×

独自性は、強い運用力と多岐にわたるサービスラインナップ -アイモバイルのこれまでと今後の成長戦略- [インタビュー]

スマートフォン広告市場の急成長とあわせて事業を急拡大し、150億円規模の売上を誇る業界の隠れたユニコーン企業、i-mobile(アイモバイル)。

同社のこれまでの成り立ちや、市場環境の変化を踏まえた今後の戦略などについて取締役副社長 溝田吉倫氏と執行役員の甲斐康浩氏に聞いた。

(聞き手: ExchangeWire Japan 野下 智之)

― 自己紹介をお願いします。

Photo:溝田氏

溝田氏: 2009年にフィーチャーフォン広告の営業として入社し、運用に特化した部隊の立ち上げを行いました。2013年にアドネットワーク事業部の責任者となった後は地方・海外支社の立ち上げや、動画広告の「maio」、「Evory」などの新しいサービスや拠点の立ち上げに携わり、去年の10月に副社長に就任しました。

甲斐氏: 2010年にi-mobileに入社し、フィーチャーフォン、PC・スマートフォンの広告主様、メディア様両方の営業担当をしていました。それ以外にも、i-mobileが保有している提携メディアのインプレッションに対してDSPからのRTB入札の際の、アライアンス担当もしておりました。現在は、スマートフォン、フィーチャーフォン、PCアドネットワーク事業の責任者を務めています。

― 直近の貴社の業績についてお聞かせください。

溝田氏: 厳しい時期でしたね。いわゆるバナー広告領域は振るわず、ネイティブ広告領域が大きく成長しています。それは当社に限った話ではなく、スマートフォン広告全体的に言えるのではないかと感じています。

スマホ広告の指標はROASへ

― スマートフォン広告市場の環境をどう見ていらっしゃいますか?

Photo2:甲斐氏

甲斐氏: これからも伸びると感じています。特に当社でも去年から取り組んでいるネイティブ広告はかなり伸びているので注目しています。また、広告主様や代理店様とお話しさせていただいている印象では、指標がCPA・CPIからアクティブ率やROASに変わってきているということです。その流れは今後もますます強くなると思います。

溝田氏: そう、「継続してくれるユーザー様を集客できるか否か」が広告主様側の指標になってきていますね。もちろんフェーズによってはCPAを守り件数を最大化することに注力した方がいい場合もありますが、しっかり件数を出せるようになったら徐々にROASにシフトしていく、と。それを我々でも計測できるような仕組みを作り始めているところです。

― これまでの貴社のビジネスを、フィーチャーフォン時代のころから振り返ってお聞かせください。どのような環境変化があり、それにどのように対応されてきましたか?

溝田氏: 私が営業をしていた2009年頃は、フィーチャーフォンの主体はアフィリエイト広告でした。当初、私たちのクリック課金という課金形態は、広告主様にとって「リスクが高い」と言われていました。
「アフィリエイト、成果報酬でこんなに獲得が取れるのに、なんで今さらクリック課金やらなきゃいけないんだ」と。(笑)

しかし、何度も営業していく中で、アフィリエイト広告の質に満足されてない企業様がいらっしゃることがわかったのです。登録してもすぐに解約されてしまうであるとか、継続率がよくないことがあったのですね。そこで、「我々の広告は、クリックにインセンティブを発生させていないことで、興味のあるユーザーしかクリックされない形態なので、獲得後の継続率が高いです」と配信実績を元に質の良さを売りにしていました。

2009年に配信先をすべて開示し、配信先単位で自由に入札ができる仕組みを提供し始めてから広告主様の支持を得るようになり、我々の運用をするための組織を作る代理店様もでき始め、徐々に「広告を運用する」というサービスになっていきました。当社の営業も結果を出すためにとても努力していて、運用手法の勉強会をしたり、新規導入していただいたお客様の広告効果を最初から出せるように数多くの媒体の中からホワイトリストを作ったりしていました。

2011年の1月にはPC版をリリースしました。よくこの時期にPC版をリリースしたことに驚かれますが、スマートフォンのウェブブラウザに出てくる広告はPCと共通することがありました。我々は、スマートフォン向けのアドネットワークをリリースすることが最終的な目的であったのですが、両デバイスで広告出稿を行うニーズもあるのではないかということと、それほどリソースもかからないということで、PC版も作りました。

そして同年4月にスマートフォン版をリリースし、現在はマルチデバイス型のアドネットワーク、特にオンラインゲーム系のお客様の中ではファーストチョイスに入れていただけるようになっています。

甲斐氏: このように色々なことができるのが当社の強みだと思っています。現在の開発としては、メディア様のご要望で広告フォーマットを開発することもあれば、広告主様が他社で実施されていた広告フォーマットをやってほしいというご要望をいただくこともあります。広告サイズに臨機応変に対応することが多いですね。

高まった「広告の運用」に対する知識

― クライアント構成についてお聞かせください。業界内では、一時貴社はアダルト領域に強いアドネットワークと言われていました。現状はいかがでしょうか?

溝田氏: フィーチャーフォンの頃は、広告出稿量が一番多かった業種が電子書籍、電子コミックの案件でした。ユーザー獲得の訴求方法として成人向けのものがありましたし、出稿量が多く当社としても当然力を入れるので、結果としてそうなったかなと思います。

スマートフォンが普及してからは、今まで取扱いがなかったお客様ともどんどんお取引きさせていただけるようになったので、割合自体は下がっていきましたが。昔から利用していただいているお客様には、今でもご利用いただいています。

実際、フィーチャーフォン時代のお客様のおかげで当社の「広告の運用」に対する知識は高まりました。かなり鍛えられましたね。いまの営業メンバーにも、ご発注いただいた広告は運用していくもの、運用して効果を改善していくものだという意識を共有しています。

甲斐氏: 現在のクライアント構成としては、ゲームが5割、ECが2割。あとはi-mobileにはゲーム以外のアプリ広告主様のご出稿もあり、そちらが1割弱ほどです。その他はもう本当に、さまざまです。業種の幅も増えていますし。

― 現在貴社が注力している領域についてお聞かせください。

甲斐氏: 最初の環境の話と重複する部分もありますが、アドネットワークにおいては2つあります。1つは、急激に伸びているネイティブ広告です。正直なところ、バナー型広告の伸びはこれから鈍化すると考えています。今後はプラスアルファの枠として、メディア様から必要とされているネイティブ広告に注力すべきだろう、と。

2つめがCPA・CPIの先にあるROASやリエンゲージメント広告です。まだROASを改善するための機能はリリースしていないので、今後開発を行っていきます。

溝田氏: あとは動画リワード広告ですね。当社からも昨年「maio」という動画に特化したアドネットワークをリリースさせていただきました。ちょうどそのタイミングで、特にアプリデベロッパーの方々が動画リワード広告に注目し始めたので、とてもいいタイミングで参入できたと感じています。おかげさまで事業の成長は予想以上で、当初予測していたゲーム系のお客様だけでなく、様々なお客様にご利用いただいています。

― 動画広告や、ネイティブ広告の事例についてお聞かせください。

溝田氏: 動画広告の方では、広告モデルのアプリだけでなくソーシャルゲームに動画リワード広告を入れるという事例があります。海外では、「アイテム課金」プラス「広告収益」という形は一般的で大手ソーシャルゲームでもやっていますが、日本では今までありませんでした。それが、ようやく始まりましたね。この流れを僕らの方でも増長していかないといけないと感じています。
そういう意味では、動画リワード広告のポテンシャルは大きいですね。日本の大手ゲームパブリッシャーが導入を始めると、もっと大きい市場になっていくと思います。

甲斐氏: ネイティブ広告も同様ですね。プラスアルファの収益なので、広告掲載面の拡大につながっているという側面があります。スマートフォンの画面は小さく、広告を入れる隙がないように感じますが、例えばフィードの中に追加するということもできます。いかに広告を配信出来る面をユーザビリティーや広告効果を上げながら広げられるか。というところにかかっているかなと。

当初はネイティブ広告が増えるとバナー広告の掲載数を減らす、無くすという話になるのではないかと懸念していましたが、そういった事はなく、むしろ弊社バナー広告が入っていなかったメディア様にもネイティブ広告をご掲載いただくことができるようになりました。僕らとしても、今までなかった広告掲載面が増えました。

― この新しい市場への挑戦にあたり、課題がありましたらお聞かせください。

Photo3:甲斐氏甲斐氏: 課題は様々ですが、我々が気をつけていることはリリースのタイミングです。昨年リリースしたネイティブ広告も、もっと早かったとしても今以上の成長はできていなかったと思います。広告主様のご出稿ニーズに合う設計・仕様ができていなかったかなと。
ただ逆に、先日当社の「アイレコ」というダイナミックリターゲティング広告が弊社ネイティブ広告の配信面にも対応したのですが、このリリースのタイミングは早めのリリースを意識していました。というのも、ネイティブ枠にダイナミックリターゲティング広告が配信できる国内アドネットワーク企業がほぼなかったので、より広告主様のニーズにお応えできると思ったからです。

SSPに関しては独自のモデルを

― 貴社は、今後もアドネットワークビジネスを中心に据えられるのでしょうか?DSP、SSPなどの領域への対応はされているのでしょうか?

SSPが業界内で勢いを増し、メディアとの関係性を強化しています。従来のようなアドネットワークによるメディアの囲い込みは難しくなってきていると感じます。貴社はSSPの台頭に対して、どのように向き合っていかれるのでしょうか?

Photo4:溝田氏

溝田氏: アドネットワークというのは広告主様と媒体社様をつなぐという意味で、究極にシンプルな形だと思っています。このモデルを進化させていくことができれば、と考えています。あくまで僕ら独自の考え方で広告主様の広告効果が高く、かつ媒体社様にとって一番収益性が高いものを提供しようと。DSPについては、Platform IDさんと去年の8月から子会社「Evory」でやっていますが、サプライサイドに関しては、独自のモデルであっても良いと思っています。

甲斐氏: 最近は、SSP自体がかなり進化しているので、一概に定義できなくなっていると感じますね。SSPの目標はサプライサイドの収益最大化に変わりはないですが、収益競争が過熱しすぎると広告主側に良い影響がでないこともありますからね。

溝田氏: SSPが進化の先に目指している目標と、我々が目指している「媒体社にとって一番収益を還元できる存在になる」という目標が同じなら、SSPという形態に拘らなくていいと思っています。弊社のお客様がSSPを試しに使ってみた結果、i-mobileの収益性が一番高かったので元に戻すという事例もあり、更にそう感じました。

― スマホアドネットワーク市場は、今後どのようになっていくとお考えでしょうか?

甲斐氏: やはりネイティブ広告と動画広告が主体となり、KPIがCPA・CPIからアクティブ率やROASへ、というところかなと思います。各社が広告枠や配信手法、その先の広告効果の部分でより特徴を持って、特化していくのではないでしょうか。

溝田氏: そうですね、「何かに特化したアドネットワーク」というのはどんどん出てくると思います。ディスプレイ広告でも僕らがまだイメージしきれていない広告の形があるかもしれませんから。今からバナー広告で参入するというのは難しいと思いますが、形を変えて参入するということはまだあると思います。

― 他社アドネットワークに絶対に負けない点、独自性についてお聞かせください。

溝田氏: 僕らの独自性って、本当に色々やるというところだと思います。i-mobileのグループの中にDSPがあって、動画リワード広告があって、ネイティブ広告もやっていてアフィリエイトもある。多岐に渡るラインナップが一つの独自性になるのだと考えております。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。