テレデジ時代のコネクテッドTV広告価値を定義する[インタビュー]
国内大手テレビメーカーのユーザー視聴データをTVBridgeというプロダクトで提供するSMNとABEMAは、コネクテッドテレビ(以降CTV)広告事業領域において、業務提携を行った。
両者の業務提携の内容と、その取り組みの背景にある市場感について、SMN執行役員 兼 ネクスジェンデジタル 代表取締役 谷本秀吉氏、SMN事業戦略室 室長 シニアプロデューサー 高岡 滋氏、AbemaTVシニアプロダクトマネージャー 綾瀬 龍一氏にお話を伺った。
(聞き手:ExchangeWire JAPAN 野下 智之)
-自己紹介をお願いします
綾瀬氏:株式会社AbemaTVで広告部署に所属し、インストリーム型動画広告の企画・開発の責任者をしています。
谷本氏:SMNでアドテク事業のプロダクト開発を管轄しています。昨年リリースをしたTVBridgeの着想から企画・開発・リリースまでを担当しました。
高岡氏:私はSMNの事業戦略室長をしております。TV Bridgeのリリースに当たり、谷本と一緒に企画の段階から担当しております。
PCを上回る規模に達したCTV
-現状認識されている事業環境についてお聞かせください
綾瀬氏:市場全体では、動画広告の在庫が増え続けています。その中でもCTVを利用するユーザー数、視聴数が増えてきています。
ABEMAとしてはCTVの領域においても地上波と同じような品質の広告を提供するプレミアムな広告媒体として、この領域に大いに商機があると感じています。
ABEMAではCTVの広告在庫の割合が昨年末にはPCを上回る水準に達しました。
谷本氏:CTVの領域が米国を中心にユーザーのメディア体験を変えつつあります。日本でも同様に生活者のメディア環境が変わるのであればCTVに人が集まり、結果的にその広告価値は高まっていくことになります。
ソニーグループの強みを生かしつつ、我々も何か打ち出せないかと試行している段階です。
高岡氏:テレビのデジタル化が進む中で、テレビとインターネット広告が連携するテレデジという文脈での広告主からのニーズが広がっていると感じています。
-今回両社による業務提携を発表されました。ここに至るまでの背景について、お聞かせください。
綾瀬氏:CTVに対する注目が高まっていることが大きな背景です。昨今のコロナ禍で生活者がリビングルームで過ごす時間が増えてきています。
更にその中でもABEMAやTVerなどのOTTサービスの視聴時間が増えてきたことで、私たちは、いわゆるCMについてテレビとデジタルとを区別して考える必要がなくなってきているのではないかと思います。
このような状況で、ABEMAとしては、テレビ視聴データとの連携をすることで、広告主様に対してTVCMと統合的にABEMA広告を実施していただける機会を増やす必要があると考えていました。そして、どのように実現するかを検討していく中で、国内大手テレビメーカー複数社のテレビ視聴データを一元的に集約し、「TVBridge」としてテレビ視聴データ活用のソリューションを提供していたSMN社との連携に実現性の高さを感じ、今回の取り組みに至りました
谷本氏:当社TVBridgeは国内大手のテレビメーカー4社の地上波、BS、CSのユーザー視聴データを秒単位でデータ提供を受けております。これを活かすべく新規の提携先を模索していました。提携先としてはやはりOTTサービスを提供している事業者が提携先候補の筆頭であるという認識をしておりました。現在国内でOTTを提供されている大手事業者として、ABEMAさんとの業務提携はある意味必然であったといえます。
データで創り出す新しい広告価値
-業務提携により提供するソリューションは広告主に対してどのようなサービスとして提供するのでしょうか
綾瀬氏:まず一つは、テレビの放送とOTTの二つの広告接触データを把握することで、テレビCMと動画広告の広告効果を最大化させるスキームを、ソリューションとして提供してまいります。
具体的には、TVBridgeを使うことで、ABEMAはテレビ視聴者のうち、ABEMAはテレビCMを見たユーザーと、見ていないユーザーそれぞれのセグメントを作ることが出来、それぞれのユーザーセグメントに対して、CTV端末向けにターゲティング配信をすることができるようになります。
以前より各社テレデジの文脈でテレビ視聴データを使った近しいソリューションはありましたが、今回の取り組みで新しいのが、CTVのユーザーに対してこれが実現できる点です。また、従来のソリューションはDSPとSSPという広告エコシステムに依存するスキームが多く、限られたインベントリーやIDレスという観点で、カバーできる範囲が小さい点が課題でしたが、今回のSMNとABEMAの取り組みではそのような課題をクリアしているのが特徴です。
-この結果として、ABEMAのPCやスマホ向けの広告在庫よりもCTV向けの広告在庫のほうがより収益性を高めることができるようになるのでしょうか
綾瀬氏:その点はまだ難しいところです。CTV向けの在庫がモバイル向けの在庫と比較してどれほど高い価格で値付けできるかという点について、まだ市場が形成されていません。この点は現在手探りの状況です。
谷本氏:リーチ効率の観点では、地上波のほうがまだまだCTVよりも高いです。プレミアムなターゲティング広告や特定のクラスターに対するターゲティングは付加価値として提供されるものだと考えると、データを付けたことによるリフト効果が何らかの付加価値になるように起用する必要があります。したがって、CTVの価値を定義するには、テレビCMのリーチ効率を超えた何か新しい価値提供をABEMAさんで考えておられるのではないかと思っております。
これは今後の展望にもつながりますが、CTVのOTT、アドレッサブルテレビ広告は、フリークエンシーの制御や、精度の高いターゲティングなど地上波には出来ないデジタルならではのものを実現可能だと考えています。それによってどちらのリーチ単価が安いかという比較ではなく、デジタルにしかできない特徴を生かした方が、広告価値を高める工夫ができる余地が大きいのではないかと考えております。
-CTV広告を価値どう価値付けして提供をしていくのかということは、今の業界課題ですね。
谷本氏:リーチ単価やリーチ効率だけで見るのではなく、テレビスクリーンに向かっている生活者に対して、デジタルのチカラを活用してパーソナライズドされたリッチな広告を提供することができるCTV広告を新しい尺度で価値定義されるものになってくるのであろうと個人的には思っています。
そのためには、広告主が価値を見出していただいて、かつ実際に生活者がCTVに配信される広告が非常に心地よい体験であると思ってくれることが重要です。ABEMAさんはCTVの新しい価値づくりを先行して取り組んでいるのであろうという印象があります。
私は個人的にも、サイバーエージェントグループの方がCTVの領域について踏み込んでいかれていることについて、相当な野心を感じています。市場の成長は間違いないと感じています。笑
綾瀬氏:CTV広告に接触する生活者は、手元にはモバイルデバイスを持ってテレビを見ていて、気になる情報があれば、動画コンテンツの視聴を続けながら、すぐに調べることが出来ます。このような視聴環境というのは、広告効果を高めるはずであり、その意味でもCTV広告の価値は高く、ポテンシャルがあると言えるでしょう。
谷本氏:私たちがデジタルインファクトと実施した調査では、コネクテッドTV広告の市場規模は、2024年に558億円に達すると予測していますが、足元のトレンドを見る限りにおいては、恐らくこれを大きく上回ってくるのではないかと思われます。米国ではコネクテッドTVの市場規模は既に約7,000億円規模になっているとも聞いております。日本でもいよいよ本格的な成長トレンドに入るでしょう。
テレデジこそ今後の成長領域に
-今後データ活用に関する構想はおありでしょうか?
谷本氏:あります。当社に限らず、今後様々な事業者間での業務提携が進んでいくでしょう。当社にも各所からお声がけをしていただています。
綾瀬氏:テレデジの文脈でのテレビCMと動画広告のプランニング精度の向上、広告配信時の制御、あるいは配信後のレポーティングなどにおいて、テレビ視聴データやメディアが持っている接触データなどとうまく組み合わせながら作っていく必要があると考えており、今後もデータ活用の向上に取り組んでまいります。
-今後CTVの領域でどのようなことをされていきたいですか
綾瀬氏:ABEMAとしては、先ほど申し上げたようなアドレッサブルな側面に加えて、CTVに特化したような広告フォーマットの開発に注力したいと思っています。
具体的には、今までのテレビCMのように本編と本編との間に流れる広告ということだけではなく、ユーザーのコンテンツ視聴を阻害しないようなフォーマットや、リッチなフォーマットなどの開発を実現していきたいと考えております。広告効果を高めるという点では、モバイルデバイスとどう絡めてユーザー体験を作っていくのかというところがポイントになると考えております。
高岡氏:我々としては、テレビとデジタルとをどのように融合させていくかという点について、配信だけではなく分析も今後注力していくことのポイントかなと思っています。
そういった面においてもABEMAさんと色々とご一緒させていただければと思っております。
谷本氏:生活者視点で考えたときに、CTV領域は注目度が高まっています。人が集まるところは広告価値が高く、この領域に当社は今後も注力してまいります。
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ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長 慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。