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動画市場時間400%増は本当なのか?--ボットの見えざる影響について

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(翻訳:Asia Plus 黒川賢吾)

動画広告はプログラマティック・メディア・バイイングの牽引役の一つとして高い期待を受けているが、ディスプレイ広告と同様に不正な通信トラフィックの被害を受けやすい。Coull社CEOのIrfon Watkins氏は、こうした問題点について以下のように論じている。
 

 

独立系市場調査会社のeMarketerのデータによれば、米国の成人はデジタル動画を毎日平均1時間16分見ており、2011年より21分も長くなっている。この驚くべき増加には様々な理由が考えられる。3年前と比べてウェブ上にどれほど多くの動画コンテンツが増えたかはもちろん、スマートフォン、安価なモバイル・データ通信サービスなどの利用増加、ネットスピードのパフォーマンス向上に起因するNetflix、HBO Now、Hulu、またFacebookのネイティブ・ビデオ等、オーバーザトップ(OTT)プラットフォームの人気などが背景として挙げられる。

 

しかしながら、信じがたいスピードで加速する動画消費の拡大のどの程度が市場拡大によるもので、どの程度が不正な通信トラフィック(ボットト・ラフィック)によるものなのだろうか?

 

 

不正行為と動画広告

 

最近、マーケティング・サイエンス・コンサルティング・グループ所属で独立系のAd Fraud(広告詐欺)の研究を行うAugustine Fou博士と話をする機会に恵まれた。博士はcomScoreの数字で考えられている以上に、広告詐欺が動画市場成長の背景に寄与していると考えているようだった。

 

「comScoreによる2013年の統計を思い出していただければお分かりになると思いますが、動画広告数のインプレッションは前年から急速に伸びました。インベントリーの大部分がボットによるものだと思います。オンラインにおける動画視聴時間は20〜50%程度は伸びたようですが、400%にはなりえません」と述べた。

 

Fou博士は、この事実を理解していたパブリッシャーがほぼ皆無であった為、この市場成長に応じて自社ビジネスの成長を期待する流れに繋がったと考えている。そして、それによってパブリッシャーのインプレッション不足数を満たす必要が顕在し、不正行為者に完璧な環境が用意されるようになったとも。

 

 

ボットネットの投入

 

不正問題を正しく理解するために、TubeMogulは3つのボットネットから一日あたり8,840万に及ぶインプレッションを探知したと言う。これはとても大きな数字に聞こえるが、現在活動中のボットネットの数は1900万〜2400万にも上ると言われていること念頭におく必要がある。

 

消費者に対して、自身のコンピュータにマルウェアやウイルス防止対策を勧めることは、もはや広告業界の頭痛の解消にはならない。5年前にはこれが得策であったが、今では不正行為者のやり方が著しく進歩しているのだ。

 

広告詐欺業者は、インフィニティ・ミラーとほぼ同様に作用するiFramesを開発している。これらのiFramesは、大量の広告とさらなるiFramesへのリンクが詰まったページにリンクされている。その先にはさらに同様のページが存在し、ページによっては複数リダイレクトする最大72層の広告とiFramesがあるとも言われる。データセンター内の無数回のリフレッシュを行う何百万もの仮想ブラウザー・インスタンスを宿すことにより、広告主の予算は瞬く間に消失してしまう可能性があるのだ。

 

 

業界からの反応

 

サードパーティーベンダーは、キャンペーン完了後に詳細な分析を実施することで、広告主の正しい収益改善をサポートしてくれる。これらの支払プロセスは無駄な広告支払を最小限にしてくれる点で広告主にとっては有り難いものであるが、一方でパブリッシャーにとってはプロセスの最終段階まで正確な収益が分からない為、面倒なものである。代替的に、広告主はパブリッシャーが正当なインプレッション数に応じて補償すべきであると主張する。

 

ポストキャンペーンの問題は、ボットトラフィックに犯されるという前提がないまま、インベントリー保証におけるビット前の分析ツールが開発されている点にある。問題は、現在も進化は続けているものの、ビッド前分析のテクノロジーが、クローズドの入札後の分析結果やボットを特定する技術と上手く作動しないという問題がある。買い手と売り手、買い手同士の間で数字が異なってしまうのである。

 

アドエクスチェンジは激化しつつあるボットの猛攻撃を最大限に食い止めようとしている。エクスチェンジは、ユニーク数とインプレッション数の間の数値変化や、firehoseが使用不能にされたり、他のウェブページにリディレクトされる時などのトラフィックの変化に目を光らせる事により状況を平常化させるよう試みている。

 

問題は改善しつつあり、IABはSafeFrame 1.0のテクノロジーを開発した。これにより、パブリッシャーのページがアドコンテンツと直接やりとりが出来るようになった。この技術により、消費者保護が強化され、ページの品位が損われるような探知不能な変更を防御出来るようになった。Coull_Irfon_Watkins_1200残念なのは、この技術がブラウザに導入され、バブリッシャーが自身のサイトに組み込むようになるまでにはもう5年程かかる点である。

 

ボット・トラフィックは単一のステークホルダーの責任ではない。パブリッシャーはより慎重になること、データ・センターが何らかの責任をとること、アドエクスチェンジは独自のモニタリングの開発を継続して行うこと、そして計測ベンダーはより高い透明性を実現すること、さらには入札前のテクノロジーを開発することを止めないことが必要である。これらの全てが実現し、そしてアドテク業界がIAB等の業界団体と協力体制を組むことで、関係者全員にとってボットトラフィックによる障害は減少するであろう。

(編集:三橋 ゆか里)

 

 

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。