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サイバーエージェントが語る、コロナ禍の動画広告市場と2021年に向けた取り組み[インタビュー]

サイバーエージェントは、今年で7回目となる動画広告の市場調査結果を公表した。

市場の黎明期よりこの市場を見続けてきた同社は、コロナ禍の今年の市場をどのように振り返るのか。同社インターネット広告事業本部 統括 羽片一人氏に、2020年の動画広告市場を総括していただいた。

 

(聞き手:ExchangeWire JAPAN 野下 智之)

 

コロナ禍で、需要はダイレクトレスポンス寄りにシフト

 

-2020年の動画広告市場についてお聞かせください

俯瞰してみてみると、インターネット広告の需要全体がダイレクトレスポンス目的寄りになったという印象があります。広告主は、景気が不透明な中で確実な売り上げを獲得したいと考えています。

この流れは動画広告でも同じ傾向が見られ、コロナ禍でテレビCMを出稿されているようないわゆるブランド広告主の出稿が減少する一方で獲得目的は堅調に伸びたと考えます。
インフィードはもちろん、今年はインストリームの獲得目的の広告商品、例えばYouTubeのTrueView for Actionなどが新しくリリースされ、多くの広告主が取り組みを始めました。

 

動画広告の需給バランスに変化がみられる中で、効率的な新規ユーザーの獲得を目的とした広告主企業の出稿は大きく増加しました。

 

当社のお客様もそうですが、多くの広告主は、2020年にコロナ禍で起こったユーザーの視聴動向や動画コンテンツの変化を目の当たりにして、今後の新しい動画コミュニケーションの施策をまさに今準備しているところではないでしょうか。

 

 

ユーザーの動画コンテンツ視聴に起こった大きな変化

-コロナ禍でユーザー動向にはどのような変化がみられましたか?

ユーザーのネット接続時間が増え、動画コンテンツへの接触時間も大きく伸びました。

当社グループのABEMAをはじめ、多くの動画媒体でユーザー数が増加しました。

 

また、自宅での動画コンテンツの視聴が増えたことにより、ネット接続されたテレビ端末での動画コンテンツ視聴が大きく伸びました。これまでスマホで見られていた動画コンテンツや広告が、テレビで視聴されるようになったときに、ユーザーがどのように視聴するのかということは、大変興味深いことです。

今までの動画クリエイティブはスマホに最適化することに特化して作ってきましたが、これをテレビで視聴してもらうことを想定したときに、「果たしてスマホと同じクリエイティブや尺の長さでいいのだろうか?」という話が出てきます。

 

 

新たな広告ビジネスを生み出す新しいコンテンツ

-媒体側についてはいかがでしょうか?

YouTubeのTrueView for Actionに代表されるような、ダイレクトレスポンス系の活用を目的とする動画広告商品が増えてきた印象があります。媒体側においては、新しいサービスが生まれたり、コンテンツの質や量に変化がみられたという印象です。

テレビで活躍してきた芸能人の多くがYouTubeで動画配信を始め、リアルでの実施が困難になったライブエンターテインメントが動画配信サービスを通して提供されるようになりました。また、一部テレビ放送のネット同時配信も始まりました。

 

これらの動きを受けて、広告領域では今後新しい取り組みが増えてくるのではないかと見ております。

 

 

注目はインストリーム、ショッピング、リビングルーム

-サイバーエージェントとして直近で取り組まれていることについてお聞かせください

各メディアの今後の方針とコロナ禍でのユーザーの変化に合わせて、新しい仕掛けを考えております。

Instagramは今年、ショッピング機能を発表しました。今は海外の展開のみですが、日本にもこの流れがくれば、Instagram上で商品が売れるようになります。

これはYouTubeでも同様の動きになるのではないでしょうか。YouTubeもショッピングの広告商品がリリースされています。
商品が売れるとなると企業の投資はさらに加速すると考えています。

これにより動画クリエイターに対しては、広告のみならずEコマースでも収益を還元することが出来るようになり、クリエイターはさらにYouTubeやInstagramにコンテンツを提供するようになり、場が活性化されるようになるでしょう。

 

また、先ほどもお伝えした通り、テレビ端末での動画コンテンツの視聴が増加していく中で、ユーザーのリビングルームにおいて動画でどのように効果的なコミュニケーションを図っていくかについても現在注力を進めています。

 

テレビ端末では、より尺の長いコンテンツをユーザーは視聴する傾向が強く、当社としても中・長尺のコンテンツの開発にも積極的に取り組んでまいります。企業がお金を払って伝えたいことを伝える広告ではなく、ユーザーにとって見たいと思われるコンテンツに投資をするチャレンジも増えてきました。

当社では今年、「おもしろ企画センター」という組織を立ち上げ、強みである広告運用力および企画力を活かし、タレント等のYouTubeチャンネル等を始めとしたSNSプラットフォーム上での活躍支援を行ってまいりました。すでに支援するチャンネル数は100を超えており、2021年には500チャンネルの支援を目指しています。

 

※「おもしろ企画センター」について

https://www.cyberagent.co.jp/news/detail/id=24985

 

 

-業界における課題についてお聞かせください

昨年インターネット広告市場が、テレビ広告市場を上回り、今ではテレビかデジタルかの「or」ではなくテレビもデジタルもという「and」の考えに変わられている企業も多くいらっしゃいます。

今までインターネット広告はテレビCMの補完的な役割を担ってきましたが、今は双方を掛け合わせで使うというような使い方になってきています。

このとき、動画広告のKPIをどのように持たせるべきかについては、引き続きの課題です。

今まで一般的だったブランドリフトのみの計測ではなく、売上にしっかり繋がるようにブランドリフトの先のKPIもより可視化していく必要があります。

 

 

底を打った動画広告市場、2021年は再び高成長へ

-2021年以降の市場の見通しについてお聞かせください

2020年4月~8月頃にかけて需要の底はつきました。コロナウイルスの感染状況や、ワクチンの普及がどうなるかなどの不確定要素がありますが、これから来年2021年にかけて需要は本格的に回復し、再び高い成長水準に戻るでしょう。

 

2020年はユーザーが様々な動画コンテンツと触れ合った期間であったといえるでしょう。この経験を踏まえて、私たちも色々なチャレンジをすることが出来るのではないかと考えています。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。