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アフタークッキーに向けて、媒体社のこれまでと今後[インタビュー]

 

2020年1月にGoogleは、Chrome上の3rd Partyクッキーのサポートを2022年までに段階的に廃止することを公表した。AppleによるITPの導入に続くこの発表により、3rd Partyクッキーを活用した広告のターゲティング配信は活用することが出来なくなる。

 

この発表をどのように受け止め、そしてこの1年でどのような将来を模索し、今後どのように向き合っていくのか。デジタル広告業界のWebサプライサイドのエキスパートにお話を伺った。

(聞き手:ExchangeWire JAPAN 野下 智之)

(Sponsored by PubMatic)

 

 

 

-自己紹介をお願いいたします

小田切氏(上部写真 右):朝日新聞社で朝日新聞デジタルのウェブ広告ビジネス全般に携わっています。以前は朝日新聞デジタルアプリの開発やバックエンドのエンジニアをしていました。

純広告とプログラマティック広告の両方を担当しており、広告売上をどう伸ばしていくかということをミッションにしています。

 

初瀬川氏(上部写真 左):神戸新聞社で元々サーバーサイドのエンジニアをしていました。デイリースポーツオンラインや神戸新聞NEXTのサイトの保守や開発、社内CMSから記事を出稿する仕組みなどを担当していました。3年前に広告チームに配属され、プログラマティック広告を中心に、デイリースポーツオンラインや神戸新聞NEXT、2019年に立ち上げたまいどなニュースの、主に3つのサイトの広告運用を担当しています。

 

今井氏:PubMaticでアソシエイトディレクターとして、2020年の初めから当社のIdentity Solutionである Identity Hubの製品担当者の一人として、日本以外にもシンガポールやオーストラリア、インドも含むAPACのプロダクトリードをしており、プロダクトのナレッジを現場のセールスに提供するなどの活動をしております。

 

 

 

「広告は大丈夫か」、Google3rd Partyクッキー廃止発表と媒体社ビジネス

-Googleが2020年1月に発表したChromeにおける将来の3rd Partyクッキー利用廃止についての発表を受けて、どのように感じられましたか?また、どのような取り組みをこれまでしてきましたか?

小田切氏:1月の発表があったときにはまだ別のチームにいました。当時その立場にいてもGoogleによるこの発表はビジネスに大きな影響を及ぼすものであると感じました。

特にネットワーク広告に直接影響がある発表であったことに驚きました。とある調査データでは、クッキーの廃止によりネットワーク広告の売上が50%以上減少するという試算もされています。当然ですが、何らかの対策をする必要性を感じました。

発表後これまではクッキーを代替しうるソリューションにはどのようなものがあるのかという調査を進めてきました。1st Party Dataに関するものやGoogleが掲げているいくつかのプロジェクトについての検討、海外メディアによるコンテキストマッチソリューションの導入事例などについての情報収集を行いました。

IDソリューションについては、PubMaticさんのIdentity Hubを含めて導入したものもあれば、現在導入に向けて検証をしているものもあります。

 

初瀬川氏:私たちは、AppleによるITP導入時に、広告には影響がないかという話になり、クッキー規制や海外におけるGDPRの動向について調査をするように指示がありました。その後積極的にこの領域についての情報収集を行っています。そのような動きの中でのGoogleによる発表は「ついに来たか」というのが第一印象でした。

ITPの導入後、Safariブラウザからの収益額は減少傾向をたどっていましたので、Googleによる3rdPartyクッキーの廃止後、何も対策をしなければ同様の傾向をたどるということは容易に想像することが出来ました。ITPが開始された後、あるSSP経由の広告収入が半分以下に減少しました。これはSSPに依存するところではありますが、私たちにとってこの収益減は大きなインパクトがありました。当社の場合広告収入の多くをプログラマティックから得ており、このままではいけないという危機感を持ちました。

同じ頃、IAB TechLabが進めていたDigiTrust IDというIDソリューションを見つけて、これを導入するなど、早期に対応を模索し始めました。

 

 

-その後の情報のアップデートはどのように得られていたのでしょうか?

初瀬川氏: 私たちは本拠地が神戸なので、月に1度の頻度で東京に伺い、例えばスポーツ紙の方々と情報交換をしていました。2020年3月に入って以降、コロナの影響で出張を自粛せざるをえず情報交換を図ることも難しくなっています。

テレビ会議を通してGoogleの広告担当の方ともやり取りをしておりますが、直接情報を得ることは難しい状況です。今はGoogleの開発者の方が書いたブログや業界メディアの記事から情報を得ています。

 

小田切氏:当社もGoogle担当者との情報共有はございますが、情報を得ることは難しく、英語の情報サイトなどを自分たちで調べて情報のアップデートをしています。

やはりコロナの影響で、他の媒体社の方との意見交換の機会がなかなかない現状です。

 

今井氏:ちょうど1月のリリースが出た頃は、当社がIDソリューションのIdentity Hubを押し出していこうというタイミングでもありました。ですので、まさに「来たか」という印象でした。Googleの動きを予測していたわけではないのですが、2020年からの数多くのIDソリューションの登場の波に乗ったということになりました。

 

クッキーレスに向けた三つのソリューション

-きたるクッキーレスに対して、媒体社は今どのような取り組みをしているのでしょうか?

今井氏:いろいろな媒体社さんや業界の方と話をして聞いている限りでは、大きくは三つの取り組みに分かれるようです。一つ目は、「1stPartyデータの取得と整備」、二つ目は「IDソリューションの活用」そして、三つめは「コンテキスト解析ソリューション(以降、コンテキスト解析)の導入」です。

 

初瀬川氏:私たちのところでは、コンテキスト解析については解決の糸口が見えてきているような気がしています。現在、私たちは記事解析を進めていて、記事単位でワードをピックアップして、それを保持しています。あとはこれをどう広告に活かしていくかという段階にあります。また、1stPartyデータについては、何のためのデータであるのかという議論を社内でしながら、粛々と整備を進めています。IDソリューションについては、今はすべてPubMatic社にお願いをしている状況です。

 

小田切氏:その三つのうちでは、1st PartyデータとIDソリューションの二つを優先しています。自社のデータをどのように使えるかを見直していく必要があると考えております。社内におけるデータセキュリティーの管理をするのは別の部署であり、データの広告活用に向けた調整や整備が必要であり、これを進めています

当社では、朝日新聞デジタルではなく、「sippo(シッポ)」というバーティカルメディアにおいて、1st Partyデータ向けのIDソリューションを導入し、様々な効果検証を行っている途中です。これによりどこまで収益拡大につながるかを現在見ております。

コンテキスト解析は情報収集段階です。ソリューションベンダーからの提案を受けている内容などを踏まえ、当社としてどう対応するべきかを検討している段階です。

 

-現在、朝日新聞社さん、神戸新聞社さんはPubMaticのIdentity Hubを導入されています。PubMaticからどのように提案をしたのかというところから、二社が導入に至るまでの経緯をお聞きかせください。

今井氏:Identity Hubは、2020年1月にリリースをしました。これは米国の動向を踏まえてというものではあったものの、日本においては2019年の段階でDigiTrust IDや、The Trade Desk社のUnified IDに関する情報は出ていました。

ですが実際に活用されたという事例は出てきてはいない状況で、私たちのところへも質問はいただいていました。2020年2月にパブリッシャー向けの大きな業界イベントがあったのですが、3rd Partyクッキーが今後なくなるという話は大きな話題になっておらず、私たちのほうからこれは重要な問題であるということを喚起しながら、1月から3月にかけて媒体社様への提案を進めてまいりました。

同じ2月に日本では他の地域に先駆けて、Identity Hubのβ版の提供を開始し、これを導入いただいた媒体社様との検証を得て、本格的なご提案を進めてまいりました。

 

小田切氏:クッキーレスへの対応方法としてIDソリューションの導入というのは、手を付けやすいものでした。IDソリューションには様々なものがあり、それぞれを個別に導入していくとID管理が煩雑になることを課題視していました。そのようなタイミングでPubMaticさんからIdentity Hubを提案していただきました。これを導入することで、様々なIDソリューションを一つに束ねて使うことが出来、IDごとのSync率が上昇し、広告収益の改善に大きく寄与するであろうという判断のもと導入を決めました。

導入はPubMaticさんのサポートにより、大変スムーズに進みました。

 

-導入後についてはどのような評価をしていますか?

小田切氏:IDごとのSync率が上昇し、売上に対する効果が得られています。今後も積極的に色々なIDと連携をさせていただければと考えております。

 

初瀬川氏:当社はDigiTrust IDを独自に導入していました。当時の効果は不明でしたので半年も経たずに外してしまいました。その後、PubMatic社から「もう一度IDソリューションを導入してみませんか」という提案をいただき、導入を決めました。

DigiTrust IDの導入にはIABTechLabと英語で直接やり取りをする必要もありましたし、Prebidも自社ホストで行っていたことから大変な工数がかかっていたのですが、Identity Hubの導入には、そこまでの工数は不要であると聞きました。

導入についてのハードルが低いのが魅力的でしたのですぐ決断できました。導入後の効果についても、現在もPubMatic社から細かく共有していただいています。導入をしてよかったと感じています。

 

今井氏:小田切さんや初瀬川さんのように、この問題に積極的にいち早く向き合われている媒体社さんはまだほんの一部です。また、弊社のサービスを導入いただいた効果を早速感じ取っていただけていることは、私どもにとってもとても大変新鮮でありがたいことです。

まだまだ多くの媒体社さんにとって、IDソリューションというのは短期的な広告収益との兼ね合いで効果が図られていますが、より中長期的な観点で見ていただきたいということを共有させていただきつつ、引き続き提案をさせていただきたいと思っています。

またグローバルで導入している媒体社様からも、レポーティングの粒度の細かさや多くのIDソリューションをそれぞれのタグの実装だけで、あるいはOpenWrapをご利用の場合には全く実装が必要なく、管理画面だけで実装管理ができるという点において、大変良いフィードバックをいただいています。

 

プライバシー保護と媒体社ビジネスの保護、海外で起こる大きな議論

-アプリの領域でもIDFAの規制が予定されています、このような流れについてはどう感じておられますか?

初瀬川氏:当社ではアプリはすでに撤退をしており、自社で持っているのは有料電子版のアプリのみとなっておりまして、広告は入れていません。

ですので当事者意識というものはないのですが、プライバシーの規制はWebもアプリも同じ潮流なのであろうと感じています。欧米における法規制をきっかけとしたプライバシー保護の流れが日本にも来ており、両方とも垣根がなく規制の対象になってきているということに違和感はありません。

 

小田切氏:当社もアプリには広告を全く入れておらず、アプリは完全なサブスクリプションサービスです。ですのでIDFAの規制については特に調査をしてこなかったのですが、初瀬川さんがおっしゃったとおり、グローバルで今後もプライバシー保護を優先する流れになっていくのであろうと感じています。

 

今井氏:私が感じているのは、IDFAの規制はデッドラインがすぐ近くに迫っており、より緊急性の高い問題であるということです。アプリのほうではWebよりも速いペースで物事が動いていくと感じています。その意味では変化に対応することに求められるスピードは、Webよりも速いと感じています。Webの場合は、Googleは2年間の猶予期間を設けられています。ですが、Webの世界においても、企業体力があってこれから2年間でログイン情報を独自に集めていくことが出来るような大手の媒体社様と、そうではない媒体社様とで対応の差が出始めています。後者の媒体社様については、状況に対して受け身であり、他に手立てがない状況であるという声も聞かれます。

 

-海外では現在どのような議論が起こっているのでしょうか?

今井氏:ログインデータを持てない媒体社が、これまで3RD  Partyクッキーによって得ていた広告収益を担保するにあたり、どのようなソリューションが提供されるべきかというところが大きいです。いったい誰がその部分の収益を補完していくかということは、業界で大きな注目を集めています。

GoogleやCriteoなどのプラットフォーマーやベンダー、あるいはIAB, W3Cなどの第三者機関がその対応を進めており、2021年の前半には、今後の方向性が見えてくると当社では見ています。

 

アフタークッキーに向けて、媒体社が期待する情報とは

-Identity Hubを導入されたお二方は、今後PubMaticにどのようなサポートを期待しますか?

小田切氏:今後は他のIDソリューションの導入を進めており、これらとの連携のサポートや、2021年の本格的なクッキーレス対応に向けて、スピード感を持って取り組んでいく予定ですので、これに寄り添ったサポートをしていただけることを期待しています。

 

初瀬川氏:海外トレンドのキャッチアップにおいて、ぜひとも情報共有によるサポートをしていただきたいです。新しいIDが出たときには、私たちも率先してこれに取り組んでいきたいと思っています。引き続きお力添えをお願いしたいところです。

 

今井氏:全力で取り組ませていただきたいと考えています。Identity Hubは2021年に向けて当社における注力領域の一つです。このソリューションは提供を開始して以降9カ月で、グローバルで多くの企業に導入していただきました。当社のプロダクトラインナップでも非常に成功しているものです。今後もより多くの媒体社様に使っていただくことで、業界全体の方向性に寄与できるように、取り組んでまいります。

海外のトレンド情報の共有については、非常に多くのご要望をいただいております。この領域は日々刻々と変化しています。できるだけ適切なタイミングで情報をご提供し、この変化に業界全体で適用していければと思っております。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。