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カジュアルゲームアプリ開発者から愛されるSSP、「アドフリくん」が仕掛けた次のステージへの道 [インタビュー]

モバイルアプリ開発者向けを中心に提供されているSSP「アドフリくん」を運営するADFULLYが、2016年5月にカイトと共同でアプリ内課金の導入サービス「アイテムSTORE」の提供を開始する。

これにより、SSP「アドフリくん」を利用するスマートフォンアプリ開発者は、アプリ内課金システムを簡単に導入することが出来、広告のみならず課金による収益を得ることが可能となる。

同社SSP事業について、そしてSSPがアプリ課金ビジネスに関わるというユニークな取り組みの背景や目的について、同社代表取締役社長 小室喬志氏に聞いた。

(聞き手: ExchangeWire Japan 野下 智之)

「アドをフリ分ける。」が語源の「アドフリくん」ビジネスについて

―自己紹介をお願いします

Photo私は、もともとADFULLYの前身のSSP事業部があった寺島情報企画に入社してから11年になります。音楽やゲームなどのガジェット好きだったのが入社のきっかけです。最初にフィーチャーフォンのキャリア公式着うたサイトビジネスに携わり、動画サイトの立ち上げもしました。当時、収益の柱であったデコメサイトのビジネスを任され、2年ほど公式サイトのランキングで1位をキープしました。その後2013年に新規事業として立ち上がったSSPサービス「アドフリくん」の初期メンバーとして、メディア営業を任されました。そして2015年8月に事業分割により、SSP事業会社ADFULLYを設立、現在代表を務めています。

―貴社のサービス、ビジネスモデルについてお聞かせください

ADFULLYは、SSP「アドフリくん」を中心に事業をしています。メディアの収益性最大化の他に、媒体の広告在庫が切れた場合のリスクヘッジをするのが本来のSSPの役割です。

しかし当社の場合は、メディアのために、アドネットワークの登録申請や支払い代行も行っています。例えば一つのアプリが20社のアドネットワークを導入する際に、アプリ運営者側の作業負荷は大きくなります。そのようなとき当社が代行サポートをします。

また、複数のアドネットワークからの支払いを当社が一本化するというサポートもしています。このサービスは個人や中小企業のデベロッパーさんから、非常に助かるという声を頂いています。

―「アドフリくん」というサービス名の由来を教えてください。

アドフリくんPhotoデコメのキャラクター「フリフリくん」が由来です。サービス名を考えるときに、SSPはアドを振り分けるから「アドフリくん」でいいのではないかということで、この名称になりました。

―社内の組織体制についてお聞かせください

現在全社で10数名ですが、開発だとサーバーサイド、SDK開発、サポート、テストなどの担当がいます。

営業は、メディアサイドと、クライアントサイドの運用担当、アドネットワークとのやり取りをするフロントがいます。

―クライアントというと、広告主のことですか?

基本的にはアドネットワークや広告代理店とのやり取りが多いです。

いいものが出来たので外部に提供を開始した、「アドフリくん」のきっかけ

―モバイルコンテンツプロバイダーの貴社がなぜSSPビジネスに参入したのでしょうか?

もともと寺島情報企画がフィーチャーフォンの公式サイトビジネスからスマートフォンビジネスに移行しようとしていた事が背景にあります。新サービスを模索している中で、100%子会社のテクノードが、「Touch the Numbers」というアプリを広告マネタイズモデルで大成功させ、「広告モデルでもいける」という判断から、広告マネタイズでアプリビジネスを進めていきました。その時に、社内で、複数のアプリ、複数のアドネットワークの管理ツールとして作ったのが、今の「アドフリくん」につながっています。この時点ではアドネットワークのスイッチング機能を1SDKで作った、そしてそれを使わせてほしいというメディアさんがいらっしゃったので、2013年3月に社外にサービス提供を開始したという流れです。最初は4メディアからのスタートでした。

「ゲームだとやはりアドフリくん」と言われる理由

―事業規模や直近のトレンドについて、お差支えのない範囲でお聞かせください。

つながっているアプリ数は、累計で現在6500~7000ほどあります。当社は売上の9割以上がアプリ面からです。

アプリ開発者の間では、「ゲームだとやはりアドフリくんだよねー。」と、言って頂けることも多くなり、その結果、提携アプリにはゲームアプリが多くなりました。

PC Webサイトと比べるとアプリはユーザートラフィックの波が大きく、在庫が安定しないのがビジネス面での難点です。ですので、在庫を安定させるためには、いかに毎月ヒットアプリを仕入れることが出来るか、あるいはヒットしそうなアプリを探して提携することが出来るかという目利きが大切です。

―ゲームアプリ開発者からの支持が多いのはなぜなのでしょうか?

我々としてはゲームに特化するつもりがなかったのですが、最初に使ってくださった方が、著名なゲームアプリ開発者でした。これがコミュニティーの中で広がっていき、皆さんが使ってくれるようになりました。また私もコミュニティーに呼んでいただけることが多かったです。これも、もともとは私たちがメディア側の人間だったからかもしれません。

また、カジュアルアプリのマネタイズというと、どうしてもゲームが中心になるということも理由の一つです。また、アプリでインプレッションが多いのも、結局はゲームだったりします。

―SSPの業界でも、しばしば貴社の良い評判をお聞きしますが、その理由についてはなぜだと思いますか?

アプリ向けのSSPは、あまり多くないのが現状です。在庫も安定せず、サービスを利用いただく際にSDKを実装いただくのも大変です。こうした参入障壁が高いところで、当社が粛々と取り組んできたからでしょうか。

あと、アドネットワーク事業者がたまに当社のメディア開拓営業を支援してくれることがあります。アドネットワークがメディア営業の時に、戦略上「アドフリくん」をメディアさんに推奨してくれることがあったりもします。これは、当社が自社でアドネットワークを持たない中立な立場のSSPであることも一因かなと思っています。

メディアの想いが体現化されたSSPサービス

―「アドフリくん」は、「メディアの立場からのSSP」を強みに謳っていますね。実際にそのことがどのようにサービスに反映されているのでしょうか?

メディアの立場になった時に、「こうあるべきだよね」というところがちゃんと出来ているのがポイントです。それにより「アドフリくん」をご利用いただいているメディアさんとの接点となるサービスが、ご好評いただいています。SDKの実装のしやすさや、管理画面の見やすさなどに反映されていますし、サポートやコンサルなどでも、我々のように、元々メディアをしていたものが訪問した方が、親身になって話を聞いてあげられると思います。

我々がサービスをリリースした当時は、1SDKで複数アドネットワークを導入できるSSPサービスは極少数でした。当時は、複数のSDKを導入し、それをスイッチングするタイプのSSPが主流だったのです。当時はこれも我々がメディア経験があるからこその独自性でした。アドネットワークからのレポートも全て透明性を確保しています。

また、デベロッパー向けのコンタクトセンターの対応も評価いただいています。対応を受けたアプリ開発者の方たちが、Twitterで対応の良さをコメントしてくれたりもしています。個人のアプリ開発者の方たちは、ソーシャルで仲間とつながっていて、色々なサービスの情報交換をしています。このような場での評判をいただいていることも、アプリ開発者の方からの広い支持につながっているのではないでしょうか。

「アドフリくん」の想いは「カジュアルアプリ開発者もプロモーションが出来る環境に。」

―現在スマートフォンメディア・アプリビジネスの現状はどのような状況でしょうか?

スマートフォンアプリの売上は、圧倒的に課金ゲームに偏っています。一方で、広告主も課金ゲームだったりします。アプリストアのトップセールスも、課金ゲームが常連です。そして、課金ゲームの広告主は、広告出稿先としてカジュアルゲームとの相性がよいというのもまた事実です。

大手ゲーム会社のアプリストア参入により、広告モデルによるカジュアルゲームがヒットタイトルを出すことは難しくなってきており、アプリストア全体に有名タイトルがトップランキングを占める成熟感があります。面白いゲームを作っても、大手資本の課金ゲームとの競合が激しくなり、ランキング入りが難しく、ユーザーに見つけられなくなってしまっています。

我々は、面白いカジュアルゲームを生み出してきたアプリ開発者にお世話になってここまでこられました。なので、この状況を何とかしたいと思っています。カジュアルゲームアプリ開発者も広告を出稿するなどによりプロモーションが出来る世の中になってほしいと思っています。

―なるほど、先日リリースしたカイトとの提携の背景には、そのようなところにあるのですね?

はい。カジュアルゲームアプリ開発者が抱えている、プロモーションに関する課題を解決する一つの答えになるのではないかと思い、カイトさんと提携しました。

カイトさんの「アイテムSTORE」というサービスは、アプリ開発者が簡単に課金システムを実装できるMBaaS(Mobile Backend as a Service)です。

これにより、アプリ開発者が課金実装の開発工数を大幅に下げることが出来ます。

「アドフリくん」がカイトさんと組んで課金実装サービスを提供するのは、カジュアルアプリ開発者が広告出稿できるような世の中を作りたいからです。カジュアルアプリ自体を次のステージに押し上げたいと思っていて、そのために今年我々が打ち出したいと思っているメッセージは「カジュアルアプリに広告と課金システムを標準実装していきましょう」です。

我々が課金ビジネスをする意味はもう一つあります。課金をした人が誰かが分かるようになると、そのユーザーにターゲティング広告を配信することが出来るようになります。データが蓄積されれば、高額課金ユーザーへのターゲティングも可能になります。通常このようなデータは広告主が持っていますが、門外不出の宝の山ともいえるデータです。我々もそのデータを活用することが出来るようになります。これを広告商品化していきたいと考えています。

課金システムを導入することで得られる3つのメリットとは?

―「アイテムSTORE」を実装するためのコストはどのようになっているのですか?

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通常は月額料金がベースでその他追加機能の利用などでオプション料金がかかりますが、「アドフリくん」を導入しているアプリに実装する場合は月額料金が無料になります。

「アドフリくん」と「アイテムSTORE」を一緒に導入すれば、アプリ開発者の広告と課金システムの両方の実装のハードルが下がるということです。このサービスは、5月から提供を開始します。

アプリ開発者が課金システムを導入するメリットは3つあります。1つは課金の売上がプラスになること。2つ目は、広告単価が上がることです。課金システムを実装することでカジュアルアプリ自体が課金ユーザーを抱えることになります。するとカジュアルアプリの大勢の広告主である課金ゲーム会社にとってのメディア価値が上がることになります。このことが広告収入に還元されるようになります。そして3つ目が、我々が今推し進めている動画リワード広告フォーマットと課金との相性の良さです。アプリの中で課金をする人は、10%前後。それに対して絶対課金をしない人たちもいます。その人たちに動画を見せて広告収入を得られます。ユーザーに選択肢を与えられる、動画リワードと課金システムを入れることで、相乗効果が生まれるのです。

カジュアルゲームにおける動画リワードの売上構成は現在、2割~5割を占めるに至っています。

現在、カジュアルゲームが、通常の広告のみで稼げるのは、1ダウンロードあたり10円~50円、良くても80円~100円という状況です。我々は、広告と課金システムの導入をしていただくことで、150円~200円に達することを目標にしています。この金額に達すれば、カジュアルアプリ開発者がプロモーションできるようになるのです。

これにより、カジュアルゲームのビジネスも数段階上がっていくことが出来ます。

我々はいつもセミナーで、「国内からも「CandyCrush」や「Crossy Road」のようなグローバルヒットタイトルが出て来るといいよね。」と言っていますが、本当にそういう市場にしたいと思っているのです。

―通常SSPは広告マネタイズの最大化にフォーカスしていますが、課金マネタイズもセットでという提案は、発想として面白いですね。

従来のSSPという概念にとらわれずに、サービスを進化させて行きたいと思っています。我々はもともとアドテクの会社ではなく、メディア出身です。「アプリが儲かる方法って、他にもあるよね。」という感覚のもと、従来のサービスにとらわれない動きをしたいと思っています。

カジュアルゲームアプリ開発者とともに、次のステージへ!

―国内のSSP事業環境についてお聞かせください

PCWebの領域ではプログラマティックな取引が主流ですが、アプリの領域ではまだそのような市場にはなっていません。Webの世界ではGoogleが絶対強者ですが、アプリの世界ではまだそれが定まっていないように思います。アプリの領域ではSDK実装のハードルや、メディア在庫量が安定しないというようなこと、ターゲティング情報が少ないなど、PCWebとは全く異なる状況が繰り広げられています。

動画広告やDSPなども、ようやくアプリ領域で流行り始めてきましたが、アプリならではのフォーマットにいち早く対応していくことが、業界をリードしていくポイントなのかなと思っています。ただ、間違えてはいけないのは、アプリもPCWebと同じテクノロジーの道をたどるであろうということです。

アドテクはどんどん進化しています。出来ることもどんどん増えていますのでそれをキャッチアップしていく必要はあります。アプリ領域においては、それと同時にアプリ開発者や、アプリユーザーのニーズを敏感に感じ取って、しっかりとそちらも対応していくという両輪で行っていくことが重要だと感じています。

―他社と比べてこの点は負けないというポイントについて、お聞かせください。

我々は、カジュアルゲームアプリ開発者さんと一緒に、次のステージに行きたいと思っています。この強い気持ちはどこにも負けていません。だからこそ、カイトさんと提携をしたり、UUUMさんと組んで、YouTuberのプロモーションやIPの提供を「アドフリくん」の顧客限定で格安でご提供するというような取り組みもしています。先日も、バンダイナムコさんが、当社サービスを「カタログIPオープン化プロジェクト」の公認のマネタイズツールとして指定していただきました。

このような、ゲーム寄りの提携を増やしています。

従来のSSPの役割だけでは足りないと思っておりこのような取り組みを進めています。

次のステージに、中小のアプリ開発者さんを下からググッと押し上げる気持ちで、アプリ支援事業を進めていきたいと考えています。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。