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媒体社の頭脳に-日本独自のパブリッシャー・トレーディングデスクを目指すbrainyの挑戦 [インタビュー]

今年3月にオプトから独立して設立された brainy
SSPから、まだあまり聞き慣れないパブリッシャー ・トレーディングデスクへと業態を変えて、どのようなビジネスをするのか。パブリシャー・ トレーディングデスクという業態に対する同社ならではの想いと役割、そしてビジョンについて、代表取締役CEO 山岡 真士氏、パートナーブレイン戦略部 部長 米山 小百合氏にお話を伺った。

(聞き手: ExchangeWire Japan 野下 智之)

― 自己紹介をお願いします。

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山岡氏: 私は2006年にオプトに入社後、メディア向け事業を行ってまいりました。2011年にccc社と合弁で設立したPlatform IDに移り、SSP事業に携わりました。

そして2015年4月に、同社事業のうちSSP事業をオプトに移管したタイミングで私も一緒に戻りました。

2015年から徐々に業態をSSP事業からパブリッシャー・トレーディングデスク(PTD)に転換しました。そして今年3月にPTD事業を切り出してbrainyを設立、代表職に就きました。

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米山氏: 私は2009年に新卒でオプト入社後アドサーバー営業を続けてまいりました。2011年にPlatformID設立時に参画しました。もともとお付き合いのあった媒体社様を中心に配信在庫の拡大に取り組んだり、DSPで使うオーディエンスデータを集めるため、パートナー拡大などに取り組んできました。

SSP事業には、山岡同様に2012年の立ち上げ時から関わっており、2015年にオプトに戻り、brainyの立ち上げに参画、現在はパートナーリクルーティングから導入、運用、バイヤーへの交渉などを一括して行うパートナーブレイン戦略部で部長をしております。

オプトグループでメディアビジネスにコミット

― 今回オプトから独立されて会社を設立したのはなぜですか?

山岡氏: オプトのメイン事業である広告代理事業は、主に広告主様側に向き合ったビジネスをしています。一方で、私たちは媒体社様に向いたビジネスです。広告主様側に向き合うオプトは主に、お客様のご予算をお預かりし、プロモーションの費用対効果を高めていくことがミッションです。一方で私たちが行っている事業は媒体社様向けの事業であり、広告枠の価値を高めていくことがミッションです。どちらもデジタルプロモーションの市場拡大・創出という点では共通ですが、向き合うお客様は異なります。事業が本来の方向性からぶれることなく、オプトグループの中でメディアビジネスにコミットするために分社化しました。

― メディアの広告ビジネスを取り巻く現在の市場環境についてお聞かせください。

山岡氏: 一言でいうと、とても複雑になってきています。まず、4-5年前に始まったProgrammaticが、広告の取引方法を大きく変えました。RTB、PMP、Programmatic Direct、Header Biddingなどの新しいキーワードが1年で数個のペースで次々と現れました。デバイスはPC・スマホ、フォーマットはアプリ・ネイティブ・動画など多様化が進みました。

これに関連して、アドテクベンダーが乱立し、業界マップの複雑化が進みました。DSP、SSP、アドエクスチェンジなどの業態で、国内でも数十に及ぶ事業者の参入がありました。

媒体社様は、この中から様々なものを吟味して使う必要があるということの重要性が高まってきております。最適なベンダーの組み合わせ、運用の方法は本当に枠毎に違うということも、明らかになってきました。それにより同じ業種の媒体間でも、差が出ることがあるのです。

米山氏: これらのツールをしっかりと使いこなせている媒体社様もいらっしゃるのですが、全ての媒体社様が使いこなすのはなかなか大変なことだと思われます。

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ここ数年で海外から高機能なSSPを提供する事業者も参入してきていて、既存の事業者と組み合わせて最適化する事がなかなか難しいという声も耳にしたことがあります。

山岡氏: 現在使用しているテクノロジーに関しても、例えば一つのものに依存し過ぎたり、自社だけでは変化の速いサービスに関連する情報をキャッチアップしきれないことなどに関して不安を感じたり、心配することもあるようです。

SSPではなく、パブリッシャー・トレーディングデスク

― 今回SSPとしてではなく、パブリッシャー・トレーディングとして会社を設立した背景はどこにあるのでしょうか。

山岡氏: グローバル市場に目を向けると、SSPのテクノロジーの進化はものすごく速く、Programmaticの取引形態やルールも日々変化を続けています。

欧米の大手SSPでは、数百人規模の開発者が日々プロダクトの改善を行っています。そのような環境の中で、当社がSSPとして自社開発を続けることが収益性の観点で合理性があるのかということが、まず一つありました。

もう一つは欧米と日本の市場環境の相違も挙げられます。1つのSSPを利用する欧米市場と異なり、恐らく日本の媒体社様は、今後も複数のSSPやアドネットワークのソリューションを併用するという状況は変わらないでしょう。そのような中で、媒体社様を支援できるのは、複数あるSSPの中のひとつではなく、SSPやアドネットワークなどの特性を把握して収益の最適化支援が出来るパブリッシャー・トレーディングデスクだという考えに至りました。

米山氏: 当社のSSPも引き続きあるのですが、そのパフォーマンスが優れなければ、他社様のSSPを利用することも当然あります。その点は客観的な判断を優先しています。

― 媒体社に対する提案は、これまでとはずいぶん変わったということですね。

山岡氏: はい、大きく変わりました。SSPの時は、「導入してください」でしたが、今は「枠を預からせてください、運用させてください」という提案をしています。

SSP経由でDSPからRTBで買い付けをするのみでマネタイズしていくのにはやはり限界があります。いわゆる、クッキーが当たり、ターゲティングが出来、費用対効果が合うものしかDSPはバイイングしませんので、打ち手には限りがあったわけです。

パブリッシャー・トレーディングデスクとしての今は、(純広告以外の)枠在庫をお預かりして、収益化の範囲を広げることが出来ました。この部分については我々の方で事前にアドネットワークなどと契約を交わすなどによりマネタイズを出来るようにします。

― 貴社のサービスを利用する媒体社側のメリットはどのような点でしょうか。

山岡氏: 凄くわかりやすくいうと、手間や工数が省けるということです。沢山のツールを使い沢山の取引手法を使わないと収益の最大化が難しいですが、いち媒体社様がそれを単独で行うのは大変なことです。各社との契約もさることながら、管理画面の操作やタグの設置、テスト運用など、やるべきことは尽きません。ですが、当社に任せていただければこちらで全て対応いたします。
多種多様な媒体の広告枠を扱う事によりベンダーと広告枠の相性など、収益化の傾向を幅広く把握でき、それを活用できるのもパブリッシャー・トレーディングデスクを利用することのメリットです。

海外とは違う独自の業態

― 貴社のような業態を展開している事業者は海外にも見られますか。

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山岡氏: 言葉こそは同じであれ、海外で言われているパブリッシャー・トレーディングデスクと、当社がいうそれとでは、モデルが異なると考えています。日本独自の業態と言えるかもしれません。

パブリッシャー・トレーディングデスクという言葉は、日本に入ってきてその意味合いが変わっているように思います。米国のそれは、媒体社様のデータをマネタイズ支援することが目的の業態を示しています。ですが日本ではデータボリュームが小さく、まだワークしきれていません。

一方で、日本で媒体社様が今困っているのは、ウォーターホール型と呼ばれている、タグの中にタグがあり、またそこにタグがあるというような状態において、これらを全てトレーディングしてマネタイズしなければならないという難しい状況についてです。これを支援するのが、「パブリッシャー・トレーディングデスク」というのが今の日本での意味合いではないかと我々は考えています。

米山氏: 現在国内媒体社様側数社で独自にパブリッシャー・トレーディングとして取り組んでおられるケースもありますが、これは米国のそれに意味合いが近いです。当社が目指すパブリッシャー・トレーディングデスクとは、異なるのではないかと考えております。

― 貴社で現在運用支援をされているのはどのような媒体ですか?

山岡氏: いわゆる法人のプレミアム媒体が中心になります。新聞系、雑誌系、ニュースサイト、ポータルサイトなど、コンテンツをしっかり作りこんでいるところです。

― 媒体社が貴社のサービスを受けるまでの準備期間はどのくらいかかりますか?

米山様:早ければ決められてから一週間程度で開始できるケースもあります。契約に関わる業務を除けば、媒体社様にお願いするのは、タグを入れていただくだけです。

結果を返すことで得られる媒体社からの支持

― SSPを使って貴社が運用されるということは、結果的に売り手から買い手までに多くの事業者が介在し、マージンが積み上がるというイメージもありますが、それに対して媒体社側からなにか言われることはないでしょうか。

山岡氏: brainyが介在する価値をお伝えし、媒体社様が求める水準を事前に協議してから枠をお預かりしています。マージンの積上により媒体社様の収益が下がることになればそもそも在庫はお預かりできないのです。もし結果が出なければマージンなどの理由に関わらず、媒体社様は当社のサービスを使われなくなるだけです。運用の結果が全てを物語ります。

― 今後日本で貴社のようなパブリッシャー・トレーディングデスクは出て来ると思いますか?

山岡氏: 我々よりも早く同じモデルを展開されている事業社さんもすでにたくさんありますし、今後増える可能性もあります。ただ、私たちのノウハウは人や媒体社様との関係性に拠るところも大きく、参入はしづらいのではないかと思います。

米山氏: 他のSSP事業者がそのビジネスの延長として始めるケースはあるかもしれないですね。

山岡氏: ただ、他のSSP事業者さんとも私たちは協業をしているので、各社で一緒に業界を発展させていこうという雰囲気ですね。各社ポジションが違うので、共存していくとみています。

「媒体社の頭脳に」が、brainyのビジョン

― 今後の事業構想についてお聞かせください。

山岡氏: まずは、パブリッシャー・トレーディングデスクというサービスをしっかりと作り込んでいきます。その後は、激しい市場環境の変化を踏まえて、媒体社様側に近い立ち位置での関係性を高めながら、提供すべきサービス形態の方向性を定めていきたいと考えています。

米山氏: そもそも私たちがパブリッシャー・トレーディングデスクを立ち上げた理由は、媒体社様に色々なサービスやコンテンツをもっと沢山作っていっていただきたいという想いです。
私たちが媒体社様の広告ビジネスを支援することで、その時間をよりコンテンツ作りに充てていただければと思っています。そのために最適なプロダクトやサービスを都度提供していければと思います。

― 最後にメッセージがあればお願いします。

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山岡氏: 私たちは、媒体社様の頭脳になりたいというビジョンがあり、そこからbrainyという社名を付けました。
コンテンツをしっかりと作られている媒体社様に対して、本来お持ちである価値に対しての対価をデジタルの領域でも還元して差し上げたいという想いがあります。

媒体社様がしっかりとコンテンツ作りに専念いただけるような、広告ビジネスにおける頭脳となれればと思っています。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。