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クリエイティブエージェンシーが迫られるモバイルプログラマティックへの対応

(翻訳:Asia Plus 黒川賢吾)

エージェンシーの役割が機能しなくなっており、その原因としてプログラマティックが関係している部分は大きい。しかしながら、クリエイティブな仕事が無くなるのとは反対で、テクノロジーは新たな仕事の創出につながるべきである。今回のコラムではAppLift社のチーフストラテジーオフィサーであるHugo Gersanoisが、エージェンシーがいかに質の高い仕事を、価格を向上させることなく提供する必要性について語ってくれた。もし、このような変化が成し遂げられた場合に、シェアの拡大につながるであろう。

ターゲティングの精度が上がるにつれて、メッセージの必要性は高まります。マーケターは、カスタマイズされた広告をより微妙なオーディエンスセグメントに対して配信することができます。エージェンシーにとっては、適応さえ出来れば、より多くの仕事の機会が生まれると考えるべきです。

eMarketerによると、今年、アメリカでのプログラマティックの支出費用は221億ドルにも達すると考えられており、67%のディスプレイ広告を占めるまでに至ります。モバイルがこの成長を牽引しており、全体のプログラマティックディスプレイ広告の69%を占めます。2017年には、モバイルプログラマティック動画はデスクトップを始めて上回ると予想されています。世界的にもトレンドは同様です。プログラマティックによる購買は今後数年の間、平均して31%成長すると見込まれ、2019年までに368億ドルまで増加すると Magna Global社は見込んでいます。

この段階になると、世界中のプログラマティックの支出はデスクトップとモバイルで同様の値となるでしょう。

原則的には、プログラマティックは広告に関して、より自動化されたアプローチを行うものと考えられ、テクノロジーによってより正確且つ拡張性のある形でターゲティングを実行することができます。一方で、マーケターが異なる消費者セグメントに出会うたびに、より多くのメッセージが必要となります。メッセージの品質が高ければ、より高い結果を得る事ができます。(というのは、広告というのは正しい対象を見つけるだけではなく、より適切なメッセージを配信する必要があるからです)。現在、単一の管理プラットフォームで、一つの広告主のために、同時に1000ものキャンペーンを走らせることができます。この作業におけるクリエイティブな作業のいくつかは自動化できるかもしれません。しかしながら、クリエイティブに関して自動化に頼りすぎる広告主は、高いパフォーマンスを出すのに苦しんだり、少なくとも、クリエイティブのプロに頼る形でストーリーを伝えることをしないために、本来得られるはずの結果が出ないことが考えられます。

クリエイティブエージェンシーは、特にモバイル分野におけるプログラマティック広告の増加による、品質の高いクリエイティブ作業の需要増の恩恵を勝ち取ることができるはずです。この変化が、既存のクライアントからのより多くの受注につながるだけではなく、新規顧客の創出にもつながるはずです。以前はインハウスでメッセージング作成の作業をしていた企業であっても、対応しなくてはいけないメッセージングのボリュームが増えているため、アウトソース化に注目しています。

クリエイティブエージェンシーの準備は十分か

プログラマティック及びクリエイティブ性の高いメッセージが必要であることは、エージェンシーにとっては良い機会となる一方で、変化が要求されます。特にモバイルや動画への対応を考えると、エージェンシーはより多くの作業を、より速いスピードで、より頻繁に実施することが求められます。

また、エージェンシーは戦略を伝えるのに、よりデータを活用する必要があります。クリエイティブな作業のパフォーマンスを計測する事が徐々に可能になってきています。広告はクライアントが気に入ったから成功なのではなく、結果が出ることが成功なのです。データを活用することができ、データをトラッキングに利用できるようなエージェンシーであれば、競合に対しての差別化が可能になります。

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Hugo Gersanois氏
AppLift社、最高戦略責任者

一つのエージェンシーが、典型的なプログラマティックのキャンペーンにおいて、どれほどのメッセージを考えつかなくてはいけないかについては、まだ不明確です。セグメンテーションは無限にありますが、広告主は物事を進めるのにパラメーターを決定する必要があります。コカコーラ社がオリンピック以後に、アメリカで動画を使ったキャンペーンを実施する場合を考えてみましょう。恐らく、メッセージは実施国、都市部であるか地方であるか、ユーザーのデモグラフィックなどの要素で変わってくるでしょう。100程の異なるユーザーセグメントが容易に必要となり、対応するためには異なるメッセージ、異なる動画が必要になります。動画は同じビックデータに基づいた形のものであっても、ユーザーによって少しずつ変化が加えられるのではないでしょうか。この時点で十分大きなプロジェクトで、クリエイティブのエクスパートが必要です。ユーザーをどのようにセグメントするかの決定は、クライアント、データトラッキングに利用しているサードパーティのソリューション、Nielsenのようなマーケティングデータ企業などによるセグメンテーション情報の提供などによって行われるでしょう。しかしながらクリエイティブのメッセージとデータを、どのように組み合わせるかはエージェンシーの仕事です。

クリエイティブエージェンシーの価格モデルも変更が必要です。現在、エージェンシーは限られたプロジェクトに従事し、それぞれの価格は非常に高額で、顧客もFortune 500企業などに限られます。作業は豪華で、品質にフォーカスをしています。より高い品質の高い仕事を価格高騰させることなしに提供することができる企業のみが成功を収める事ができ、より大きな市場シェアを獲得することができます。コンテンツ制作の価格が下落し、制作が容易になっている現状においては、これは必要なプロセスです。エージェンシーはお互いに競合するだけでなく、コンテンツやインフルエンサー、自動化ソリューションなどとも競争しなくてはなりません。競争力を保つためには、より多くのボリュームの作業を廉価にこなさなくてはなりません。

以前Havas社のCEOだったDavid Jones氏が立ち上げたYou and Mr.Jones社は、未来の姿を示唆しています。この会社は、最初の「ブランドテクノロジー」企業と名乗っており、データやテクノロジーツールを利用してブランディングに関するサービスを提供しています。クリエイティブの精神と機械によるマーケティングテクノロジーの融合です。

マーケターは、データを最大限に活用し、ターゲティング機能を自在に操るには、特定のユーザーに対してカスタマイズされたメッセージを配信しなくてはいけない点を理解しています。この作業にはクリエイティブなリソースが必要です。クリエイティブエージェンシーにはスキルがあります。しかしながら、このプログラマティックによってもたらされた機会を獲得するためには、考え方を変える必要があります。

変化を遂げるにこしたことはありません。プログラマティッククリエイティブの世界は迫ってきています。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。