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パブリッシャーはニュースのソーシャル化に対して、いかに対応するべきか

(翻訳:Asia Plus 黒川賢吾)

ソーシャルはいかにニュース消費に影響を与えるのだろうか?パブリッシャーはこの新たなトレンドを受け入れる準備が出来ているのだろうか、それとも、ニュースがソーシャルメディアによって衰えていくのを受け入れるだけだろうか。パブリッシャーは、ニュースがソーシャル化する中で、いかに繁栄を継続できるのだろうか?Outbrain社の北ユーロッパ地域のマネージングディレクターであるStephanie Himoff氏が、ExchangeWireの独占インタビューに対して、パブリッシャーが変化を果たす市場の中で、どのようなビジネスを行うべきかについて語ってくれた。

2009年1月、155人の乗客とクルーを乗せたUSエアウェイ1549便は、エンジン不良を抱え、Sullenberger機長はニューヨークハドソン川への不時着水を行いました。このニュースは世界中に流れ、初めてTwitterによる情報が他のメディアを上回りました。

ハドソン川の奇跡以来、ソーシャルメディアはニュースの流通に関して、主流なものとなりました。Twitterがブレークニュースの第一報を提供し、他の伝統的なプレスが後に続くのが一般的となっています。イベントの目撃者が、ジャーナリストが到着する前にレポートを行います。アップデートは頻繁でかつリアルタイムです。

消費者にとっては、ソーシャルメディアによる民主的な方法により、誰もがその日のニュースの見出しをキュレーションしたり議論したりできるようになりました。一方でパブリッシャーにとっては、反対のことが起こっています。ニュースに対してのコントロールを失っているのです。2014年に、comScoreが、リファラルによるトラフィックとダイレクトのトラフィックを比較したところ、ソーシャルプラットフォームからパブリッシャーのサイトを訪問したユーザーは、サイト滞在が3倍短く、再訪問は3倍少なく、5倍ページビュー数が少ないという結果になりました。2015年に、パブリッシャーのリファラル訪問数に関して、ソーシャルメディアがグーグルを、40%対38%で抜き去りました。
これらをあわせて考えると、ニュース消費のソーシャル化による動きは消費者にとっては便利な変化であるものの、ニュース業界にとっては大きな脅威と言え、パブリッシャーにとっては価値あるオーディエンスの成長を見込めないという意味で、大きな問題と捉えられます。

今年6月に、ロイター社のジャーナリズム研究所(RISJ)が発表した調査結果により、ソーシャルメディアがニュース産業を脅かしている点について、一層明らかになりました。ソーシャルメディアは、若者にとって主流なニュース発見のメディアとなっており、18歳〜24歳の28%がソーシャルメディアを主流なニュースメディアだと回答し、テレビの24%を上回りました。この増加傾向はUKだけに留まらず、26カ国の全世代における12%の回答者が、ソーシャルメディアを第一のニュース情報取得メディアになっていると回答しました。

これは比較的新たな現象ながら、重要な点です。というのは、この事によって、読者のエンゲージメントの低下を招き、バイアスを生み出すからです。ニューヨークタイムズが6月29日にアナウンスしたように、Facebookのニュースフィードに関するアルゴリズムはユーザーの友達や家族からのコンテンツを優先するように変更されています。この変更によって新たな問題が生まれています。ソーシャルでのニュース消費を通じて、アルゴリズムによって、ユーザーにフィードされるものが決まり、あなたの周りにいる人々の考えばかりが表示されることによる、「ニュースのバブル化」やエコー効果とも言える状態が生み出されるのです。自分にとって関係の深い人々からのストーリーを優先してフィードすることにより、Facebookはパブリッシャーによってもたらされる異なる視点を目にする機会が少なくなっています。

一方で、世界中の消費者がニュースの閲覧にソーシャルメディアやモバイルを活用するようになり、NYタイムズが「ニュースの制作者とプラットフォームの間の緊張感のある関係」と呼ぶ、ユーザーが所有権を持ちバイアスに繋がりかねない、パブリッシャーとの提携を元にした新たなソリューションが多く登場しています。

パブリッシャーはソーシャルメディアを、自身のサイト環境のマーケティングに利用しなくてはいけない

Photo

Stephanie Himoff氏、
Outbrain社、北ヨーロッパ地域 MD

これは、FacebookやGoogleのようなサイトを活用することはウェブサイトへのトラフィックやダウンロードの促進にはつながりますが、やみくもにコンテンツをこれらのプラットフォームにフィードすることは避けるべきです。そのようにすると、パブリッシャーがオーディエンスデータを失い、読者との関係を失うことにつながっていきます。ユーザーはパブリッシャーのコンテンツをパブリッシャーの環境にて閲覧させることが、他のコンテンツの閲覧にもつながり、パブリッシャーの生き残りに寄与するでしょう。

パブリッシャーはコンテンツの発見に投資を続けなくてはならない

これによって、読み手及び収入を向上させることができます。一方でレコメンデーションのアルゴリズムが、ニュース発見の機能を制限させないために提供される必要があります。また、様々なトピックを提供することも同様に必要です。もしレコメンデーション機能により類似したコンテツばかり提供してしまうと、消費者はすぐに飽きてしまいます。

パブリッシャーはユーザーエクスピリエンスの最適化に努めなくてはならない

パブリッシャーはデジタル及びモバイルコンテンツを収益化するために、ユーザビリティの高い、ネイティブな方法を検討する必要があります。RISJによると、UKの消費者はデスクトップよりもモバイルでニュースを閲覧しており、70%のBBCのトラフィックはモバイルによるものです。収益化戦略は、ユーザーフレンドリーかつデバイスに特化したものである必要があります。そうでないと、業界は広告ブロッカーの導入が進み、広告収入が危機にさらわれてしまいます。

パブリッシャーは消費者のトレンドを元に戦略を検討するべき

例えば、消費者がほとんどの時間をモバイルでメッセージングアプリを利用しています。
結果として、チャットボットが開発され、パブリッシャーが読者と、彼らが多くの時間を費やす環境において、個別且つシームレスにやりとりが出来るようになっています。更に重要なことに、コンテンツは消費者が欲するタイミングで、パブリッシャーのアセットとして提供される必要があります。

パブリッシャーはソーシャルとエディトリアルコンテンツに関して、別々にアプローチしなくてはならない

RISJの調査によると、ソーシャルでニュースを楽しむ人は硬いニュースよりも柔らかいニュースを好む傾向にあり、コンテンツの編集者はダイレクトの訪問者とソーシャルフォロワーの両方からのエンゲージメントを高めるために、この傾向にそったコンテンツ提供が求められます。例として、Guardian社のウェブサイトとFacebookを比較してみてください。前者のスタイルがフォーマルなのに対して、ソーシャルではより軽めのストーリーや絵文字が好まれます。

ソーシャルやモバイルネイティブな全ての新たな世代の人々にとって、ニュースをソーシャルで消費することは通常の流れです。しかしながら、ロイターの研究所が述べているように、これらの変化はパブリッシャーに、今後のニュース制作における「潜在的に大きな影響」を与える可能性を秘めています。パブリッシャーは、現在テクノロジーやソーシャルを利用した戦略を打ち立て、ソーシャルを利用して未来を切り開く努力が必要なのです。最新の消費者のトレンドにあわせてデジタルメディア空間でいかに適用しイノベーションを生み出していくかが鍵となります。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。