WireColumn: ディスプレイ広告のトレンド『DSP Trading Desk』

Cosmology Mr Masunaga WireColumn

(コラムニスト:株式会社コスモロジー 益永 哲朗)

ディスプレイ広告市場でDSPがトレンドとなる昨今、Trading Desk(トレーディングデスク)が誕生した経緯やTrading Deskが何故必要とされているのか、また現場での運用方法・実績等について、国内・海外含め複数のDSPを運用してきた経験からその実態について基礎から応用まで数回に分けて解説していきたいと思います。

 

 

 

■ディスプレイ広告を取り巻く環境

 

まずは現在のディスプレイ広告市場について簡単に述べたいと思います。

ディスプレイ広告はアドテクノロジーの発展に伴い様々なプレイヤーが誕生し、DSP(*1)、SSP(*2)、DMP(*3)や3PAS(*4)などディスプレイ広告に関わる多くの事業者が独自のサービスを展開しています。ツールやデータなど各サービスが相互に繋がりあうなどエコシステムとも呼ばれる市場が形成され非常に活発な環境となっています。

RTB(*5)の登場によりディスプレイ広告取引は自動化の流れが一層進み、クライアント(広告主)サイドでは配信設定等のオペレーションをDSPを介して柔軟に行うことが可能となりました。

従来の「枠」から「人」へといったオーディエンスに対するアプローチへのシフトも起こり、オーディエンスデータの利用も活発化し、ビュースルーCV(*6)などアトリビューション分析(*7)といったディスプレイ広告の効果の再検証も盛んになっています。

その一方で例えばDSPの配信ロジックや、DMPのもつデータなどサービスを提供するベンダー各社によって特徴等は当然異なってくるため、どのDSPを使えばよいのか、どういったアドテクノロジーやデータを利用すればよいのか、レポーティングからの分析・リアロケーション(予算の再配分)をどう行えばよいのか、といったプランニングやそれに付随するオペレーションはより高度化しています。

ディスプレイ広告は運用商品としての側面を増し、数あるサービスをただ使うだけでなくどのように活用し最適化を行っていくのかが求められています。

 

 

■Trading Deskが何故必要なのだろうか?

 

上述したような複雑化するディスプレイ広告の世界では、キャンペーンの設計・運用・検証を一貫して担う存在が益々重要となってきています。

図1

ではTrading Deskとは一体どういう存在なのか?純広(*8)やアドネットワーク(*9)等の運用と違い何故DSPの運用ではTrading Deskが必要となってくるのか、その実態について迫りたいと思います。

例えばコスモロジーでは自社DSPでキャンペーンを運用するだけでなく、国内および海外の複数DSPを併用して運用を任されているケースがあります。それは日本の市場として、広告主や広告会社が複数のDSPに着手し、その違いを見いだそうとしている段階であるというのも一つの理由です。

今まで媒体社の純広やアドネットワーク等の広告配信管理は、基本的には媒体側で行っていたのですが、DSPではOpenMarket(*10)内の数多ある広告枠に対してRTBでインベントリー(広告在庫)をリアルタイムに買付けにいくというファンクションが発生し、広告主側がこの『買付け』の作業の舵を握り目的・目標に向かわせなくてはゴールに辿りつけない、という事に留まらず、闇雲にDSP上でキャンペーンを走らせて何も得られないまま終わってしまうという事もありえます。

冒頭でも述べました様に、DSPの運用では更にDMPや3PASなど3rd party(第三者)のツールが加わる事もあり、専門的な知識と経験を持つ専任者が張り付いて運用する『Trading Desk』が必要とされているわけです。

複数あるDSPの違いはキャンペーンの効果を左右する非常に重要なポイントであり、運用を担当するTrading Deskはそれを常に理解していかないといけません。DSP業者によっては、データやルールの定義など、広告主や広告会社が全て運用を行わなければならないものもあれば、逆に全て配信ロジックや最適化のルールなどの中身はブラックボックス(非公開)で運用はDSP業者に任せる、といったケースもあります。多くのアドテクベンダーが乱立する混沌とした状況の中、Trading Deskはどの様にDSPベンダーや運用方法の選定を行っていけば良いのか、Trading Desk部隊を持つ各社の現場の努力や経験は、広告主のキャンペーン効果を出して行くうえで、非常に価値あるものとなっています。

 

■DSPが複数誕生している中それぞれの違いはあるの?

 

欧米だと2008年頃にはTrading Deskの存在が目立って来ていた様ですが、日本でTrading Deskというものを一般的に耳にする様になってきたのはこの1、2年の間だと思います。まだまだ未熟なこの分野ですが、国内では大手広告会社や独立系ベンダーが部署を設ける等、動きが非常に活発になってきました。各社は複数のDSPを運用し、広告主から求められている要望(日本ではCPA重視の案件が比較的多い)に対して結果を出して行く訳ですが、いったいどれ程の数のDSPや3rd partyのツールを活用し、運用しているのでしょうか。

DSPは各社それぞれがパフォーマンスを出す為にデフォルトで提供している機能があるため、極端な話ただ単に広告を配信しただけでも、効果を最適化しながら自動配信する機能が働けば結果はある程度出てくるものです。しかしキャンペーン運用を機械任せにするだけではなく、キャンペーン前の設計段階から配信先のインベントリー(広告在庫)の特徴を把握し、DMPや3PASと連携した配信、また配信と平行してホワイトリスト(*11)やブラックリスト(*12)の作成など、いち早く最善なパフォーマンステーブルに乗せるまでの細かな運用がTrading Deskが結果に大きな違いを生むことを可能にするのです。

国内でも複数のDSPが存在しますが、独自に持つ配信アルゴリズムは各社様々であり、同じキャンペーンを配信するにあたって期間やバジェットといった条件が同じだとしても、それぞれ違ったパフォーマンスが結果として見受けられます。各DSPの先に接続されているアドネットワークやSSPがどの様なインベントリーを保持していて、どのような独自性や特徴があるかを理解する事が最適なパフォーマンスをあげるためには重要なのです。

例えばDSP:A社では女性系の商材でCV(コンバージョン数)が上がりやすいがビジネス系の商材だとCVが上がりにくいというケースや、DSP:B社だとキャンペーン属性に問わず一定したCVR(コンバージョン率)が出るといったケースなど、インベントリーの内容によってキャンペーンの効果が異なります。

このような知見を基に新規のキャンペーンでも、配信設定をかけ、キャンペーンを回すだけで早い段階から大きな違いが結果として表れるのです。Trading Deskとしては、配信設計をする時点で親和性の高い買付け方法や配信手法を、DSP各社の特徴を考慮しながら検討しなければならないのです。

ただ単にキャンペーン設定をして配信をするのではなく、目的や目標に対してどうすれば良い結果が生まれるのか思い描く事から始まり、全体的な設定を組み合わせていく。ここでTrading Deskの力が発揮され、効果に違いが現れるわけです。同じ選手が揃う野球チームの監督が変わるだけで、チームのパフォーマンス力が大きく変わる様に、Trading Deskが監督となりディレクションしていくのです。重要なのは単なる運用するという簡単な言葉では収まる事なく、指導、管理、監督、演出、指揮、等のディレクションが出来て初めて本当のTrading Deskとして、「運用」の力が発揮されるのです。(個人的にですが、私はどのDSPの機能が優れているかよりも、運用の方が重要だと思っています。運用・カスタマイズできるDSPであればTrading Deskの力が大きく発揮されると思っています)

よく広告主から「各社DSPの接続先であるインベントリーって殆ど重複していてあまりDSPの違いはないのでは?」「アルゴリズムが違うとは言え、そんなに変わりはないのでは?」というご意見もよく耳にします。確かに最近では配信先インベントリー(=媒体のドメイン)がかなり重複してきている事も事実です。しかしながら、ドメインが同じだとしてもin view率(*13)、滞在時間や離脱率など、Trading Deskがインベントリー内での効果を細部まで見ながら最適化を行うことで効果が異なってきます。またここで重要なのが、アドベリフィケーションやアトリビューション等の3rd partyツールを噛ませることで、インベントリーが重複した複数DSPの運用のなかで効果を明確に数値化させることができ、さらに結果に大きな差をだすことができるのです。

話が少し脱線しましたが、DSPが複数存在し、その先の膨大な広告枠のなかのインベントリーから買付けをしなくてはならないDSPの活用においては、専門的な細かいディレクションが効果を左右します。そしてこの領域において、常にアンテナをはり、プロフェッショナルでなくてはならないということが、広告主には大きな負担であり、同時に専門集団としてのTrading Deskが必要とされている理由です。

今回はDSPが誕生した事によるTrading Deskの概念について書かせて頂きましたが、次回のコラムではDSPの運用やアドベリフィケーションの実績等をご紹介できればと思っています。

奥の深い領域ですので細かくは書ききれない事もありますが、少しでも多くの方にお伝えできるように実績等にも触れながらご紹介できればと思います。

 

 

*1 DSP:(Demand Side Platform) 広告主(広告購入者)側の広告効果の最大化を支援するツール。広告在庫の買い付けや、予算・入稿・掲載面・オーディエンスのターゲティング等による広告枠の選定、過去の結果に基づく広告配信の最適化などの機能を提供するプラットフォーム。

*2 SSP:(Supply Side Platform) 媒体社の広告枠の販売や広告収益を最大化を支援するツール。主に、広告のインプレッションが発生するごとに最適な広告を自動的に選択し、収益性の向上を図る、といった仕組みが提供されている。

*3 DMP:(Data Management Platform) ユーザーの行動履歴などに基づくオーディエンスデータを収集管理するプラットフォーム。匿名ユーザーの特定の行動を属性や嗜好のセグメントとして定義・グループ化することができ、広告配信やコンテンツターゲティングなど、マーケティング施策を最適化するために活用される。

*4 3PAS:(3rd Party Ad Serving)第三者配信アドサーバー。媒体社が持つサーバー以外から媒体に対して広告配信を行うことができる。

*5 RTB:(Real Time Bidding)リアルタイム入札。オンライン広告の入札の仕組みで、広告のインプレッションが発生するたびに広告枠の競争入札を行い、配信する広告を決定する方式。

*6 ビュースルーCV:イメージ広告(バナー広告)が表示されたがクリックをしなかったユーザーが、その先指定した期間内にコンバージョンを行った数を表す指標

*7 アトリビューション分析:コンバージョンにいたったアクション・メディアそれぞれの貢献度を調査する分析

*8 純広:純広告。特定のアドネットワークを経由せずに指定の媒体に掲載される広告

*9 アドネットワーク:広告媒体のWebサイトを多数集めて「広告配信ネットワーク」を形成し、その多数のWebサイト上で広告を配信するタイプの広告配信手法

*10 OpenMarket:広告在庫システムがオープン化されているインターネット広告のマーケットプレイス

*11 ホワイトリスト:広告の配信先として、受け入れる対象を列挙した目録を作り、そこに載っていないものは拒絶する方式

*12 ブラックリスト:広告の配信先として、目録に載っているものだけを拒絶し、それ以外は受け入れる方式

*13 in view率:広告配信全インプレッション数に占めるビューアブルインプレッション数(ユーザーのブラウザ上に広告の50%以上の面積が1秒以上表示されている状態のインプレッション)の割合

 

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ABOUT 益永 哲朗

益永 哲朗

株式会社コスモロジー 代表取締役社長   2006年アドネットワーク市場の黎明期からアドネットワーク事業に携わる。2010年には海外のDSP事業に着目し2011年に複数の海外DSPを運用。2011年11月に株式会社コスモロジーを設立しDSP「Cosmology」をリリース。その後日本初となるアドベリフィケーションやソーシャルビデオDSP等を導入し、現在ではPCおよびスマートフォン領域でDSPの展開からトレーディングデスクに携わっている。