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米国デジタル広告市場の潮流-第二回:日本のInStream動画広告を飛躍的に拡大させる「Content Exchange」ビジネス-|WireColumn

こんにちは、AOL プラットフォームズ・ジャパン齋藤です。随分間が空いてしまいましたが、前回は若干手前味噌ながらAOLから見る米国のDSP、SSP、DMPといったアドテクノロジーが統合されていくトレンドや、日本の動画広告の課題を、米国との比較から見ていきました。

また、日本の動画広告の現状として順調に広告費も伸びており、特に動画コンテンツを必要としないOutStream動画広告が在庫・セールス共に大きく伸びているという事をお話ししました。

一方でInStream動画広告には課題があります。日本は米国等と比較すると動画コンテンツの権利処理のハードルなどがあり、これまで在庫開拓が進んでいませんでした。その結果、ユーザーが自然と動画コンテンツを創り上げ、低コストでInStream動画広告を創り上げる事ができるYouTubeのシェアが日本では極めて高い状況となっています。この点において、YouTubeシェアの高くない米国と日本では相当に違いがあるということをお話しました。

では、米国では何故YouTubeだけに頼らず各コンテンツメディアが動画広告を展開できているのかといったポイントを見ていきたいと思います。

■ AOLのプレミアム動画ネットワークビジネスAOL On

米国で動画コンテンツを持つコンテンツホルダーやメディア等を取りまとめ、動画広告事業を多角的に推進しているのが実はAOLだったりするのですが、その中のソリューションとしてまず、AOL Onを紹介したいと思います。http://on.aol.com/ がサイトになります。参画して頂いているコンテンツパートナーのロゴがサイトの下の方に並んでいます。AP通信、New York Times、WIRED、REUTERS、WSJ、FOX、martha stewartといった通信社、新聞社、出版社、TVスポーツ番組、放送局等様々なコンテンツパートナーが動画コンテンツを提供し、AOL Onというサイトを作っています。残念ながらこのAOL Onのサイト自体の規模はさほど大きくはありませんが、この動画プレイヤーや動画コンテンツは、米国中のネットワーク化されたメディアのWEBサイト上でも見る事が出来ます。このようにコンテンツパートナーが動画コンテンツを供給しあい、動画プレイヤーを様々なメディアに組み込み、ネットワーク化する事で、結果としてより多くの人に動画コンテンツを見てもらうという形をとっています。
いかに優れた動画コンテンツでも1つのサイト、メディアにだけ置いて見せていくのでは視聴数に限界があり、動画コンテンツの閲覧数に応じてその後の動画広告ビジネス(In Stream)の規模も決まってくる事を考えると、なかなか大きなビジネスにはなりません。そういった課題を克服するために、動画コンテンツを提供するメディアと動画コンテンツ、動画広告を掲載する先のメディアをAOLがそれぞれネットワーク化し、規模を拡大したうえで非常に高い単価でInStream動画広告(プレロール動画広告、ミッドロール動画広告)を広告主に販売しています。

さてコンテンツホルダーやメディアの方にとっては収益分配構造が気になるところかと思いますが、AOL Onでは広告収益をいかの3つに分配する形をとっています。

通常コストがかかるOVP(オンラインビデオプラットフォーム)の無償提供と広告主への販売、ネットワーク全体の取りまとめ役としてのAOL

動画コンテンツを提供するコンテンツホルダー

掲載面を提供しているメディア

動画広告の配信比率や動画コンテンツの配信比率によって収益が大きくなっていくので、コンテンツホルダーは有力なコンテンツを多数提供し、掲載面を提供するメディアはより多くのUU数、視聴数の稼げる面に動画プレイヤーを設置していくという、動画広告の収益を軸にしたエコサイクルが出来上がっています。

AOL Onにはもう一つ特徴があります。AOLオリジナルという、AOLが独自に制作したコンテンツをユーザーに提供している点です。最近ではAOLだけでなく、NetflixやHulu等WEB上でサービスを展開する動画プレイヤーもオリジナルな動画コンテンツを制作し、非常に高い評価を受けています。視聴されたデータをDMPを掛け合わせて活用しながら細かく分析し、次回作の内容に活かしているため“外さない”作品を作れるのだとも言われており、最近ではTV放送を含めて非常に話題になった番組に与えられるエミー賞にもノミネートされたり賞を取ったりするケースが出てきているほどです。
http://on.aol.com/shows/

これらの非常に希少性の高いプレミアムな動画広告の販売に関しても、通常のWEB広告とは異なる面白い形で行われています。オリジナル動画コンテンツと内容を広告主、広告会社の前で事前に紹介し、広告主を集めていく見本市の形をとっているのです。AOLだけでなく、YouTube、Netflix、Hulu等WEB動画のプレイヤーがほぼ集まる、ニューフロント(旧アップフロント)というものなのですが、お祭りのように華やかで配信されるオリジナルドラマの俳優や監督がコンテンツに関してプレゼンテーションする事もあります。広告主が決まったコンテンツには、独占的にその広告主の動画広告が配信され、コンテンツ内にも、広告主への配慮やプロダクトプレイスメンツ等行われるという点では、日本のTVビジネスでいうとタイム協賛型でのセールス手法に近い形での販売になるかと思います。
http://advertising.aol.com/newfront-2016?site=newfront

■ 米国での動画広告プランニング

米国では、広告主はターゲットとする年代のリーチを取る目的で動画広告を活用しているケースが多いですが、その中でもプレミアムな広告枠に対する意識は高く、WEBオリジナルのコンテンツに協賛する形の動画広告やプレミアムネットワークされた動画広告、プレミアムサイトの動画広告をまず購入し、その後にリーチを取る意味でUGC動画サイトを購入していくプランニングになっています。
日本ではプレミアム動画広告在庫が無いという印象を持たれている広告主が多いと思いますが、米国のようにプレミアム動画広告、特にInStream(プレロール、ミッドロール)動画広告をもっと増やしていかないといけないと考えます。
弊社としても日本でもAOL Onが実施できればと思いますが、さすがにオリジナル動画を作るには制作等莫大なリソースが必要となり簡単には行きません。次にご紹介する「Content Exchange」ビジネスであれば、メディア様や、コンテンツホルダー様のご協力があれば日本でも実施できるのではと考えておりますので是非、広告会社、コンテンツパートナー、広告主の皆様とお話ししながら実現できればと思っております。それでは見ていきましょう。

■ Content Exchange(コンテンツエクスチェンジ)とは?

Content Exchangeは、簡単にいうと動画コンテンツを持っているコンテンツホルダーが、Content Exchangeのプラットフォーム上にコンテンツをUPし、メディアがそのコンテンツを購入、活用できる仕組みになります。1000回あたりのコンテンツ視聴に対しての価格がコンテンツホルダー側によって決められていますので、メディア側では、動画コンテンツの金額を支払いながらもユーザーサービスとして使ったり、動画コンテンツ内にInStream動画広告をいれて自分達のサイト収益になるか等を検討したりするものになります。

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非常に簡単な仕組みではあるのですが、動画、動画広告のビジネスとなると、動画コンテンツ以外にも様々なものが必要になってきます。動画コンテンツをUPし、動画再生プレイヤーをつけて、メディア側に貼ることでユーザーに動画を見てもらう事が出来るOVP(オンラインビデオプラットフォーム)といったプラットフォームをPCのみならずMBにも展開できる環境、収益最大化の為に必要な純広告動画広告配信の為のAdserving機能、プログラマティックに在庫を売っていく場合には動画広告のSSP機能やその優先順位を決めて動画広告を配信する機能が必要になります。これらをワンストップで提供しているのが2014年12月にAOLが買収した「Vidible」になります。VidibleのようなVideo Content Exchangeを使うと、動画広告でビジネスをしていく際に必要なテクノロジーは全て揃い、動画広告ビジネスのエコサイクルを非常に簡単に回していける事になります。
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次からはコンテンツホルダー、メディア共に具体的にどのようなメリットがあるのかを見ていきたいと思います

■ コンテンツホルダー側

海外ではコンテンツホルダーは動画コンテンツを、Vidibleを通じて売ったり、動画広告の収益をメディアとレベニューシェアして収益を得たりする事になりますが、個別に動画コンテンツをメディアと契約していると、人的リソースがかなり必要になります。また個別契約ですと動画コンテンツの提供方法、ファイル形式等が一元化できず、ここにも人的リソースを奪われます。Vidibleを活用するコンテンツパートナーは何よりもコンテンツを収益化するまでの人的コストを圧縮出来る事になります。販売先のメディアを選ぶことも可能ですので、自社の動画コンテンツのブランドを毀損しない形での収益化も可能になります。
日本においても既にYouTube等で動画コンテンツをマネタイズしているコンテンツパートナーの方にとっては、新しい販売先として活用頂ける可能性もあるのではないかと考えています。
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■ メディアside

こちらは、動画コンテンツを購入し動画広告で収益化を図ることがメインになるのですが、動画コンテンツを視聴数単位(CPM)で購入する事が出来たり、動画広告の収益をコンテンツホルダーとレベニューシェアする事ができる為、広告収益化において動画広告の販売目標単価が決めやすかったり、コンテンツ調達に関し極力リスクの少ない形で調達が行えることになります。メディアとしては多くのユーザーに見てもらうことができ、広告在庫をより多く獲得できる掲載場所の設置にリソースを集中する事が可能です。
メディア側は、基本的に複数のコンテンツパートナーから動画コンテンツの提供を受けて動画広告ビジネスの展開を行いますので、Vidibleによって提供される動画に関するフォーマットが統一されることは、人的リソース面でも大きなメリットになります。日本では今までは、動画ビジネスをメディア独自で始める際、OVP契約、Adserving契約、コンテンツパートナーとの契約、SSP導入契約等、数多くの契約をしてもシステム連携等で動画広告のマネタイズが結局とん挫したりとハードルが高かったのですが、AOL Vidibleはワンストップでこれらのサービスを提供しているので相当ハードルが下がるのではないかと考えています。またメディアで自社動画コンテンツを保有している場合は、コンテンツパートナーとなることも可能になります。その場合は動画コンテンツを自社内だけで使い、他社からも動画コンテンツ提供を受け規模感を拡大させながらもオリジナル色を強めた動画広告事業の展開も可能になります。
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■ InStream動画広告在庫を飛躍的に拡大させるVidible

Vidibleを活用する事によりInStream動画広告在庫をプレミアムなメディアの中で、かつPC、スマホといったマルチデバイスに拡大していく事が可能になり、広告主のプレミアム×InStream動画広告の開発の課題にスピード感をもって応えていけるのではないかと思っています。日本でのローンチ時期は未定ですが、進めて行きたいと思いますので是非多くのメディア様、コンテンツパートナー様の意見を聞きながら日本の動画広告に貢献していきたいと思っております。よろしくお願いいたします。
Vidibleにご興味のある方は、以前このソリューションを作りあげたMichael Hymanがインタビューを受けておりますので、併せて読んで頂けるとより理解が深まるのではと思います。

 

次回はInStream動画広告ではなく、広告主サイドからのニーズも相当出てきているOutStream動画広告の話を中心に米国の動画広告の進化等もあわせてお話できればと思います。よろしくお願いいたします。

ABOUT 齋藤 司

齋藤 司

AOLプラットフォームズ・ジャパン株式会社
VIDEOマーケティンググループ

ラジオ、TVの放送作家を経て 2000年、雑誌をメインとした、広告代理店に入社。2003年11月デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社に入社し長年に渡り、 動画、SNS、TV局等のデジタルメディアを担当しWEB広告の啓蒙を行う。現在は、AOL プラットフォームズ・ジャパン株式会社にて動画事業を担当。 デジタルハリウッド等で動画広告に関する講師、講演も行っている。