生成AI時代の広告運用最前線-人の役割は本当に不要になるのか?-ATS Tokyo 2025 セッションレポート
ATS Tokyo 2025 にて「AI広告運用の真実〜本当に人は不要になるのか?〜」と題したセッションに登壇したのは、株式会社電通デジタル CAIO / 執行役員 山本 覚氏。生成AI・AIエージェント・フィジカルAIが広告およびマーケティング業務に与える構造変化を、最新のユースケースとともに紹介した。 セッション登壇者 株式会社電通デジタル/CAIO(Chief AI Officer) 兼 執行役員/山本 覚 氏 ExchangeWire JAPAN 編集部員/角田 知香 生成AIが標準装備化した広告制作 山本氏は冒頭、2022 年の ChatGPT 登場以降、生成 AI のマルチモーダル化が急速に進んだ背景を振り返った。画像生成、動画生成、音声生成など各技術が揃い、2025 年には自律的なタスク処理が可能なAIエージェントが台頭したことで、広告運用プロセス全体に大きな影響がもたらされていると説明した。 広告制作領域では、生成 AI が「クリエイティブ制作・効果予測・改善提案」を一気通貫で担えるようになり、静止画バナーや動画の自動生成は特別な技術ではなくなった。山本氏が紹介した複数のバナー例はいずれも AI のみで生成されたもので、テンプレート化されたプロンプトやブランド特性を踏まえた指示により、多様なクリエイティブを短時間で量産可能な環境が整っている。 しかし AI の生成が高度化するほど、クリエイター側のアートディレクションやプロンプト設計の重要性はむしろ高まるという。山本氏は「AI が当たり前に生成できる“手前”で、どの要素をどう指定するかが差異を生む」と述べ、表現意図を適切に構造化し、指示する役割が重要であると語った。 動画生成についても、背景除去・合成・アニメーション処理などが自動化され、従来のように複数のツールを横断する負担が解消されつつある。特に Sora 2 や Luma AI などの API が公開されたことで、高精度動画がプロンプトのみで生成できるようになり、静止画広告と比較してインプレッションやコンバージョンが大幅に向上した事例が紹介された。生成 [...]
商品がメディアになる日-セブン-イレブン×八代目儀兵衛が示すリテールメディアの力-ATS Tokyo 2025 セッションレポート
本セッション「商品がメディアになる日。—リテールメディアが変えるブランド体験の新常識」では、株式会社セブン-イレブン・ジャパン 新規事業推進室 総括マネジャー 杉浦 克樹氏、株式会社八代目儀兵衛 取締役CMO 神徳 昭裕氏が登壇し、モデレーターは ExchangeWire JAPAN 副編集長 柏 海 が務めた。 セッションでは、セブン‐イレブンの商品における「ライスイノベーションプロジェクト」の一環として八代目儀兵衛の知見、商品パッケージを含むリアル店舗におけるリテールメディアの構造変化、店頭起点でのブランド体験拡張、さらにセブンカフェを活用した広告検証事例などをもとに、商品・店舗・空間をメディアとして再定義する取り組みが議論された。 セッション登壇者 株式会社セブン-イレブン・ジャパン/新規事業推進室/総括マネジャー/杉浦 克樹氏 株式会社八代目儀兵衛/取締役CMO/神徳 昭裕氏 ExchangeWire JAPAN 副編集長/柏 海(モデレーター) リアル店舗をメディア化するための「課題」と「可能性」 杉浦氏は全国展開されているセブン‐イレブンにおける、リテールメディアの特徴として、2,700万IDのアプリ会員基盤と全国約2万1,800店(※)の店舗網という構造を挙げた。アプリを中心とした1stパーティデータ基盤によって、購買履歴に基づく1to1コミュニケーションが可能になっている一方、課題としてセブン‐イレブン店舗以外における購買前後の行動を捉えきれない点を指摘した。 (※25年11月末時点) アプリではIDベースで購買が追えるものの、店頭サイネージなどの店舗メディアから来店者の行動が個別でどう変化したか、あるいはセブン‐イレブン店舗以外での購買にどのような影響を与えたかを把握することは難しい。 八代目儀兵衛は、通販・飲食・業務卸・中食という多角的展開を基盤に、他社ブランドの米品質向上を支援するソリューション事業も展開していた。そのなか、神徳氏は八代目儀兵衛が抱えていた課題として「お米離れが進む中で、お米の価値をどのように再定義できるか」としたうえで、全国的なブランド認知を高める手段を持ちにくいことが課題であると取り上げた。 「ライスイノベーションプロジェクト」が示した商品メディア化の実例 セブン‐イレブンの商品開発における「ライスイノベーションプロジェクト」の一環として、2022年から八代目儀兵衛の知見を加え取り組んで来た。 本取り組みの背景には、コロナ禍で専門店の台頭や家庭内調理の増加により、コンビニおにぎりの需要が低下したことがあった。また、産地銘柄ごとに品質が揺らぎやすく、安定したおいしさの維持が難しいという構造課題もあった。 八代目儀兵衛は、約70種類の米から最適な品種を選定する「低温精米」、「目利き」、「ブレンド」の取り組みを実施。約1年半の開発を経て、2023年3月21日にセブン‐イレブンで八代目儀兵衛ごはん監修のおにぎりが全国発売となった。 神徳氏は、「事前に想定をしていた以上に、発売後味への評価が大きく広がった」と語り、セブン‐イレブンでは 販売数が前月比10%増といった成果が見られた。1日あたり500万個規模で販売されるおにぎりカテゴリーでの10%増は、全店への波及効果も含めて大きい数値である。また、八代目儀兵衛自身のブランドにも波及し、企業認知率が半年で12%→60%超へ上昇、通販の年間売上も大きく増加した。神徳氏はこれも「想定外の効果」だったと振り返っている。 さらに、商品パッケージをめぐる変化がブランド認知にどのように影響したかが紹介された。海苔なしおにぎりのパッケージが変化する過程で「監修が終了したのではないか」と誤認されるケースも発生したが、後発の「手巻きおにぎり」が定着して以降は認知も安定し、商品そのものがメディアとして引き続き機能するようになった。 セブンカフェでの広告検証が示した「行動変容可視化」の可能性 セッションの後半では、セブン‐イレブンがテスト運用を進める セブンカフェマシン広告の事例が紹介された。 セブン‐イレブンではカップをセットすると挽きたてのコーヒーをすぐ飲むことが出来るカフェマシンを全国に設置し、広く知られている。カフェマシンに取り付けられたディスプレイでは、抽出時(約60秒)の待ち時間に動画を流し、広告メディアとしての機能も果たしている。カフェマシンは多くのお客様にご利用いただいているため、約153万人が視聴するメディアとなる。 このカフェマシンのディスプレイを利用し、セブン‐イレブンでは自社商品の「しっとりフィナンシェ」を広告として配信。その結果、広告配信期間中に、トライアル率:166%、併買率:173%と大幅に上昇するなど、レジ会計後に広告を閲覧してから商品を購入する行動が起きた可能性や、後日に別店舗で購入した可能性など、即時購買に限らない効果が上がったことが示唆された。 さらに、広告配信終了後においては、フィナンシェの販売数が前年同週比で120%前後を維持するなど、「残存効果」も確認されている。杉浦氏は、この事例を通じて「リテールメディアの効果や評価軸は購買直後に限定されず、ブランドへの認知や中長期の行動変容にも広がりうるだろう」と述べた。 最後に両者は、リテールメディアの今後についてそれぞれ見解を述べた。 杉浦氏は、購買データとリーチ効果の両立を深化させるため、小売横断のメディア連携や共通の計測手法の構築が重要であると強調した。すでに小売企業間でもメジャメント(広告効果の指標)整備を進める動きがあることにも触れ、広告主が利用しやすい共通基盤をつくることが次の課題であると語った。 神徳氏は、米価が高騰する中で「今はお米の価値を見直す機会」が訪れているとした。自社単独での大規模投資には課題が残っている一方、セブン‐イレブンのような全国チェーン店とも協働していくことで、八代目儀兵衛の技術・ノウハウをブランドとして認知させる取り組みをさらに磨いていくと述べた。
新世代のシゴト観-統合ソリューションとグローバル協働の現場で見つけた、成長のかたち[インタビュー]
グローバルブランドの日本市場展開を支援しながら、社内外の垣根を越えて新たな広告ソリューションを推進する若手マーケターがいる。 株式会社電通ジャパン・インターナショナルブランズ Manager 兼 Integrated Solutions Office Solution Development Supervisor の須藤梓氏だ。 デジタル専業代理店からキャリアをスタートさせた須藤氏は、現在、グローバルクライアントのアカウントマネジメントと、次世代ソリューションの開発推進担当として、電通グループのメディア・テクノロジー領域におけるケイパビリティを高める一翼を担っている。 変化の速いデジタル広告業界の最前線で、何を学び、どのように成長を重ねてきたのか。自身の経験を通じて見つめるキャリア形成と、業界の未来への視座を聞いた。 キャリアの原点——デジタル専業から統合型エージェンシーへ 学生時代には広告研究会に入っていたという「広告好き」の須藤氏が、広告業界に足を踏み入れたのは新卒時。最初に所属したのはデジタル専業の代理店であった。 運用型広告のプランニングやパフォーマンス改善に約5年間携わり、デジタル領域における基礎スキルを徹底的に磨いた。また、若くしてチームマネジメントを経験する機会も得られたという。 「購買に直結する広告効果を日々検証しながら、デジタル広告の奥深さを学びました。一方で、より認知に響く広告やブランドコミュニケーションにも挑戦し、その相乗効果を生み出せる人財でありたいという思いが強くなったのです」。 そしてより広いマーケティングの視野を求め、2022年にカラ・ジャパン―現在の電通ジャパン・インターナショナルブランズ(DJIB)へ転職。オンオフ統合型のマーケティングに携わる環境で、グローバルクライアントのシニアプランナーとして新たなキャリアをスタートさせた。 「フルファネルでブランドを支援できること、そしてグローバルな視点を持つチームと協働できることに魅力を感じ、勇気を出して参画しました」。 クライアントと向き合う日常——挑戦の中にある“責任”と“喜び” 須藤氏は現在、米国に本社を持つ複数のグローバルブランドを担当し、メディアプランニング設計からキャンペーンの実行、効果測定までを一貫して手掛ける。 「当社では多くのアカウントにおいて、営業とプランナーを分けず、プランナーが一貫してクライアントの最前線に立ちます。責任は大きいですが、その分だけクライアントとの協業範囲も広くやりがいがあります」。 同じアカウントを担当するグローバルチームとの連携も日常的であり、時差を超えたミーティングや資料作成などの連携も欠かせない。業務の多忙さはあるものの、異なるバックグラウンドを持つ同僚と協働することで、日本と海外でのメディアのスタンダードの違いなど、日々新たな発見があるという。 日本のオフィスにおいても、「多国籍なメンバーと働くことも多く、コミュニケーションもオープンでフラットに感じます。刺激的でありながら、とても働きやすい職場です」と語る。 そして、グローバルキャリアの構築には欠かせない英語、とりわけスピーキングは「日々の業務で習得している」とのことだ。無論、クライアント向けの資料作成やメールは英語がベースである。 自身については「意外にタフなんです」と須藤氏。多忙なクライアントにも寄り添ってキャッチアップが出来ることを自負しており、DJIB入社当初から担当している2社のクライアントとの関係もすでに4年に及ぶという。 「クライアントとのコミュニケーションでは、相手の立場を多角的に考えます。クライアントの担当者は、当然対エージェンシーのみではなく、国内外のクライアントの社内チームやステークホルダーにも向き合っていらっしゃいます。 言われたことをそのまま受けとるのではなく、資料1つにしても“この後どのように展開されるか”“誰が意思決定に関わるか”を考えながら、相手が動きやすくなるよう擦り合わせることを意識しています」と、相手との信頼性を構築するための秘訣も教えてくれた。 社内外をつなぐ仕掛け人——“dentsu Japan Digital Day”で広がる知見共有の輪 須藤氏はアカウント業務に加え、DJIB内の「統合ソリューション室」にも所属し、国内外の先進的なソリューションの社内推進や、メディアとのパートナーシップの構築を担っている。 「日本にも素晴らしいソリューションが多いのですが、私たちのチームでは特に、海外で一般化している概念やソリューションを日本市場でも活用できるよう、情報収集やメディア、ベンダーとの協業を進めています。新しい取り組みをローカルに合わせて展開し理解を得る過程は簡単ではありませんが、確かな手応えを感じています」。 「まだ日本にはない新しいソリューションに出会うことに日々ワクワクしている。」と語る須藤氏。だが一方でこれらを日本で普及させるのは、ローカルの特殊事情を考慮する必要などもあり、一筋縄ではいかない。グローバルと日本とでは市場環境や求められるニーズが異なることも、多分にある。 課題解決には多様なステークホルダーとの調整や細やかな確認が欠かせず、タフな仕事だという。直近では、アテンション(Attention)指標のメディア横断実証と普及にも力を注いでいる。 Attention指標について、須藤氏がメディア横断での計測に初めて取り組んだのは2024年のこと。日本独自の媒体では計測タグの受け入れが未対応であることも多く、チームと共に各媒体にヒアリングを進め、完全には媒体横断での計測ができない課題にも直面した。 「こうした状況が改善され、より価値を生む広告運用につながるよう、指標を有効活用できる環境が広がってほしいと思っています。実際、日本でも浸透は進んでいて、2025年にかけて対応媒体が増えている手応えがあります」。 幅広い業務範囲でマルチタスクを次々とこなす須藤氏の活躍を象徴するのは、社内外の知見を結ぶ取り組み「dentsu Japan Digital Day」である。 国内外のメディアパートナーやテクノロジーベンダーと協働し、社員が最新の広告ソリューションやデジタルツールの情報を収集できるように企画された社内向けイベントだそうだ。 「当社の強みは、海外領域も含め蓄積された知見とネットワークです。その情報を社内に発信し、社員一人ひとりが新しいツールや手法を理解・活用できるようにすることが目的です。忙しい業務の中でも、楽しく興味をもってもらえるよう意識して取り組んでいます」 須藤氏はこのプロジェクトの企画・推進リーダーの1人として、メディア各社との調整、登壇者選定、社内広報まで幅広く携わっている。 「初回は試行錯誤の連続でしたが、回を重ねるごとに参加者や社外からの注目も増え、様々な媒体様から『次は自分たちも出展したい』というお声もいただくようになり、半年先まで枠が埋まっているほどです。社内外のつながりが生まれ、想定以上の成果を感じています。」 この取り組みは、DJIBのみならず、電通グループ全体の知見共有を促すと同時に、パートナー企業との新たな協業機会を創出している。 デジタル広告業界への視点——進化を恐れず挑戦を続ける 日系エージェンシーからグローバルエージェンシーに移った経験から、須藤氏は日本市場の課題を肌で感じている。 「グローバルと比べると、日本ではアドテクノロジーやデジタルソリューションの活用度合いにまだ伸びしろがあると感じます。広告主側でも、より質の高い広告に対する関心が今後ますます高まっていくでしょう。」 多様なテクノロジーが登場する中で、何を選び、どう使いこなすかが問われる時代である。 「ツールの進化や手段の多さは素晴らしいことである一方で、わかりづらく混乱を招くこともあり、シンプルなウォールドガーデンメディアの利用に依存してしまう傾向も感じます。Programmaticやアドテクは難しそうという印象で終わってしまうのは勿体ないことですので、広告主様のニーズに1番沿ったものを、これからも根気強くご提案していきたいなと思っています。」 また、業界の急速な進化に対しても、須藤氏は前向きだ。 「様々な媒体様やベンダー様の今後のロードマップをお伺いしたり、開発中の機能を少し見せていただいたりする中で、AIの導入や自動最適化の仕組み、3rd partyツール同士の併用の可能性など、進化のスピードは速く、広告の形はどんどん変わっていきます。新しい仕組みに関心を持ち、早々にチャレンジしていくことができる視点を持つマーケターが、一歩抜けて次のステージを切り開くのではとも感じますので、これからも業界の皆様、広告主様とともに挑戦を重ねていきたいです」 挑戦がキャリアを形づくる——行動から生まれる成長の実感 須藤氏はキャリアの節目ごとに“挑戦すること”を選び取ってきた。今の職場は、オンライン、オフラインと幅広い領域のソリューションの活用ができ、縦割で個々の役割が決まっている組織ではない。 柔軟な組織の中で、幅広い業務に対して、オーナーシップを持って取り組むことにより、1社目で抱いた「次の展望」を、今の環境で実現できている実感があると語る。 「中長期的には、これまで培ってきたグローバルメディアの知見を活かし、日本により広い選択肢を広げていける存在になりたいです。また、海外から日本へ/日本から海外へといった“イン・アウトの両方”を担える存在になることが、密かに描いている大きな目標です」と抱負を語ってくれた。 「20代の頃は“広告はマーケティングの一部に過ぎない”と捉え、将来的には広告主側でマーケティングに挑戦したいと考えていました。だが2社目に転職してみると、エージェンシーという立場でも新たな発見は尽きず、業界の奥深さと面白さを改めて実感しました。」 転職や兼務といった変化を通じ、広告主との協業の幅も増えることで、広告の枠を超えたマーケティングの全体像を体感してきた。 「キャリアに悩んだ時、一度動いてみることで違う視点を得られました。まだ2社目ですが、恐れず挑戦してみることで、成功も失敗も含めたすべての経験が、今後のキャリアを豊かにしてくれると感じています」 国内外のクライアント、パートナー、そして社内の仲間とともに新たな価値を創り出す須藤氏の姿勢からは、次世代を担うマーケター像のあるべき姿が浮かび上がってくる。変化を前向きに捉え、自ら行動することで成長を続けるその姿は、業界の未来に確かな希望を灯している。
DMT、Jellyfish Japanと連携しAmazon Prime Video広告の取り扱いを開始 ー元Amazon出身の専門家が率いるDMT、動画広告支援体制をさらに拡充ー
左が梅野氏、右が廣田氏。二人ともAmazon出身のアドテク専門家。きっと腕は確かだ。 買歴で動画に挟む冬の夜 DMT株式会社(以下、DMT)は、同社の戦略的パートナーであるグローバルデジタルマーケティング企業、Jellyfish Japan株式会社(以下、Jellyfish)が、Amazon Adsの提供する「Prime Video広告」の取り扱いを開始したと発表した。 DMTはJellyfishとの強力な連携を通じて、クライアントに対し、リーチ拡大からブランドリフト、購買促進までを一貫して支援する高品質な動画広告ソリューションを提供していく。 スキップ不可の環境で「確実に届く」広告体験 「Prime Video広告」は、Amazon Prime Videoの映画やドラマ、オリジナル作品といったプレミアムな長尺コンテンツ内で配信される動画広告フォーマットである。 最大の特長は、ユーザーがスキップできない広告枠を含んでいる点にある。動画広告市場において「広告がいかに確実に視聴されるか」は大きな課題であるが、本サービスは高い視聴完了率を維持することで、ブランドメッセージを確実に視聴者へ届けることが可能となっている。 Amazon独自の購買データによる高精度なターゲティング また、Amazonが保有する膨大な購買・閲覧データを活用した高度なターゲティングも大きな強みである。リリース内で引用されたAmazonの独自データによると、Prime Video視聴者は一般平均と比較して「世帯年収が15%高く」「Amazonでの支出額が65%多い」という傾向が示されている。 このように購買意欲が極めて高い層に対し、Amazonのショッピングシグナルに基づいた正確なアプローチができる点は、他の動画プラットフォームにはない独自の優位性といえる。 高度なデータ分析による広告投資の最適化 DMTは、Google Marketing Platform(GMP)の公式パートナーであるJellyfishの専門性を活かし、科学的なアプローチで広告運用を支援する。 具体的には、主要な第三者配信ツール「Campaign Manager 360 (CM360)」を活用し、YouTube広告とPrime Video広告を横断したリーチの重複を正確に計測する。既存の施策に対してPrime Video広告がどれだけ新しい視聴者層(インクリメンタルリーチ)を追加できたかを可視化することで、複数メディアにおける最適な予算配分と、広告投資の最大化を実現するとしている。 Amazonを知り尽くした創業メンバーによる専門性 DMTの創業者である廣田力氏および梅野浩介氏は、いずれもAmazon出身のアドテクノロジー専門家である。両氏はAmazon在籍時に広告事業やデータ関連業務に深く従事しており、その経験を基に2021年にDMTを設立した。 Amazonの広告プロダクトや複雑なデータ構造を熟知していることが同社の根幹の強みであり、今回のPrime Video広告の取り扱い開始により、Amazon広告領域における支援体制はさらに強固なものとなった。 今後の展望 今後、DMTはJellyfishとのパートナーシップを通じて、Amazonを中心としたイーコマースおよび動画広告領域の支援を強化していく方針である。既存のデジタル動画広告やCTV(コネクテッドTV)広告を組み合わせ、データ分析技術を駆使した革新的なマーケティング支援を提供することで、クライアントのビジネス成長に貢献していくとしている。
「○○Ads」が拓くメディアの生存戦略-ファーストパーティーデータと自社プラットフォームの現在地-ATS Tokyo 2025 セッションレポート
ATS Tokyo 2025で行われたセッション「『○○Ads』のつくり方 メディアの生存戦略〜新しいアドネットワーク時代の幕開け〜」には、株式会社アイモバイル メディアソリューション事業本部 新規事業開発 プロダクトマネージャー 折出敏明氏、株式会社メルカリ Head of Ads Business 赤星大偉氏、アソビュー株式会社 メディアソリューション部 部長 四方田朋紀氏の3名が登壇した。モデレーターはExchangeWire JAPAN共同編集長の長野雅俊が務めた。 本セッションでは、メルカリAdsやアソビューAdsといった自社広告プロダクトを立ち上げた背景、スクラッチ開発と外部プロダクトの活用それぞれの実態、広告事業導入に対する社内合意形成のプロセス、ユーザー体験と広告収益のバランスの取り方、さらにファーストパーティーデータを核とした「○○Ads」市場の今後の広がりについて、具体的な事例を交えながら議論が行われた。 セッション登壇者 株式会社アイモバイル/メディアソリューション事業本部 新規事業開発 プロダクトマネージャー/折出 敏明 氏 株式会社メルカリ/Head of Ads Business/赤星 大偉 氏 アソビュー株式会社/メディアソリューション部 部長/四方田 朋紀 氏 (モデレーター)ExchangeWire JAPAN/共同編集長/長野 雅俊 「○○Ads」誕生の必然性 セッション前半では、3社それぞれの自己紹介とともに、自社ないし支援する広告プロダクトの輪郭が語られた。 折出氏が所属するアイモバイルは、アドネットワーク運営などを行うインターネット広告事業とふるさと納税ポータル「ふるなび」の運営を行う企業であり、折出氏自身は2010年の入社以来、一貫してアドネットワーク事業に携わってきたと説明した。現在は、メディア企業向けOEMプロダクトである「アドネットワークOEM」の拡販を担当している。 アドネットワークOEMは、アイモバイルが蓄積してきた広告配信の機能や仕組みを、メディア企業向けにOEMとして提供するものである。メルカリAdsやアソビューAdsと同様のセルフサーブ型運用型広告プラットフォームを、メディア自身が構築できる点が特徴であると折出氏は紹介した。 一方、四方田氏は、アソビューに約2年半前に参画した経緯を語った。着任時点ではアソビューに広告事業は存在しておらず、新規事業としての広告ビジネス立ち上げを目的として参画したという。過去にはレストラン検索・予約サイト「食べログ」の広告事業立ち上げや、SmartNewsにおけるローカルクーポンの立ち上げなど、メディアのマネタイズ基盤をゼロから構築してきた経験を持つと紹介した。 アソビューが運営するレジャー・体験予約サイト「アソビュー!」は、国内でも大規模な送客・予約のハブとなっていながら、長らく広告メニューを持たなかった。その状況に対し、同社が保有するレジャー・アクティビティ領域のファーストパーティーデータを活用すれば、広告として価値を提供できる余地があると判断し、アソビューAdsの立ち上げに至ったと四方田氏は述べた。 赤星氏は、広告媒体社側でのエンジニアリングからセールスまでを経験した後、約2年半前にメルカリに参画し、「メルカリAds」の立ち上げを担当していると紹介した。 背景として、従来のコンテンツメディアやSNSとは異なる「EC・マーケットプレイス事業者による広告事業参入」が世界的なトレンドになっていることを挙げた。 「メルカリ」の場合、約2,800万の自社推計お客さまに利用されており、他の大手デジタルメディアと比較しても遜色のない大規模な接点を有していると説明した。 さらに、「メルカリ」は「モノを買う」だけでなく「モノを売る」という行動が日常的に発生するサービスであり、その購買・販売行動データを広告に活用できる点がユニークであると赤星氏は強調した。年間の流通総額(GMV)は1兆円規模に達しており、その基盤の上に広告事業を構築することで、マーケターに対して新たなインサイトを提供できる可能性があるとの認識を示した。 折出氏は、こうした「○○Ads」立ち上げの動きの背後には、大きく二つの環境変化があると整理した。ひとつは、プライバシー規制やサードパーティークッキー制限の影響により、ディスプレイ広告の単価が年々下落し、メディア側が収益の安定化を求めて自ら広告予算を取りに行く必要性が高まっていること。もうひとつは、IDFAやクッキーに依存したターゲティング広告配信が難しくなるなかで、広告主側がメディアのファーストパーティーデータに対する出稿ニーズを強めていることである。 その結果として、豊富でユニークなファーストパーティーデータを持つメディアが自ら広告プラットフォームを構築する動きが今後加速すると想定し、アイモバイルは自社の広告配信技術と運営ノウハウをパッケージ化したアドネットワークOEMを開発・提供するに至ったと語った。 自社開発かOEMか 議論は、広告プラットフォームを「自社開発するか、外部システムを活用するか」というテーマに移った。 赤星氏は、「メルカリ」が自社開発を選択した理由として、組織構成と人材基盤を挙げた。メルカリグループ全体で約2,000人規模の組織のうち、半数以上がエンジニアやプロダクトマネージャー、機械学習エンジニアであり、インドをはじめとした海外からもエンジニアを採用していると説明した。そのため、「ものづくり」は基本的に内製で進めるカルチャーがあり、まずはファーストパーティーデータを最大限活用できる自社の仕組みをつくる方針を取ったと述べた。 一方で、運用型広告プラットフォームを一から立ち上げることの難しさについても言及した。広告配信アルゴリズムの設計・チューニングには、媒体収益と広告のパフォーマンスの両立が求められ、継続的な開発リソースと機械学習リソースの投下が不可欠であるという。立ち上げから1〜2年が経過しても、機能改善や配信ロジックの最適化は現在進行形で続いているとし、「自社で作る」と決めたとしても、容易に完結するものではないという認識を示した。 それでも、自社開発によって新しいファーストパーティーデータを柔軟に組み込める自由度は大きいと赤星氏は語る。メルカリが展開する他サービスのデータをいち早く広告配信に反映させるといった取り組みも、内製だからこそ素早く実行できていると説明した。 対照的に、四方田氏は「アソビューはメルカリとは真逆でOEMを採用した」と述べた。アソビューにおける広告事業は完全な新規事業であり、開発リソースを十分に割くことが難しかったことが最大の要因であるという。 社内の開発リソースを投じてスクラッチで構築する場合、新規事業としてのリスクが大きく、トライアルの段階から大規模な投資を行うことになる。一方、アイモバイルのOEMを活用すれば、検証的な段階から比較的低リスクかつ迅速に事業を開始できると判断したと四方田氏は述べた。 折出氏は、両アプローチの特徴を整理した。自社開発は自由度が高い一方で、人材や時間といったコストが大きく、特にデジタル広告の知見を持つ開発人材が必要になると指摘した。運用型広告プラットフォームでは機能や仕組みが複雑化しやすく、その設計・運用には専門性が求められるため、メルカリのようにスクラッチで構築できる企業は限られるのではないかという見方を示した。 それに対して外部システムを利用する場合は、開発コストを抑えつつ、より迅速に広告事業を立ち上げることができる。ただし、システムの自由度には一定の制約が生じ得るとしつつも、アイモバイルのアドネットワークOEMでは、広告配信の仕組みだけでなく、レポート閲覧やクリエイティブ入稿、入札単価の調整などを行う広告主向け管理画面も含めてパッケージで提供しており、メディアがアドプラットフォーム運営に必要な機能一式を揃えていると説明した。 議論はやがて、広告事業導入に伴う社内合意形成と、ユーザー体験との両立に移った。赤星氏は、「メルカリ」におけるコア事業であるマーケットプレイスのGMVが1兆円規模であることを踏まえ、広告事業はその上に「積み上がる」形式でなければならないと述べた。市場全体の売上を押し下げるような形で広告が表示されてしまうことは許容できないとし、マーケットプレイスのチームと共通の指標を設定しながら、GMVへの貢献度を統計的に検証するポリシーとガイドラインを策定していると説明した。 また、社内には広告ビジネスに馴染みのないメンバーも多く、広告のメカニズムや価値について継続的に説明していく必要があると述べた。社内勉強会などを通じて、広告配信の仕組みや指標、リスクとそのコントロール方法を共有しているという。 四方田氏も、アソビューで広告事業を始める際には「広告、広告事業への理解」を得ながら事業構築を進めた。社内ではコアビジネスであるチケット販売や体験予約と、広告収益が相反するのではないかという懸念が存在したためである。こうした懸念に対しては、まず広告メニューの内容と目的を全社的に丁寧に説明し、限定的な枠から少しずつ導入していくアプローチを取ったという。 広告導入後、実際の収益化や新しい取り組みを共有することで、徐々に社内の理解と支持が広がり、新しい広告枠の追加にも前向きな議論ができるようになってきたと四方田氏は述べた。 折出氏は、ユーザー体験の毀損リスクを抑える機能として、アドネットワークOEMにおけるクリエイティブの事前審査機能を紹介した。広告主が入稿したクリエイティブは専用画面に一覧表示され、メディア側がランディングページを含めて確認・承認して初めて配信される仕組みであり、意図しない広告が表示されることを防ぐことができると説明した。 さらに、メディアが自ら広告フォーマットを定義できる設計とすることで、一般的なバナーサイズに縛られることなく、自社サービスの世界観やユーザー導線に最適化された広告表示を実現できるようにしていると述べた。 「○○Ads」市場の行方 セッション終盤では、各社の中長期的な展望と、「○○Ads」市場全体の将来像について意見が交わされた。 「メルカリAds」について赤星氏は、現状を「ものづくりを進めながら広告在庫を拡大している段階」と位置付けた。現時点では大手広告主や広告代理店を中心に販路を拡大しているが、今後はセルフサーブ型の提供や中小規模の広告主への展開を進めていく必要があると述べ、直近1年は重要なフェーズになるとの見解を示した。 プロダクト面では、動画広告を大きなチャレンジ領域として挙げた。「メルカリ」はもともと動画コンテンツを持たないサービスであるが、その環境下で動画広告をどのように展開し得るのか、ポテンシャルを検証していく段階にあると赤星氏は説明した。 四方田氏は、アソビューの広告事業が開始されてから丸1年が経過し、ナショナルクライアントからの出稿が順調に増加している現状を紹介した。アソビューは、予約・購入データをはじめとする膨大なファーストパーティーデータを保有しており、今後はこれらのデータをさらに活用した広告メニューの展開を検討しているという。 また、アイモバイルとの連携を通じて、これまでナショナルクライアントを中心に提供してきた広告メニューを、全国約1万2,000の提携施設などパートナー側にも開放し、より気軽に出稿できるような仕組みを整備していきたい考えを示した。 折出氏は、個社の枠を超えた「○○Ads市場」の今後について言及した。同氏は、メディアのファーストパーティーデータの価値は今後ますます高まると見ており、既に小売系のリテールメディアだけでなく、金融系や航空系など、従来は広告マネタイズを主目的としていなかった事業者が、自社メディアを広告媒体化し、保有データに対する出稿メニューを整備する事例が出てきていると指摘した。 こうした多様な業界で、自社メディアとファーストパーティーデータを基盤とする広告事業が立ち上がっていくことで、「○○Ads市場」と呼べるようなまとまりが形成されていく可能性があるとの見方を示した。 もっとも、自社で開発体制や広告運営の知見を備えている企業は限られており、多くの事業者にとっては「何から作ればよいのか」が課題になると折出氏は指摘する。その課題に対し、アイモバイルとしてはOEMプロダクトと運営ノウハウの提供を通じて、さまざまな業界の「○○Ads」立ち上げを支援していきたいと述べ、セッションを締めくくった。 本セッションでは、メルカリAds、アソビューAds、アドネットワークOEMという三者三様の取り組みを通じて、ファーストパーティーデータを軸にメディアが広告事業を自ら構築していく動きの具体像が示された。プライバシー規制やクッキー制限といった環境変化の中で、メディアがどのように自らのデータとユーザー接点を活かしていくのか──「○○Ads」の立ち上げと運営の舞台裏は、その一端を浮き彫りにしたと言える内容であった。
クッキーレス時代のID戦略とパブリッシャー収益最大化-ATS Tokyo 2025 セッションレポート
「3rd Party Cookie(サードパーティ クッキー)のその先へ。IntentIQ(インテントアイキュー)とパブリッシャーが語る次世代のマネタイズ手段」と題した本セッションでは、IntentIQ VP Business DevelopmentのTamir Shub氏、株式会社インタースペース メディア&ソリューション事業部 事業部長の長谷川達也氏が登壇し、クッキーレス環境におけるIDソリューションの役割と、日本のパブリッシャーにとっての収益最大化の方向性について議論した。モデレーターはExchangeWire JAPAN共同編集長の長野雅俊が務めた。 IntentIQのグローバル展開状況や、日本市場での導入実績、Safariなどクッキーレス環境でのフィルレート・CPM・収益の具体的な改善数値が共有されるとともに、インタースペースが女性向けライフスタイルメディアを運営する中で直面してきた入札単価の課題と、その打ち手としてのIDソリューション活用が語られた。さらに、どのような観点でIDソリューションを選定すべきか、複数IDの並行導入をどう考えるか、SNSや生成AIの台頭によるPV減少と在庫価値向上の関係など、パブリッシャーにとって実務的な論点に踏み込んだセッションであった。 セッション登壇者 IntentIQ/VP Business Development/Tamir Shub氏 株式会社インタースペース/メディア&ソリューション事業部/事業部長/長谷川 達也氏 ExchangeWire JAPAN/編集部/共同編集長/長野 雅俊 クッキーレス環境で求められるID基盤 セッションの前半では、Shub氏がIntentIQの事業概要と技術基盤について説明した。IntentIQはアイデンティティ・ソリューションを中核とするテクノロジーベンダーであり、北米から事業をスタートし、日本、オーストラリア、欧州へ展開してきたと紹介した。 同社は海外のアワードでアイデンティティ技術やパブリッシャー向けプラットフォームとして評価を受けているほか、GPP、CCPA、GDPRなど各種プライバシー法制に準拠している。日本市場ではMagnite、fluct、Pixiv、フォーエムなどのローカルパートナーと協業しているという。 Shub氏が中心的に取り上げたのは、IntentIQの「Bid Enhancement Solution」である。同ソリューションは、同社のIDグラフを基盤として構築され、特にSafariやFirefox、iOSアプリなど、サードパーティクッキーに依存できないクッキーレス環境において、欠落しがちなIDを補完することを目的としている。 仕組みとしては、ユーザーがSafariなどのブラウザ経由でパブリッシャーサイトにアクセスした際、パブリッシャー側にはID情報を含まないビッドリクエストが届く。IntentIQはこのシグナルを受け取り、自社のIDモデル上でユーザーに紐づく複数のIDをクラスタリングし、IAB Tech Labの「EID」などの標準仕様を通じてパブリッシャーへ返却する。パブリッシャーはこれをSSPやDSPに送信することで、エコシステム全体が同一ユーザーを認識できる状態を実現する。 Shub氏は、このアプローチによって三つの効果が生まれると説明した。第一に、広告主・DSP側は過去の接点情報を前提とした精度の高いターゲティングが可能になり、入札戦略の最適化が進むこと。第二に、パブリッシャーからSSP、DSP、最終的なバイヤーまで、IDの流れが透明化されること。第三に、その結果としてパブリッシャーのフィルレート、CPM、最終的な収益が向上することである。 IntentIQは、日本のローカルドメインにおいて、直近6カ月の実績としてSafari環境でフィルレートが約18%、CPMが約15%、全体収益が約30%向上したという数字を共有した。 日本市場へのコミットメントとしては、SupershipのAd Generationとの連携が紹介された。Ad Generationは日本で初めてIntentIQのUser ID for Prebid.jsを採用したバイヤーとして、Safariなどクッキーレス環境におけるアドレサビリティ強化を図っている。Prebid.js経由のビッドリクエストにIntentIQのバイヤーIDを含めることで、DSPはサードパーティクッキーに依存せずにオーディエンスターゲティングを維持できるようにしている。 さらに、IntentIQは日本に新たなAWSデータセンターを立ち上げたことを明らかにした。これにより、日本国内からのビッドリクエストのレイテンシーは約10ミリ秒まで低減し、日次でサイトにアクセスするユーザーを中心に、50〜80%のパフォーマンス向上を見込んでいると説明した。同社はこれを、アジア太平洋市場および日本のパブリッシャーに対する長期的投資の一環と位置づけている。 入札単価の停滞とID導入の効果 続いて登壇した長谷川氏は、インタースペースが運営する複数の女性向けライフスタイルメディアの責任者として、自社の広告運営の前提から話を始めた。同社は広告モデルでメディアを運営しているが、あくまで広告主のKPIを達成し、その成果に基づき広告の価値が上昇していくサイクルを重視していると説明した。 一方で、長年の課題として挙げたのが、一部広告枠における入札単価の伸び悩みである。メディアとして良質なコンテンツを作り、そこに広告を配信することで広告主に買い付けてもらいたいという意図があるにもかかわらず、実際のオークションでは期待した水準まで到達しない状況が続いていたと振り返った。 IntentIQの導入後、この状況に変化が見られたという。特にフィルレートが大きく改善し、その結果として広告主による買い付けボリュームが拡大した。長谷川氏は、「きちんと買い付けしてほしいと思っていた在庫に対して、実際に買い付けがつくようになった」という趣旨のコメントを述べ、導入効果が期待に沿うものであったと評価した。 来期以降のID戦略については、Chromeのサードパーティクッキー廃止が取り下げられているものの、「シグナル消失は将来的に解消される問題ではない」という認識を示した。そのうえで、IntentIQのようなIDソリューションがサードパーティクッキーの完全な代替にはならないとしながらも、広告主とパブリッシャーの間をつなぐ重要な存在になると位置づけた。 質疑応答では、SNSや生成AIの台頭に伴い、世界中のパブリッシャーがページビュー減少に直面している現状が取り上げられた。長谷川氏は、メディアによってはトラフィックの減少スピードは想定以上のケースもありうるため、広告在庫の「量」が減少していることは否定できないとしたうえで、広告ビジネスを営む以上、基本戦略としては「広告枠の質」を高めることで減少分を補っていくほかないと語った。 その際、IntentIQのようなIDソリューションは確実に「一助」となりうるとしつつも、減少したトラフィックを100%まで補うことができるかについては未知数と、慎重な見通しを示した。トラフィックの回復をIDだけで完結させるのではなく、コンテンツや事業多角化など、他の手段と組み合わせながら、総合的にメディア価値を高めていく必要性を示唆する内容であった。 「最高のIDパートナー」の条件と複数ID時代の戦い方 後半では、IDソリューションを選定する際にパブリッシャーが何を重視すべきか、Shub氏が三つの観点から整理した。 第一に挙げたのは「データの精度」である。IntentIQでは92%超の決定論的データ精度を維持していると説明した。ユーザーはデバイスを切り替え、移動し、職場や生活環境を変えるため、IDグラフの鮮度が保たれていなければ、ターゲティングや計測の精度は維持できないという前提に立っている。 第二は「相互運用性と実装容易性」である。IDソリューションの導入にあたって、パブリッシャー側でどれだけのリソースを必要とするか、既存のアドサーバーやSSP、ヘッダービディングの仕組みとどれだけ容易に接続できるかが重要だと指摘した。Prebid.jsとのシームレスな連携や、標準化されたEIDパラメータでIDを受け渡しできることは、その具体例として位置づけられている。 第三のポイントは「パフォーマンスの証明」である。IDソリューションは、導入しただけでは価値を生まない。フィルレート、CPM、収益、ビューアビリティなど、パブリッシャーごとのKPIに対してどの程度インパクトを与えているかを、透明性のあるレポーティングで検証できることが必要だとした。IntentIQは広告主側・媒体社側の双方で成果が確認されているエンドツーエンドのソリューションであることを、パフォーマンス証明の一例として提示した。 質疑応答では、Chromeのサードパーティクッキー廃止が話題になり始めて以降、多様なIDソリューションが登場する中で、IntentIQの差別化ポイントが改めて問われた。Shub氏は、自社の特徴として、前述の決定論的データ精度に加え、SafariやiOSなどクッキーレス環境で50〜70%というカバレッジを確保している点、10年以上にわたって磨き込んできた自社開発のデバイスグラフを継続的に改善している点を挙げた。これにより、ログイン情報や脆弱なシグナルに過度に依存することなく、安定したIDを提供できると説明した。 また、単一メディアが複数のIDソリューションを導入すべきかという論点については、「複数採用」を前提としつつも、ソリューションごとに実装の容易性とパフォーマンス、レポートの透明性をチェックし、実際のインパクトに基づいて評価すべきだと述べた。現時点で、単独でアドテク・エコシステム全体をカバーしうるIDは存在せず、各ソリューションが得意とする環境やユースケースは異なるためである。 こうした議論を踏まえ、Shub氏は「アイデンティティはもはやオプションではなく、業界全体のコア要素である」と位置づけた。パブリッシャー、SSP、DSP、広告主、代理店のいずれにとっても、クッキーレス化とプライバシー規制の強化が進む将来において、正確なターゲティングと測定を実現するうえで、ID戦略が競争優位性を左右するとの見解を示した。
透明性・責任感・持続可能性の再設計-広告主とパブリッシャーが見据える“健全なオープンインターネット”の条件-ATS Tokyo 2025 セッションレポート
ATS Tokyo 2025では、「オープンインターネット再考。透明性・責任感・持続可能性でつなぐ健全性の回復」をテーマに、デジタル広告の基盤を再評価する議論が行われた。 一般社団法人 Advertisers and Publishers Transparency Initiative(APTI)共同代表の 宮一 良彦氏と、資生堂ジャパン株式会社 マーケティングソリューション部 メディアプランニンググループ グループマネージャー 平池 綾子氏が登壇し、広告主とパブリッシャーの双方が抱える課題―広告経路の可視化不足、媒体品質の把握の難しさ、技術標準の停滞、透明性確保に伴う負荷の増加など―を多角的に取り上げた。モデレーターを務めた ExchangeWire JAPAN 編集長 野下 智之の進行のもと、両者が対等に支え合う持続可能な広告エコシステムの実現に向け、必要な共通理解とアクションが語られた。 セッション登壇者 一般社団法人 Advertisers and Publishers Transparency Initiative(APTI)/共同代表/宮一 良彦氏 資生堂ジャパン株式会社/マーケティングソリューション部 メディアプランニンググループ/グループマネージャー/平池 綾子氏 ExchangeWire JAPAN/編集長/野下 智之(モデレーター) 広告主の負担増と媒体の実装疲弊-透明性を求めるほど増えていく「現場の重さ」 議論の前提として浮き彫りになったのは、“透明性向上のための取り組み”が、広告主・パブリッシャー双方に過大な負荷を生んでいるという現実である。 平池氏は、資生堂が行ってきたブランドセーフティ対策の経験をもとに、「リスク管理の水準が上がるほど、広告主が担う作業負荷が増大している」点を指摘した。2024年に公開された総務省ガイドラインでは、広告主が社会的責任を負う立場として明確に位置づけられた。これにより、アドベリツールの運用、独自のセーフリスト管理、リスク要因の監視など、細部にわたる作業が広告主に集中している。 平池氏は、テレビや雑誌に見られる“パブリッシャー側の強い責任意識”と対比しながら、デジタル広告領域では「広告枠に対する媒体社の責任が相対的に曖昧で、そのしわ寄せが広告主側に来ている」と語った。 一方で宮一氏は、パブリッシャー側が抱える課題の実像を語った。「透明性向上の仕組みは“導入する”ことより“維持する”ことの方が圧倒的に大変だ」。ads.txt や sellers.json を正しく保つには、社内の広告取引構造と常時向き合い続ける必要がある。しかし、それを担う人材は減少傾向にあり、アウトソース化も進むことで“社内に知識が残らない”状況が生まれている。また、広告主が求める透明性基準が十分に共有されていないため、パブリッシャー側が「正解が分からないまま対応し続ける」という構造的問題も存在する。 両者の指摘は、立場は異なれど、“現場負荷が増え続ける構造”という点で完全に一致していた。透明性を求める動きは確かに正当だが、それが現場レベルで持続可能な形に転換されていない。このことが、オープンインターネットの健全性を考えるうえで重要な論点として提示された。 なぜ技術標準は定着しないのか-ads.txt の「維持の難しさ」が象徴する構造問題 続いて議論は、業界が導入してきたさまざまな透明性技術が“定着しない理由”へと踏み込んだ。 宮一氏は、ads.txt という分かりやすい技術を例にとって説明した。 ads.txt は、パブリッシャーがどの SSP・販売経路を許可しているかを公開する仕組みであり、透明性向上の基盤として世界的に普及している。導入自体は URL にファイルを置くだけで簡単だが、問題はその後だ。「記載内容を正しく更新し続けなければ、透明性どころか逆に不透明さを増してしまう」。実際、国内の多くの媒体は数百行に及ぶ巨大な ads.txt [...]
Attention指標が示す広告の新基準-計測の現在地と次の成長曲線を探る-ATS Tokyo 2025 セッションレポート
「Attention(アテンション)指標のリアル〜広告は本当に変わるのか?〜」と題した本セッションには、KDDI株式会社 ブランド・コミュニケーション本部 コミュニケーションデザイン部 の高村真介氏、株式会社サイバーエージェント インターネット広告事業本部 データ本部 事業責任者の會澤佑介氏が登壇した。 モデレーターはExchangeWire JAPAN編集長の野下智之。近年注目が高まるAttention指標は、広告が実際に「どれだけ見られているか」を捉える試みである一方、統一された定義・計測基準が存在しないことから、現場では評価や役割をめぐる議論が続いている。 本セッションでは、テレビ領域からデジタル広告まで幅広い経験を持つ高村氏と、長年広告効果計測に携わってきた會澤氏が、実際の検証事例と現場感にもとづく知見を提示し、Attention指標の現在地と今後の可能性を掘り下げた。 セッション登壇者 KDDI株式会社/ブランド・コミュニケーション本部 コミュニケーションデザイン部/高村 真介氏 株式会社サイバーエージェント/インターネット広告事業本部 データ本部 事業責任者/會澤 佑介氏 ExchangeWire JAPAN/編集長/野下 智之(モデレーター) Attention指標の輪郭-注視をどう「測る」のか Attention指標が注目される背景には、インプレッションやビューアビリティといった既存指標では“広告が実際に見られたかどうか”は判断できないという課題がある。デジタル広告の配信面は多様化し、同じインプレッションでもユーザーの注意度合いに大きな差が生じうる。こうした環境変化の中で「広告がどれだけ視認され、どれだけ注意が向けられたか」を補足する概念としてAttentionが浮上してきた。 ただし、セッションで繰り返し語られたように、Attentionには統一的な定義や業界標準はなく、事業者やツールによって測定方法が異なる。視線推定を使うか、画面占有率をどこまで考慮するか、数秒以上でカウントするのかといった基準はまちまちであり、値の解釈も統一されていない。 會澤氏は、ブランドリフト指標とコンバージョン指標の“間”をつなぐ中間指標としてAttentionが注目されていると説明した。ブランド価値の向上と、最終成果指標の双方を説明する際、従来の指標だけでは説明がつきにくい場面が増えている。こうした課題意識から、Attentionへの期待が現場で高まっているという。 また、Attentionは「広告を見る経験の質」を捉えようとする指標であるため、広告主だけでなく媒体側、さらにはユーザー体験にまで影響を及ぼす概念として認識され始めている。こうした広がりが、Attentionをめぐる議論を複雑にしつつも、注目度を押し上げている。 テレビから始まった「Attention活用」-長期蓄積の知見とデジタルへの応用の壁 高村氏は、KDDIがテレビ領域でAttentionを早くから活用してきた経緯を紹介した。テレビ視聴率は、視聴者が画面を注視していなくても機械的にカウントされるため、実際の広告接触を正確に捉えきれないという課題があった。そこでKDDIは、ユーザーの視線方向や注視状況を把握できるツールを活用し、広告認知とAttentionの相関を長期的に検証してきた。 その結果、テレビ領域ではAttentionが確かな説明力を持つ指標として機能し、広告効果の評価やメディアプランニングの判断に活用されてきた。ただし、こうした成功例をそのままデジタルに拡張すると、様々な壁に直面すると高村氏は語る。デジタル広告は、広告面・デバイス・配信ロジックが多様化しており、テレビのような比較的一様な視聴環境とは異なる。 特に、広告予算の多くが投下される大手プラットフォーム(Walled Garden)においては、計測データの連携や活用に制約があることも多く、Attentionの値が媒体ごとに大きく変動するため、単一の指標で横断的に評価することが難しくなるのだ。 実際にKDDIでは、複数媒体で動画広告を配信し、Attentionの高低とブランドリフトの相関を3カ月にわたり検証した。初期段階ではAttentionが高い媒体ほどブランドリフトも高いという明瞭な相関が見られたものの、期間を重ねるにつれ関係性は一定ではなくなった。単一の媒体・枠で見ると説明力が強くても、媒体横断の指標としては安定性が課題になる──こうした“現場での温度感”が共有された。 現場での検証が示す「再現性」の課題-複雑化する広告環境との向き合い方 Attention指標の導入を検討する企業では、動画広告やCTV広告などでの活用が進んでいる。一方で會澤氏は、Attentionを広告評価モデルに統合する際に生じる課題にも言及した。広告効果計測の歴史を振り返りながら、ブランドリフト調査、接触時間の分析、アトリビューションモデル、複合指標の導入など、さまざまな試行錯誤が繰り返されてきたが、いずれも「媒体横断で安定して使える状態」には至っていない。 特に、AttentionをKPI設計やアトリビューション評価に組み込んだ場合、従来の最終クリックモデルに比べ反映度が小さくなることがあるという。媒体特性やフォーマットが多様な環境では、Attentionを基準にした評価が再現性を欠くことも多く、統合評価モデルとしての確立には時間を要する。 會澤氏は、個別メディア単位ではAttentionを用いた改善は可能だが、媒体横断・ユーザー横断の大規模最適化に適用するには、まだ越えるべき工程が多いと指摘した。その背景には、媒体ごとに視認環境が大きく異なること、同じユーザーが複数デバイスをまたいで行動することなど、現代の広告環境の複雑化がある。 Attentionが導く未来像-媒体価値・広告投資・生活者体験の再設計 Attention指標が広く普及した場合、広告投資や媒体価値の評価はどう変わるのか。高村氏は「見られていない枠に投資をしない」という当たり前の原則が、より強固になると語った。広告主がAttentionの高い枠への投資を拡大すれば、媒体側は自然と「見られない枠」を減らし、ユーザー体験に配慮した設計を求められるようになる。枠数を増やすのではなく、1枠の価値を高める方向に業界のインセンティブが変化する可能性がある。 これは結果的に媒体の収益性を高め、ユーザーにとっても煩雑な広告露出が減り、質の高い広告体験が実現するという好循環を生む。広告主・媒体・生活者の三者が利益を享受する「三方よし」の構造につながる点に、Attentionを追求する意義があると會澤氏も述べた。 さらに、高村氏はAttentionとブランド認知の相関を検証するために、SNS企業との共同調査を進めていることにも触れた。認知に確かな影響を与えると判断できる段階になれば、配信ロジックや予算配分にもAttentionが組み込まれる可能性が高まる。こうした取り組みの積み重ねが、業界全体の理解を深め、計測の標準化を後押しする。 海外では、業界団体がAttentionのガイドライン策定を進めるなど、市場の整理が始まっている。計測技術の普及やベンダーによる対応の広がりにより、日本市場でも検証環境が整い、Attentionの“使いどころ”が徐々に明確になっていくと考えられる。 「見られる広告」を基準にした新しい成長モデルへ Attention指標は、広告が「表示されたかどうか」ではなく、「見られたかどうか」を基準に捉えようとする概念である。その意味で、広告の本質──生活者にどれだけ影響を与えられたのか-に正面から向き合う試みと言える。 高村氏と會澤氏の発言からは、Attentionを盲目的に信じるのではなく、検証によって確かめ、媒体の特性や文脈を踏まえて活用していくという慎重かつ前向きな姿勢が共通していた。まだ統一基準が存在しない現状においても、Attentionが業界の健全性や広告体験の質を再構築する鍵になり得るという期待が、セッション全体を通じて感じられた。 デジタル広告の持続的な成長を考えるうえで、“見られる広告”を基準とした新たな設計思想が重要性を増している。Attention指標の進化は、広告主・媒体・生活者の関係を豊かにし、より価値ある広告エコシステムを形づくる第一歩となるだろう。
マーケターのキャリア支援から、その先へ―MCA総会で示されたリブランディングの全体像
司会進行を務めた、MCA創設者で事務局長の中村 全信氏 一般社団法人 マーケターキャリア協会は総会を開催し、団体のリブランディングおよび新たなミッションを発表した。2019年3月の設立以来、同協会は「マーケターの価値を明らかにする」ことを掲げ、マーケターのキャリア支援や人材育成を中心に活動してきたが、今回の刷新は活動内容の拡張にとどまらない。 正式名称を「一般社団法人 マーケターキャリア協会(MCA)」から「一般社団法人MCA」へと変更し、マーケティングを特定職能の枠から解放し、人生や社会にまで活動の対象を広げていくことを明確に打ち出した。登記変更などの手続きを経て、新名称への移行は2026年初春を予定している。 MCAとは、Marketing、Mentor、Mindfulness、Career、Community、Compassion、Action、Association、Awakeningの9つの概念を内包する名称であり、今回のリブランディングは、その思想を組織として再定義する試みである。 設立から6年、「マーケターの価値」を問い続けてきたMCA 総会冒頭で登壇した代表理事の田中準也氏は、MCA設立の背景から今回の刷新に至るまでの経緯を説明した。2019年当時、日本企業においてマーケターという職能は定義が曖昧で、事業会社内でも十分に理解・評価されているとは言い難い状況にあった。ブランド担当、リサーチ担当、コミュニケーション担当など、業務内容は多様である一方、「マーケターとは何者か」という問いに明確な答えはなかった。 こうした課題意識のもと、MCAはマーケティングの貢献を可視化し、キャリアとしてのマーケターを支援することを目的に活動を展開してきた。ミートアップや育成プログラム、学生向け支援などを通じ、現在では会員数は約1,400名規模に拡大している。 一方で田中氏は、活動を続ける中で次第に別の問いが浮かび上がってきたと語る。それは、「マーケターのキャリア」だけを支援することが、果たして十分なのかという問いである。マーケティングは売上やKPIを達成するための手法にとどまらず、人の意識や行動、関係性を変える技法である。であるならば、その対象の範囲は職業の枠を越え、人生や社会そのものにも及ぶのではないか。こうした問題意識が、理事・メンター陣との約1年にわたる議論の出発点となった。 新ミッションに込めた意思 「自由・利他・知足」をマーケティングで増やす 議論の末に定められた新ミッションが、「マーケティングで社会の自由と利他と知足の総量を増やす」である。田中氏は、この言葉を完成された答えではなく、今後の活動と対話の軸として位置づけた。 自由とは、自らの生き方やキャリアを自分で選び取れる状態。利他とは、自己の経験や知見を他者や社会の課題解決に活かす姿勢。知足とは、他者との比較から距離を取り、今あるものに価値を見出す感覚を指す。MCAは、これらを抽象的な理念として掲げるのではなく、具体的な活動を通じて実装していく場でありたいとした。 マーケティングを再定義する基調講演 富永朋信氏が語った「関係性のマネジメント」 続く基調講演では、理事の富永朋信氏が、新ミッションの思想的背景を掘り下げた。富永氏は、マーケティングを広告や販促の技術ではなく、「人の認知・態度・行動を変容させるためのすべての営み」と定義する。企業と顧客、個人と組織といった主体間の関係性を設計し、変えていくことこそがマーケティングの本質であるという整理だ。 この視点に立ったとき、マーケティングが社会に対して果たせる役割として浮かび上がったのが、「幸福の総量を増やす」という考え方だった。富永氏は、ワークライフバランスや高収入=幸福といった一般的な前提が、必ずしも人を幸せにしていない現実を指摘する。幸福は感覚的なものではなく、自己認識や自己受容、自由、利他、知足といった要素から構成されるものであり、設計可能な対象だという。 MCAは、こうした幸福の構造に対し、マーケティングの思考と方法論を用いて向き合っていく。その姿勢が、新ミッションの根底にあると説明された。 実装としての「サシキャリ」 中村大亮氏が語る1対1の対話の意味 MCAの活動を象徴する取り組みとして紹介されたのが、「サシキャリ(差しでキャリア相談)」である。担当理事の中村大亮氏は、同プログラムを「キャリア相談というよりも、自分自身の前提や意思決定の軸を見つめ直すための対話の場」と位置づけた。 サシキャリは、1回1時間の対話を全6回行う構成で、計6時間にわたって、社内の利害関係とは無縁のメンターと向き合う個人向けプログラムである。参加費は6万円に設定されており、短期的な助言や単発のコーチングではなく、一定の時間をかけて自己理解を深めることを前提としている点が特徴だ。 中村氏は、組織の中で役割や評価軸に適応するほど、自身の思考や判断が無意識の前提に縛られていく傾向があると指摘する。サシキャリでは、転職や昇進といった選択肢の是非を直接判断するのではなく、対話を通じて「なぜその選択を考えているのか」「何に違和感を覚えているのか」を言語化することに重きを置いている。また、メンターは固定的な上下関係にある存在ではなく、その時々のテーマに応じて対話を行う関係性として設計されている点も特徴だ。中村氏は、「メンターとは年齢や肩書で決まるものではなく、人生やキャリアの節目で思考を映し返してくれる存在」だと語った。 さらに総会では、サシキャリで蓄積してきた知見を活かし、組織を預かる管理職や企業向けのプログラムを展開する構想も明らかにされた。中村氏によれば、個人向けプログラムで得られた対話設計のノウハウを基に、企業や組織単位での意思決定や関係性の見直しを支援する「エンタープライズ版」を、2026年3月から4月頃を目途に本格始動させる予定だという。 個人のキャリア支援を起点としてきたMCAが、組織やマネジメント層へと対象の範囲を広げていく動きは、今回のリブランディングを象徴する具体的な一歩と言えそうだ。 参加者同士の対話が浮かび上がらせた現実感 基調講演後には、参加者同士によるディスカッションの時間が設けられた。編集者、マーケター、経営に関わる立場の参加者などが混ざり合い、新ミッションを自分自身の文脈で捉え直す対話が行われた。 「マーケティングと編集は、価値あるものを見つけて社会に届ける点で近い」 「競争や比較を前提とするマーケティングと、知足はどう両立するのか」 「経営の現場から見ると、理想論に聞こえる部分もある」 こうした率直な意見に対し、理事陣は一つの正解を示すのではなく、議論を開いたまま受け止めた。田中氏は、「腹落ちしても行動できないことはある」と認めた上で、「まずは個人レベルでできる一歩から始めればよい」と語った。 問いを共有する団体へ 質疑応答では、若い世代への伝わり方や、組織や経営の現場でどのように活かせるのかといった点について質問が寄せられた。これに対し富永氏は、個人の意思決定や幸福の在り方に向き合うことが、結果として組織のあり方や持続性にも影響を与えるとの考えを示し、MCAとして今後も議論を深めていく姿勢を示した。 今回の総会を通じて明らかになったのは、MCAが答えを一方的に示す団体ではなく、参加者とともに問いを共有し、考え続ける場を目指している点である。キャリア支援を起点としてきた同団体は、マーケティングを軸に人生や社会と向き合う姿勢を明確にし、その実践を対話を通じて積み重ねていこうとしている。今回の総会は、そうした新しいMCAの方向性を示す出発点となった。
AI時代の1st Party Data戦略:データクリーンルームと企業間連携の最前線-ATS Tokyo 2025 セッションレポート
「After Cookie, Beyond Platform ─ データコラボレーションで“1st Party Data”が交わる瞬間」と題した本セッションでは、株式会社電通 データ・テクノロジーセンター グローバル開発部 部長 前川駿氏が登壇し、ファーストパーティデータ活用の最前線とデータクリーンルームの進化を解説した。本記事では、生成AIによる広告運用が加速するなか、企業がどのように1st Party Dataを活用していくべきかという点を中心に、セッション全体の内容を詳述する。 セッション登壇者 株式会社電通/データ・テクノロジーセンター グローバル開発部/部長/前川 駿 氏 ExchangeWire JAPAN 編集部/編集部員/角田 知香 AIが生み出す“同質化”現象と、自動広告運用に潜むリスク 前川氏は冒頭、近年のAI環境がもたらす“同質化の加速”に危機感を示した。生成AIによる表現、AIが示す商品推薦、AIが提示するライフスタイル─いずれも平均化されたアウトプットが大量に生まれ、生活者の視界に均質な情報が流れ込むことで、多様性が損なわれるリスクが高まっているという。 AIの進展は広告運用にも同様の影響を与える。DSP/SSPなどの自動最適化は高度化し、目的と予算を入力すれば効率的にKPIを達成する運用が可能になった。しかし、その裏では“計測可能な一部のユーザー”に配信が寄り、特定のプラットフォーム内でシグナルが計測しやすいオーディエンスへ配信が偏る現象が起きている。これを前川氏は「賢すぎる問題」と表現し、計測上のKPIを達成できたとしても、本当の意味での広告リーチ・フリークエンシーや話題性などにつながっているのかという危惧を示す。 たとえば、最適化アルゴリズムはコンバージョンしやすい一部のクラスタに集中し、結果として飽和減少が早期に発生。クリエイティブの差し替えだけでは問題の本質が解消せず、広告主は「本当に広く届けたい相手」にリーチできていない可能性がある。こうした問題に対し、前川氏は“1st Party Data をエンリッチし、複数クラスタへ横断的に情報を届ける運用”の必要性を訴えた。 企業の1st Party Dataだけでは見えない顧客像─データコラボレーションが切り拓く未来 ファーストパーティデータは購買・会員情報・サイト行動など、企業が保有する “既存顧客との接点”に依存しており、生活者の日常全体を把握できるわけではない。 こうした制約を乗り越える手段として重要になるのが、外部企業とのデータコラボレーションである。グループ会社やパートナー企業が保有する購買データ・興味関心データ・位置情報などを安全に連携することで、既存顧客の深い理解や潜在層の発見が可能になる。 一方で、企業間のデータ連携には、ファイル共有に伴うコピーリスク、OneID基盤導入への投資、オプトアウト管理、法務判断のばらつきなどが障壁となってきた。 この状況を変えつつあるのが、クラウド型DCR(データクリーンルーム)である。従来はビッグテック中心だったが、近年はクラウドベンダーによるオープン型DCRが登場し、広告主・小売・メディア・キャリアなど多様な企業が利用可能になった。 クラウド型DCRでは、ID単位の厳密な紐付けが行えない場合でも、AIエージェントによる合成的・推計的な紐付けが可能となり、従来のOneID依存とは異なる柔軟なデータ活用が進んでいる。 具体化し始めたユースケース ■ アメリカ:メーカー×ディーラー×協会 自動車領域では、メーカー・ディーラー・協会がIDデータをクリーンルーム上で突合し、マーケットの構造把握・広告効率化などに活用した事例。 ■ 日本:調査パネル×企業データ 2つの企業が保有する1st Party Data をDCRで接続し、顧客解像度を深める取り組みが行われている。これにより「どんな人が買ったか」「どんな思考や価値観を持つ人物か」というように顧客像を深掘りでき、より解像度の高いマーケティング策定が可能となる。 日本で連携が進まない理由と、AI時代の戦略再構築 海外と比較すると、日本でのデータ連携は依然として進んでいない。その理由として、前川氏は以下を示した: 個人情報保護法における企業間の解釈差 オープンウェブのシェアが低くデータ連携での収益化が不明確 国民のデータ活用への抵抗感の強さ 前川氏は「やりたい案件の70%がプライバシーの壁で止まる」とし、法務・システム基盤・顧客体験設計の3領域を横断した対応が不可欠だと述べた。これらの課題が解消されれば、企業間のデータ連携はこれからの日本経済全体の活性化につながると強調した。 締めくくりとして前川氏は「1st Party Data もAIも手段であり、目的は顧客体験の向上である」とし、これからさまざまな企業とデータ連携を実現させることで、「日本なりのデータコラボレーションの形」が見えてくるのではないかと期待を寄せ、セッションは幕を閉じた。
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