダウンは、少なくとも中国で投資を実施したデジタルマーケターにとっては悪いことではないかもしれません。マーケティング費用は一般的に削減されている一方で、広告費用についてはそれほど大きなカットがされておらず、効果性の高いメディアに支出を集中させようという動きが見られます。幸運なことにデジタルは、このような状態で恩恵を受ける立場にあります。

プリントや屋外広告のような、トラディショナルメディアの支出がカットされ、テレビ広告支出が平行線を辿る中、デジタルは新たに注目を浴びる機会を得ています。eMarketerによると、中国は全世界の20%のモバイルインターネットの広告支出を占めており、国内の45%の広告支出を占めている。私たちの独自調査によれば、デジタル支出は前年比で20%増えており、私たちはこの上昇を注意深く見守る一方で、楽観的に見ています。

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David Chen氏

株式市場が何度かの値下がり傾向を示していますが、マーケターの動きは現実的で、彼らにとっての好機会を注意深く見守っているように感じます。他の経済環境では、足がかりを見つけられずにいる一方で、私たちはモバイルがこの超大国に大きなインパクトを与えると考えています。

中国の5億にも至るモバイルインターネットユーザーは、非常に多くの時間をモバイル利用に費やしています。デジタルメディアに費やす時間は、2011年の1時間47分から、2015年の3時間5分へと大きく拡大しており、全てのメディア接続時間の50%以上を費やしていることになります。

昨年、デジタルメディアの1日あたりの接続時間は6.8%伸びており、この数字は他のメディアの倍以上の数値です。非常に大きな中国の市場規模及び中国の独特なテクノロジー環境の元で、マーケターが消費者のエンゲージメントを高める大きな機会が目の前に存在します。

予算が抑制されるにつれ、投資配分を再度検討する必要性が生まれます。今後より大きな割合がモバイルに割り当てられることが予想され、企業はモバイル戦略を再考し、キャンペーンでの効果向上に取り組んでいくようになるでしょう。

中国におけるプログラマティックの問題点

中国におけるプログラマティックは、安定的に成長しています。これは、一時的な流行に支えられているものではなく、効果があるからです。しかしながら、現状、プログラマティックの潜在性が最大限に活用されているとはいえず、いくつかの理由が存在します。

オンライン環境における中国政府の存在が、中国のプログラマティックを世界中のどことも異なるユニークな環境に変化させました。はじめに、Google、Facebook、YouTubeといった世界的な巨大企業が、市場にほとんど存在しません。代わりに、Baidu、Alibaba、Tencentといった国内企業が中国市場を独占しています。残念ながらアドテクコミュニティの中で、彼らはデータを自社のみで活用しています。彼らを除くと中国のプログラマティックはまだ多くのことが改善される必要があります。

価値や透明性に関する問題点もあります。中国のプログラマティックは、消費者の直接的なコンバージョンを狙う企業によって支えられており、レムナント(余剰)在庫の購入に関する欠点も気にしません。クリックスルーを重要視し、ビューアビリティやブランドの安全性などはあまり考慮しません。これらの背景から、いくつかの廉価層のプラットフォームが登場し、低価格での販売を担っています。

このような環境は私たちのような事業主にとって企業教育の機会を生みます。企業に対して、プログラマティック環境下では、マシンガンのように量をこなすアプローチでは機能せず、量を追うよりも、質を伴ったクリックスルーを求めることが重要な点を伝える必要があります。

中国のプログラマティック市場は、データ分析のインフラという観点でも遅れています。東南アジアと同様に、中国でのインターネットの適応は遅れており、アメリカや西洋などの先進国で起こった「Web 1.5」のような現象は起こりませんでした。このような点から、コンテンツはFacebook、Twitter、Instagramなどのような閉じられた環境に直接的に配信され、品質の高いロングテールのパブリッシャー環境に欠けています。中国では同じような「壁に囲まれた庭(walled garden)」はBaidu、Alibaba、Tencentによって存在します。

これらの要素に加えて、中国では、インパクトのある広告バイイングよりも、コンテンツがどこに配信されたのかという点に重点が置かれています。プログラマティックによるバイイングの目的が、その過程において失われることも多く、中国ではアドフラウドが蔓延するに至っています。

プログラマティックにおける主要な問題

最も大きな問題点は、企業が質よりも量を重視しており、プログラマティックにおける分析の重要性を過小評価している点でしょう。企業の多くは、プログラマティックはパラメーターを設定し、ソフトウェアが残りを自動処理してくれる単純なものだ、という概念を持っています。ビジネスにおける利点が理解されない限り、企業はテクノロジーに関心を示しません。また、プログラマティックキャンペーンにおいて成功を導くためには、データを深く分析するエキスパートが必要で、広告配信の段階から、良い結果を得るための数々の調整を要する点などは理解されていません。

プログラマティックは中国ではまだ新しいものですので、マーケターはまだ業界にとって有害な間違いを修正する機会が残されています。

業界内での適切な教育が、デジタル環境におけるプロセス及び効率化の改善を実施する上で必要です。このことが究極的にプログラマティックの環境に変化を与えるでしょう。

企業は、いまだに異なるプラットフォーム上で何回広告が表示されたのかという点に注力していますが、これはプログラマティックの目的ではありません。代わりに、彼らは分析の必要性を理解する必要があり、キャンペーン結果のデータ分析を行い、最も適した方法を推薦するような人材の重要性について理解を深める必要があります。

更に市場の大きな事業主がデータをオープンにし、データを共有するような変化が必要です。プログラマティックテクノロジーはデータにより成り立っており、十分なデータ無しでは、その潜在性を活用することはできません。特に価格において、伝統的な広告手法から距離を置くことが、透明性の問題を解決する上で重要です。業界全体がマークアップによりビジネスモデルに慣れ親しんでいるため、プログラマティックにおいても同様の形態が持ち込まれています。このような考え方はブランドにとって健全でなく撲滅されるべきです。

中国にとっての次のステップはどのようなものでしょうか?広告支出がよりモバイル、そして必然的にプログラマティックに向けられることから、アジア市場のマーケターはより国際的な基準に基づく必要があるでしょう。広告フォーマットや広告配信テクノロジーの細分化により、私たちはより国際基準に準拠し、習慣を合理化する必要があります。

中国は、特にモバイル及びソーシャルアプリの面で、世界中のイノベーションをリードし始めています。しかしながら、中国におけるプログラマティックのエコシステムが他の国々と異なる点を考慮すると、独自のスタンダードが広告配信などにおいては実行される必要があるます。

来年以降、どのように市場が発展していくのかは非常に興味深い点です。より多くのやりとりやアイディアの共有が行われていくでしょう。中国の経済環境は現在低調ですので、より効率性や生産性に関しての注力がされていくでしょう。マーケターがより予算をデジタルに費やし、国内の事業者が外部との関わりを模索するようになることで、プロセスの改善により多くの注意が向けられると期待しています。

結局、結果を伴わない効率性への投資などは誰も行わないのです。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。