行動観察を組み合わせて更なる最適化を目指す-デジタルが貢献できることを考える |WireColumn

IMJ Mr.ishii

最近注目されている行動観察ですが、生活者の行動を詳細に観察することを通じて、既存製品の改善や新製品の開発に大きく役立つとされています。これだけ聞くと、CMOやマーケティング統括者の最も重要な役割であるマーケティング投資配分やROIの最適化とはかけ離れた概念で、連携が難しいように聞こえます。しかし、マーケティング投資最適化分析においても、生活者の購買行動からマーケティング投資配分最適化の分析を可能にするエージェントベースモデルであれば、行動観察分析との連携が実現できます。

 

本連載では、株式会社アイ・エム・ジェイのMarketing & Technology Labs (以下、MTL)のシニアコンサルタント 石井俊宏より、マーケティングROIを見据えた上流レベルの戦略や事例を紹介します。

 

 

 

 

行動観察への注目

今、行動観察が注目されています。私が所属するMTLでも、自社サイトへの訪問者(見込み客や購買者)がどのような行動をしているか、アクセスログデータから詳細に観察・分析する「行動観察型アクセス解析サービス」を提供しています。分析結果を基にコンバージョン(※1)へ結びつくサイト構造やコンテンツの改善を提案することで、多くのクライアントから好評を得ています。

(参考事例:http://www.mtlabs.jp/case-study/case003.html)

 

行動観察が注目される背景には、従来のアンケートやインタビュー調査では把握しきれなかった生活者インサイトを獲得し、生活者を出発点とする具体的かつ着実な改善策の発見があります。

 

行動観察は、生活者の製品やサービスの利用シーンを詳細観察することで、行動的インサイトの獲得が主目的となります。すなわち、生活者が分析対象製品を「どう使っているか(How)」を理解したうえで、その利用行動の背景にある「モチベーション(Why)」を解釈します。それにより、利用者でも気付いていないニーズやインサイトの獲得と改善策などを導き出します。行動観察が最も効果を発揮するのは、①新製品開発、②既存製品のデザインや機能の改善、③既存製品の新機能追加、④既存製品の新しい使い方提案などであり、実際にそのような目的で活用されるケースも多くあります。MTLが提供する「行動観察型アクセス解析サービス」 でも、生活者のオンライン上の行動をアクセスログにて詳細観察することにより、自社のサイト構成やページデザインなど、修正対象を把握することでコンバージョン拡大につながる最適施策を実現させるために活用されています。

 

このように、行動観察はボトムアップ型アプローチです。少数の生活者やユーザーの徹底的な観察から新しいビジネスのヒントを得ることを前提としています。そのため、対象製品の一般的なユーザーよりも、特別な使い方をするユーザーや満足度の高いユーザーを観察する方が、より多くのインサイトを獲得でき、改善点や新機能へのヒントを得る機会が多いことも事実です。また、ブランドの購買量が大きく、ロイヤルティが高いパワーユーザーを観察することで、その傾向・ニーズ把握し、その発見を平均的なユーザーをパワーユーザーへ育成する施策に活かすことができます。

 IMJ-WireColumn4_1

それでは、この連載の読者であり、マーケティング全体の効果・効率の向上が主な役割となる、CMOやマーケティング統括者の方々は、行動観察をどのように利用すれば良いでしょうか。

※1 コンバージョン:購買や資料請求など、具体的なアクション。

 

 

マーケティング投資最適化との使い分けと組み合わせ

マーケティング投資配分最適化のアプローチ方法は数多く存在しますが、総じてトップダウン型アプローチです。それは、マーケティング投資(インプット)からどれだけ多くの売上数量や金額(アウトプット)を獲得できるかという全体最適を主目的とし、マクロ的視点が最重要視されることからも、そのように定義できるでしょう。

 

それでは、アプローチベクトルが異なるマーケティング投資最適化分析と行動観察の両立は不可能でしょうか?そうではないと考えます。特に、製品やサービスのユーザー像を明確化し、その購買頻度や数量をベースに売上予測するエージェントベースモデル(※2、以下ABM)と組み合わせることで、最大の効果を獲得できるでしょう。すなわち、マーケティング投資から得られる最大の売上を、生活者の購買行動に連携させながら算出できるようになります。これは、他のマーケティング投資配分最適化分析が把握対象とする「いつ(When)」、「どこで(Where)」、「何を(What)」に加えて、「誰(Who)」の把握・理解ができるという特長を持つためです。この特長が行動観察との連携のアドバンテージとなります。

 

ABMでは、ターゲットとなる市場(すなわち生活者)を再現することから始めます。その上で、特定の生活者セグメントの購買行動(ブランド認知・選好度、購買頻度、購買量など)を確率的に算出し、ブランド全体の売上を予測するというステップを踏みます。また、製品改善や広告の変更について、ターゲット生活者が企業から新しいオファーを受けると、どのような購買行動をし、購買総量がどの程度アップするか?といった予測ができます。

IMJ-WireColumn4_2

このようにABMは、生活者セグメントの購買行動から売上数量の予測をすることから、行動観察との相性は高いと言えるでしょう。生活者が自社製品のどこに満たされていないのか、どうすれば使用機会や頻度がアップするのか、といった情報を行動観察から獲得し、そのフィードバックをエージェントベースモデルに取り込みます。ABMでは、新しいオファーの前後で購買行動の変化にどのように作用するか、さらには他セグメントに属する生活者への波及効果などを予測することで、全体の売上数量や金額の精緻な予測が可能になります。

※2 エージェントベースモデル(ABM):コンピュータ内に個体もしくは集合体となるエージェントを仮想し、それらの行動を再現することにより、発生する事象を再現・予測する数学的アプローチ

 

 

最適な組み合わせにより、更なる最適化を実現

行動観察では、生活者の製品利用や購買における「なぜ(Why)」と「どのように(How)」を理解します。また、一般的なマーケティング投資最適化分析は、分析対象が市場全体となり、IDの紐付けがないPOSデータを利用しているため、「いつ(When)」、「どこで(Where)」、「何を(What)」のデータをベースに売上やROIの算出・予測をします。そこに、「誰が(who)」の分析が可能なABM型のマーケティング投資最適化分析と、行動観察での知見を組み合わせることでアドバンテージとなります。

 

これまで以上に精緻なマーケティング計画や実行が必要となっている現在、CMOやマーケティング統括者は、詳細なマーケティングプランや分析を実施しなければなりません。加えて、ターゲットの設定は、従来からあるSTP(※3)を中心とするマーケティング戦略の基本概念となります。最も重要なマーケティング戦略要素のひとつであるターゲットの行動とその変化を理解し、売上拡大へと繋げるプロセスは今後ますます重要となり、必要不可欠になると考えます。

※3 STP: Segmentation, Targeting, Positioningの頭文字

 

 

タグ

ABOUT 石井 俊宏

石井 俊宏

株式会社 アイ・エム・ジェイ Marketing & Technology Labs® シニアコンサルタント 1972年生まれ。大学を卒業後、米国大学院にて都市計画を修了。外資系マーケティング・コンサルティング会社、外資系広告代理店などを経て、2012年アイ・エム・ジェイに入社。Marketing & Technology Labs (MTL)にて、マーケティング投資最適化、CRMコンサルティング、データマイニングに従事。