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ベトナムデジタル広告市場の現状と課題|WireColumn

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ベトナムのデジタル広告市場は、スマートフォンの普及や恵まれたWIFI環境(ベトナムではほとんどのカフェ・レストランなどでWIFIを無料提供)の後押しを受け、成長が続いています。前年比で高い成長を遂げ、2020年には12億1900万ドルの規模になると考えられています。

【 ベトナムのデジタル広告市場規模予測 】

(単位:百万ドル)

ベトナムのデジタル広告市場規模予測

出典:2015年数値は、ANTS社数値、2016年以降はデジタルインファクト予測

ベトナムのデジタル広告市場はFacebookおよびGDNで、全体の7割以上を占めていると考えられています。数年前までは広告市場の8割以上を高額なテレビ広告が占めていたこともあり、広告市場は大手外資系の消費者系企業に独占されていました(数年前までベトナムの広告支出は上位10社で全体の半分を占めていたほどです)。

Facebook広告やGDNなどの廉価で柔軟に配信できる広告手段によってより多くの企業が消費者との有効なコミュニケーション手段を得るようになりました。特にベトナムではソーシャル上で商品を販売したりといった副業を行なっている若者が多く、ホーチミンのカフェなどでFacebook広告の設定をしている姿を見かけるほどです。それ以外のパブリッシャーへの出稿は金額も高く、一部の大手企業に限定されています。

それではベトナムのデジタル広告市場の現状と課題はどのようなものでしょうか。

ベトナムでは特にFacebookの人気が高く、他の地域で言われているようなFacebook離れは全く起きていません。当社がベトナム企業112社に行なった調査によると、99%の企業がFacebookページを持っており、そのうち84%がFacebook広告を利用しています。多くの企業がウェブサイトよりもFacebookページの運用により力を入れています。広告目的としては、売上増や問い合わせ、会員増など直接的にビジネスにつながるものが多く「営業ツール」としての位置付けとなっており、EC・不動産や美容関連の出稿が目立ちます。中期的な目標に対して全社的に取り組むというよりも、それぞれのキャンペーンにおいて短期的に数値を挙げる点に注力をしている点が特長的です。

【 実施しているデジタルマーケティングについて(ベトナム)】

N=155 (104 brands, 43 agencies, 8 publishers)

図:実施しているデジタルマーケティングについて(ベトナム)

出典:AsiaPlus 「Landscape of digital marketers in Vietnam

広告運用に関しては、中小企業の場合自社で運用し大手になると広告代理店などへ委託するケースが増えてきます。基本的にはいかに費用対効果の高い形でパフォーマンスを得るかに注力しているため、担当者を直接雇用して廉価に運用される形が好まれています。企業側のパフォーマンス重視の傾向が強いため、一部の代理店などは(運用により利ざやが無くなるリスクはあるものの)Facebook広告による会員獲得を固定価格で受けるなどのケースも出てきています。

一方で、デジタルマーケティングにおける課題について66%が「知識獲得の教育機会の欠如」を挙げているように、教育機会の欠如が業界を通じた一番の課題となっています。人件費の安いデジタル担当者を雇用するのは簡単なのですが、短期的な数値目標に基づいてマニュアルでデジタル広告を運用しているケースがほとんどで、新たなテクノロジーやスキルを学ぶような機会も社内外になく結果として広告効果が企業が望む形で改善していきません。特にマネージメント層のデジタルへの知識が欠乏しているため、グローバル拠点を持つ代理店が新たな提案を行っても受け入れられることが少ないといった代理店側の不満も聞かれます。デジタル広告が短期的な営業ツール以上の役割を果たしていない点は課題と考えられます。

【 デジタルマーケティングの課題(ベトナム)】

N=155 (104 brands, 43 agencies, 8 publishers)
図:デジタルマーケティングの課題(ベトナム)

出典:AsiaPlus「Landscape of digital marketers in Vietnam

大手企業においては、今後テレビCMをどのように位置づけるかについても大いに頭を悩ませています。ベトナムのテレビ広告は費用が非常に高額でありながら効果的な効果計測方法が確立されておらず、費用対効果が確認できるデジタルマーケティングによってその有効性が再度疑問視されています。

現在のところ地方や40代の年配者にリーチするメディアがTVCMの他にないため、大手企業は効果に懐疑的になりながらもテレビ広告を継続しているような状況です。実際、テレビCMの効果について直接的な消費者からの反応よりも小売店や社内営業部門に対してのモチベーションを理由として挙げる企業が少なからずあり、「続けたい」よりも「止められない」状況にあります。一方で、ベトナムではYouTubeの人気も非常に高くFacebookなどよりも多くの年齢層、地域にて利用されています。現在はTV広告を中心にYouTubeやFacebookなどへの配信も行う形になっていますが、中期的にはこの序列も変わってくるのではないでしょうか。

ABOUT 黒川 賢吾

黒川 賢吾

株式会社Asia Plus CEO/Founder

主にNTT、ソニー、ユニクロにて海外プロジェクトやマーケティングを担当した後、2014年にAsia Plusを創業。ベトナムにてスマートフォンを活用したマーケットリサーチ事業を手掛ける。