×

コロナ禍のデジタル広告市場とアプリ広告市場を振り返る

 

本稿では、コロナ禍の2020年から2021年かけてのデジタル広告市場、アプリ広告市場のトレンドを振り返り、市場の潮流を読み解く。

(Sponsored by PubMatic)

コロナ禍の広告市場とデジタル広告市場

2020年の春以降、コロナ禍で世界中の社会システムや消費者行動が大きく変化するなかで、あらゆる産業においてデジタル化、DX化が加速した。

広告市場もまた同様に、クライアントのビジネスモデルや販売チャネル、マーケティングチャネルのデジタル化を機に、デジタル広告の成長や広告市場におけるシェアの拡大が進んでいる。

2021年7月に電通グループが公表した世界の広告費統計によると、2020年の全世界の広告費は前年比7.2%減となるも、2021年は前年比10.2%増で約6340億ドルに達し、パンデミック以前の2019年の水準を上回ると予測されている。

 

<媒体別成長率予測(全世界)>

 

<媒体別シェア予測(全世界)>

出典:電通グループ「世界の広告費成長率予測(2020~2022)」改定版
(https://www.group.dentsu.com/jp/news/release/000509.html)

 

コロナ禍で社会・経済、広告市場が大きく停滞した2020年、各媒体の需要が大きく前年を下回る中、デジタル広告は唯一成長を遂げた。そして2021年もまた二桁成長となる高い成長が予測されている。
そして注目すべきは、世界の広告費に占めるデジタル広告費のシェアは、2021年に50%に達すると予測されているということである。
コロナ禍を経て、デジタル広告は世界の広告市場において間違いなく主役の座に立ったといえよう。

日本の広告市場ではコロナが始まる少し前、2019年にデジタル広告費がテレビ広告費を始めて上回り、広告費全体に占めるデジタル広告のシェアは30.3%に達した。
そして広告業界では大手総合広告会社とデジタル広告会社の経営統合が本格化し、広告業界の再編が進んだ。

2020年はコロナ禍において特定業種の広告主による投資が大幅に削減され、前年比11.2%減となった。マスメディアを始めとする主要媒体が軒並みマイナス成長となる中で、デジタル広告は前年比5.9%増と唯一のプラス成長を遂げた。

デジタル広告の成長はコロナ禍においても止まらず、その存在感は世界中で加速した。

 

デジタル広告、2021年のトレンド

2021年もまた、デジタル広告は高い水準で成長をしている。経済産業省が公表している特定サービス産業動態統計調査によると、2021年1-9月のインターネット広告売上は、前年比28%増と高い水準で成長している。大手広告会社の業績も、前年を大きく上回る水準で推移している。

このように、2020年の国内経済や広告市場の大幅な落ち込みからの反転を受けて、好調を続ける2021年のデジタル広告市場では、世界的なプライバシー保護への対応をきっかけとする、Webとアプリ双方のチャネルにおける、ユーザーとのコミュニケーションにおけるデータ活用に関わるルール変更が大きな話題となり、エコシステム全体に影響を及ぼすこととなった。

このように、コロナ禍に合っても高い成長を遂げるデジタル広告市場について、その動向を振り返る。

過去2年間に実施が宣言されたWeb、およびアプリそれぞれの世界におけるルール変更により、その構造が大きく変わりつつある。

 

プライバシー保護対応、クッキーレスとIDFA制限

世界的なパンデミックの拡大が始まる少し前、2020年初頭にGoogleが発表した、数年内のサードパーティ・クッキーの廃止(※)は、既に予期されていたこととはいえ、衝撃をもって受け止められた。

※当初は2022年までに廃止するとしたが、その後2023年後半以降へと期限を延長

 

これを機に、広告バイヤー、広告サプライヤーのそれぞれにおいて、どのような代替策があるのかという議論が始まった。

サードパーティ・クッキーを完全に代替する手段はいまだ見出しきれないものの、業界内での議論においては、概ね広告主や媒体社によるファーストパーティ・データの有効活用、アドテクベンダーが提唱し、現在エコシステム全体での利用が進みつつある共通IDソリューションの有効活用のほか、コンテキストターゲティングなどの方法が有望とされており、各社がソリューション開発を進め市場に新しいサービスとして上市した。

このような環境変化は、これまでリターゲティング広告事業者をはじめ、サードパーティ・クッキーをビジネスの糧としてきた事業者のビジネスモデルに対して、大きな変化を求めることになった。

一方アプリチャネルでは、2021年4月にAppleが導入したATT(AppTrackingTransparency) の導入以降、従来ユーザーの特定に活用されてきたIDFAの取得が大幅に制限され、広告効果の計測やユーザーターゲティングの精度にかかわる課題が業界全体で起こった。

 

Eコマースの成長による需要拡大

コロナ禍において、これまでも成長を続けてきた国内Eコマース市場は高い成長を遂げた。

日本通信販売協会が発表した、2020年度の国内通販売上高は、前年比20.1%増の10兆6,300億円となり、前年に比べ1兆7,800億円増となった。同協会によると、直近10年の平均成長率は8.7%であり、調査を開始した1982年度以来初めて、20%以上の伸び率となった。

※出典:日本通信販売協会(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000048.000014913.html)

 

Eコマースビジネスの急拡大を受けて、デジタル広告の需要も大きく増加した。電通が公表した2020年の物販ECプラットフォーム広告費は前年比24.2%増の1321億円と、デジタル広告全体の需要を押し上げた。

世界的なパンデミックの拡大によりその普及が5年は早まったともいわれているEコマースの領域では、大手動画配信サイトやSNSがショッピング機能を持ちはじめ、更に動画との組み合わせでライブコマースという新しい商機生み出すなどの動きがみられる。

 

OTT・コネクテッドテレビの成長

コロナ禍において拡大した消費者の巣ごもり需要の一つとして、OTT(動画コンテンツ)が挙げられる。
コロナ禍で、有料・無料を問わず動画配信サービスの利用が急増した。また、広告主によるOTTサービスへの動画広告の出稿もまた大きく増加した。

電通グループ(CCI/ D2C/電通/電通デジタル)の発表(※)によると、2020年の動画広告市場は前年比21.3%増の3,862億円となった。またこのうち、主にOTTサービスに配信されるインストリーム動画広告は、全体の46.6%を占める1800億円に達している。

※出典:電通グループ(CCI/ D2C/電通/電通デジタル)「2020年 日本の広告費 インターネット広告媒体費 詳細分析」
(https://www.dentsu.co.jp/news/release/2021/0310-010348.html)

 

このようななか、動画広告の配信先として急速に拡大をしているのが、コネクテッドテレビである。コロナ禍においてユーザーは、自宅で動画コンテンツを視聴することとなり、結果としてリビングルームでのテレビ端末を通した動画コンテンツの消費が大きく増加した。

SMNとデジタルインファクトが2020年10月に公表した調査結果によると、コネクテッドテレビ広告の需要額は2020年に102億円の規模に達しており、2024年には558億円に達すると予測されている。

コロナ禍のアプリ広告市場

2020年、世界的なパンデミックの到来とともに、人々の外出行動に大きな規制が加わり、巣ごもり需要が拡大した。結果としてアプリビジネスはその恩恵を大きく受けることとなり、多くのアプリデベロッパーが収益を拡大した。2020年の世界のアプリ市場は1924億ドルで前年比14.2%増、日本のアプリ市場は259億ドルで前年比17.7%増と高い成長を遂げた。(※)このような環境下において世界、そして日本のアプリ広告の需要も大きく増加した。

※出典:Omdia(総務省「令和3年 情報通信白書」 p6掲載)
(https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r03/pdf/n0100000_hc.pdf)

 

ATT導入によるIDFA取得制限

2021年4月にApple社が提供を開始したiOS14.5では、ユーザープライバシー保護を目的に、ATT(AppTrackingTransparency)の導入を開始した。

これにより、iOSにおいては、IDFA取得の許諾を得られないユーザーを補足することが困難になり、広告配信におけるターゲティングやトラッキングの精度において大きな課題が生じている。
この頃を境に、アプリ広告業界では、事業者同士の合併や買収などによる経営統合が進み、業界全体のエコシステムが再編に向かいつつある。

 

アプリ広告市場の課題

ATT導入以降のアプリ広告業界は、IDFA制限を機に、業界全体にとって望ましい新しい計測ルールを誰がどのように確立をしていくかという合意形成に向けた模索を続けている。

IDFAに代わる計測手段とされているApple社が提供するSkAdNetworkは、IDFAと比べると計測対象の範囲に制約があり、従来の計測手法との数値的な乖離が大きく、現状においてはIDFAを代替し得るものとは言い難い。また、このような環境下では、新たなアドフラウド手法が開発されて、広がること懸念されるなど、アプリ広告業界における課題が山積している。

 

アプリ広告市場の今後

とはいえ、アプリ広告業界の将来の見通しは決して暗いわけではない。昨今のIDFA取得制限に関わる業界の対応は、中長期的に観たときに市場が次のステップに進む大きな転換点であると振り返ることになろう。

アプリ広告市場は今後、iOSにおけるIDFAの導入に続いてAndroidOSにおいても同様に、広告IDの取得制限が開始されることも、想定範囲のなかにあるといえよう。

世界におけるユーザーのプライバシー保護対応強化の流れを考えた場合、Android OSにおいても、少なくとも従来のままの方法でユーザーを補足することが出来なくなるという流れは間違いなく、何らかのかたちで訪れることであろう。

一見、足元で課題が多く見えるアプリ広告市場ではあるが、将来は決して暗いということではないことは、ここで改めて強調すべきである。先に挙げたアプリの市場規模について2021年は世界市場では前年比11.1%増、日本市場では前年比11.5%増の成長が予測されている。また世界市場、日本市場とも2023年には2020年比でおよそ4割増(世界市場は37.5%増、日本市場は40.9%増)と大きく成長することが予想されている。

※出典:Omdia(総務省「令和3年 情報通信白書」 p6掲載)
(https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r03/pdf/n0100000_hc.pdf)

 

アプリ市場の成長は、アプリ広告エコシステムに還流され、その後アプリ広告市場の成長にほぼ直結することとなろう。実際に、アプリ広告市場では、新しく魅力的な動画フォーマットの普及や、ブランドセーフな環境が担保されたゲーム内広告の普及など、アプリデベロッパーにとって今後大きな商機となるイベントが溢れている。

 

アプリ広告の仕組みや導入のメリットなどを解説した資料は、こちらからダウンロードできる

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。