サイバーエージェント流、レコメンドエンジンへの取り組み【後編】-強みの運用力で「ダ・ヴィンチニュース」に貢献- [インタビュー]
KADOKAWAが運営する「ダ・ヴィンチニュース」は、雑誌ダ・ヴィンチ創刊から22年という歴史を持ち、2011年のオンラインサイト運営開始から5年目の急成長中の情報サイトだ。同社はサイバーエージェントのレコメンドエンジン「A.J.A. Recommend Engine(アジャ レコメンド エンジン)」を導入し、ユーザーに対して最適な編集コンテンツと、価値のある広告コンテンツの両方を提供することで成長している。
スマホ時代のユーザーを掴んで離さない広告戦略や、レコメンドエンジン導入の経緯、レコメンド広告に関する見解について、KADOKAWAで「ダ・ヴィンチニュース」の広告ビジネスを手掛ける、宮脇 大樹氏、福原 香織 氏および、「A.J.A. Recommend Engine」を担当するサイバーエージェントの 兼子 功氏、大川 康介氏 にお話をうかがった。
(聞き手:ExchangeWire Japan 野下 智之)
※前編のサイバーエージェント湯田 哲行氏による市場背景やサービスの特徴に関するコラムはこちらから。
■ インタビューにご対応いただいたのは
株式会社KADOKAWA デジタル戦略推進局 サービス企画・運用部 企画・運用1課 宣伝局 プロモーションサポート部 WEBプロモーション課 宮脇 大樹氏(写真右)、同 福原 香織氏(写真右から2番目)
株式会社サイバーエージェント Ameba統括本部 広告部門(MDH) コンテンツマーケティング局 A.J.A. Recommend Engineグループ チーフコンサルタント 兼子 功氏(写真左)、コンサルタント 大川 康介氏(写真左から2番目)
急激に圧倒的多数派がスマホ読者に
― ご担当業務をおきかせください。
宮脇氏: デジタル戦略推進局 サービス企画・運用部 という部門において、「ダ・ヴィンチニュース」サイトの支援、主にマネタイズとメディアグロースを行っています。メディアの編集チームとは切り離されており、弊社の他のオンラインメディアも同様の組織となっています。
1994年に雑誌「ダ・ヴィンチ」創刊後、電子書籍元年といわれた2011年に既存の雑誌プロモ―ションサイト「Webダ・ヴィンチ」を「ダ・ヴィンチ電子ナビ」へ切り替え、(1)電子書籍のレビュー、(2)複数電子書店横断検索、(3)Web本棚(蔵書管理コミュニティ/登録会員2,000人程度)の3本柱でスタートしました。2013年末に「ダ・ヴィンチニュース」に改称し、電子書籍に特化はせず、各種紙媒体や漫画を含めた、出版業界全体に関するニュースサイトと位置づけて再出発して今に至ります。現在は、ライターや書評家のレビューが中心で、新刊情報、著者インタビュー、新刊情報など、月間約400~500本アップされる記事中100本ほどがプレスリリースから編集したストレートニュースとなっています。エンタメコンテンツは女性の方が感度が高いためか、読者のうち女性が60%を占めており、ビジネスや自己啓発などのトピックなどの比較的男性に向けたコンテンツを網羅してバランスを取っています。
兼子氏: 私たちはブログサービス「Ameba」をはじめとするサイバーエージェントの自社メディア事業の広告部門に属し、自社メディアのマネタイズがミッションの中心ですが、自社メディア以外の外部メディア様に対し弊社のレコメンドエンジン「A.J.A. Recommend Engine(アジャ レコメンド エンジン)を導入して頂くことで、ユーザーの回遊率を向上させ、メディアグロースおよび広告収益のサポートを行っています。
※ダ・ヴィンチニュース×A.J.A.の取り組みイメージ図
― ダ・ヴィンチニュースのユーザーやその獲得チャネルについてお聞かせください。
宮脇氏: 流入が一番大きいのはGoogleやYahoo!JAPANなど検索エンジン経由が40%を占めており、また、現在30社程度の外部配信からのトラフィックもあります。Yahoo!ニュースや、ライブドアニュースなど、従来のニュースサイトはもちろん、SmartNewsやグノシーなどのキュレーションメディアも大きなトラフィックを運んでくれるメディアになったと思います。
また、サイバーエージェント様が運営する「Spotlight(スポットライト)」とも提携をし、流入は増えてきています。
ニュースはアプリで読むというトレンドのおかげで、スマホから流入は激増しています。流入デバイスも激変しており、現在は90%がスマホからです。数年前は60%がPCからの流入でした。
SmartNewsやグノシーなどのキュレーションメディアの登場が影響していると思われる、今のスマホ時代でも全体的なPVは順調に増加中です。ですが、例えば、セッション/PVは短いなどの特徴もあります。
― 広告ビジネスの現状はいかがでしょう?
宮脇氏: ユーザー規模(月間UU)は300万~400万で、PV同様に右肩上がりで成長中です。スマホアクセスが伸びるに連れて流入数も激増しています。
Web広告に関して言うと、サイト立ち上げ時の2011年は主に純広販売にフォーカスしていました。主な出稿クライアントは出版社でしたが、当時の出版社さんや書店さんはWebに出稿する概念はほとんどなく、苦労しました。
ここ1、2年はその概念が変わってきたので、純広も入るようになってきて、現状の広告売上の内で純広が70%強となっています。ディスプレイ広告はほぼありません。出版社はバナー出稿はせず、本誌と連動する企画広告が大半を占めています。その意味でプログラマティック広告はまだ補完の役割であり、メインではないと思います。
A.J.A.を導入した理由と導入後の効果
― サイバーエージェントの「A.J.A. Recommend Engine」導入の経緯をお聞かせください。
宮脇氏: ユーザーやPVはかなり順調に伸びている一方で、広告のCTRは減少するなど、伸びが広告収入に直結していなかったことがあります。またサイト運営の課題として、なるべく長く滞在してもらうことがありました。その解決策の議論の中で、回遊率アップと共に広告売上も上がるという、サイバーエージェントさんのレコメンドエンジンを提案してもらいました。それまでも、複数の他社様のレコメンドエンジンを導入していました。
大川氏: ユーザー1人当たりのセッション数を上げるための施策として、ユーザーに対して適切な情報を提供することで、回遊を増やすと同時に、広告収益を上げるために「A.J.A. Recommend Engine」の導入のご提案をしました。2016年6月末から1ヶ月間をテスト導入し効果を上げることができたため、本導入の決定をいただきました。
宮脇氏: 導入において、サイバーエージェントさんの自社メディアにおける実際の事例が説得力ありました。他社の、技術を中心とした説明よりも、アメブロやSpotlightなどのメディア事例説明が具体的で理解しやすかったし、現実味があったことがポイントですぐにテストを開始しました。
テスト導入時も、3社のレコメンドエンジンを出し分けて配信したうえで、実績値を比較した結果、「A.J.A. Recommend Engine」が回遊枠のCTRでも他社を上回ったうえ、広告売上も他社を圧倒して激増したので、採用決定しました。現状はダ・ヴィンチニュースの90%を占めるスマホサイトに採用しています。
大川氏: 「A.J.A. Recommend Engine」は、今年4月に外部メディアへの提供を開始し、6月末からKADOKAWA様とお取引を始めさせて頂きました。最初はKADOKAWA様の別媒体「電撃オンライン」に「A.J.A. Recommend Engine」の導入を決めていただき、その後ダ・ヴィンチニュースさんにも導入していただきました。
―「A.J.A. Recommend Engine」の強みは何だと思われますか。
福原氏: 運用が非常に強いのではないかと思っています。とても細かなチューニング(最適化)を感じています。特に、“関連記事”の表示ではかなりチューニングしない限りCTRが上がることがなかったにも関わらず、「A.J.A. Recommend Engine」の導入後はCTRが倍になっています。
兼子氏: 100以上の要素を組み合わせ、クライアント様が運営するメディアにとって最適なレコメンドロジックパターンを構築し、自動最適化をはかっています。
また、弊社は10年以上「Ameba」をはじめとした自社メディアを運営しているため、自社のDMP内にユーザーの属性や行動履歴などの豊富なデータを保有しています。そのデータもレコメンドロジックに活用しているため、外部メディア様に導入いただくと、時間が経つほどに精度が上がっていきます。(※)
※個人を識別又は特定できない態様にてデータを利用
福原氏: 各社レコメンドエンジンはそれぞれ哲学が異なると思っています。例えば、セッション数を増加させるには、関連記事を表示すれば良いのか、次に読みたいであろう記事を表示する方が良いのかなどです。ですからレコメンドエンジンは、メディアの目標に応じて使い分けしなければならないとは思っています。
兼子氏: メディアによって読者属性も違うため、レコメンドエンジンのロジックも全く異なるので、複数のレコメンドロジックを検証したうえで自動でカスタマイズしていきます。今主流なのは、CTRの高い記事を選定して表示させることと、今ユーザーが読んでいるコンテンツを解析し、それに関連するコンテンツを表示させることの2つです。
自社のDMPに蓄積されたデータも活用してレコメンドロジックを最適化しているため、「ダ・ヴィンチニュース」に初めて来訪したユーザーに対しても、最適なコンテンツをレコメンドできるのが他社エンジンとの決定的な違いであり、それも強みのひとつになっています。
―「A.J.A. Recommend Engine」の導入による成果に関して具体的にお聞かせいただけますか。
宮脇氏: 準備としては、「A.J.A. Recommend Engine」のタグを埋め、クリエイティブを調整しただけだったので、実質一週間程度で開始できました。レコメンドエンジン導入後のPV解析はこれからです。導入時に弊社からの質問や要望への対応が早かったのには満足しています。
レコメンドエンジンの成果のKPIとして、回遊枠のCTRと広告収入を設定しており、「A.J.A. Recommend Engine」の導入後、約二週間で広告収益が大幅に増加したという成果が出ています。CTRも前述のとおり向上しました。
メディアサイトにとって意味のある“広告”とは
― サイバーエージェントのレコメンドエンジンにおける方向性は?
兼子氏: サービスポリシーはこれからも変えず、高品質なコンテンツを保有するメディアに導入いただき、高品質な広告提供を行い、収益額と回遊率を両軸で上げていくというポリシーです。例えば、先般ハイブリッドアルゴリズムの要素のひとつである自然言語処理分野において高評価を得ているStudioOusia社と提携したことで、テキストマッチング精度をさらに磨き上げ、ユーザーの趣味嗜好の分析精度をあげ、プロダクトを磨きこんでいます。
― レコメンド広告に関する総合的なご意見を、最後におきかせください。
宮脇氏: 今後も一層ワントゥワンマーケティング技術が発達し、個々のユーザーへの広告の最適化が進むのだと思いますが、レコメンドエンジンごとに得意な業界があり、広告の種類が違うことは認識しています。
広告の内容についてですが、私の考えでは、固定ユーザーは大切にしたい気持ちがある一方で、他サイトから飛んできた初訪問ユーザーにはより多くの広告情報を提供したいという考えを持っています。各パブリッシャーのサイトの成り立ちによって、広告の目的が違うと思っています。例えば、広告収入重視 に対して、読みやすさの重視、などです。
福原氏: ユーザーが興味をもっているものを、ちゃんとレコメンドしてくれる広告は価値があります。最近のユーザーは広告が表示されることに慣れてきているからこそ、広告の内容を精査して、ユーザーが抵抗を感じないような形で受け入れられる、意味のある広告を表示して欲しいですね。メディア側もわかるので。
大川氏: 当社では広告記事の制作においても、ユーザーにとって価値のある、読みたくなるようなコンテンツに仕上げることにこだわっています。質の高いコンテンツと質の高いレコメンドロジックを掛け合わせて、今後も効果の向上に努めていきます。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長 慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。