デジタル広告ビジネスの変化にどう向き合うべきか -スマートニュース 菅原健一氏に聞く-[インタビュー]

アドフラウド問題をはじめ、デジタルメディアの広告ビジネス環境を取り巻く課題は、今年も業界内で大きな議論のテーマとして取りざたされている。
自身のキャリアにおいて、マーケッター側、メディア側の両方の目線でデジタル広告ビジネスに向き合ってきた、スマートニュース 菅原健一氏に、その本質や昨今の議論に関する意見を伺った。

(聞き手: ExchangeWire Japan 野下智之)

日本のデジタル広告業界は買い手に偏ったいびつな構造に

― 昨今のメディアのデジタル広告ビジネス環境をどのように見ていますか?

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アドフラウド問題などにも対応しなければならないなど、メディアが収益を上げるのにテクノロジーを使わなければならない場面が増えてきています。

現在、日本はいびつな状況下にあります。テクノロジーが複雑すぎます。広告主は広告、アドテク、インプレッション、それぞれの単位で買える最適化の方法を持てています。

一方で、メディア側はうまくそれをキャッチアップできておらず、良い売り方もできていません。買うほうだけが恩恵を受け、メディア側はそれがうまくできない、使えない状況にあるのです。これは大きな問題です。

さらに追い打ちをかけるように「広告主が買った広告がビューアブルではない」「見られていたとしてもロボットかもしれない」「クリックされていてもヘビークリッカーかロボットかもしれない」という心配まであります。

運用コストもすごくかかって大変ですし、メディアも広告主がインプレッションでしか買わないならインプレッションを増やすためにコピペの記事も出してしまう、というような問題が起こっています。これは2016年に象徴的だった問題で、業界全体がこのままでよいのかと思ったタイミングだったでしょう。メディア自体のマネタイズが以前からうまくいっていなかったのが顕著に出たといえます。

進むべきは量から質への転換

― 課題の本質はどこにあるのでしょうか?

今は、アドテクを使ってインプレッションを大量に買って、買った後にそれが良かったかどうかを評価して選別するスタイルですが「ものすごく安いものをいっぱい買って、気がついたら大半が不正在庫だった」という状態になってしまっています。つまり、安いからとたくさん買ったら全然良いものではなかったということが起きているわけです。

例えば「SmartNews」というアプリをインストールしてもらうのに、アドフラウド対策の費用もかかります。マーケティングのチームが広告費をかけたり、大量に買ったりしたインプレッションにどれぐらいムラがあるかを見たりしていますが、とても見られたものではありません。SmartNewsはSmartNewsに広告を出せないので、SmartNewsのユーザーを増やすために、SmartNewsのような質のよいメディアに広告を出したいが、それがないのです。

今業界で話題となっている、アドフラウド対策は一般の代理店やマーケッターができる仕事だと思いません。なぜならテクノロジー企業が時間をかけてやっても、半分以上不良在庫のような状態なのを見ているからです。こうした問題は、本当に手間がかかる作業で、一般のマーケッターがそこまでする必要があるのかというのは疑問だと思っています。それよりむしろ、労力やコストは、テクノロジーに払うよりメディアの選別にかけたほうがいいと考えます。

広告主や代理店がまず取り組むべきは、メディアのホワイトリストを作ることです。アドフラウドが発生しないメディアを選別し、そこに出稿するようにする。
私たちデジタル広告業界は、いたずらに危機意識をあおり、マーケッターに新たなテクノロジーコストを課して対応を迫るよりも前に、するべきことがあると私は思います。

― 課題に対して、どのようなことに業界は取り組んでいくべきでしょうか?

量的指標のもとに追い続けて、いっぱい買って、そこから選別してよいもの、おかしくないものを見つけるよりは、ユーザーの質が高くて自分たちの商品を買ってもらったり、自分たちのサービスを使ってくれるユーザーがどこにいるのかを探したりする質的指標で見たほうがよいでしょう。

自分たちのサービスを使ってもらう、商品を買ってくれるのに適したユーザーがどこにいるのかをインプレッションから見るのではなく、選んだメディアの中からどこにいるのか探す必要があるのです。

2017年に進むべき量から質への転換

出典:菅原健一氏作成プレゼンテーション資料

マーケッター・代理店が運用地獄から解放される方法

― 運用型広告が市場の趨勢を占めつつある中で、マーケッターや代理店がどのようにしたら運用地獄から解放されるとお考えですか?

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先ほどの話に繋がりますが、やはり質の高いメディアに出すようになれば運用地獄から解放されるかなと思っています。

繰り返しになりますが、アドフラウド対策をマーケッターや代理店がやりはじめるときりがなくなってしまいます。
もともとアドフラウド対策をされているメディアだけを買うようになれば、負担は減ります。

アドフラウド対策をしているメディアや、良質なユーザーがいるメディアは効果が高いのです。「厳しく運用して、DSPでデータを使って対策して、ターゲティングしつつ切るところを切って、少数ですが質のいいユーザーさんを見つけてきました」というキャンペーンのCPAが、SmartNewsのブロードリーチと同じCPA(ユーザー獲得単価)だったという例がありました。

良い読者、良い視聴者がいるほうのメディアを通じて、そこにいる読者・視聴者と良いコミュニケーションをとるにはどのようにすべきかというような、雑誌やテレビなどのマスメディアで考えられていたことが戻ってくるのではないでしょうか。

メディア横断でクリエイティブを作ると、結果として、読者不在、視聴者不在のメディアに出してしまうことになり、インサイトはなんにもつかめず、クリエイティブも濫発しなくてはなりません。ユーザーのモチベーションを理解してクリエイティブをつくることが大切なことです。

ネットメディアでは運用型の解釈をはき違えて、メディアを横断しすぎているように感じます。SmartNewsでいうと、ユーザーは今日はどんなニュースがあるかなというモチベーションで来ているので、情報価値が高い広告はとても良いわけです。「iPhone7が発売されました」「春の○○キャンペーンを開催しています」などというのはユーザーが等身大の課題を持っていて、「携帯を買い換えなくちゃ」とか「新しいものが出た」というのはその人にとっては広告ではなくて、コンテンツとしての意味を持ちます。季節性や時事性の高い商品はニュースにとても合っていて、読者がいるメディアに届けようとしていることがわかります。

いまは、そういった意味でも二極化していて、マーケッターがどっちの道に行くのか大事な転換期だといえます。個人的にはどちらの側も経験してきましたが、ダイレクトレスポンスは運用地獄に突入するとも思っていなくて、そういう運用型でも良質なメディアに出せばちゃんと取れるところはあると思います。

必要なのは認知や再生完了単価ではない、時間を軸にした指標

― スマートニュースが提唱されている新しい指標についてお聞かせください。また、新しい指標を普及させるには、今後どのような取り組みが必要でしょうか。

広告で見る指標はインプレッションですが、見られてない可能性があるので、ビューアブルインプレッションを使います。しかし、これにも問題があります。バナー広告の場合、画面には出ているけれど、結局はユーザーの目に入っていない状態もあるからです。これは良くない点で、ユーザーが見たという指標がほしいのですが、それはまだありません。

そこで疑似的に、フィードの中に入ってくる広告を指標として見ます。これはユーザーがどの記事にしようか考えて選んでいるものですから、そこに映っているビューアブルインプレッションについては、ユーザーが見ているものだといえます。

雑誌でたとえてみれば、1冊買ったら割と長く読むでしょう、500円で出して買えば、1分しか読まない雑誌はおそらくありません。月刊誌なら1か月で何分、何時間見てもらえるのが雑誌で、その中に広告を入れればしっかり読んでもらえる、しっかり見てもらえる可能性が高いのです。テレビも同じで、テレビCMを打つということは、1クールのドラマの中で定期的に広告を出してその時間、たとえば30秒をしっかり見てもらえるから出しているといえます。

しかし、ネットでインプレッション広告になったとたん、バナーを数秒見せることしか保証されず、しっかり見てもらえているかどうかがわからなくなってしまったのです。ですから、ちゃんと読者や視聴者がいるメディアに広告を出して、たとえばSmartNewsなら1人が1日あたり12分見てくれるというデータがあり、12分間ちゃんと読んでもらえます。このように、ユーザーが持っている時間の分母が大きなところに広告を出さなくてはならなりません。

時間に関する定まった指標はまだありませんが、作るべきだと考えています。インプレッションからコンバージョンまでの間が空きすぎていて、メディアを横断しているので「インストールされるならどこでもいい」という考えかたはブランディングには向きません。

いま急務なのは、ナショナルクライアントも安心して広告が出せる、詐欺がなく、ナショナルクライアントが伝えたいメッセージを30秒とか1分の動画で見せたり、ランディングページを1分読んでもらえたりするメディアを作ることです。雑誌やテレビの方法を追従したほうがよいと考えています。

現状では、ナショナルクライアント自身も含め、日本のマーケッターは認知を取ることしか指標になっていません。ブランドとユーザーがエンゲージしてアクションするのは「認知があって」「興味があって」「理解があって」「共感するから」「アクションする」という順番があると思います。

たとえば動画で秒数を短くして商品名を連呼すれば、認知はされるかもしれませんが、その商品の効果はわかりません。「指標が認知です」「再生完了単価です」となるとそれに最適化はしますが、目的を間違えてしまっている状況です。マーケッターは商品を売りたいし、買って使ってほしいのです。しかし、ネットで取れるのが認知と再生完了単価になってしまうと、とたんに秒数を短くすればよいのだとなってしまって、商品の良さがまったく伝わりません。

アドテクは、デジタル広告市場2兆円に向けブランド支援に

― メディアの広告ビジネスの変化に対するニーズに、アドテクはどのようにキャッチアップしていくべきでしょうか?メディアはアドテクに今どのような価値提供を期待しているでしょうか?

アメリカでは、アドテク業界、マーケ業界を動かしているのはナショナルクライアントの声です。一方の日本では状況が異なりますし、また日本ではアドテクは圧倒的に複雑です。運用が細かすぎ、データも整っていません。ナショナルクライアントがマスマーケティングの流儀で広告を出すには技術的に複雑過ぎるのです。

月数百万の予算でどうやってCPAをよくするかというのが主流のアドテクマーケットだった日本という経緯があり、ナショナルクライアントが意見を言いにくいマーケットができあがっているのが大きな問題です。予算を持っている人の声が通りづらいのです。それでも、あと数年のうちには、ナショナルクライアントがブランディング予算を使えるマーケットを作りたいと思っています。

現在、日本ではテレビ広告が2兆円、デジタル広告が1兆円の規模です。このなかにダイレクトもブランディングもファネルの上も下も全部入っています。それなのに技術的すぎる仕様なので、進化が遅いのです。本当はもっとナショナルクライアントの意見を取り入れてブランディングをしたり、ファネルの上だけではなくて全体の管理ができる仕組みを作ったりなど、ニーズに応じて作れるようにならなければなりません。これができれば、そこからテレビとどうつなげようかということが議題に上がってくるようになるはずです。

デジタル広告を1兆円から2兆円にすることはできると考えています。TVの2兆円のうち1兆円をデジタルTV広告にすることでデジタル広告は2挑円に成長します。そのときにはナショナルクライアントの予算の中でデジタル比率が上がって結果的に1兆円+5千億円がブランディング予算として運用される時代になっていくのではないでしょうか。

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野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長
慶應義塾大学経済学部卒業。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2014年10月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価機関デジタルインファクトを設立し、プロジェクトディレクターに就任。