知らないでは済まされない、プログラマティック広告の根幹を揺るがすアドフラウドという問題:第三回アドネットワーク業者との対談編 |WireColumn

これまで第一回第二回とプログラマティック広告に潜むアドフラウドについて論じてきたMomentum(モメンタム)株式会社の高頭(タカトウ)氏。

第三回となる今回は、DSP、SSP、DMP、動画プラットフォームなどを持つことで一気通貫のアドプラットフォームを築いたSupership広告事業本部デマンド事業部事業部長の佐野宏英氏との対談を通して、日本におけるアドフラウドの現状を探る。

(聞き手:ExchangeWire Japan 長野雅俊)

アドフラウド問題は広告業界の踏み絵

高頭氏: まずはSupershipの事業について簡単に説明いただけますか。

佐野氏: 弊社は、DSP、SSP、DMP、動画広告配信プラットフォームなど、一気通貫のアドプラットフォームを有する企業です。私は当初、動画広告配信プラットフォームを手がけるアップベイダーという会社を運営していましたが、2017年2月にSupershipと統合し、現在はDSPをはじめとするデマンドサイドのビジネスを統括しています。

もともと手がけていた「AppVador」では、大手広告代理店が純広告を扱っているようないわゆるプレミアム・メディアの広告在庫を販売しています。当時から現在に至るまでそのホワイトリストの徹底ぶりには自信を持っています。自社の都合や利益を優先してリストを開示しない事業者も少なからずいますが、弊社ではどの媒体にどれだけの量の広告が出たかを全て開示しているので、顧客の方々からはその部分を評価いただいていると思っています。

高頭氏: 業界全体として、広告配信先の透明化ないしインベントリーのクオリティを担保することが必須となる時代がすぐそこまで来ているような気がしています。一方で「リーチを取りたい」という観点から「リストは見せたくない」ということになると、結果として透明性が失われていくという課題もありますよね。

佐野氏: アドフラウドとその対策にはいくつか手法がありますが、botを防ぐという意味では、プレミアム・メディアであるかどうかは関係ありません。広告枠のインベントリー・クオリティの透明性が担保できれば、次はオーディエンス・クオリティの透明性の確保という流れになるのは間違いない。でも、その流れに対して有効な打ち手を持っているベンダーはそれほど多くないのです。それどころか、アドフラウドがなくなると、インターネット広告業界全体のバランスが崩れかねないと考える風潮が一部にはあると思います。例えばアドフラウドがなくなれば、単純に広告売上が減ってしまうのではないか、などです。だからアドフラウド対策の徹底に向けてきちんと踏み切れるかどうか、今は瀬戸際のような気がします。

高頭氏: まさに踏み絵ですよね。

佐野氏: はい。広告業界が健全化するための踏み絵になっている気がします。

高頭氏: とある事業者は昨年の段階でインベントリーを整理したことで、トラフィックは減ったけれども、収益は改善したそうです。だからそのような方法でCPMを上げていくというのもあり得るのではないでしょうか。その可能性について、佐野さんはどう思いますか。

佐野氏: いわゆるブランディング広告においては、インベントリーやオーディエンスのクオリティに対して適正な単価をつけることで収益性が高まることはあり得ると思います。ただOpenAuctionなど一部の取引方法においては、アドフラウドを除外したときに市場全体としてのCPMがどう変わっていくか、というのは予測しづらい。CPMは主にセカンドプライス・オークションで決まります。その観点でいうと、DSPが単純にbotを除外するだけでは単価の向上には至らず、売上が減ってしまう可能性も考えられます。

高頭氏: 確かにパフォーマンス系については悩ましい問題ですね。

佐野氏: だからこそ、業界全体として取り組んでいくべき問題なのです。広告主にとって投資対効果が見込めなくなると、結局はマーケットとして縮小していくことにつながるわけですから。長期的な視点を持って、メディアもプラットフォームも一丸となって取り組むべき課題です。

高頭氏: かつて広告主様から「アドフラウドを除外できないのなら広告の出稿先はソーシャル・プラットフォームでいいよ」と言われたことがあります。そうならないように、透明性を担保しながらアドフラウドを除外していくことが必要です。

SSPとDSPを両方持つ業者が今後は強みを発揮

高頭氏: さらに言えば、業界ではビューアビリティに取り組むのが主流になりつつあります。DSPもビューアビリティの計測をさせようという動きが見られ始めました。これも業界の健全化に向かっている兆候なのではないでしょうか。

佐野氏: ビューアビリティに関して言えば、技術的には既に確立されており計測することは難しくありません。しかしながらビューアビリティの問題は、DSP単体で根本的には解決できないということです。海外では既に一部のSSPやアドエクスチェンジが広告枠のビューアビリティを開示したり、第三者配信ベンダーがビューアビリティを測定するテクノロジーを提供していますが、全てのインプレッションを網羅するには至っていません。

日本国内では、SSP自身も自分たちが持つ広告枠のビューアビリティを正確に把握していないケースも多々見受けられます。だからビューアビリティに関する取り組みも、それほど容易な話ではないのです。先の話に出た事業者はSSPもDSPも持っているからインベントリー整理ができたのだと思います。弊社もScaleOutというDSPとAd GenerationというSSPを両方持っているからこそインベントリーの管理が可能なわけです。

高頭氏: そうなると、DSPとSSPを両方持っている事業者が今後は強くなってきますね。

佐野氏: そう思います。SSP単体ないしはDSP単体だと解決が困難な課題だと思いますね。ところで、アドテク事業者や国内の広告代理店はアドフラウドという問題をどのように捉えていると思いますか。

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高頭氏: アドフラウドという言葉の認知はだいぶ進んできましたが、アドフラウドの具体的な課題感は代理店さんにまでなかなかリーチできていないという印象です。今、業界団体がアドフラウドを定義しようとしているので、その作業が終われば状況は少し変化するかもしれませんが。広告代理店さんとしては、「アドフラウドはネットワーク側で取り組む課題だよね」という見方が強く、またネットワーク側からすれば「アドテク側で解決してくれ」という話になる。そしてアドテク側の話になると、ベンダーさんによって随分と温度差がありますね。Supershipが運営するScaleOut DSPは、アドフラウド対策にはいち早く取り組んできましたよね。

佐野氏: 広告主や広告代理店が「ベンダー側で何とかしてくれ」と思っているのであれば、アドフラウド対策をしっかりやっているところが今後は競争力を持つことになるということですよね。だとすれば、売上が減る可能性といったことよりも、まずはきちんとしたアドフラウド対策を行なうべきなんですね。

高頭氏: きちんと取り組めば、その事業者はやがて確実に競争力を持つようになると思います。ただ一朝一夕にはできることでもなくて、一つのSSPとDSPの整備整頓だけで相当な時間がかかるでしょう。Supershipだと一気通貫のプラットフォームを持っているので、包括的なソリューションをつくっていくことができますよね。

また、これから動画広告がどんどん盛り上がってくると予想されていますが、動画広告のような高単価な広告形態に対してアドフラウドはインパクトを持っています。だから今後はなおさらアドフラウドに対する感度が上がっていくかもしれません。

佐野氏: 動画広告やリターゲティング広告など単価の高いインプレッションが狙われやすい。だとすれば、それらの広告は従来の一般的なバナーに比べて、アドフラウドによって被る損失額も高いということになる。動画広告ではダイレクト・レスポンスだけではなくて、動画広告の視聴によるブランドリフト効果といったような指標もつくっていきたいという思いをもっています。その指標において、アドフラウドはネガティブな要素でしかありません。

サプライ・サイドでアドフラウドを除外しないのであれば、アドフラウド対策をしているDSPは良質なインプレッションを、その対策をできていないDSPは価値のないインプレッションをひたすら買い続けるというような時代になってゆくかもしれません。

高頭氏: 今は主に純広告、PMP、オープン・オークションという形態がありますよね。その中で最も差別化が図りにくいとされるオープン・オークションでも既に格差というか、綺麗なインベントリーを買い付けられるネットワークとそうでないところのランク付けがされてきているような印象があります。欧米では既にインベントリーのクオリティを第三者が計測し、そのデータを基にして代理店さんが買い付けるという動きがあるのです。

佐野氏: 純広告の話が出ましたけれど、いわゆるプレミアム・メディアは今後「私たちのトラフィックには良質なユーザーしかいません」というような方法で純広告を売っていくんでしょうか。

メディアにとってもアドフラウドは重要課題に

高頭氏: 実は米国のプレミアム・メディアのタイアップ広告の中にもBotによるトラフィックが混じっているらしいのです。つまり、彼らがオーガニックで獲得したインプレッションを補う目的で出稿した広告を経由して、Botによるトラフィックが混じってきてしまっている。今後はプレミアム・メディア自身が自社のトラフィックに対してアドフラウド対策を施した上で「うちはインベントリー・クオリティが高い」と主張するという動きも出てくると思いますね。

佐野氏: 純広告とはいえ、メディア自体が価値を証明するためにアドフラウド対策をするんですね。ブランドセーフティにしてもそうですよね。インベントリーのクオリティでいうとビューアビリティもそうですが、それらの指標をもってメディアのクオリティを格付けしていくような動きになるかもしれません。

プレミアム・メディアも言わばブランドだと思いますが、新興メディアがアドフラウドやブランドセーフティに関してクリーンであることを担保していくことで、ブランドを醸成する手助けになっていくのでしょうか。

高頭氏: 振興メディアの広告販売戦略のひとつとして、私たちはビューアビリティを保証できるし、フラウドフリーでブランドセーフティなインプレッションをこれだけ持っているので、高単価に広告を販売できる、という観点はありかなと思います。それを原資としてリッチなコンテンツを作ることでブランドを育てていくというのは健全な成長といえるのではないでしょうか。

佐野氏: メディアのマネタイズにおいて、最も重要な観点かもしれませんね。広告主側の視点かと思いきや、メディアとしてもアドフラウドは重要な課題だということですね。

高頭氏: そうですね。

佐野氏: ところで、今のところメディアの価値は有効に可視化されておらず、著名なメディアのブランド以外ではPV数やUU数といったKPIが重視され、結果として問題を起こすケースもあります。メディアの価値を可視化する方法の一つとしてMomentumのテクノロジーを使えるのではないでしょうか。

高頭氏: 媒体をスコアリングするみたいな。

佐野氏: 優良とされるメディアをどうつくるかというのは業界の課題と思っています。米国のIAB・MRCのような標準化団体を通してこうした課題に取り組んでいく必要があると感じています。

高頭氏: もう一つ伺いたいテーマがあるのですが、DSP側のアドフラウド対策はどうですか。

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佐野氏: インプレッション・ベースで、例えば同一と思われるユーザーに1秒間に10インプレッションが出ていますとか、1分間で5回クリックされていますとか、そういう怪しいユーザーをブラックリストに登録していくということは日々行なっています。また、継続的にアクセスのあるCookieにしか配信しないというようなことはやっています。

一方で、ファーストパーティデータとしてリアルなユーザーのIDを匿名化した状態で持っているので、それらのユーザーだけに配信するようにすることでbotに関してはすべて防げるということが言えると思います。

botnetを監視し続けるといったような、より専門的かつ高度な対策にはこれまで注力できていなかったため、Momentumのようにパートナーとして協力して頂けるベンダーは貴重に思いますし、今後も密接に連携を進めていきたいと思います。

インターネット広告は最高の広告形態になり得る

高頭氏: 共に今後の広告業界を発展させていきたいですものね。

佐野氏: アドフラウド問題にしても、アドテク業者が悪いことをしてやろうと画策しているわけではないと思っています。広大なインターネットにおけるプログラマティック広告、とくにOpenAuctionでは、人間が目視で掲載を確認するなどの作業が実質不可能なほどハードルが高くなっています。例えば、1面の新聞広告であれば、もしも掲載されていなかったらすぐに問題になると思うのですが、インターネット広告ではそれが難しいケースも多々ある、という課題があります。

高頭氏: 一方で、インターネット広告では計測ができるじゃないですか。まだテクノロジーが追いついていないけれども、アドフラウドもいずれは全て計測できるようになると思うのです。つまりインターネットはすべてを解き明かすことができるのではないかという印象を持っています。最高の広告形態になる可能性がある。

佐野氏: 計測できるものはすべて公開すべきというのが透明化への原則になると思います。代理店さんや広告主さんが「必要な計測項目を満たしていなければ出稿しない」と言えるかどうかも大きいと思います。ScaleOutもアップベイダーも持っている情報はすべて管理画面で見ていただけるようにしていて、そこを評価していただける広告主さんもいます。極論を言えば、エクセルにインプレッション数と金額を打ち込んだレポートを送るだけで、実際には何も配信せずとも数百万円も請求ができるということになってしまうかもしれない。計測できるはずのものが開示されないということに違和感を持って欲しいという思いがあります。

高頭氏: ScaleOutさんみたいに広告の出稿先のレポートを全部公開しているのって、旧来だと付加価値だと思うんですよ。そうした情報を提供することで広告主を啓蒙することもできると思うので。配信先が分かるからこそ次の投資戦略を練られるという好循環も生まれると思いますし。

佐野氏: 透明性の担保やビューアビリティのような課題に一気通貫で対応できるベンダーが今後は力を持っていくと思います。プログラマティックのメリットの1つは、メディアはインプレッションを一番高く売れて、広告主は欲しいインプレッションを適正な価格で狙って買えるということ。このメリットはアドフラウド対策やビューアビリティなどの課題を乗り越えてもそのまま維持していくことができるでしょう。弊社としては、これらの課題に対応する体制をしっかりと作って取り組んでいきたいと思います。

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ABOUT 長野 雅俊

長野 雅俊

ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。