Interview:DMPはマーケティングの全体最適を行うためのデータベース——ブレインパッド代表取締役社長 草野隆史氏

Brainpad

ビッグデータとともに、その大量データをマーケティングに活用するためのDMP(Data Management Platform)が大きな話題となり、5月にインプレスから「DMP入門」という本が出版された。定義や評価が固まらず、テクノロジーに振り回されることもあるなか、日本におけるDMPの現状と課題について、著者の一人でもあるブレインパッド代表取締役社長の草野隆史氏と、同社取締役の安田誠氏にお話を伺った。
(写真左から 安田誠氏、草野隆史氏)

(聞き手:ExchangeWire Japan編集長 大山忍/ text:柏木恵子)

 
 

 

広告の最適化だけがDMPではない

 

——まず、御社のビジネスの概要を教えてください。

 

MrKusano2草野:当社は大きく3つの事業を展開しています。ひとつはお客様からデータをお預かりして弊社のデータサイエンティスト(分析官)が分析をするアナリティクス事業で、これが創業来の中核ビジネスです。2つめはソリューション事業で、海外の分析ツールなどの販売や分析環境などのインテグレーションを行います。3つめがASP関連事業で、代表的なものでは、行動履歴などからWebをパーソナライズする「Rtoaster(アールトースター)」というサービスを提供しています。

 

日本では、システム部門とマーケティング部門の距離があり、情報システム部門主体ではなくマーケティング部門でデータを持って活用したいというお話が出るようになったのが、ソリューション事業を始めたきっかけです。また、当時は行動履歴ベースでアクションを取るような良いツールがなかったので、Rtoasterを当社が独自に開発をしました。今では、リスティング広告の自動入稿・自動入札をする最適化ツール「L2Mixer(エルツーミキサー)」なども提供しています。

 

 

——最近、DMPという言葉が注目されて、「DMP入門」という本も発行されました。草野さんも執筆に参加されていますが、どのような背景だったのでしょうか。

 

草野:他の二人の著者から誘われたというのが率直な理由ですが(笑)、実務に携わっている立場から実際の活用に触れた章が必要だと思われたのではないかと想像しています。

 

 

——御社では、DMPをどう捉えていますか。

 

草野:先ほど言いましたRtoasterは、Cookieベースでユーザーの行動履歴をデータベースに溜めて、推奨ロジックや担当者が設定するマーケティングのルールなどに基づいたアクションを実行したり、Webの行動情報だけでなく外のCRMの仕組みも繋ぎ込んで顧客に合わせたバナーを出す、メール配信システムと連携してメールを送る、という機能を元から持っています。また、現在はDSPと連携して広告配信することもできます。これを、弊社ではマーケティングプラットフォームと呼んでいますが、これは定義としてはDMPかなと。

 

安田:われわれは、情報システム部門が持っているデータとマーケターが欲しいデータが、それこそ持ち方から違っているという問題意識を当初から持っていました。それでマーケティングDBが必要だと考えていて、DMPという言葉は後から出てきたという感じです。今の広告系の事業者さんが言うDMPは広告にどう生かすかということのようですが、我々はマーケティング全体を考えたデータベースが必要だと思っていて、広告はさまざまなチャネルのひとつというスタンスです。

 

 

——広告ターゲティングに使うだけがDMPではないと。

 

安田:特に問題だと思っているのは、データを事業者まかせにし、分析も事業者側だけで行うという点です。CRMと連携させるためには、CRMのデータを事業者側のサーバー等に蓄積させることになります。いろいろな事業者を試すと、データは各社に散らばって溜まっていきます。全体的なマーケティング施策の次の「打ち手」を考える時には、各社に散らばったデータをいったん1カ所に集約し、それを分析しなければならない。それでは手間がかかってしまいます。

 

 

——広告を出すという部分に部分最適化されすぎて、マーケティング全体の視点が欠けている。

 

草野:というよりも、企業としてデータ活用をどう位置づけるのかといった、そもそものビジョンがないままに、個々の現場での新しいテクノロジーのトライアルが行われています。それでも現場がリテラシーを持っていれば、やっているうちに「これとこれはくっつけた方がいい」という現場の知見が生まれるでしょうが、自社にデータもノウハウも溜めないという状況だと、ますます現場ではハンドリングが難しい。

 

安田:データを収集する手法はいろいろとあるでしょうから、いろいろなサービスをマーケティングDBに繋いで、まずデータ蓄積をきちんとしましょうと活動しているところです。

 

 

——御社では、分析ツールを導入する部分もサポートされていますが、プロフェッショナルにコンサルティングを頼む場合、企業としてはどのような準備が必要ですか。

 

安田:データは横断的に使われるものですから、チームごとの利害関係がある中で横断的に調整してくれるCMO(Chief Marketing Officer)のような人が必要です。

 

草野:分析結果を現場に還元できる人がいないと、いくらデータを使って分析しても「なるほどねー。」で終わってしまう。その結果に基づいてアクションに繋げなければ意味がないわけです。「こうしたい」という強いビジョンと、ある程度の権限をお持ちの方が揃っていないと、われわれがいくら面白い分析をしても、コストだけ増えて売上も利益も変わらないのではもったいない。将来的には、僕らが持っている分析のスキルトランスファーも必要だと考えています。

 

 

必要な人材や分析の定義が必要

 

MrYasuda——6月にリスティング広告の最適化ツールL2Mixerの最新版が出ましたが、開発背景や特長を教えてください。

 

草野:リスティング広告の最適化ツールは海外ツールもあったのですが、L2Mierは日本の入札環境や日本語に対応した国産ツールとして作りました。

 

安田:特長としては、海外のツールはキャンペーン毎などのまとまりで扱うように聞いていますが、われわれは1つのキーワードごとに入札結果を予測します。また、細かい制約条件をかけて最適化計算をすることができ、さらに運用側の要望に応じて、詳細な入札の条件(ルール)設定を行うことが可能です。

 

 

——予測解析は日本のデータ活用では新しい分野だと思いますが、御社はいち早く予測解析をリスティング広告のビジネスに取り入れている。どういう視点でそこにたどり着いたのですか。

 

草野:元々、予測解析は当社のメンバーの基本スキルです。過去の行動からお客様ごとの近い将来の行動を予測し、“この人にはこのアクションを取ろう”、“この人には取るまい”、というようにアクションを精緻化することでROIを高める。それを支援するのが、元々のわれわれの仕事です。このキーワードをいくらで入札したら何位が取れて何クリックが期待できるかを予測できれば、厳密な意味での数理最適化ができます。

 

 

——いまデータサイエンティストが注目されていますが、人材不足と言われています。そういうなかで御社は今市場で最も必要とされている人材を抱えている印象ですが、どのような採用やトレーニングをされているのですか。

 

草野:新卒でいうと、統計や数学にある程度の専門性を持った人を採用しています。社員に博士課程修了者が十数人おり、修士なら社員の約1/3が持っているという、ちょっとユニークな会社です。入社してから学んでもらうのは、SQLやデータベースをハンドリングするスキルと統計解析用のツールの使い方、ビジネスの知識です。欲を言えば、コミュニケーション能力やプロジェクトマネージメント能力もあればいい。

 

安田:実は、人材育成に関しては、われわれも発起人の一人となって、一般社団法人データサイエンティスト協会という団体の立ち上げに携わっています。

 

草野:フェイスブックページ(www.facebook.com/DataScientist.jp)もあり、現在ページで約2200いいね!、グループには約500人の方が参画し、いろいろな議論を行っています。協会では、今後データサイエンティストに必要なスキルやナレッジを定義していくことになっています。ビジネスの領域によっても必要なスキルやナレッジが違うので一度整理が必要だと思っています。

 

 

——データ活用では、WebとBIでは人材とスキルが分断されているイメージですが、データサイエンティスト協会には両方の方が参加されているのでしょうか。

 

草野:そうです。企業の中でデータに苦労している人たちが横に繋がる手段は意外と少ないので、情報交換の場を作れたらいいなと思います。また、スキル定義が明確になれば業界全体が健全になり、われわれにもメリットがあると思っています。

 

 

ビジネスの目的にあわせてデータを溜める事が重要

 

——今後のビジネスの方向性を教えてください。

 

草野:来年で創業10年を迎えます。創業時のイメージは、とにかく分析できる人が少なかったので、ある程度一カ所に集めて活動したいということでした。データ分析が不要な会社というのはないし、あらゆる領域でデータ分析は活用できます。これまでは受託の仕事が多かったのですが、今後センサーが増えていけばいろいろなデータを収集できるようになるので、その収集データと分析処理を組み合わせた新しいサービスを、弊社が創り出していきたいと思っています。

 

 

——最後に、DMPの活用を検討しているマーケティング担当者に向けてメッセージをお願いします

 

草野:データが取れるようになると、その数字を良くすることが主目的になってしまい、部分最適をしすぎて誰もハッピーにならないという事態になってしまいます。よって、データをどう活用するかというのは、ビジネスサイクルで考える必要があります。施策の目的や打ち手が決まっていなければ、どんな分析をするべきかを考えられないですし、分析したいポイントが決まっていなければどういうデータを溜めるべきか、あるいはどこからデータを収集するべきか決まらないのです。

 

 

——長期的に必要なものもあれば、短期的に必要なものもあるので、目の前の短期的な最適化だけでなく、ビジネスの目的毎にデータを使い分けてもっと活用するというイメージですね。

 

草野:そういう意味では、われわれは上流の戦略設計のところから相談に乗らせていただきますで、ぜひお声掛けください、というのが企業様へのメッセージです。一番大事なことは「何を分析するか」です。漠然とした要望にも、もちろんわれわれはプロとしてお応えしますが、それでは結果を出すのが難しいわりに改善効果が少ないこともあります。それより、もっと簡単で効果の出る分析があれば、まずそちらから行い、それによって余裕が出た資金で難しい分析を行えばいい。何をやるべきかという上流のところから関わらせていただくと、より効果が期待できる好循環で回していけると考えています。

 

 

——ビジネスにデータを活かしていくためには、経営層レベルの理解も必要です。

 

草野:そこが難しいですね。でも、そういう啓蒙活動もしなければいけないだろうとは思っています。データサイエンティスト協会の活動もその一環です。

 

 

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大山 忍

ExchangeWire Japan 編集長 米国大学卒業。外資系企業を経て2000年にネット広告効果測定ツールを提供するベンチャーに創業メンバーとして参画。その後、バリューコマース株式会社と合併。 2007年1月にオムニチュア株式会社(現Adobe)に参加、コンサルティングサービスを立ち上げる。ビジネスコンサルタントとして米国のベスト プラクティスを日本の課題やニーズに合わせて提供、ウェブ解析やガバナンス(データ主導の組織・仕組化)に関する執筆・講演を行う。