DACに聞く、スマホとロボットを跨いだ新しいデジタルコミュニケーション [インタビュー]
3月22日、DACがLINEとPepperをつないだ、Pepper導入企業向けのコミュニケーションサービスの提供を開始した。Pepper向けアプリケーション開発に強みを持つ株式会社ワン・トゥー・テン・ドライブ(1→10drive)とシステムを共同開発し、盛り上がるロボット関連市場に参入した形だ。参入の狙いについて、メディアサービス本部 メディアセールス局長 佐瀬 博久氏にお話をうかがった。
(聞き手: ExchangeWire Japan 野下 智之)
ロボット×LINEで顧客とつながるコミュニケーションを
―今回リリースに至るまでの背景についてお聞かせください。
ロボット市場は2020年に向けて接客・サービス分野で確実に伸びていくと思います。ソフトバンクが先駆けてPepperをリリースしましたが、形は違っても、これから次々と多様なロボットが出てきて普及フェーズに入ってくるはずです。顧客とロボットとの接点を大切にし、一度接点を持った顧客と繋がり続ける状態を作り出せるツールがLINEであり、その両者を結びつけるのが当社の提供するLINEビジネスコネクト対応ソリューション「DialogOne」と考え、開発しました。
―開発を始めたのはいつ頃でしょうか。
昨年の4月頃には、理論上はできることは分かっていました。それを実現するパートナーとして、1→10drive社を見つけたのが7月頃です。もともとPepperのアプリ開発にノウハウがある企業なので、協業を決めました。様々なアプリデベロッパーがPepperアプリを作っていますが、1→10drive社はその中でも信頼を置けると判断し、パートナーになっていただきました。
<サービス展開イメージ>
DAC プレスリリースより
名前を呼ばれることで生まれる「好き」という感情
―サービスの概要についてお聞かせ下さい。
「来店促進と新たな店頭体験の創出」と「店頭から離れたお客様との継続的なコミュニケーションの実現」というのが今回のサービスのポイントになります。
基本的にはPepperがいるだけでキャンペーンを行うことができます。例えば車のディーラーを想定すると、お母さんと子供、という組み合わせのお客さんが来店されたとします。今までの場合ですとPepperは「来店ありがとう」という会話をするだけでしたが、今回のサービスではLINEを活用することで顧客の一人ひとりを識別した形での会話が可能になります。LINE上で顧客自身が設定している「ニックネーム」と、顧客一人ひとりに付与されている「ユーザー識別子」をもとに、当社の「DialogOne」で生成し、顧客に送信したQRコードをPepperに向けてかざしてもらうと、例えば私だったらPepperが私を認識し、「佐瀬さん、ご来店ありがとう」と名前で呼んでくれて、Pepperとの会話が始まるのです。
その後に、タッチディスプレイでアンケートに回答してもらい、終了したらLINEポイントやオリジナルのスタンプ、もしくはその他デジタルインセンティブをその場でプレゼント、といったことも可能です。「回答いただきありがとう、今、○○さんのLINEにプレゼントを送りました」とPepperが言ってくれると、店舗への信頼や「好き」という感情が生まれてくるのではないでしょうか。
まず、店舗体験はここまでです。
今回のサービスでは、顧客が店舗を離れた後も重要なのですが、来店顧客と継続してコミュニケーションをとることができます。例えばその顧客の誕生日に「先日はご来店ありがとうございました。今日、○○さんの誕生日ですよね。おめでとうございます。」といったようにメッセージや、プロモーションメッセージを届けることができます。
―貴社で提供されるのはシステムの部分ですか。
そうです。Pepperは自社で用意していただき、当社がプログラムを提供します。
―継続してコミュニケーションをとる場合、ユーザーにはどのような形でメッセージが届くのでしょうか。
LINEの企業アカウントの中にメッセージが届いて「Pepperからのお知らせ」と表示されます。広告の一種ではありますが、ユーザーの気持ちが入りやすいですね。例えば「アンケートでドライブ好きとおっしゃっていましたね。今日はおすすめのドライブコースをご紹介しますね。」とメッセージを送る、などが想定されます。
会話と手ぶりの連動に強み
―1→10drive社との役割分担についてお聞かせください。
1→10drive社の強みはアプリの開発力ですね。言語解析の部分などにも高い技術があります。あとはアプリと紐づいて手ぶりで顧客と会話できるのがPepperの特徴なのですが、その部分の企画力もあります。単純な会話ではなく動きのある会話を実現することができるので、その部分をお願いしています。
―現時点ではどのようなクライアントを想定されていますか。また、クライアントがこのサービスを導入することで、どのようなコミュニケーションが可能になるのでしょうか。
現時点で想定しているクライアントは車や家電の販売店、不動産、銀行などです。これらの企業は、顧客が商品を店頭で見てから、実際に購入に至るまでの検討期間が長い企業になります。検討期間の長い商品を提供する企業が顧客と継続的につながり、その中で企業や商品に対する理解や信頼を高めていくためのコミュニケーションを実現します。
企業と顧客がずっとつながる時代を
―このサービスの拡張可能性についてお聞かせください。今後、Pepper以外の他のロボット、あるいは他のデバイスにも応用可能な仕組みなのでしょうか。
もちろんそうしたいです。ロボットとその裏側に必要となる人工知能を駆使し、クライアント企業と顧客がツーカーの世界を実現したいと考えています。店頭に行かなくても在庫確認や商品の取り置き、いつ割引になるかなどについて、ユーザーとロボットの間であらかじめ会話をすることができれば、可能になります。また、蓄積された会話データをもとに、次回来店時にその続きから会話を始めることもできます。場所やデバイスにとらわれず、企業と顧客がずっと繋がっている状況を作っていければと考えています。
―今後、想定される課題などはありますでしょうか。
Pepper導入企業自体がまだ少ない点でしょうか。少しずつ増えてはきていますので、まずサービスの紹介から始めているところです。「取り組むことの意味が分かりやすくコストもそれほど高くない」とクライアントからはとても良い反応をいただいています。LINEと「DialogOne」を使っていれば、プログラムは高額にならないプランで提供する予定です。
―将来、このサービスで蓄積したユーザーとのコミュニケーション履歴のデータを活用して、ターゲティング広告の配信に繋げることもありうるのでしょうか。
データを使えるので、将来的にはあり得る話です。Pepperの会話をデータとして溜めておいて「このユーザーはこういう会話だと反応が良いので、その文言を活用して他メディアにバナーを配信する」といったことですね。ただし、ユーザー側からすると、自分の会話データがあちこちで勝手に使われているように感じてしまうかもしれません。そうした個人に紐づく情報の取り扱い、という点では慎重な検討が必要です。
―このサービスの今後のビジネス展開についてお聞かせください。
繰り返しになりますが、ロボットがどれくらい普及するかがカギです。それさえ実現すれば一気にスケールアップできます。2020年には様々な形でロボットがコンビニやドラッグストア、駅、空港などあらゆる場所に普及していると考えられますので、その中で、今回のLINEとPepperをつないだサービスをベースに、日本人はもちろんのこと、海外から来日されている方でも“楽しく”“便利に”“簡単に”利用してもらえるような仕組みを提供できるようにより一層レベルアップしていきたいと考えています。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長 慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。