Now & Next: 機械翻訳の未来

(翻訳:シード・プランニング 長野 雅俊)

全世界では実に6000以上の言語が話されているという。つまり、世界中のマーケッターにとっては、各国の文化に則した形でブランドのメッセージを伝えることが課題となる。

今回の「Now & Next」では、機械翻訳ツールにおけるいくつかのソリューションや技術革新に注目し、今後より多くの投資を呼び込むにはどのような道を進むべきかを探った。

コカ・コーラ社の製品は、今では200カ国以上で販売されている。マクドナルドは119カ国に展開し、フェイスブックのユーザーは世界中に10億人以上が存在。企業の活動が地理的に拡大していくにつれて、各地域の消費者にアプローチしたいとの需要も高まってくる。テクノロジー企業が、外国語を話す者同士でも円滑な会話を交わせるような機関翻訳ツールの開発に向けて懸命になるのも無理はないだろう。

現時点での成果

いくつかの企業間では、既に機械翻訳ビジネスをめぐった競争が繰り広げられている。例えば「Skype Translator」では、発話と文字情報の両方を翻訳することが可能で、利用するほどにその性能が高まるように機械学習機能を導入している。Skype Translatorは、音声を録音後に音声認証システムを使って音声ファイルを文字情報へと一旦変更し、その情報を今度は機械音声を通じて伝える。

またGoogle翻訳は音声翻訳だけではなく、画像を通じた翻訳機能をも持ち合わせている。特定の文字情報に向けてスマートフォンのカメラをかざせば、ユーザーは直ちに翻訳された情報を得ることができるのだ。

ただ文字情報があることを前提条件とする画像認識を通じた翻訳に比べると、音声翻訳ツールの方が会話を即座に翻訳できるという点において有利だろう。グローバル企業の現場で下される諸々の決定は、メッセンジャーよりも電話または面会を通じて行われることが圧倒的に多いからである。

リアルタイムで会話を処理するSkypeやGoogleの翻訳ツールがより高度になれば、各企業はやがて異なる国にまたがるやり取りにおいてもより迅速に、正確にそして効率的に数々の決定を下せるようになるかもしれない。

ロシアの検索エンジンであるYandexは、チャット・アプリの「Telegram」と「WeChat」上にインストールできる機械翻訳ツールを開発した。Yandex Translate bot をグループ・チャットに招待し、ユーザーがそれぞれの言語でメーセージを送信すればbotが翻訳を行うので、メッセージの受け手も母国語で文面を読むことができる。

アナタハエイゴヲハナセマスカ

消費者が特定の商品やサービスに対して注意を振り向ける平均時間は8秒と言われている。しかし、その商品やサービスについての情報が外国語で記されている場合は、この時間が1秒へと短縮される。逆に言えば、例えば以下の情報を母国語で知ることさえできれば、顧客はその商品なりサービスを購入する可能性が高まるわけだ。

– 販促資料(82%)

– 技術文書(81%)

さらには日本人及びフランス人の6割は、外国語で情報が記されているウェブサイトから商品を買うことはないという。これらの調査結果は、翻訳ツールを活用することで各企業の売上が伸びる余地があることを示している。ただし、他の実験的なテクノロジーと同様に、機械翻訳の発展を妨げるいくつかの要因が存在する。

ロスト・イン・トランスレーション

機械翻訳そして音声翻訳にとっての最大の障害の一つが、人間同士の会話におけるニュアンスである。例えば、ある人が支離滅裂に話した場合、テクノロジーはどう反応するのだろうか。また方言を理解することはできるのか。こうした要素によって機械翻訳ツールがある一文を誤って解釈した結果、より大きな誤解へと発展させてしまう可能性があり得る。研究者たちは、市場に出回っているよりもずっと大規模なテクノロジーにおいては、現時点で8割程度の理解率を達成していると主張する。しかし、わずか100語から200語の会話においてのみの話である。人間の語彙は1万語を超えるといわれていることから、機械翻訳テクノロジーはあらゆる言語において認識可能な言葉の数を増やす必要がある。

また投資不足も機械翻訳テクノロジーの発展を阻害する原因となり得る。2016年3月時点で全世界におけるAI業界には1108社のスタートアップが存在し、投資累計額は53億ドル。しかしながら、音声翻訳テクノロジーを手掛けるスタートアップは15社しかなく、それらの投資累計額は2000万ドルに過ぎない。機械翻訳が消費者とのエンゲージメントを高める可能性を秘めているというのに、投資レベルはなぜこれほどまでに低いのだろうか。

その理由として、翻訳テクノロジーが既に一定のレベルにまで達してしまったということが挙げられる。ウェブサイト上のコンテンツを14言語で用意すれば、全オンライン人口の9割にアクセスできる。既にGoogleの音声翻訳は40言語、Skypeは8言語で機能している。6000言語を操るテクノロジーに投資する必要がないのだ。

既に広く使われている同種の安価なテクノロジーよりも多くの言語を網羅した機能を使えば消費者とのエンゲージメントが格段に向上するかどうかは未知数なのである。

機械翻訳の未来とは

各言語での広告展開を通じて顧客とのエンゲージメント率を高めることができるのであれば、機械翻訳はいまだマーケッターにとって多大な可能性を秘めている。しかしながら、開発に当たっては、全言語に対して限定的な理解を得るよりも、いくつかの特定の言語において豊富な語彙を操ることに注力しなければならない。

我々は、マーケッターは以下の2つの方法で機械翻訳テクノロジーを利用するのではないかと予想している。

バックグラウンドbots: スマートフォン、タブレット、デスクトップのバックグラウンドで起動するアプリまたはiOS及びAndroid上のソフトウェアの一部として起動する翻訳ツール。マーケッターは消費者に対してそれぞれの母国語を通じてコミュニケーションを図ることができるだけではなく、各消費者がなじんだ文体を用いることにより、エンゲージメントをさらに高めることができる。

eBayは既にこのテクノロジーに投資している。eBayは同社のウェブサイト及びアプリ上に記載されている出品情報を自動翻訳する方法を検討中だ。2016年6月にはこの領域で強みを発揮するスタートアップのAppTekを買収。同社のテクノロジーを利用することで、eBayのシステムを通じてこれから売買取引を行おうとする人々がたとえ同じ言語を理解できずとも商品についての情報交換ができるようなインスタント・メッセージ・ソフトウェアの開発を後押ししたいと考えている。

Social tracking: 翻訳ツールは、ソーシャル・メディア上における商品やサービスに関する様々なコメントを抽出するのにも役立つだろう。そしてこのデータは、ソーシャル・メディア上で表明された各種の質問や批判に対して母国語で応対する際に利用できる。また世界各地から寄せられた消費者のフィードバックに適応する形で、地域別にマーケティング・キャンペーンを展開するなどの活用法もあり得るだろう。

消費市場のイノベーションに目を向けよう

機械翻訳がオンライン上での消費者のエンゲージメントを高めるために利用されれば、同産業が発展していくことは確かだ。ただし、より多くの投資を呼び込むためには、音声翻訳は以下に述べる2つの領域に注力しなければならない。

まず、消費製品としてのニッチ市場を探す必要がある。これまで行ったことのない国を訪問したいとは願うものの、現地の言語を学ぼうとするまでには至らないという一般人の傾向を鑑みると、音声翻訳の市場には常に隙間市場が存在することになる。今後は、米国のスタートアップであるWaverly Labsが開発したテクノロジーに似たようなものが流通するのではないだろうか。この通訳機器の利用においては、会話に参加する両者がヘッドホンを装着。会話をしながらお互いの言語が翻訳される(SFシリーズの「銀河ヒッチハイク・ガイド」に登場する「バベル魚」のようなもの)。旅行者が周囲の環境を理解する際にこのようなテクノロジーが果たすべき役割は非常に大きく、旅行体験を根本的に変える可能性がある。またGoogleやSkypeの翻訳機能よりも、利便性の面で優れている。デスクトップやタブレットをいちいち起動させることなく、ただヘッドホンを装着すればいいのだから。

音声翻訳はマーケッターが多いに活用できるだけの代物にはならないかもしれない。ただし、既に述べたようなグローバル企業だけではなく、地域企業でも大きな役割を担うようにはなってきている。英国の移民数は2020年に17万2000人、2035年には21万人にまで達するという。この移民の大多数が英国内の労働力となる状況下においては、企業が各社員の母国語でコミュニケーションを取ることができれば、従業員のエンゲージメントは自ずと高まっていくであろう。

機械翻訳が成功を収めるためには、SkypeやWaverly Labsが開発した翻訳関連機器が、翻訳する言語数を増加させるのではなく、正確性を増していくように方向付けるべきである。ある特定の言語において一つひとつの単語を正確に認識し、また日常で話されるほとんどの言葉を理解できるようになるまで、そうしたプラットフォームへの信頼、投資、そして活用例が急激に増すことはないだろう。

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長野 雅俊

ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。