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デジタル広告とデータ活用-第1回 ターゲティング広告の発展とデータ活用の分類と歴史[PR]

近年、デジタルマーケティングの施策においてデータ活用の重要性はますます高まりつつある。デジタル広告の領域では、これまで様々なターゲティング手法が取り入れられ、数多くのターゲティング広告商品が世の中に出回っている。
マーケターにとっての選択肢の多様化は歓迎すべきである一方、手法の選択の仕方、あるいは活用方法を適切に行うには、複雑化が進むこれらの広告商品に関する情報収集と正しい理解を継続的に行うことが求められている。

 

本シリーズは、AdRoll社の協賛により、マーケターがデジタルマーケティングの施策を適切に行うために必要となる、主にディスプレイ広告のターゲティングとデータ活用について、その歴史を振り返り基本的な理解を深めるとともに、ますます求められるデータ活用を、どのように行っていくかについて、AdRoll社の事例やインタビューも交えて、全6回のシリーズでお届けする。
第1回は、デジタル広告市場におけるターゲティング広告とそこで使われてきた“データ”との関連性を、出来るだけシンプルにその歴史を振り返る。

 

 

ターゲティング広告の歴史

ターゲティング広告は、デジタル広告市場の成長とともに歩んできた。デジタル広告が企業のトラディショナルなマス広告費やプロモーション費から、予算をシフトさせることで市場成長を達成できたのは、明確な効果測定指標とともに、データを活用したユーザーターゲティングという、それまでなかった新しい付加価値を広告に持ち込んだことが大きな理由となった。

 

デジタル広告のターゲティング手法として初期に普及したのは、プレイスメントターゲティングである。プレイスメンターゲティングは、Webメディア面ごとに、掲載コンテンツの特性と親和性が高いユーザーを推測し、あらかじめ恣意的に決めた一定の原則に基づいて結び付ける手法だ。

「旅行情報が掲載されている面には、旅行希望者が沢山集まっているはずなので、旅行の広告を出す。」というのが、その考え方の一例だ。

 

次に普及したのが、デモグラフィックターゲティングである。デモグラフィックターゲティングとは、Webサービスの会員情報などから、性別や年齢などのユーザー属性を元にターゲットをセグメントする手法だ。

 

その後2000年代前半に普及し始めたのが行動ターゲティングである。行動ターゲティングは、ブラウザに残されたクッキー情報をもとに、特定のサイトを訪問したユーザーをセグメントする。

この手法は、媒体をまたいで配信ボリュームを確保できるアドネットワークの広がりとともに普及した。当時、TacodaやRevenue Scienceなどのデータプラットフォームがこれに大きく貢献した。

 

行動ターゲティングが画期的であったポイントは、Web上の行動を介してシンプルに示されたユーザーの現時点の関心事についてのサインを頼りに、広告配信者がターゲットを効率的に捕捉し、そして購買行動に導く導線を引くことが出来るようになったことにある。

行動ターゲティング広告、そして同じスキームを持つリターゲティング広告は、2000年代後半以降、ディスプレイ広告市場の成長を支え続けることとなる。

特にリターゲティングは、“広告主のWebサイトを訪問したユーザー=購買ファネルの中に存在するユーザー(より購買行動に近いところにいる)”という極めて明快なロジックをもとに、広告配信を行うというものであり、マーケターにとってもそのコンセプトが明確であり、かつ従来のディスプレイ広告のターゲティング手法と比べ、コンバージョンに対するコミット力が高い広告商品として、多くのマーケターからの支持を受け、現在に至っている。

 

ところで、Revenue Scienceらが提供した行動ターゲティングは、ターゲティングの手法としてのみならず、後のデジタル広告市場の発展において、実に画期的なものであった。

このサービススキームにおいて、メディアデータが価値を持ち、そして広告枠から離れて、取引対象となった。これにより広告媒体であるメディアの価値は、広告枠、データの二つに分解され、広告配信者、広告配信を受ける枠を提供するメディア、データを提供するメディアという3者によるエコシステムが作られた。

このエコシステムは、いわば現在のDMP、データエクスチェンジなどの仕組みにつながるものである。「“Revenue”を“Science”する」とは、まさに言いえて妙である。

(※注:Revenue Scienceは、後に社名をAudience Scienceと改称した。)

 

ターゲティング手法としてもう一つ、忘れてはならないのは、2000年代前半に普及し始めたコンテンツターゲティングである。これは、メディアに掲載されているコンテンツを解析し、コンテンツの内容を読む読者の関心が高いであろうと思われる広告を配信するというものである。このターゲティングのスキームは、プレイスメントターゲティングのスキームを、面からコンテンツというより小さなメディア情報の構成要素を対象にターゲティングをするという、精緻なものへと発展させたものであると考えることが出来る。

 

 

 

二つの軸で分類されるターゲティング手法とデータ

これまで述べてきたターゲティング手法において利用するデータは、二つの軸で分類されたデータ活用という観点で分類できる。

 

一つ目の軸による分類は、デモグラフィックなどのほぼ不変的な”スタティックデータ”と、それとは対照的に流動的な”インテントデータ”である。

 

データには、ユーザーの性別や年齢などの属性、短期的な時間軸においてほぼ不変的なストック型のユーザーデータ、そして現在の地理的な位置、あるいは、ユーザーの興味関心度合いなど、短期に変化があるフロー型のデータがある。前者はスタティックデータ、後者は(ある意図を持った)インテントデータと呼ぶ。

 

スタティックデータインテントデータ
性別、年齢、住所、趣味・嗜好、家族構成、勤務先、職業など現在の位置情報、Web上の検索行動、行動履歴・購買履歴・滞在時間など

 

サイトターゲティングやデモグラフィックターゲティングは、スタティックデータ、そして行動ターゲティング・リターゲティング広告は、インテントデータをもとに、ユーザーをターゲティングする。

ターゲティングとデータとの関係を、ターゲティング広告のこれまでの歴史に当てはめ、これをシンプルに見ると、初期の段階でスタティックデータを活用したターゲティングが普及し、その後インテントデータのそれが普及したというように理解することが出来る。

デジタル広告のターゲティングにおけるデータ活用を考える際、これまで触れてきたスタティックデータ、インテントデータという分類のほかに、もう一つ重要な軸がある。それは、データの所在が誰であるのかという、データの所在という観点からの分類だ。

二つ目の軸による分類は、”ファーストパーティーデータ” と ”サードパーティーデータ” という分類である。これは、ターゲティングにおいて利用するデータを誰が保有しているかという観点によるものだ。

広告主が持つデータを、ファーストパーティーデータ、そして、第三者が持つデータをサードパーティーデータという軸である。このほかに、広告主と協力関係にあるパートナー企業などが持つデータを、セカンドパーティーデータというが、デジタル広告配信においては、現在ファーストパーティーデータ、サードパーティーデータの活用が注目されている。
サイトターゲティング、デモグラフィックターゲティング、行動ターゲティングは、主にサードパーティーデータを利用するのに対し、リターゲティング広告はファーストパーティーデータを利用する。

近年ディスプレイ広告のターゲティング手法として、リターゲティングがポピュラーであるが、利用するデータの所在という軸でみると、ファーストパーティーデータの利用が広がりを見せているというとらえ方をすることも出来る。

 

 

 

RTB(リアルタイムビッディング/リアルタイム入札)とオーディエンスターゲティングの普及、アルゴリズムの進化

2000年代終わりから2010年代前半に、RTB取引が普及した。RTB取引は、DSP(ディマンドサイドプラットフォーム)を活用し、広告枠ではなく、ユーザーのインプレッションをターゲティングし、アドエクスチェンジやSSPでの入札により瞬時に広告配信をすることが出来る。

日本においては、2011年にDSP、アドエクスチェンジ、SSPが普及、そしてRTB取引が始まり、その後現在に至るまで広がりつつある。

 

RTBの普及により、ディスプレイ広告のターゲティングとして、オーディエンスターゲティングも利用のすそ野が広がりつつある。

オーディエンスターゲティングは、スタティックデータとインテントデータ、あるいはファーストパーティーデータとサード―パーティーデータの全てを組み合わせてユーザーをセグメントし、ターゲティング広告を配信するというものだ。

 

オーディエンスターゲティングを行う際、データの抽出方法や、組み合わせ方、活用の仕方は、広告事業者により多種多様となる。

この組み合わせ方を判断するのがアルゴリズムである。その時々に、どのデータを使い、組み合わせてターゲティングを行うか、過去の実績や設定した幾つかの変数をもとに、判断を行うのが、アルゴリズムの機能である。

現在DSPなどの広告配信事業者が現在技術開発に力を入れているのは、まさにこのアルゴリズムの領域である。

 

 

 

データを活用したクリエイティブの進化

データの活用は、これまで述べてきた広告配信側のみならず、クリエイティブ側においても進みつつある。

ディスプレイ広告の運用は、そのパフォーマンスを高めるために、多くの広告クリエイティブを用意し、これを差し替えながら運用をしている。近年この領域でも自動化が進みつつある。その一つが、ダイナミッククリエイティブである。

ダイナミッククリエイティブは、EC事業者など数多くの商品アイテムを販売する広告主が、ユーザーの興味・関心を推測し、これに適した商品を自社の商品リスト(=ファースト―アーティーデータ)から抽出し、クリエイティブに反映させる。

 

近年、幅広く普及が進んでいるダイナミッククリエイティブをリターゲティングで配信するダイナミッククリエイティブリターゲティングは、広告主が持つ商品データ、すなわちスタティックデータと、ユーザーのWeb上での行動履歴というインテントデータという、ともにファースト―パーティーデータを組み合わされて実現しているものだ。

 

このように、デジタル広告のターゲティング手法とデータとのかかわりを少しシンプルに見ることで、複雑化するデジタル広告とターゲティング手法との関連性について、理解がしやすくなる。

次回は、最適化配信が陥る罠と題して、ターゲティングの課題やアトリビューションについてお届けする。

 

 

 

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。