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東京五輪を見据えたインバウンド需要の高まりを機に日本参入、ADARAが推奨するトラベルデータの有効活用 [インタビュー]

2015年2月に日本市場に参入したADARAはトラベルデータに特化したデータプラットフォームだ。航空会社やホテルなどからユーザーデータを収集し、これをもとに精度の高いターゲティング広告を配信するサービスで、グローバルではトラベル業界を中心に90社以上のデータパートナーを持つ。参入の背景やビジネスモデル、日本市場の特徴などを、同社コマーシャルディレクターの森下順子氏に伺った。

(聞き手: ExchangeWire Japan 野下 智之)

トラベルデータはマーケッターに非常に有用

―自己紹介をお願いします。

90年代後半からAOLJapanの立ち上げに携わるなど、オンライン業界のキャリアは非常に長いです。その後Infoseekのプロデューサー業務、2002年にはOverture Japanの立ち上げに参画、2005年からは後にMSに買収されるAtlasの日本立ち上げを一人で担当しました。2008年から、MSJapanの広告部門に移り、マイクロソフトメディアネットワークやアドエクスチェンジ、Win8のアプリのアドネットワーク構築など、比較的新しい広告領域を担当させていただきました。今年1月から、ADARAに移り、日本事業の立ち上げを担当しています。

―もともと、ADARAはどういった背景で設立された企業なのでしょうか。

2009年にアメリカ・カリフォルニア州のマウンテンビューで設立されました。創設者でCEOのレイトン・ハンは、オンラインロイヤリティマーケティング会社「MyPoint.com」の事業開発責任者として多くの旅行企業にポイントプログラムを導入、後に同社をユナイテッド航空へ売却した経緯があり、旅行業界のデータの有用性に目をつけ、元IBM Researchの立ち上げに関わったデータサイエンス領域の豊富な専門知識を持つ共同創設者のチャールズ・ミーとともにADARA Magellan プラットフォームを開発し、旅行データを活用した分析サービスをマーケッターへ提供するためにADARAを設立しました。

―なぜ旅行データがマーケティングに有効なのでしょうか。

Junko Morishita, ADARA社

理由は4つあります。まず1つ目は、データが集めやすくリッチであること。フライト、ホテルの検索まででも、先につながる顧客のプロファイルがかなり見えてきます。レジャーかビジネスか。ファミリーかカップルか一人旅なのか。旅行サイトの情報から見えて来るオンライン旅行データは収集しやすい上に非常にリッチです。

2つ目は、多くの行動様態が接続されていることです。フライト検索したらホテル、エリア、価格などが紐づきますし、行先でレンタカーを借りたり、ローカルのアトラクションを予約したり、などいろいろなデータがつながりやすい特徴があります。

3つ目はデータをつなげると、オーディエンスの顔が見やすくなることが挙げられます。そうすると旅行のパターンも見えて来ます。 年に4~5回日本にフライトで来ていて、日程は現地月曜日発、金曜日のフライトで帰国する旅行者であれば、これは明らかにビジネス出張者と想定できます。となると、一定の期間でアメリカ-日本間をエコノミーで飛んでいるとしても、ビジネスユースならそれなりのクラスのホテルを使うだろうと推測しやすいのです。グローバルでこうした予測が可能なことも強みです。

最後に拡張性です。インバウンドだけでなくアウトバウンドや国内を組み合わせたプランも提供できますし、プロファイルが見えるとビジネス出張者に向けて車のキャンペーンをあてたり、年に何回かハワイに旅行するファミリーには免税店で見るようなラグジュアリーブランドの広告をあてるといったことが可能ですので、旅行以外の他の業種に展開も可能です。

―いろいろな業種のクライアントがいらっしゃるのですか。

グローバルでは旅行を中心にカードや車などの業種のクライアントもいらっしゃいますし、現地のデパートやローカルイベント誘致などのニーズもあります。国内は旅行中心ですが、ラグジュアリーブランドやメーカー、金融など様々な業種の企業様と連携が考えられると思います。

強みはファーストパーティーのトランザクションデータ

―貴社のサービス、ビジネスモデルについてお聞かせください

まずベースとなる事業は、グローバルの旅行関連データを保持する旅行ブランドパートナー企業と提携し、データパートナーのデータをベースに、旅行キャンペーンやオーディエンスターゲティングなどの広告サービスを展開していくというものです。

―DMPとは異なるのでしょうか。

DMP各社は、主に提携データパートナーサイトの行動履歴データをDSPに販売し、様々なターゲティングに活用する、というビジネスをされていると思います。しかしADARAの場合はあくまでも、提携パートナー様のファーストパーティーデータを弊社のDMPに保管・管理を、自社のDSPでキャンペーン設定から配信まで行っているというところが一般的なDMPとは異なるところです。グーグルダブルクリックや主要SSP、アドエクスチェンジなどが配信先、という点では同じです。

旅行消費インサイトを活用したADARAのリアルタイムマーケディング

―他社と比べた場合のユニークポイントについてお聞かせください

主にパートナー企業からいただいた旅行予約や購入データ等のファーストパーティデータをベースに、広告メディア事業を展開している点です。そのデータを預かっているパートナー企業のデータマネタイゼ-ションのサポートや、それに加えて様々な広告インサイト、ユニークなトラベルデータ、旅行者の情報などを加味した分析サービスも展開しています。

キャンペーンレポーティングにも特徴があります、配信レポートはインプレッションやCTR、CVRなどのコンバージョンデータと旅行に紐付いたプロファイルデータを組み合わせて提供します。コンバージョンしたユーザーはビジネス目的かレジャーか、紐づけを裏側のデータを元に行える訳です。

同様に、インバウンドキャンペーンでもコンバージョンした旅行者の出発地と行先を紐づけた形でのCVRの違いなども分析できます。ロイヤリティデータとの紐づけも、一部提携企業様とは可能です。トランザクションだけでなく、例えば航空ならマイレージ、ホテルならメンバーシップなどですね。
メンバーのクラス、つまりエコノミーかエリートか、非常に頻繁に旅行するのかそうでないのか、といったロイヤリティデータと紐づけたキャンペーンレポートも提供しています。そうすると、一つずつのコンバージョンの背景を非常に深く分析できるのです。

現在はフルサービスモデルで、提案からキャンペーン設定、配信、レポーティングまで全て自社で展開しています。販路は直販と代理店様経由との両方です。

―扱っているトラベルデータについて詳しく教えていただけますか。

まず全てファーストパーティーデータという点が特徴です。提携しているパートナーはホテル、航空会社、予約系サイトや旅行情報のメタサーチサイトが中心です。デルタ航空、ユナイテッド、ホテルはハイアット、マリオット、レンタカーのハーツなど、グローバルで90社以上にのぼります。サイト内を訪れたユーザーがいつからいつ、どこからどこへ遷移したかなど、予約のトランザクションデータもDBに入ってきます。

特にユニークなのは、このトランザクションデータまで見られる点だと考えています。旅行の関心層ではなく顕在層、つまり旅行に行くことがすでに決まっている層をターゲティングできるところが他と大きく異なる点です。よりデータの濃度が濃い、より顕在層、明らかに旅行に行く人をターゲティングできるのが差別化ポイントとなります。

東京五輪見据え、旅行業界のニーズが増大

―このタイミングで日本に参入した背景をお聞かせください。

ADARAは2年前にシンガポールからアジア進出を始めました。シドニーを拠点にオーストラリアやニュージーランドでサービスを展開し、今年香港と日本に進出しました。アジアでも2020年の東京五輪もあり、旅行への関心度が非常に高まっています。ADARAとしてはそういったニーズの高まりを元に、アジアの中での旅行をより拡大させる目的で日本に進出しました。

特に2020年の東京五輪開催に際しては、旅行業界はいかに訪日キャンペーンを展開するか大きな関心を寄せています。個人的に旅行好きなこともあり、培ってきたアドエクスチェンジに関する知識を活かして4~5年のスパンで、五輪を見据えてチャレンジしていきたいと考えています。

―足元の訪日事業やインバウンド事業のデータパートナー、及びクライアントにはどのような業種の企業が参画されているのでしょうか。

まずグローバルでも日本でも、航空会社様は多いです。あとは旅行代理店や観光局といった、旅行に特化した業種業態の企業から非常に多くの問い合わせをいただいています。加えて、インバウンドだけでなく、 日本の旅行代理店にも、海外旅行者をターゲティングしたキャンペーンに興味を持っていただいており、非常に盛り上がっている印象です。

国内のデータパートナーでは、旅行のメタサーチサービスや外国人向けメディア、大手旅行代理店企業などと提携を始めています。グローバルのパートナーのサイト、ホテルや航空会社などの中で日本語に対応している企業様は、日本からのアクセスデータも含めて分析しています。今後は日本のローカルパートナーもより増やしていきたいと考えています。

―日本のパートナー候補企業とお話しされて、反響はいかがでしょうか。

まずデータパートナーは、プライバシーの問題などで海外と比べてまだまだオープンとは言えません。その一方で、データパートナー候補の企業が広告主になる可能性も非常に高いといえます。グローバルでもデルタ航空やユナイテッド航空に広告主になっていただいています。ニーズ自体は非常に高いので、日本でもチャレンジを続けていきます。

―「データだけ使わせてほしい」という要望もあるのではないでしょうか。

我々のビシネスの強みはファーストパーティーデータのトランザクションデータなので、パートナー企業様と転売をしない旨お約束しています。DSPなどに販売することは現状おこなっていません。

トラベルデータはより長いスパンで

―貴社から見て、日本のマーケッターのデータ活用の現状と課題についてお聞かせください。

「データドリブン」「DMP」がキーワードだと思います。しかし旅行という切り口で見ると、日本の旅行業界ではまだラストクリックモデル、すなわち予約確定をKPIとするような、コンバージョン重視の傾向が強いと感じています。ただ日本のクライアント様ともお話ししているのですが、旅行関連のマーケティングで見るべきは購入だけではないと考えています。旅行のプランニングの消費者行動を分析すると、予約行動よりもかなり前から旅のプランニングを始めるので、そういった潜在層と顕在層の刈り取りが重要です。

米国ではターゲットのマーケティングサイクルを長くとる傾向が強いです。例えば旅のプランニングサイクルで言うと、我々のデータは旅行のパートナーサイトもブッキング情報なども見られます。そうすると、どの国の旅行者が何日前から旅行情報を検索して、コンバージョンがいつぐらいに発生するかというのも分かります。

旅行領域のオンラインキャンペーンはラスト30日を基準に指標を置く場合が多いかもしれませんが、ユーザーのサイクルは、実際にはその前に検索などをして情報収集しているので、もっと長いです。2~3か月前のこともあるのではないでしょうか。各国によって、この期間にもかなりの差があります。例えばアジアから日本を訪れる人は1ヵ月前から情報を収集し始める場合もありますが、欧米からの旅行者の場合は3~4ヵ月前の場合もあります。そういったタイムラインを見ながらキャンペーンを設計する必要を感じています。

国内では、この部分がまだ取り切れていないのが現状だと思います。旅行検討中のユーザーに先に情報や商品を配信すれば、顕在層のブッキングサポートになるのではないかと考えています。

―それに関して、ADARAはどのようなキャンペーン設計を提供されているのですか。

各キャンペーンやKPIの設定については、集計期間を長くとっている場合は指標ビュースルーコンバージョンも入れ込んでいただくよう提案します。最終的にビュースルーとクリックスルーを平行して見ていただくよう推奨しています。

―今後の日本での展開についてお聞かせください。

ポイントは2つです。まず1つはグローバルで得たトラベル関連企業90社のデータや知見を元に、4~5年後の東京五輪を見据えたインバウンド事業、それを見据えた企業様のサポートを中核に考えています。

もう1つは、日本のデータパートナーを拡張して日本のクッキー情報増やすことです。日本人で海外に行く人や国内旅行をする人を視野に、インバウンド以外の対応も進めていきたいと思います。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。