「タイミング・市場・戦略のすべてが揃った」-ARスマホ広告の英Vykingが日本に上陸 [インタビュー]

次世代テクノロジーとして注目される拡張現実(AR)は、アドテク分野ではいかに活用し得るのか。その答えの一端を知るのが、英米市場で先行事例を生み出している英ベンチャー企業のVyking(ヴァイキング)社だ。英国大使館の国際通商部が企画した商談会に参加するために来日したCEOのマシュー・クランプカ氏とCTOのステファン・クランプカ氏にAR広告の最新動向について話を聞いた。

(聞き手:ExchangeWire Japan 長野 雅俊)

広告ビジネスがARの可能性を切り開く

― まずは事業の概要をご説明いただけますか。

CEO: 当社は、画像処理及び画像分析を専門とするVykingという名の会社です。SDKを通じて、顔認識を行うソフトウェアと非常に高性能なグラフィックエンジンを提供しています。

我々にとっての顧客は、大きく分けて2種類。一つはいわゆるミレニアル世代が好んで利用する、カメラ機能や音楽機能付きのアプリ開発者たち。彼らが開発したアプリを我々のSDKと統合させることで、AR機能や顔認証技術を活用しながら広告コンテンツをユーザー向けに提供することができるようになります。

また広告主や広告代理店も大事な顧客です。ネスレ、ユニリーバ、ディズニーといった大手企業や美容ブランドなど、AR機能を活用したキャンペーンを展開したいと考える企業とのお付き合いがあります。こうした企業はVykingのテクノロジーを利用することで、弊社ネットワークを通じて、アプリ内でAR広告を配信しているのです。

―「AR広告」とは具体的にはどのようなものなのでしょうか。

CEO: 例えば、以下の画像が示すようなユーザー体験を楽しむことができます。

ご覧のとおり、顔の表情に反応する仕組みとなっています。例えば、ユーザーが笑顔になると、アニメーションが動き出すといった具合です。インタラクティブな要素を含んでいるので、ユーザーのエンゲージメント率が非常に高いという点に特徴があります。

こうしたアプリの利用者は、従来のバナー広告の代わりに、AR広告を目にすることになります。つまりユーザーは、インタラクティブでかつエンターテイメント性の高いコンテンツを通じて広告主との関係を構築するということです。

私が知る限り、純粋に楽しい体験をしたいという目的のために、ユーザー自らがモバイル上のブランド・コンテンツを利用する仕組みはかつて存在しませんでした。AR技術については様々な可能性が議論されていますが、我々は広告ビジネスがその可能性を切り開いていくと考えています。

現状のモバイル広告形態には致命的な欠陥がある

― 本事業を始めるまでの経緯を教えてください。

CEO: もともとは媒体社向けの動画広告フォーマットを提供する会社として起業しました。いくつかの広告キャンペーンに携わった後に、画像処理及び画像分析を行なう新規チームを設立。今では社内のすべてのリソースをARに注ぐようになりました。だから「AR技術を活用したアドテク事業」という現在の事業モデルに行き着くというのは、我々にとってはごく自然な流れでした。

COO: 同時期にSnapchatがAR技術を使ってマネタイズに成功していた事実にも良い刺激を受けました。我々もSDKを使った仕組みで同じようなことができるのではないかと考えたのです。

― どのような企業と取引をしているのでしょうか。

CEO: 米国ではネスレウォーターズ社、英国では携帯事業者の3(スリー)社が主な顧客です。彼らのAR広告を、グローバル規模でトラフィックを集めるアプリ・パブリッシャー向けに配信しています。

― 広告主にとって、AR広告にはどのようなメリットがあるのでしょうか。

CEO: まず、モバイル広告においては長らく画期的なイノベーションが生まれていなかったという現状があります。バナー広告はインタラクティブ性に欠ける。動画はいまだにテレビのフォーマットを流用している。ユーザーは一日の大半をモバイル上で費やすようになっているにも関わらず、モバイル広告への支出は同じペースでは増えていない。現状のモバイル広告形態に何らかの致命的な欠陥があるからです。

そこで我々が、ユーザーのエンゲージメントが高く、かつエンターテイメント性に溢れたインタラクティブなモバイル広告フォーマットを開発しました。ユーザーが欲していたのは、まさにこれだったのです。次世代ユーザーは非常に賢く、マーケッターとの距離の取り方をよく知っています。ユーザー体験を高める工夫をしなければ、彼らはいとも簡単に広告を無視してしまうでしょう。ネスレを始めとする広告主は、その危険性を十分に理解しています。だから、AR広告に多大な投資をしているのです。

AR広告はペイドメディアかつアーンドメディア

― 広告効果においてはどのような違いがありますか。

CEO: 各広告主は現在、AR広告枠におけるユーザーの平均利用時間や、本当の意味でのエンゲージメント率を示す計算式など新たなKPIの設定に向けて様々な試行錯誤を繰り返しているところです。

COO: ちなみに我々のAR広告の平均利用時間は15秒です。しかも我々のAR広告は、人間の顔を認証したときのみ表示されます。つまり広告主にとっては、ユーザーが実際にその広告を使って楽しんでいるということがはっきりと分かるわけです。

またこれまで広告とは単にユーザーに閲覧されるだけのものでした。AR広告では、ユーザーも広告の一部になるというのが大きな違いです。

CEO: ユーザーは広告の閲覧者であるだけではなく、制作者にもなるということです。ユーザーが広告の一部となり、広告を制作し、その広告を楽しみ、他のユーザーと共有する。つまり多くのユーザーにシェアされれば、AR広告はペイドメディアであると同時に、アーンドメディアにもなるということです。

― 「AR広告市場」はまだ形成されたばかりという段階なのでしょうか。

CEO: 純粋な意味でのアドテク事業者がアプリ向けにAR広告技術ないしフォーマットを提供するのは我々が初めての例ではないかと思います。より広い観点から見渡せば、SnapchatやFacebookが同様の広告商品を提供しているので、我々は「第三のAR広告事業者」として位置付けられるのかもしれません。

我々はアプリ・パブリッシャーにとって、ARを通じたユーザーのマネタイズの可能性を切り開いたという矜持を持っています。そもそも従来の広告形態と同じ枠組みでAR広告を捉えてよいかどうかもよく分かりません。インタラクティブ性を持った楽しみを提供するという意味では、広告というよりもむしろユーザー体験として扱われるべきものなのかもしれません。

ちなみに、iOS 11やAppleのARkitを使って開発されたカメラ機能搭載のアプリが今年も続々とリリースされています。我々のSDKもこれらのアプリに統合できるように準備を進めているところです。

― 日本市場に対する印象をお聞かせください。

CEO: 日本市場に対しては大きな期待を抱いています。まず、アプリの利用者が多いという、我々のビジネスを運営する上での前提条件をクリアしています。またどこにいても、4GネットワークやWi-fiにつながることができる。広告主もユーザーもAR広告全般に興味や関心を持っている。3Dコンテンツ領域における優秀なクリエイターが多数揃っていることも我々にとっては好材料です。日本での良きパートナーを見つけることができたらと思っています。

AR広告市場に参入するには最適なタイミング

― 日本においても過去にAR広告事業を展開しようという動きがあったものの、失敗に終わったものも少なくなかったと聞いています。

CEO: そういった事例があることも承知しています。ただし、そうした事例と我々の事業モデルには大きな違いがあります。ある事例では、自社アプリを運営しようとしていました。この事業モデルだと、ユーザーを自ら集めなくてはなりません。私はもともと大手メディアの広告事業に携わっていた経験があるので、大量のユーザーを集めるのがいかに大変であるかを十二分に知っているつもりです。

一方、我々は自らメディア運営は行いません。メディアに対してSDKを提供するだけです。つまり、既に大量のトラフィックを集めている既存のアプリを最大限に活用できるのです。

COO: 言い換えると、既にアプリ・パブリッシャーとのネットワークを構築しているので、広告主は容易に広告キャンペーンを展開することができます。

また当社では、3Dコンテンツを14日以内で制作できるという点も大きいです。広告業界というのは、非常に動きが速い。クリエイティブを短い期間で制作できるかどうかが鍵となります。

CEO: リッチメディア広告をプログラマティックに提供する企業はほかにもありますが、VykingのAR広告は段違いのクオリティーを持っています。我々はSnapchatと同様にOpenGL技術を活用しているので、非常に高度なインタラクティブ体験を作り出すことができるのです。

COO: もう一点挙げるとすれば、かつてはAR広告市場というべきものが存在していませんでした。ところが、Snapchatが「スポンサードレンズ」という概念を広めて、さらにはFacebookがARのプラットフォームを立ち上げたことで、顔を写した画像とAR技術を組み合わせるという行為が一般化し、新しい市場ができた。言い換えれば、ユーザー行動を新たに作り出す必要はないわけです。これが過去に失敗した事業者との大きな違いです。AR広告市場に参入するには最適なタイミングと言えるでしょう。

― 最後に、プライバシーに関する懸念についてご説明いただけますか。

COO: 我々の技術では、ユーザーの画像や映像を保存しません。また英国におけるあらゆる法的な規則を遵守しており、またその他のあらゆるデータは匿名化された上で保存されます。よって、データを使って個人を特定することはないのでご安心ください。

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ABOUT 長野 雅俊

長野 雅俊

ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。