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マーケティングオートメーションの潮流を押さえる-前編:導入企業に見られる3つの傾向

 

本コラムは、全2回に分けて、マーケティングオートメーション(MA)の導入企業の動向(前編)と、これを支援する導入支援企業とツールベンダーの動向(後編)について解説をします。後編では、国内MA市場において最も勢いのある(※)2社「Salesforce」「HubSpot」を中心に、機能拡張の傾向やCookieレスへの対応などについて解説します。

※ https://tecgence.com/topics2021.html

 

<顧客の動向>

1.「コロナ禍」と「DX」の影響でMA導入を検討し始める企業、「再度検討」する企業が増えた。

マーケティングオートメーション(以下、MA)ツールが日本で使われるようになって5年以上が経過しました。以前のような盛り上がりはなくなったもののMA市場は堅調に拡大し、まだまだ伸び続けると予測されています(※)。その要因として、近年のDXブームが導入の追い風になっていると言えるでしょう。もちろんMAだけがDX化の全てではないですが、DX化の一部として注目される分野になっています。そして、コロナ禍によってさらに注目が集まりつつあると言えるのではないでしょうか。従来のマーケティング施策が効果的ではなくなってしまった企業がテコ入れ対策の一つとして導入する例も少なくありません。

※ 矢野経済研究所による「DMP/MA市場に関する調査」では、国内における2020年のMA市場(事業者売上高ベース)は447億3,500万円(対前年度比111.3%)、2025年には737億円までに成長すると予測(https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/2542)

また、過去にMAを導入していたけれど様々な理由から活用しきれていなかった企業が、再度活用を本格化する動きも出てきています。後述しますが、MAが注目され始めた初期のころに導入した企業の中には、活用しきれず解約した企業が実は非常に多かったのです。

MAが注目され始めた当時から導入支援をしている私としては、この機会により多くの企業が導入することで成果を出してもらえればと思いますが、5年前に導入する企業と近年導入する企業とでは様々な点で違いがあるのも確かです。我々のような導入支援企業に求められていることも変化してきており、柔軟に対応していかなければと改めて気を引き締めているところです。そこで、今回はMA導入企業や導入支援企業・MAベンダーがどのように変化しているのかについて言及し、各プレーヤーが今後必要とされるスキルや経験について説明していきたいと思います。

 

2.「とりあえず」でMAを導入する企業は少なくなった。

私が導入支援をするようになった5年程前は、MA自体が珍しくかつ最先端のデジタルツールでした。例えば、顧客がメールの開封やクリックを行った場合、別のメールを送信することで”より良いコンテンツを自動的にかつ簡単に送信できる”ということは当時画期的であり、多くの注目を集めていたものです。イベントなどでもMAベンダーのブースは大盛況でしたし、私が在籍していた企業にも抱えきれないほどの案件が飛び込んできていて、昼夜問わず仕事をしていたことを思い出します。

しかし、それは今思えばある意味バブルであったように感じています。というのも、当時導入する企業の多くはイメージ先行であり、具体的にMAを使って何かをしたいとか、何か課題があってそれをMAで解決したいということは正直なところあまりなかったからです。それよりも、「最先端のデジタルツールをとりあえず導入しよう」「導入すると良い効果がでそう」という理由が多かった印象です。体制構築の面でも、MAの運用担当者がいなかったり、社員への周知が十分にされていなかったりで、導入してから全く効果的な活用ができていない企業も少なからず存在していたのも事実です。結果として解約になるケースが多かったのです。

しかし、今ではそのようなイメージ先行で導入する企業はほぼ存在しないと言って良いでしょう。もはや、MAがどのようなツールなのかは多くの人が知るところになりました。色々なメディアを介してMA導入のメリット・デメリット、導入後に失敗するケースなど多くの情報が掲載されています。例えば「MAを導入しても、リード獲得のためのコンテンツを継続的に作り続けることが出来なければ使い道が限られてしまう」、「ツールの機能を知ったところで企業のマーケティング課題を明確に出来ず、効果的な施策アイデアが出せなければMAは貢献しにくい」、「地道な試行錯誤が前提であり、導入後数か月で成果が出る企業は少ない」等のことが多くの人の共通認識となりました。

そのため、MA導入に関して甘い期待をする人は今ではほとんどいなくなりました。むしろ、MAツールを効果的に活用するためには、マーケティングの知見が必要で地道な試行錯誤を覚悟されている企業が殆どです。また、企業のMA担当者からは、機能の使い方だけでなく、組織的な質問やマーケティングに関するより上位概念の質問が多くなってきています。

このような背景から、我々のような導入支援企業に求められることは、単純な導入だけで収まらなくなってきています。5年前であれば、MAツールの機能や使い方を説明できて、実際に設定することができれば十分に満足してもらえたものが、今では、売上・利益に貢献するための活用方法や自社のマーケティング施策からより良いアドバイスを求められるようになってきているのです。

3.すでに何らかのシステムやツールを導入している企業が増えた。

また、MA導入企業の変化はそれだけではありません。その変化とは、MA単体でマーケティングを実施する企業が非常に少なくなったことです。以前であれば、マーケティング部門で使うデジタルツールはMAだけという企業が多かったのです。5年以上前から存在するSalesforce製品のPardotは、今でこそSalesCloudと併せて導入するのが基本になりましたが、当時はPardot単体で契約する企業も多く存在しました。また、BIツールやDMPなども存在は知っていたものの、日本企業で活用するようなところは殆ど存在していなかったのです。そのため、MA導入にあたって特別必要となる知識はなく、既存の社員が一定期間学習することで十分に活用することができていました。

しかし、今ではマーケティングに使うツールはMAだけという企業は非常に珍しいと言えます。例えばCDPやBIツールなど様々なツールを連携・組み合わせてマーケティングを実践する企業が非常に多くなりました。それに伴い、マーケティング部門に求められるスキルの高度化についても、たった5年ですが非常に大きな変化が起きていることを実感しています。マーケティング施策を実施する上で、特にデータ活用の重要性が高まってきており、統計学やシステムの知識など非常に幅広い知識が必要とされるようになりました。

例えば、AIをマーケティングにどう活用するのか?というテーマは近年マーケティング部門にとって重要になってきていますが、AIを活用するために必要な統計学やシステムの知見を持った人材は少なく、今のところ大きな成果を出している企業は少ないのが現状です。MAベンダーでもSalesforce社がEinsteinというAIを実装しており、どの見込顧客が成約に至る可能性が高いのか?をスコアリングすることができるようになってきていますが、AIをきちんと理解し売上利益に結び付けることのできる企業はほとんどないでしょう。また、AIを活用するまではないものの、タブローなどのBIツールを使って高度な分析を実施し、マーケティング活動に活かそうとする企業が非常に増えてきていますが、その部分でさえ十分な人材を確保できている企業はほんのわずかです。

そして、これは個人のスキルアップにとどまらず、マーケティング部門にはシステムや統計学といった分野の知見を持つ専門家が必要になってきており、それら専門家をいかにシナジーさせ成果を出していくのかというテーマも新しく出てきています。MAに関わる人は、今後、MAやCDPで得られたデータをBIツールで分析し、その結果をMAやCDPに戻して更に進化した施策を実施することが求められます。このような専門的かつ高度化したスキルがMA担当者にも求められつつあるのです。ここ5年程度の間にマーケティングに関連するテクノロジーの進化は凄まじいものがあります。しかし、それらの進化に人間が追い付けていないというのが現状なのです。

今回は、主にMAを導入する企業のここ5年間での変化について述べてきました。後編では、導入支援企業がどのように変化してきているのかと、MAベンダーの変化について述べていきたいと思います。

 

ABOUT 赤沼 悠介

赤沼 悠介

株式会社24-7
マーケティングエージェンシーで戦略の立案や制作に従事後、MAの導入支援企業にてPardotやHubspotの導入支援、 BtoBマーケティングの戦略立案、オウンドメディアの運営などに携わる。2020年、24-7へ入社。 MAの導入支援や企業におけるマーケティング戦略の立案を行う。