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「なければ作る」サイバーエージェントがコミットする動画広告市場の展望 [インタビュー]

サイバーエージェントは2016年10月、グループで注力する動画広告ビジネスに関連する横断組織を設立した。グループ全体でコミットする同社の動画広告ビジネスに焦点を当て、組織設立の狙いやビジネスの展望についてのインタビューをシリーズでお届けする。

第一回は、横断組織を統括するサイバーエージェントグループ 取締役兼CyberZ代表取締役の山内隆裕氏に、動画広告市場に関する2016年の振り返りと2017年の見通しについてお話をうかがった。

(聞き手: ExchangeWire Japan 野下 智之)

― サイバーエージェントグループの動画広告ビジネスにとって、2016年はどんな一年でしたか。

写真12016年はYouTubeを中心とした動画広告市場が大きく伸び、それ以外にはインフィードの枠が動画化されました。動画のメディアも複数立ち上がり、世の中に動画のコンテンツが急増し、スマホを中心として動画視聴ユーザーが増えました。

キャリアの料金プランも通信許容量が上がるなど動画の一般化が始まった年になったと思います。

企業もその変化への対応を決め、それぞれ急速な速さで動いています。それに応じて、今まではやっていなかったお客様からも動画広告についての問い合わせが増え、インフィード広告を中心とした取扱高が増えています。

― 期末決算を見ましたが、16年7-9月期の動画広告の突出した売上の要因についてお聞かせください。

一部の媒体が動画化されたことやLINEのインフィード動画が取り扱いとして大きかったです。新しい枠ができるとそのまま伸びていく、ポテンシャルが大きいと感じています。

― サイバーエージェントグループの動画広告にかかわる事業部を横断した新しい組織の概要を教えてください。

今取り組んでいるのは、サイバーエージェントグループ全体の動画広告取扱高を伸ばすことです。サイバーエージェントの主に広告代理店部門、スマートフォン広告専門代理店のCyberZ、動画広告専門代理店のCyberBull、MOZZや渋谷クリップクリエイトなどの動画企画制作事業、それからAbemaTVなどの動画メディア事業など自社商品やサービス開発を全体として、横串で見ています。

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組織の立ち上げは2016年10月で、本当に最近です。組織の名前は社内用語を使っているので公表していません。(笑)
グループ「横断」ですので、日本代表というような感じのネーミングです。

― 組織立ち上げの経緯についてお聞かせください。

サイバーエージェントには、役員や幹部が全員集まって中長期的な課題について話し合う合宿のような「あした会議」という集まりがあります。そこで話し合った課題の中の一つが「動画広告をどう伸ばすか」というものが経緯です。

組織の規模は大体150~200人。サイバーエージェント全体にとっても広告代理店部門にとっても、動画の広告自体は当然大事なことに加え、全社をあげて今チャレンジしているインターネットテレビ局のAbemaTVでのマネタイズ方法も動画広告です。足元ではなく長い視野でそこを伸ばしていこうと取り組んでいます。

― グループ全体で動画広告領域に投資されていますが、具体的にはそれぞれどのような機能があるのですか?

大きく分けて、3つあります。1つはセールスサイドですね。お客様の意向に沿ったメディアの広告枠化や、運用を強めるコンサルティング業務です。また、サイバーエージェントでは「次世代ブランド戦略室」を作りました。企業の宣伝予算は少しずつ、テレビから動画にシフトしています。ネットの動画をどうようにやればいいのかと感じているお客様のニーズに対応していきます。

次に計測や分析機能があります。メディアサイドでもクライアントサイドでもないところで、例えば効果の計測やネットに合った動画のクリエイティブ、最近はやっている縦型の動画の有効性など、お客様の課題に合わせたものを提供するとなると、ネットネイティブな形が必要です。僕たちは「クリエイティブを科学する」と呼んでいますが、価格はどれくらいが適正なのか、品質が高いものはどのようなものなのか、ターゲティングはどうすればいのかなど「科学する」組織を、ソリューションとして持っています。

あとは、メディアサイドですね。自分たちでメディアを作っていくのが僕らの強み。そこがサイバーエージェントらしいところですから。

来年の同時期に売上100億円を目指す

― 目指す数字を具体的にお聞かせください。

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今決算で出したのが、2016年7~9月期の3か月間で約40億でしたが、それを来年の同時期を目安に100億まで伸ばしたいですね。これは本当に目標ですが、それくらい伸ばしていけるポテンシャルのある市場だと思っています。

まだコミュニケーションをとっている最中ではありますが、お客様のニーズがすごく顕在化してきています。みんなで話し合ってニーズが把握できつつあるので、制作を担当する部門へのフィードバックを進め、プロダクトを実際に作り始めています。

2017年の1~3月のどこかのタイミングで、いくつかの商品が出せると思います。グループ内の各業態での相乗効果があり、今後はもっと大きな流れをつかめるような掛け算が生まれるのではないかと感じています。

― 去年の山内さんのインタビューでは、ネットテレビの先読みについて触れていましたね。

ネットテレビの普及は消費者のテレビの買い替えのタイミングで一気に進む面がありますよね。最近ではAmazonのFire TVやGoogleのChromecastなど、既存のテレビに取り付けてネットを視聴できるオプションも登場しているので、それもあわせると結構大きい動きかなと思います。サービス側もNetflixやHuluなど、認知度があがってきているので、2017年はさらに進むのではないでしょうか。

「なければ作れる」ことが強み

― 動画広告市場でサイバーエージェントは業界を先行していますが、2兆円とよばれるテレビ広告市場へどのように挑戦していかれますか?

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市場の流れもありますよね。若い世代のテレビの視聴時間は少なくなっており、そこのマーケティングはネットに移ってしかるべきかな、と思っていますが、その流れは20代だけでなく30代40代にも入ってくる。可処分時間の相対的にネットの割合が多くなると、企業のマーケティングも変わっていきます。

その流れの先には、ネットならではのやり方があると思います。細かく深く、ひとことで言うと「運用力」。それがネットの醍醐味だと思うので、テレビCMでは実現できなかったようなクリエイティブの出し分けや、ターゲットに対して直接リーチする方法など、今まで培ってきたノウハウを生かしていきたいなとは思っています。

― サイバーエージェントの動画広告の強みである“運用力”にプラスするとしたら、どういう言葉でしょうか。

「創れる/作れる」ということだと思います。僕たちは今までも、持ち上がった課題を実際に解決するのにメディア軸だけだと難しいという所感を持っていました。「ないんだったら作っちゃおうよ」というのが、僕らの発想です。昔はつたないながらやっていたら、今では経験値も積み上がり、エンジニアも広告部門だけで全社で約400人います。彼らが作ってくれるというのは、非常に強い。僕がお客様の立場だったらとしても、これは非常に嬉しいことだなと思っています。

メディアに対して還元できる価値を最大化したい

― オートメーション化といえばAIも使われていますね。

いくつかあります。ボットサービスのようなもので、問い合わせをカスタマーセンターへ電話するのではなくボットで対応したり、AIを中心とした技術革新でプロダクトを作ったりもしていますね。正直広告ではそんなに活かせてないのですが、先々は、オートメーション化は絶対あると思うので、アルゴリズムを組んでの学習を、グループとして打ち出しています。

― 2017年に広告市場についてはどのようなトレンドになるでしょうか。また、グループとしての目標を聞かせてください。

2017年は動画広告元年と位置付けています。
市場環境は著しく変化をしておりAbemaTVなど動画メディア事業をやる会社が急激に増えました。

それによって、ユーザーの動画に対する接触態度もリテラシーもあがり、世の中に動画のコンテンツがあふれる時代となりました。

動画メディアは今年以降でマネタイズを考えるフェーズにはいりますし、出稿企業もユーザーの変化に合わせたマーケティングの対応を迫られる時代になりました。ガラケーからスマホに変わったように、動画への変化は同様に大きな変化だと感じています。まだ市場の始まりに近いので、整っていなかったり、やりたくでもできないことが多いと思いますので、それを実現できるソリューションを出し、改善し続けることが市場成長へつながると思うので、グループ一丸となって頑張りたいと思います。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。