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台湾デジタルマーケティング市場を攻略する― 第三回:ここが違うよ!台湾の常識、日本とは異なるプログラマティック市場 |WireColumn

ExchangeWireの読者の皆さん、ソネット・メディア・ネットワークス台湾の林 靜怡(リン チンイ)です。3月14日はホワイトデーになりますね。男性読者の皆さんは、お礼の準備がちゃんとできましたか?台湾では、バレンタインデーもホワイトデーも男性が女性にプレゼントを送る日になっています(笑)。今回は、裏話を含めた台湾のプログラマティック市場についてご紹介したいと思います。(台湾で、男性に向けた贈り物の広告を多くみかけることがきっかけではありませんが…)

 ECで商品を購入した後、ある程度の期間はショップのリターゲティング広告を目にする経験を誰もが持っていると思います。消費者に商品を想起させコンバージョンを発生させることを目的としたバナー配信は、プログラマティック市場で最大の存在ではないかと思っています。

台湾における「プログラマティックバイイング」という言葉の変遷

 2010年以来、台湾の運用方法は担当者同志がまとめる4P(Product、Price、Place、Promotion)から、機械的に計算するプログラマティックへと変わっていきました。以前のように人気広告枠を一括購入という時期が過ぎ、「Big Data」、「RTB」、「Ad exchange」、「DSP」、「DMP」などの専門用語が、市場で飛び交い始めました。当時はどのようなプラットフォームでも上記の専門用語を「キーワード」として、無理矢理付けていたため、言葉の誤用・誤解が多く見受けられました。

 そして2013年から、Googleの関連サービスや他の海外企業の進出とともに、海外の企業や大学で研究をしてきた台湾の人たちが帰国し起業することで、台湾現地で本格的なプログラマティック市場が展開されるようになりました。

 激しい市場競争のなかで、台湾の現地広告企業も自社サービスのブラッシュアップと内容の特化(差別化)に注力し、業界で有用と思われた新技術とビジネスモデルはハイスピードで発展していきました。
例えばDSP事業者においてはビッティングシステムの向上と新しいリソースとの連携がすすみ、SSPやAd exchange事業者は、新規メディアの開拓とPMP機能の開発に注力しました。またDMPについては、ニュースサイトやECプラットフォームなどユーザーデータを集約している企業が、続々と事業を開始するなど、グローバルでも競争力の高い市場を形成してきます。さらに2015年以降は、「プログラマティックバイイング」という言葉はRTBなどに限らず、マーケティングとテクノロジーの結合と解釈されるようになり、マーケッターは戦略を立て、ユーザーの行動履歴を分析しながら、リアルタイムで最適な広告の組み合わせを企画すべきとされるようになりました。

 近年、ネイティブ広告、ビデオ広告、ダイナミックリターゲティング広告など、様々な配信メニューが台湾の市場でブームとなり、広告バイイングの戦略は「特定の強い媒体を利用したメディア集中投下型」から「属性の違う媒体の組み合わせたハイブリッド型」へ変化しました。

 面積と人口から規模が限られる台湾では、以前は短期間で最大リーチ数(台湾の広告業界で「声量」と言います)を確保できる方針で媒体を選択していました。広告主はGoogle、Yahoo! 奇摩、Facebookなどのユーザー数の多い媒体へ予算を投入し、おおまかにユーザーをとらえるような手法でしたが、最近はターゲットとなるユーザーに適切なタイミングで広告を見せられるよう、商材の特徴と広告目標を含めて、しっかり検討しながら最適な媒体を組み合わせる方向へシフトしています。

日本と異なる、現地広告主・代理店の習慣

1. 年間行事や各商戦期による年間出稿量の傾向

グラフ

注)
・(展)は、展示会など大きなイベント実施
・ PRはプロモーションの高まる時期の意味。例えば「HR PR」は、人材の流動性が高まる時期

出典:ソネット・メディア・ネットワークス

図1. 2017年 年間広告出稿変化と行事 傾向予測

◆生活に馴染んでいる旧来の風習と集中する祝日をプロモーションに活用

 図1で、台湾の年間行事と関連する広告イベントをまとめてみました。
日本では、年末年始と各月末(特に3月)に広告予算が集中される傾向があります。一方、台湾では、暦上の「祝日調整」と広告業界における「行事に沿った広告強化」の習慣があり、日本と大きな違いが存在します。新旧暦が並行する台湾では、新暦祝日と伝統記念日、両方とも一般生活に馴染んでいます。例えば旧暦にある「旧正月」は年越し、「清明」にお墓参り、「端午」は龍舟(ドラゴンボート)と粽子(ちまき)でお祝いするなどの風習があります。他にも7月は「鬼の月」のため、結婚や住宅購入を避けたり、「中秋」は家族が集まる日で、一緒に月餅を食べて「あと少し頑張って年末を迎えよう」と語りあったり、昔からの言い習わしにそって暮らしています。これら旧暦行事の日付は、毎年変わっていくため、「台湾行政院」(日本の内閣府にあたる)は年末に、翌年のカレンダーを掲示し、企業はそれを参考に翌年の出勤日を決定します。
計算してみると、台湾の祝日は、日本より8日ほど少ない日数です。但し、祝日調整によって休みが集中するため、消費につながりやすい傾向があります。さらに各祝日の歴史的背景があるため、各企業にとって年間行事は、商機を創出する最適なチャンスでもあると考えられています。

 広告主は、図1のスケジュールを見ながら、通常の広告配信(毎月の広告予算)と短期的な対応(予算の増額と配信目標調整(CPA重視から新規ユーザーの獲得へシフト))の組み合わせでプロモーション戦略を立案します。即ち、デジタル広告市場でもシーズンに沿った著しい広告相場の変動があります。台湾進出直後の海外事業者は、この変動についてあまり情報がなく、プロモーションの機会損失となってしまうケースが多くみられます。

2. クリエイティブの作成における違い

◆日本ではあまり見かけない、配色と組み合わせのクリエイティブ

イメージ

出典:ソネット・メディア・ネットワークス

図2 台湾で採用されやすいバナーイメージ(例、通信業者)

 私はよく日本のデザイナーの友人に「なぜか台湾で見るバナーは、色が重いですね」、「フォントは何を使用すればいいですか?」と聞かれることがあります。確かに台湾のバナーは日本であまり使わない濃い色を使用しています。特に旧正月の間、「吉色」とされている赤や金がメインとなるバナーがたくさん配信されています。

 日本ではページ閲覧の邪魔にならないよう、バナーになるべく白の背景を使う傾向があります。一方、台湾では、通常バナーの場合、黄色・紫色など目立つ色のバナーも同様にCTRが高くなる傾向がみられます。また現地広告代理店から「白背景なら、人の写真を入れないとなかなかクリックされにくい」という声もありました。配信する際は、多彩な配色とともに、各種類・各サイズのバナーを積極的にトライしてみることをお奨めします。また連載の1回目でお話したクリエイティブのローカライズについて、台湾では「中国語×繁体字」を使っていて、「台湾用繁体字」以外のバナーは、CTRが格段に低くなる傾向があり、クリエイティブ制作の際には注意する必要があります。

◆競争が激化するなかで、必要とされている綿密な戦略

 現在台湾は、人口や経済規模などから日本の九州と近いものであり、プログラマティック市場の規模も同様と推測されます。現在、参入する事業者が増えているため、競争が激化しているなかで、配信期間やクリエイティブ制作など、日本とはいくらか異なるところが存在します。海外からの広告主にとっては「新規利用者の獲得」と「リピーターの購入金額の向上」の課題に対してより綿密な戦略の立案が必要ではないかと思います。広告配信を依頼するシステム(DSP)の活用も、細かく配信設定できることと、運用する担当者が市場を理解していることが、広告の成功につながります。「The devil is in the details」(悪魔は細部に宿る)という言葉があります。皆さんは台湾市場に参入する際、当然のものとして進めてしまうところがたくさんがあるかもしれませんが、ぜひ両市場の差異を検討し、現地の媒体社や広告代理店、あるいは知り合いの方たちにヒアリングされることをお奨めします。

 次回は最終回となりますが、2017年最新の台湾の広告市場と今後の展望についてご紹介したいと思います。下回見!

ABOUT 林 靜怡 (リン チンイ)

林 靜怡 (リン チンイ)

ソネット・メディア・ネットワークス台湾(台灣碩網媒體網路股份有限公司)

台湾大学を卒業後、日本の大学院にて修士・博士を取得(専攻は木造建築)。 台湾にて広告PR関係の会社を起業、約3年間に経営に携わり、日本の総合広告代理店に勤務を経て、ソネット・メディア・ネットワークスに入社し、台湾事業の立ち上げに参画。 現在は、ソネット・メディア・ネットワークス台湾にて、日本法人、グローバル企業、台湾現地企業へプログラマティック広告のビジネス提案を行っている。