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Criteoに聞く業績躍進の理由と2016年日本市場の展望 [インタビュー]

今や日本市場で代表的な広告配信プラットフォームの立ち位置を得たCriteo。2015年第4四半期の決算では売上高は3億6,200万ユーロと、前年同期比55%増。通期の売上高は11億9,300万ユーロと前年比60%の数値を計上した。好業績の秘訣は一体何なのか。国内事業のセールス部門を統括するシニアディレクター 天野耕太氏に、今年の日本市場の展望と併せて語っていただいた。

また、日本及び韓国担当マネージングディレクターに就任したグレース・フロム(Grace Fromm)氏に、Criteoに参画した理由と今後の抱負を語っていただいた。

(聞き手: ExchangeWire Japan 野下 智之)

デジタル広告市場の枠内ではなく、EC市場自体の拡大こそが成長のポテンシャル

―2015年の日本のデジタル広告市場のトレンドや貴社ビジネス環境の振り返りと、直近足元の見通しについてお聞かせください。

天野氏

天野氏:電通の調査によると、日本のインターネット広告費約1兆1,600億円のうち、運用型広告は約6200億円と言われており、引き続き高い成長率で成長を続けています。運用型広告メインのCriteoが、運用型広告の約6200億のうちどのくらいのシェアを確保していくか。そういった観点でみると、まず順調に成長してきていると考えています。

一方で、日本の広告費はトータルではそんなに伸びていないですよね。広告主の予算がどれくらいデジタルシフトするかは重要ですが、ある程度成熟した市場でのパイの奪い合いにもなってしまいます。

我々が自社のポテンシャルを考える際には広告主のEC化率、つまりECサイトや旅行予約、不動産の賃貸や売買の取引がどれくらいEC化しているかの推移を注視しています。BtoC全体では+20%の成長で推移しているので、この成長にもきちんとついていくことが重要です。

Criteoはリテール、トラベル、クラシファイド(人材不動産、グルメ予約などの総称)に注力しています。注力分野のEC化率が伸びていくということは、現在の広告費のシフトとは異なり市場自体が広がっていることなので、ポジティブに捉えています。

スマホへの取り組みや浸透率は日本がトップ

―貴社の2015年の業績については、どのように評価されていますか?

天野氏:日本単体の数値は公表していないのですが、市場の成長率を大きく超えるスピードで成長しました。順調な1年だったと思います。

ブレイクダウンすると、テーマがいくつかありました。まずはエリアの拡大。西日本エリアを拡大するべく、大阪に営業所を開設しました。広告代理店の西日本支社と密接なリレーションを築き、新しい広告主と付き合い、既存の顧客の取引も拡大することで西日本の売り上げが飛躍的に伸びました。

―昨年、モバイルへのシフトが更に加速したと思われますが、広告主の貴社サービスにおける直近の足元のトレンドについてお聞かせください。

天野氏:Criteoのグローバル全体を見ても、日本はスマホへの取り組みや浸透率がトップです。

―北米などよりもでしょうか。

天野氏:そうです。去年のQ3に「モバイルコマースレポート」という調査を実施しました。各国のCriteoモバイル導入いただいている広告主のデータで比較した結果なのですが、ユーザーが複数デバイスを利用している時、最終的にどのデバイスでコンバージョンしているかというデータがありました。

日本はスマートフォンコンバージョンが45%で、トランザクションの45%、つまり購入や予約ですがそれがスマートフォンで発生していました。iOS向けの配信手法をうまく拡大できたこともあり、トランザクションは急拡大して年末には売上ベースでも50%を突破しています。ちなみにこれはスマートフォンWebの話です。

ディープリンクの普及でアプリに注力

天野氏天野氏:スマートフォンアプリについては1年ほど前から取り組んでいますが、市場環境にかなり左右されています。特にディープリンクの影響が大きかったです。Googleの方針変更や、ディープリンク技術自体が浸透してきたと思うので、今年はそれを追い風に、アプリも注力分野の一つになると思います。

単にディープリンクに対応したアプリに作り変えるだけでなく、我々は普及を待ってアプリのSDKを入れて行動分析するアプローチをとっています。そういったアプリのリタゲもできるようにSDKも整備しました。

Criteoはグローバルのパートナーに加えて日本の大手広告会社のアプリ効果測定ツールとも連携しており、広告会社は我々のプラットフォームを通してアプリに直接出稿できるようになっています。昨年後半はこの領域に時間をかけており、環境が結構整ったので「よしアプリやっていこう」というムードも社内にありますし、広告主や代理店からの引き合いも増えてきています。

―ダイナミックリターゲティングの領域は、新規参入が増えて飽和状態が近いようにも見えます。まだ従来通り高い成長率が見込めるのでしょうか。その場合どこに伸びしろを感じておられるのでしょうか?

天野氏:確かに、類似サービスの参入は非常に増えています。ただ市場が広がることに加え、弊社自身がきちんと変化のスピード以上の進化をしていくことが重要だと考えています。強みの一つはやはりエンジンなので、アップデートしてより広告主のニーズに応えていきます。バナーのクリエイティブも、新たなフォーマット追加などを進めていきます。最後にパブリッシャ―との連携です。彼らのゴールはマネタイズなので、そこのニーズに応えるように密接に連携していきます。要は弊社自身がステイクホルダーのニーズにきちんと応え続けていれば、競合サービスを意識する必要はないと考えています。

規模にこだわらず、多様なクライアントに訴求

―貴社のクライアント層はかなり大手の広告主が中心というイメージがありますが、その傾向は変わらないのでしょうか。

天野氏:良く聞かれますが、お付き合いを新たに始める広告主の数はまだまだ増えています。その中にはこれまでお付き合い出来なかった大型リテールのクライアントもいらっしゃいますし、それとは別に今まではモールに依存していたところから自社ECを立ち上げて、ユーザー規模を増やし始めているブランド系ECサイトのクライアントなどもあります。クライアントの企業規模に関わらず、まだまだその数は拡大しています。

日本がグローバル市場と違うのは、広告代理店とのビジネスが多い点です。ニーズさえあれば広告代理店を通じてどことでもお付き合いできます。大手クライアントから優先的にお取引を開始しているというような感じではありません。当社では、パフォーマンスをお返し出来るクライアント規模を取引を開始する基準にしていますが、その戦略は特に変えていないですし、今のところその予定もありません。

―クライアント層として、今後ポテンシャルが見込まれる業種や特性があればお聞かせください。

天野氏:これは日本独自の傾向とも言えますが、ニーズがあれば広告代理店がCriteo導入を勧めてくれていたので、グローバル平均よりも日本はクライアント層の業種が広がっているという環境があります。

その中で大きなリテールを取りに行くこともありましたが、直近は単品系通販の出稿も多い傾向です。ECでも例えばリコメンドのバリエーションが1つに決まっているようなクライアントへの導入などは、ダイナミックですが訴求内容は1つ。クリエイティブもそれに適したものに最適化しました。例えば金融。銀行やクレカ、保険、教育などですが、そういったクライアントのニーズに応えたことでもともとの得意ジャンルではないカテゴリの取引も非常に増えました。

―グローバルではそういった動きは見られないのでしょうか。

天野氏:ゼロではありませんが、グローバルはより得意ジャンルにフォーカスする傾向があります。日本は代理店と、導入機会をお互いに考えながら進めています。

たくさんの商品レコメンドも強みですが、適したユーザーに配信する予測エンジンは単品系の訴求でもちゃんとワークするのです。結果的に類似商品よりパフォーマンスが良いので横展開されていった状態です。まだまだジャンルは広げられますし、今のジャンルでもお付き合いできていないお客様への拡販もこれからのテーマですね。

リタゲは「パフォーマンスを返せるレベル」にコントロール

―業界では、ユーザーにとってしばしばストレスを与えうるリターゲティング広告に対する課題感が高まっています。最大手の貴社としては、どのような対応やお取組みをされていますか。

Grace Fromm氏、天野氏

天野氏:まず我々のバナーの出し方は、「同じユーザーに何回出すか」を元に、フリークエンシーキャップをしません。常に広告主に対してはCPC、媒体にはCPMを計算し最もプロフィッタブルになるように、予測エンジンをブラッシュアップしてきました。

そのためにはユーザーにクリックしてもらわないといけませんので、エンジンが過度に広告を出すことを制御しています。つまり広告を出せているということは、きちんとパフォーマンスを返せている(ユーザーがストレスを感じずクリックしてくれる)レベルに抑えられていると考えています。

ただし、広告市場には数多くのリターゲティング業者がいるので、同じ会社の広告があちこちから同時に出る可能性があります。ユーザーのイメージがそれでマイナスに動いてしまうことはあるかもしれません。

―その他、事業をされているうえでの課題がありましたら、お聞かせください。

天野氏:ごく稀にですが、求められるKPIの目的がずれている時があります。そのような時に弊社にできることは何なのか、というところでしょうか。

今に限ったことではありませんが、我々はパフォーマンスを返す。広告主はモノを売ることに対していくらかけるか。そういったROASの考え方によってエンジンが作られ、うちの営業もその方針で販売しています。例えば新規ユーザーを獲得するためのSEMなどと併用して弊社のリタゲーティングをご利用頂く時に、全体のマーケティングストーリーの中でどこに位置づけるかが大切です。その際に求められているKPIの不一致などがごく稀に後から課題として上がる事がありますね。我々にできることをきちんと伝えていかなければならないですし、我々以外でも周辺のいいサービス、いい事業者との連携で解決できる場合もあるのかもしれません。

インフィードは今年の「キモ」

―広告フォーマットとして動画やインフィードが注目されていますが、そういうものとの絡みはどうなるのでしょうか。

天野氏:動画は現時点でコメントできることはありませんが、インフィードについては強みの1つであるパブリッシャ―とのリレーションシップにおいて重要です。結局誰にどう出すか、なのですが、スマホシフトの加速で配信面の考え方やメディアやパブリッシャーのUI、アドのプレース面がどんどん変わっています。弊社はリターゲティングですので、ユーザーとの接点を増やさなければなりません。市場が変わるならどんどんそれに合わせていきます。去年ヤフーがインフィード枠を導入した際も、Criteoで出稿していればそこがそのまま配信面になるシステムになっており、インフィード面への配信はかなり増えていくと思います。メディアのUIに溶け込む形の配信を心掛けていきます。最終的に配信面を増やす時に、広告主の意図しない形で広告が出ないように、クオリティを担保しながら拡大配信できるかが課題ですね。

―いわゆる広告主側のインフィードの準備状況はいかがでしょうか。

天野氏:大手プレイヤーが推進していて今やフィード型広告がキモ、という市況なので、あまり壁に当たることはないです。我々のエンジンはもともと「誰がクリックしそうか」を常に予測し配信していました。しかしクリック自体が主なゴールではないので「誰がコンバージョンしそうか」の予測に切り替え、そこを優先して配信するように切り替えました。その結果飛躍的に広告効果が向上したという実績があります。コンバージョンの最適化も、売上単価が高そうなユーザーに配信を強めるシステムも導入しました。ROAS最適化のエンジンに切り替えて、さらにパフォーマンスを向上させる事が出来ました。インフィードについても、同じ考えのもとであくまで配信パターンが増えるという事です。

―ユーザーは、挙動をすごく見られているということですね(笑)

そうです。厳密にはこのページを見た、ということよりそこでどう動いたかを計算ロジックで判断します。

今年のアップデートはエンジンには分からないプライオリティを付与する、ということですね。例えばECサイトでセール品を積極的に売りたいとか、逆にセール品は利益が少ないのであまりプロモーションしたくない、とか、いただいている商品単位で重みづけをする事が可能となる予定です。それによってエンジンやアルゴリズムだけでは判断できない、広告主の事業上の優先度を商品単位でできるようになる改良を、今年予定しているところです。

2016年プロダクトはアプリとEメールに注力

―2016年の注力領域についてお聞かせ下さい。

天野氏:まずエンジン、バナーといったもともとの強みを更に強化します。あとは繰り返しになりますがアプリの導入。アプリマーケティングに関しても我々を使っていただけることを目指します。アプリ分野で意欲的なクライアントとどんどん新たにお付き合いを始めたいですね。

最後はEメールのターゲティングです。アプリはないとか、向いていない、という広告主も多いですが、メールはやっている場合が多いですね。広告主も期待感が高いようです。Webで見た商品をメールで流す、要はダイナミックにパーソナライズされたメールを配信する方法です。

―サイトを見た人にメールを当てるということですか。

天野氏:そうです、メールで個人にカスタマイズして、サイトで見ていた商品そのものや類似商品をHTMLメールで届けます。このために各メール事業者とパートナーシップを進めています。メール事業者が出しているメールのCriteo版を号外で出すようなイメージですね。

今は通常1通いくらの販売をされていると思いますが、ちゃんとユーザーの見たいものにパーソナライズされたメール配信になると思います。広告主からすると、現状のキャンペーンの延長でメール向けにも同じくCPC課金のキャンペーンを追加していただき、同じKPIで運用していただく事を想定しています。

―最後に、まだ就任されて間もない日本及び韓国担当マネージングディレクター グレース・フロム氏にCriteoにジョインされた理由についてお聞かせ下さい。

Grace Fromm氏

フロム氏:やはりまず、Criteoはテクノロジーのリーディングカンパニーであるということです。EC、トラベル……深いテクノロジーは色々な業種の企業をドライブする力を秘めていると思います。あとは、プロダクトが非常にパワフルであるということ、集まっている人たちも非常に魅力的ということです。たった5~6年前に、APACで2~3人でスタートした会社がわずか数年で200~300人。こういうスピードでここまでくるというのはやはりプロダクトにも力があるからです。

既に大きくなったCriteoですが、まだまだ成長機会にあふれています。クリエイティブを重視していくことで、また新たな展開があると確信しています。

ソリューションは広告主の課題から生まれます。テクノロジーで広告主の課題を解決するのはすごくエキサイティングです。

天野氏:エンジンも一緒で「こんなプロダクトを作ったから売ってくる」ではなく、全部広告主サイドの課題から始まっています。コンバージョン数だけではなくROAS、アプリをどうする、メールをどうする、こうしたことも広告主のビジネスシチュエーションに合わせて、しっかりと解決ソリューションを出していく。それが仏や米の状況と違うのであれば、我々がもっとインプットをいただいて日本のプロダクトにフィードバックしていきたいと考えています。

―フロムさん率いる新体制での今年のCriteoの活躍、引き続き目が離せないですね。どうもありがとうございました。
天野氏、Grace Fromm氏

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。