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業界有識者に聞く:Xaxis社と24/7の合弁にみる中間業者の中抜き、戦略的な囲い込みがアドテク市場に与える影響は?(12/27 updated)

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12/27 更新
先日、WPP傘下のXaxis社と24/7が合併し、プログラマティック領域において buy side(バイサイド)と sell side(セルサイド)の双方のサービスを一企業が提供していくというニュースがあった。今までGoogleやAdobeのようなテクノロジー企業は、広告の売買やマーケティングプロセスを一社で総合的に提供する「Stack」戦略を掲げてきた。プログラマティックな広告取引においては、総合代理店であるWPPが戦略的な囲い込みをしかけてきたことになる。

業界のこの動きに対して、日本の有識者に意見を聞いた。

(ライター:ExchangeWire編集長 大山忍)

 

 

世界最大手の広告代理店のひとつ、WPPグループ傘下の技術部門、Xaxis(ザクシス)と24/7が合弁し、Xaxisブランドで統合される。

Xaxisはオーディエンスデータをもとに広告枠を購入する、いわゆる「バイサイド」のテクノロジーを提供。一方、24/7は媒体社の収益最適化、「セルサイド」のテクノロジーを提供している。

プログラマティック(データに基づく自動化)な広告枠の購買に広告主の予算がシフトしている市場動向を受け、WPPグループは媒体社と広告主側を繋げることでプログラマティックな購入プロセスを効率化し、同時に仲介者を中抜きすることで収益性の向上を図ろうとしている。

しかしながら、ひとつの企業が広告の販売と購入の両方でクライアント対応することに懸念を示す広告主や媒体社も少なくないようだ。

このようなグローバルなアドテク業界の動向は、今後どのように日本市場へ影響を与えるのか。
日本の業界有識者に、a) 一社がバイサイドとセルサイドの両方を提供することへの見解、b) 日本市場への影響と今後の方向性についてコメントをいただいた。

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 株式会社イーグルアイ 代表取締役社長 近藤洋司氏

 

Mr.kondou_a) 一社がバイサイドとセルサイドの両方を提供することへの見解

日本においても、バイサイドとセルサイドが密接に繋がったプログラマティック・バイイングの環境は従来からありました。DSP/SSPを同一企業様が提供されているケースなどがそれに当たると思います。

これらの場合、提供者が双方を管理しており、広告パフォーマンスを上げるために入札される広告インベントリを最適化するなどの対応が非常にスムースであるということや、媒体主にとっても一定の買い付けボリュームが安定的に期待できるという点はあると思います。

反面、広告主は安く買いたい、媒体主は高く売りたいという点で利益相反を生むことがあり、中間マージンが不透明になることも想定されます。

米国は日本よりも、さまざまな面で透明性が重要視されていますので、今回の合併後もそれぞれのコスト構造が明確化され、特に大手広告主がプログラマティック・バイイングに求める広告掲載先の透明性について実現可能な環境を整えるのではないでしょうか。

RTB環境を整えた上で、自社グループが優先的にコントロール可能な広告在庫を持ちながら余剰在庫をExchangeでマネタイズする、Private DealやPrivate Exchangeと言われていたものが具体的な形となった合併とも言えるでしょう。

 

b) 日本市場への影響、今後の方向性

日本においては、DSPなどを活用したRTBがようやく本格的になってきたこともあり、今後の可能性として、ようやく広告掲載先や広告コストの透明性が求められるようになると考えています。

これまでWeb広告といえばYahoo! JAPANのみ、ということも多い大手広告主様が、同様に安心できる広告掲載先を広く求めるようになった場合、総合代理店グループが囲い込みに動き始める可能性は考えられます。

しかし、RTBにおけるメリットがまだまだ認知されていない現状においては、日本ですぐ同様のことが発生するとは考えにくいでしょう。

 

 

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デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社 e-ビジネス本部、シニアマネージャー 菅沼道彦氏

MrMichihikoSuganuma今回の合併のニュースは、Google、AOLグループ、AppNexusなどが既に実施する、広告主と媒体社の間に無数のプレイヤーが存在する状況を整理し、広告出稿フローの効率化や広告主のメリットを高めつつ、媒体社の収益拡大を目指すトレンドに沿ったものであり、歓迎すべき状況と捉えています。

 

a) 一社がバイサイドとセルサイドの両方を提供することへの見解

WPPグループが開発を進めてきたDMPを24/7メディアが持つ媒体社向けアドサーバと直接連携し、媒体社から直接在庫の調達が可能となります。24/7メディアのDavid Moore(デイビッド・ムーア)氏もコメントしている通り、この動きによってミドルマンを排除できれば、デマンドとサプライの両サイドの高収益化に繋がる。また両社統合により、データ、テクノロジー、また人的リソースが一本化されることは企業として効率が良い。とはいえ透明性のあるサービスを提供していく必要があり、適正な収益を媒体社に担保していくことが重要です。またデマンド側、サプライ側のチームにファイヤーウォールを設け、情報の取り扱いに注意する必要があるでしょう。

 

b) 日本市場への影響、今後の方向性

合併した同社が、今後日本市場への参入してくる可能性も否定できません。DACは現在、日本においてデマンドとサプライの両方のポジショニングを有しています。同社とはデマンド側、サプライ側の双方向で連携し、市場の拡大を図りたいと思っています。DACは、メディアレップという立ち位置から約1,000の媒体社と約500の代理店の間に立ち、メディア、テクノロジー、オペレーションの3つの事業を展開。アドサーバの「iPS-X」と、SSPの「YIELD ONE®」、DSPの「MarketOne®」、第三者広告配信ツールの「i-Effect」などを武器に両サイドのニーズに対応したテクノロジースタックを提供しています。今後もDACグループ全体で一丸となり、広告主の出稿フローの効率化と、デマンドとサプライの両サイドの収益力向上を目指して取り組んでいきます。

 

 

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株式会社デジタルインテリジェンス(DI. New York)取締役 榮枝洋文氏

 

Mr.Sakaedaa)一社がバイサイドとセルサイドの両方を提供することへの見解

高品質なプレミアムメディア(オーディエンス)にリーチできるDMPサービスを標榜する会社(Xaxis)としては、利益確保のビジネス面と、コスト効率を迫るクライアント要求面から必須なことと感じる。そもそも、日本の大手広告会社は新聞・ラジオの時代からCCIやDACの現代に至るまで、「バイ&セル」両面のビジネスを行ってきた。むしろ日本の方が欧米よりアレルギーが少ない(期待が高い)と感じる。透明性議論は「原価はいくらか?」という他人の取り分に意識を置くのではなく、マーケター自社基準の価値にフォーカスすべきだ。つまりマーケターには、自社の購買オーディエンスがベンチマーク価格以上の価値を発揮したかどうかの「データ・ポートフォリオ管理」が求められる。その意味で、巨大ホールディングのワンストップ・プラットフォームをグローバルで活用する一部のトップ企業戦略と自社管理プラットフォームを自前で設計せねばならない東京中心のマーケターと別の対応が求められる。ちなみに24/7をWPPが2007年にマイクロソフトと競って落札したのは、GoogleがDoubleClickを買収し、バイ&セル中抜きを予知したからだ。Xaxis的発想は24/7買収が発端で、今回の統合は既知の延長に過ぎない。

 

b)日本市場への影響、今後の方向性

マーケター(広告主)視点で予想すれば、グローバルの空中戦と、日本国内の地上戦の違いはあれど、カテゴリー上位のマーケターは急いで自社基軸とテクノロジーを確保した方が良い。さもなくば、グローバル・ホールディング会社のオールインワンのサービスや、それを真似たエージェンシーサービスに甘んじる事になるだろう。

電通はAegis買収でグローバル・プレーヤーとして名乗りを上げた。プレミアムパブリッシャーのインベントリー(オーディエンス)に無駄なく、(ミドルマン経由せず)アクセスするのはテレビのゴールデンの枠を買うより、技術と資本と決断が必要になる。グローバル空中戦では、既に某CPG企業はリージョナル統括を減らし、中央から直接各国へのオーディエンスにアクセスすることで、エージェンシーコスト削減している例がある。WPP/Xaxisの発表もグローバル一括リーチのクライアント要求に対応した事が根幹で、セル&バイの統合の側面は既知であり、これがグローバルオペレーションの原資となる。日本のマーケター企業は、連結ベースで国内はもとより、グローバル(オーディエンス)リーチが取れるかが1周先の課題だ。

(編集:三橋 ゆか里)

 

 

ABOUT 大山 忍

大山 忍

ExchangeWire Japan 編集長 米国大学卒業。外資系企業を経て2000年にネット広告効果測定ツールを提供するベンチャーに創業メンバーとして参画。その後、バリューコマース株式会社と合併。 2007年1月にオムニチュア株式会社(現Adobe)に参加、コンサルティングサービスを立ち上げる。ビジネスコンサルタントとして米国のベスト プラクティスを日本の課題やニーズに合わせて提供、ウェブ解析やガバナンス(データ主導の組織・仕組化)に関する執筆・講演を行う。