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「YouTuberとタッグを組んでインバウンドビジネスに貢献」 Yummy Japan代表取締役が語る今後の展望 [インタビュー]

インバウンドビジネス向けにYouTubeを通じた動画プロモーションのサービスを提供するYummy Japan。昨年末には東アジアに拠点を置く2社とパートナーシップを締結したことで、訪日外国人の約95%へのリーチを実現した。

2020年東京五輪開催に向けてすでに様々なインバウンド施策が実施されている中でいかに差別化を図るのか。「YouTuber」と呼ばれるクリエイターの育成まで手掛ける同社事業の仕組みなどについて、Yummy Japan代表取締役の小太刀みちえ氏にお話をうかがった。

(聞き手:ExchangeWire Japan 長野 雅俊)

YouTubeで“おいしい”を世界に発信

― 自己紹介をお願いします。

私どもYummy Japanは約80組の外国人を傘下に有し、彼らのYouTubeチャンネルのマネジメントや育成そしてマーケティングなど様々な場面でサポートをしております。また、私たちと同じようにMCN(マルチチャンネル ネットワーク)という形態でYouTuberを統括している海外の企業との提携で約23,000組のクリエイターとネットワークを築いています。

Yummy Japanのミッションは、外国人の方々に日本のYummyな(おいしい)情報を知っていただき、日本に興味を持っていただき、訪日していただくことです。そして、日本への滞在をおもしろいと思ってもらい、リピーターにつなげることです。その訴求方法の一つとして動画メディアを展開しています。

もともとYummy Japanのスタッフは、私も含めてテレビ番組やCM制作など映像制作をしていたチームでメンバーを構成しております。動画を作るというところではプロ集団なので、駆け出しのクリエイターや伸び悩んでいるクリエイターを育成・ステップアップさせるような展開もしています。

― 小太刀さんとYummy Japanとのご関係を教えてください。

写真:1

約4年前の2013年6月頃に新規事業をスタートさせたいと思い本事業を社内ベンチャーの形でスタートさせました。その年にいわゆる「和食」がユネスコの無形文化遺産に登録されたり、2020年の東京オリンピックが決まったりとインバウンドへの追い風が吹いてきたなと思いました。

映像自体は存続していくんですが、メディアはどんどん変わっていきますよね。もちろんテレビの影響力はいまだすごく強いのですが、海外に訴求するという意味では、テレビはなかなか難しいかなと思います。その中で、映像制作のノウハウは残しつつ、それを海外に発信していったらおもしろいかなと考えていたころにYouTubeに出会いました。YouTubeでMCN(マルチチャンネル ネットワーク)という形態でやっていらっしゃる米国の会社が、すでにそのころ企業として成功していたので、その形が日本でも出来たらおもしろいかなと考えました。それがきっかけです。

「動画制作」「YouTuber育成」という2つの軸

― 動画プロモーション制作の依頼主がお客様というだけでなく、YouTuberもお客様ということになるのですか?

そうですね、双方がお客様ということになります。YouTuberの方を傘下に入れることにより、YouTubeの広告収益がいったん全てYummy Japanに入ってきます。これをレベニューシェアとして、Yummy Japan が一部いただいて、クリエイターへシェアしています。

クリエイターにとっては、再生回数が上がっていけばその分だけ収益が伸びていくので、そのお手伝いをするというのが一つのミッションとなります。またファンが増えて再生回数が伸びることで新たな収益源、たとえば企業からのスポンサードがつきやすくなるので、そこの部分のケアもしています。

― こうしたYouTuberに動画プロモーションの制作を依頼する場合には、依頼主が希望した内容をコンテンツの中に含んでいただけるのですか?

そうですね。まずご発注いただく際に、NG事項をヒアリングの段階でお聞きしています。そういった部分には抵触しないようにする一方でクリエイターの目線は大事にしたいというところもあるので、本当にNGな部分は避けた上で展開いただける形を心がけています。

具体的には、ご発注をいただいてからYouTuberと企画を練った上でクライアント様に構成案をお出しします。その段階である程度やり取りをさせていただいて、流れはご理解いただいてから撮影という形なので、発注者とYouTuberの間で齟齬が生まれたことはあまりないというのが現状です。

― どういった業界のお客様が多いですか?

現状多いのは、地方自治体、食品メーカーまたは飲食店、宿泊施設などいわゆるインバウンドを視野に入れている企業様です。また、越境ECをやっているメーカー、留学生を招致したい学校関連。中には外国人スタッフを起用したい企業様もあります。企業からの一方的なアピールではなく、YouTuber が彼らの目線でレビューすることでファンに対し透明性のある情報として訴求できるので、幅広いお客様のニーズにお応えできると思います。

訪日外国人の9億人超へのリーチを達成

― 昨年末に、東アジアを代表するインフルエンサーネットワーク2社と戦略的ビジネスパートナーシップを締結しました。

アジアに強いMCNとアライアンスを組んだことで、世界中に点在しているYouTuberと日本をつなぐ架け橋となれたかと思います。現状では訪日外国人の約7割がアジア圏の方で、そこに向けたプロモーションとして展開をしていく上では強いメディアになってきたと思います。

― 今回のアジア戦略パートナーシップを結んだことで、Yummy Japanが抱えているYouTuberのファン数の合計はどれほどになるのでしょうか。

合計登録者数(ファン)は9億2000万人です。

― クリエイターが使用するカメラ等の機材はかなり高価のものなのでしょうか?

いいえ、スマートフォンのカメラなどを使って日常を発信している動画から、360度カメラや高額機材を使用して作り込む動画まで企画やクリエイターの切り口によって使い分けてはいます。いずれにしても昔のように何千万円もする機材を使わずとも美しい映像が撮れるようになりました。

もともとYouTubeは誰でも動画を投稿できるというところに特徴があったと思いますが、あえてYouTuberに動画制作を委託することの意義はどうお考えですか?

写真:2

YouTuberが発信したことに対するファンの感覚は非常に鋭敏です。つまり、YouTuberの発信するメッセージは、一般的な企業CMよりもずっと影響力が強いのです。実際にクリエイターが使ってみたこと、体験したことなど、彼らの言葉で発したことは非常に透明性がある情報としてファンに伝わります。そのためYouTuberたちの動画は企業CMに比べて平均視聴時間が非常に長く最低でも5分はあります。ファンの人たちに誤解を与えず訴求できるという意味では、プロモーションツールとして相当に影響力のあるメディアだと思っています。

― プロモーション動画を見た日本国外の視聴者が、動画で紹介されている日本の特定の場所まで実際に足を運ぶまでにどれぐらいの時間がかかると想定していますか。

タイミングはいろいろあると思いますが、一般的に情報収集は旅行に出掛ける3~4か月前から始まるといわれているので、最低でも3か月から半年はあるかと思っています。ただ、以前YouTuberがとある地方の紹介をしたところ、その次の日に動画を観たファンが同じルートを回っていたと聞いてとても驚きました。

― 技術的にはアウトバウンドも出来るなか、あえてインバウンドに注力している理由をお聞かせください。

この事業を立ち上げる際に、外国人が日本の情報を探すすべがなく困っているよね、という話からスタートしたのですが、その約3か月後に和食が世界遺産になったり、東京オリンピックの開催が決まりしました。YouTubeのプラットフォームの特性上、世界に発信できるにもかかわらず、日本の情報そのものが外国の方々に浸透しきれていないと以前から思っていました。日本のトリッキーまたはハイテク過ぎる部分やラーメンを食べるのに券売機で買うというシステムなどは、海外ではあまり見かけません。外国人の方が訪日したときに困るだろうこうした一連の事象を、動画であれば見るだけで学ぶことができます。そういうものを発信していけたら面白いかなというのが、もともとの事業立ち上げのきっかけだったので、いまはインバウンドに注力しています。

― 旅先の情報をYouTubeで収集する人は海外のほうが多いのではないかと思うのですが、いかがでしょうか?

そうですね。視聴者層をみていると、日本の年齢層は割と低めです。それに比べてアメリカはじめ欧米は特に50~60代の方が一般的に動画で情報収集されているというデータは出ているので、そこは日本とは違うかもしれないですね。

マルチチャンネル ネットワークはクリエイターにとっても有益

― YouTubeのMCN(マルチチャンネル ネットワーク)についてもう少し詳しくお教えください。

基本的にYouTubeでアカウントを開いて広告設定をオンにすると、再生回数に応じてGoogleから直接YouTuberのところに広告収益が振込まれる仕組みとなっています。Googleも再生回数が非常に多いクリエイターはプロモーションを行うなどのサポートをしていますが、すべてのクリエイターにそのようなサポートを提供するには限界があります。そこでMCNに加入することで、YouTuberはMCNが提供するサービスやサポートを受けることができます。

例えばYummy Japan の傘下に入ることで映像制作のノウハウやテクニックはもちろんのこと、制作した動画を多言語化のサービスを受けることができます。英語で発信しているクリエイターが実はこのコンテンツは日本でも見てもらいたいという場合、英語だけでは日本のファンというのはなかなか集まりづらいのですが、日本語の字幕をつけることで日本人のファンを取り込みやすくなります。またインドネシア語や中国語などをつけるとその地域のファンを増やすことが出来るので、Yummy Japanでは字幕対応のサービスも提供させていただいています。こうした作業は一人でやるとコストも負荷もかかりますが、これらを一括してサポートすることでクリエイターには動画制作に専念していただきたいと思っています。

― 外国人向け動画プロモーションを制作する上では、日本人ではない現地の方の目線が重要なポイントになりますね。

日本人にとっては当たり前のことに外国人は着目します。私も日本人なので気付くことのできない部分なのですが、一緒に撮影同行していて、例えば行列が出来ていると、日本人は行列の先に何があるのか気になると思います。一方外国人は行列自体が面白くて写真を撮り出します。旅館できれいに並んでいるスリッパがあれば日本的だと感動して撮影します。日本だと当たり前のことですが、そういう部分が外国人目線なのだと思います。

― 中国マーケット事情についてお教えください。

写真:3

中国に関してはデジタル・アドバタイジング・コンソーシアム様のご協力のもと、中国の動画共有サイトのYoukuとQQにYummy Japanのアカウントを開設し、日本の情報を発信しています。そこで動画の展開と、さらにそこから現地で影響力のあるKOL(Key Opinion Leader)を起用した拡散を展開しています。また、中国で影響力のある在日の中国人インフルエンサーとのネットワークを構築し、彼らを起用した拡散も展開しています。

― 中国だけでなくアジアの戦略パートナーシップを締結したことで、御社のビジネスもかなり幅が広がりそうですね。

そうですね。現時点での注目市場は、台湾、中国、香港という日本から近いアジア圏なのですが、今後5年後、10年後と見据えたときにはインドネシアを始めとしたムスリム圏や、ベトナムなどがターゲット市場となると考えています。今はそこに向けた施策として、現地イベントへの参加や日本でムスリム向けのメディア展開をしているハラールメディアジャパンとの連携でムスリム向けのコンテンツ制作に注力しています。

動画制作は10万円から可能

― 動画制作にかかる費用について教えてください

YouTuberやターゲットとなる国の指定がなく、スタートアップ段階のクリエイターによる動画制作であれば10万円からご案内しています。ただ例えば「台湾の20代の女性にリーチさせたい」というようなご要望をいただいた場合はターゲットマーケティングの観点が必要になるため、そこに最大限リーチできるご提案をさせていただきます。さらに、海外で人気のあるメディアとの連携により、YouTuber のチャンネルに動画をアップするだけではなく、さらにその動画に関する記事を制作・掲載するオプションを展開しています。

― 貴社の売上推移をお教えいただけますか。

ちょうど2期目が終わったところなのですが、1期目が2500万円、2期目が4000万円くらいの売り上げです。3期目に入った今年が勝負かなと思っています。

― やはり東京オリンピックの2020年がひとつのピークになると考えていますか?

そうですね。過去のデータを見ていると、オリンピック開催都市は、オリンピック終了後も10年は観光客が伸び続けているデータがあります。なので、そこを考えると訪日事業は2030年くらいまでは見込めるのではと思っています。

― 今後は動画プロモーション以外にどのようなソリューションの提供があり得るのでしょうか?

インバウンドという言葉はよく耳にするようになりましたが、実際には日本で外国人を受け入れるためのサービスが揃っているという段階に到達していないのが現状です。例えば海外からお客さんを呼びたいけれどお店側の受け入れが出来ていない、そもそもメニューが外国語対応していない、言語対応できる方がいないなどまだまだ課題は多いようです。今後日本が観光立国を目指していく上で、必要なものや問題はあるので色々なソリューションをご提案できればと考えています。

まずは知ってもらうという意味でのプロモーションは弊社としてお手伝いできるのですが、それ以外の受け入れの部分などをご相談いただくことも多々ありました。そこでなにかできないかと思い、外国人受け入れのためのソリューションをもっている会社と連携することでPR以外のサービスもご提供できればという思いからインバウンドソリューションを持つ4社で協議し、昨年夏に、「ミクシディア」というインバウンド連携サービスを立ち上げました。多言語化対応のコールセンターを展開するブレインプレス、ムスリム対応のハラールメディアジャパン、WEBやSNSの多言語化対応を提供するa2mediaの4社で訪日前から訪日中までをワンストップでご提供できるソリューションをご提供しています。

― その他の点も含めて、今後の展開についてお聞かせください。

インバウンドを基軸としていく中で、現状は日本から世界に情報を発信していますが、これからは実際に海外に実店舗を設けて海外からYummy Japanを発信していき、グローバルな展開をしていきたいです。また、将来的にはアウトバウンドもやりたいと思っています。海外旅行に出掛ける日本人向けの海外情報を動画で訴求していきたいと思っています。

ABOUT 長野 雅俊

長野 雅俊

ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。