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Now & Next: The Internet of Things

(翻訳:Asia Plus 黒川賢吾)

IoTの発展により、ネット接続が可能なスマートデバイスから、今までにない程に多くのデータを集めることが可能になっている。今回のExchangeWireのNow&Nextでは、IoTの広告主にとっての機会及び、その大きな可能性について取り上げていきたい。

IoT及びコネクテッドテクノロジーへの投資は2014年の231.9億ドルから、今日348.3億ドルまで拡大している。Gartner社によると、この数字は2020年までには547.2億ドルまで拡大すると見られている。同時期に、IoTは現在の9億個から大きく伸び、260億ものデバイスに採用されると予想されている。

消費者のスマートフォン及びアプリにおける、温度自動調整、加熱やアラームシステムなどへの関心がこの成長の主要な要因となっている。これらは例えばEU での、インターネット上での情報確認のために、スマートメーター設置を義務付ける法令などによって支持されている。英国ガスの「Hiveシステム」では、英国におけるコネクテッドライフの一例として、水道・熱などのリモートからのシステム管理が可能になっており、10万世帯への導入が進んでいる。

マーケターにとっての潜在性

IoTの潜在性は、消費者テクノロジーの遥か先に広がっているが、IoTがマーケターにとって重要なのは次の3つの理由があると考えられる。

コネクテッドな商品のプロダクトサイクルを把握し、商品の終焉を知ることでより、適切なメッセージを配信することができる。例えば、スマートフォンを通じて蛍光灯がいつ切れるのかを知ることができ、企業が特定のニーズにあった割引情報を配信するなどが可能である。これは極めてターゲット化された広告となり、高いCTRを実現できる。

データ収集可能なデバイスが増えるにつれて、マーケターが活用可能なデータ量は増える。これによって、私たちは消費者の日常生活に応じたマーケティングキャンペーンを実施することが可能になる。企業は潜在的に私たちが普段捨ててしまっているものや、歯磨きの時間、ある商品の消費期限などの情報を得ることができる。これらのデータによって、より正確な顧客像を把握することができ、適切で、継続的な顧客エンゲージメントの獲得を目指すことができる。

広告主はIoTを活用し、POSなどを超える形で消費者との関係を築くことができる。Pernod Ricard社が良い例である。彼らは容量が少なくなると新たなボトルをオーダーできる仕組みを開発し、また、QRコードをスキャンすることで、そのボトル飲料にあったカクテルの作り方に関する情報を提供する。これは、消費者に関するデータを収集するだけでなく、伝統的なFMCG企業が顧客ロイヤリティを強化するのに活用する事例である。

停滞する成長

マーケターの視点で考えると、広告業界でIoTから得られるデータを重視する潜在性は高いものの、デバイスの活用方法が消費者に受け入れられる必要がある。スマートホーム市場の収益成長は(2015年に43.1%、2017年に61.5%と)年々成長しているものの、2020年までの成長は19%と鈍化することが予想されている。フィットネスモニターやスマートウォッチの購入希望者は、2015年から1%のみ上昇し13%にとどまっており、スマートホームの温度管理についても9%しかいない。マーケターが確認すべきは、なぜ消費者のIoTへの関心が落ち込んでおり、状況改善のためにどういったことができるかという点になる。

障壁

IoTデバイスは、(例えば牛乳が無くなった際に再注文するなど)対象が小さすぎる割に、商品導入に費用がかかるという問題がある。この点は、38%の人々がIoT商品の購入に関心がないというデータに反映されている。同時に、2/3(62%)の人々が、価格が最大の障壁だと述べている。

セキュリティもIoTの普及を妨げる要因である。ほぼ半数(47%)の消費者が、導入の障壁として安全面を述べており、18%が安全面の問題が解決しない限りIoTの利用を検討しないと回答している。これは、HP社による70%のIoTデバイスは安全面の問題を抱えている、というデータなどを鑑みると当然の結果と考えられる。例えば、2015年にFiatのリコール事例に見られた様に、ハッカーがスマートデバイスに無線環境からアクセスを得ることができれば、自動車の防犯カメラから、運転、ブレーキに至るまでのコントロールが可能になってしまう。

機器メーカー側は、使い勝手についての改善が必要と述べている。1/5(18%)の人々がインターネットへのデバイスの接続方法に問題があると回答しており、16%は難しすぎると述べている。

将来性- 解決方法は?

現在のところ、デバイスの利用方法がばらばらである問題を抱えている。消費者が、全てのデバイスを一括で管理できるようなプラットフォームが必要である。また、プラットフォームは業界標準として準備され、機器メーカーによりセキュリティ面の考慮がなされたものであることが望ましい。この取り組みにより問題が解決されるだけでなく、14%の人しかIoTデバイスの活用に自信が持てない、という現状を改善するきっかけとなるはずである。

しかしながら、根本の問題は、IoTが消費者や社会に本当のベネフィットをもたらす費用対効果をもたらせていない点にある。この点を解決するためには、業界全体としてより大きなプロジェクトに注力し、より多くの人々に影響を与え、より多大なベネフィットを提供する取り組みが必要とされる。

このことからIoTの将来はスマートシティなどのプロジェクトに依存している。スマートシティにはITシステム、学校、図書館、水道ネットワーク、ゴミ処理、病院などのアセット管理のためにデバイスが接続環境にあることが必要となる。スマートシティの数は2013年の21から2025年には88と4倍になることが予想されている。

都市化が急速に進むアフリカやアジアの国々でも計画は進んでいる。例えば中国などでは、都市化が70%までに達した北京や上海などでの人口増の問題を解決するためにスマートシティを検討している。もし消費者のIoTに関する見方が世界的に変化する様であれば、世界的な潮流と成りうるだろう。消費者が、今後IoTが安全であり、大きな利点をもたらすと理解する様になると、このテクノロジーの世界的な普及が進んでいくことだろう。

IoTの普及の鍵は、消費者が抱える本当の問題を解決できるかにかかっている。老人の健康をモニターしたり、患者の全医療履歴の収集が可能になったり、1台のデバイスからスマートホーム全体の管理ができるようなテクノロジーが求められている。

より多くのIoT企業がこの点を認識し始めている。例えば、Fitbit社が、高血圧や心臓病などの健康管理へ注力し始めているのは、このトレンドの一環である。こういった変化がIoT業界全体で求められている。消費者が求めるものは段階的な改善ではなく、明確な価値の提供なのである。

マーケターにとってのIoTの将来

もしIoTが安全で、簡単で、純粋に利点をもたらすものとなれば、マーケターにとってのインパクトも甚大である。このテクノロジーが広く信頼され流通するようになった際には、非常に多くのデータが利用可能となり、広告閲覧をする際の消費者の企業とのコミュニケーションも、リアルタイムなものとなるだろう。データを活用しないマーケティングアプローチは時代遅れのものとなり、IoTによるデータを戦略に活用できる広告主のみが100%のCTRを達成するだろう。

今後数年がIoTにとっては非常に重要である。テクノロジーの波及が段階的なもので、安全性の問題が解決されない場合には、デバイスの利用はマーケターにとって、データ重視のマーケティングを実施するには十分なものとはならない。しかしながら、消費者の信頼に、世界的なレベルで変化がもたらされた際には、広告主は単一での消費者管理において、大きな改善を得ることができるようになるだろう。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。